【本編完結】ワケあり事務官?は、堅物騎士団長に徹底的に溺愛されている

卯崎瑛珠

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第三章 疑惑!? 騒動! 解決!!

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「あら? 今日はおそろいで、お早いお戻りですね」

 帰り支度をしていたメイドのアメリが、タウンハウスで迎えてくれた。

「アメリ、帰るところすまないが、キーラの風呂に付き添ってはくれないだろうか?」
 レナートの言葉でアメリは私の様子を見て――笑顔で頷いてくれた。
「かしこまりました。キーラちゃん、お疲れね! 今日は私が洗ってあげるわ!」
「……すみません……」
「良いのよ、たまには甘えちゃいなさい。レナート様、お食事は用意してございますので」
「ありがとう」

 タウンハウスの浴室は、さすが豪華な造りで、魔石をふんだんに使った高級な設備。好きな時に温かいお湯を使えて有り難かった。
 アメリは、バスタブにお湯を溜めながら、良い香りのするせっけんを持ってきてくれた。今までお湯の浸かり方が分からなくてシャワーだけだったのだけれど、この際『貴族の入り方』を覚えちゃいなさいよ! と甲斐甲斐しく世話を焼いてくれる。
 のろのろとろくに服も脱げない私を、あっという間にテキパキ全部脱がせて、バスタブに導いてくれた。メイドってすごいなあ、と私はぼんやり見ているしかできない。

「ドレスの着付けの時、キーラちゃんが、メリンダさんのお茶屋さん紹介してくれたでしょう?」
「はい」
「うちの旦那がね、メリンダさんが教えてくれた茶葉で紅茶パンを焼いたら、とっても好評でね」
「……」
「お礼がしたいって言ってたわ」
「そ……ですか……」
「このせっけんどう? 良い匂いでしょう? 最近流行りのお店なのよ。教えるから、今度行ってみたら?」
「はい……」

 アメリはきっと、私が落ち込んでいることが分かって、こうやって世間話をしてくれている。温かいお湯に浸かって、明るい話題で、髪の毛も丁寧に洗ってくれて……私の汚れ、全部落ちるかな。

「アメリさん。おとこのひとって、こわいね」

 ぽろりと本音がこぼれ出た。
 だって、暴力は、恐ろしい。あんなに、恐ろしいものだったなんて。私はレナートに助けられたけど、もしそうじゃなかったら……

「そうね。でも、愛してくれる男の人は、心強いのよ」
「……」
「怖い人はいる。でも、優しい人もいる」
「うん……」
「キーラちゃんには、レナート様がいるわ」
「……」
「たくさん、甘えたら良いの」
「良い……のかな」
「あら。良いこと教えてあげるわ」

 アメリが、洗い終わった髪の毛を丁寧に拭きながら、にっこり笑う。

「よいこと?」
「疲れたり、辛い時にはね。たっぷり、甘えて良いの」
「ほんとう?」
「ほんとよ! 甘えるって、女の子の特権なのよ!」
「とっけん」
「そう。それを許してくれる人に。飛び込むの」

 ――そんなこと、したことがない。

「初めては怖いけど、レナート様はきっと怒らないんじゃないかしら? しかめっ面は、するかもだけどね!」
「……ふふ」
「今のは、内緒にしてね?」
「ふふ、はい」
「試しに『甘えても良いか』聞いてみなさいな」
「……そっか。許可してもらえたら、言えるかも」

 アメリはすごいなあ。
 何も聞かないでいてくれるのに、私が欲しい言葉をくれる。そうか、聞いてみたら良いよね。ダメなことはダメだと言うって、約束したもの。

「ありがとう、アメリさん。そしてごめんなさい。お子様たち、お家で待ってますよね」
「良いのよ! 気にしないで。良くしてもらってるのはこちらの方なんだから」
「それは、団長です」
「あら。でもキーラちゃんが、怖い人じゃないって教えてくれたお陰よ?」
「あはは!」

 アメリに帰宅してもらい、夜の部屋着で、ひとりでキッチンへ向かう。
 自分で食べられそうな、パン粥を作ることにした。鍋にミルク、ちぎったパン、チーズ、少しだけ蜂蜜、の簡単なもの。
 
 コトコト。ふつふつ。
 良い香りが漂う。
 今、自分の周りには、好きな香りしかない。大丈夫、と言い聞かせる。
 引き出しから木の皿とスプーンを出して、すくう。
 もうここでささっと食べてしまおう――

「キーラ?」

 お風呂上がりのレナートが、様子を見に来てくれた。肩にタオル。濡髪で、油断している姿は珍しい。

「……美味そうだな」
「レナート様も、食べます?」
「いや」
「なら、お茶は?」
「頂こう」

 キッチンからダイニングまで行かず、ここで簡単に食べてしまおうと思っていた。なら、移動をと動いたら、レナートもその辺の木の椅子に座った。

「ここで、良いです?」
「ああ」

 キッチンとレナート。――似合わない。

「ふふ」
「! な、何かおかしいだろうか」
「いえ。キッチンとレナート様が、違和感で」
「……そ、だな。実は初めて入った」
「ええっ! そっかあ、用事ないですもんね」
「そうなのだ」

 温かい食事。良い香りのお茶。チーズと蜂蜜、それからレナート。ここには、好きなものしかない。
 はふはふ、もぐもぐ。ごくん。ごくごく。
 美味しい。温かい。早く、早く、忘れてしまおう。

「キーラ、焦らなくていい」
 レナートが、微笑む。
「大丈夫だ、ずっと側にいる」

 ――ああ。大好き。

「レナート様、お願いが」
「なんだ」

 私は意を決して、言ってみた。
 
「今日。一緒に寝ても、良いですか」
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