37 / 75
第三章 疑惑!? 騒動! 解決!!
37
しおりを挟む「あら? 今日はおそろいで、お早いお戻りですね」
帰り支度をしていたメイドのアメリが、タウンハウスで迎えてくれた。
「アメリ、帰るところすまないが、キーラの風呂に付き添ってはくれないだろうか?」
レナートの言葉でアメリは私の様子を見て――笑顔で頷いてくれた。
「かしこまりました。キーラちゃん、お疲れね! 今日は私が洗ってあげるわ!」
「……すみません……」
「良いのよ、たまには甘えちゃいなさい。レナート様、お食事は用意してございますので」
「ありがとう」
タウンハウスの浴室は、さすが豪華な造りで、魔石をふんだんに使った高級な設備。好きな時に温かいお湯を使えて有り難かった。
アメリは、バスタブにお湯を溜めながら、良い香りのするせっけんを持ってきてくれた。今までお湯の浸かり方が分からなくてシャワーだけだったのだけれど、この際『貴族の入り方』を覚えちゃいなさいよ! と甲斐甲斐しく世話を焼いてくれる。
のろのろとろくに服も脱げない私を、あっという間にテキパキ全部脱がせて、バスタブに導いてくれた。メイドってすごいなあ、と私はぼんやり見ているしかできない。
「ドレスの着付けの時、キーラちゃんが、メリンダさんのお茶屋さん紹介してくれたでしょう?」
「はい」
「うちの旦那がね、メリンダさんが教えてくれた茶葉で紅茶パンを焼いたら、とっても好評でね」
「……」
「お礼がしたいって言ってたわ」
「そ……ですか……」
「このせっけんどう? 良い匂いでしょう? 最近流行りのお店なのよ。教えるから、今度行ってみたら?」
「はい……」
アメリはきっと、私が落ち込んでいることが分かって、こうやって世間話をしてくれている。温かいお湯に浸かって、明るい話題で、髪の毛も丁寧に洗ってくれて……私の汚れ、全部落ちるかな。
「アメリさん。おとこのひとって、こわいね」
ぽろりと本音がこぼれ出た。
だって、暴力は、恐ろしい。あんなに、恐ろしいものだったなんて。私はレナートに助けられたけど、もしそうじゃなかったら……
「そうね。でも、愛してくれる男の人は、心強いのよ」
「……」
「怖い人はいる。でも、優しい人もいる」
「うん……」
「キーラちゃんには、レナート様がいるわ」
「……」
「たくさん、甘えたら良いの」
「良い……のかな」
「あら。良いこと教えてあげるわ」
アメリが、洗い終わった髪の毛を丁寧に拭きながら、にっこり笑う。
「よいこと?」
「疲れたり、辛い時にはね。たっぷり、甘えて良いの」
「ほんとう?」
「ほんとよ! 甘えるって、女の子の特権なのよ!」
「とっけん」
「そう。それを許してくれる人に。飛び込むの」
――そんなこと、したことがない。
「初めては怖いけど、レナート様はきっと怒らないんじゃないかしら? しかめっ面は、するかもだけどね!」
「……ふふ」
「今のは、内緒にしてね?」
「ふふ、はい」
「試しに『甘えても良いか』聞いてみなさいな」
「……そっか。許可してもらえたら、言えるかも」
アメリはすごいなあ。
何も聞かないでいてくれるのに、私が欲しい言葉をくれる。そうか、聞いてみたら良いよね。ダメなことはダメだと言うって、約束したもの。
「ありがとう、アメリさん。そしてごめんなさい。お子様たち、お家で待ってますよね」
「良いのよ! 気にしないで。良くしてもらってるのはこちらの方なんだから」
「それは、団長です」
「あら。でもキーラちゃんが、怖い人じゃないって教えてくれたお陰よ?」
「あはは!」
アメリに帰宅してもらい、夜の部屋着で、ひとりでキッチンへ向かう。
自分で食べられそうな、パン粥を作ることにした。鍋にミルク、ちぎったパン、チーズ、少しだけ蜂蜜、の簡単なもの。
コトコト。ふつふつ。
良い香りが漂う。
今、自分の周りには、好きな香りしかない。大丈夫、と言い聞かせる。
引き出しから木の皿とスプーンを出して、すくう。
もうここでささっと食べてしまおう――
「キーラ?」
お風呂上がりのレナートが、様子を見に来てくれた。肩にタオル。濡髪で、油断している姿は珍しい。
「……美味そうだな」
「レナート様も、食べます?」
「いや」
「なら、お茶は?」
「頂こう」
キッチンからダイニングまで行かず、ここで簡単に食べてしまおうと思っていた。なら、移動をと動いたら、レナートもその辺の木の椅子に座った。
「ここで、良いです?」
「ああ」
キッチンとレナート。――似合わない。
「ふふ」
「! な、何かおかしいだろうか」
「いえ。キッチンとレナート様が、違和感で」
「……そ、だな。実は初めて入った」
「ええっ! そっかあ、用事ないですもんね」
「そうなのだ」
温かい食事。良い香りのお茶。チーズと蜂蜜、それからレナート。ここには、好きなものしかない。
はふはふ、もぐもぐ。ごくん。ごくごく。
美味しい。温かい。早く、早く、忘れてしまおう。
「キーラ、焦らなくていい」
レナートが、微笑む。
「大丈夫だ、ずっと側にいる」
――ああ。大好き。
「レナート様、お願いが」
「なんだ」
私は意を決して、言ってみた。
「今日。一緒に寝ても、良いですか」
0
あなたにおすすめの小説
【長編版】孤独な少女が異世界転生した結果
下菊みこと
恋愛
身体は大人、頭脳は子供になっちゃった元悪役令嬢のお話の長編版です。
一話は短編そのまんまです。二話目から新しいお話が始まります。
純粋無垢な主人公テレーズが、年上の旦那様ボーモンと無自覚にイチャイチャしたり様々な問題を解決して活躍したりするお話です。
小説家になろう様でも投稿しています。
そのご寵愛、理由が分かりません
秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。
幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに——
「君との婚約はなかったことに」
卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り!
え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー!
領地に帰ってスローライフしよう!
そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて——
「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」
……は???
お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!?
刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり——
気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。
でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……?
夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー!
理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。
※毎朝6時、夕方18時更新!
※他のサイトにも掲載しています。
ご褒美人生~転生した私の溺愛な?日常~
紅子
恋愛
魂の修行を終えた私は、ご褒美に神様から丈夫な身体をもらい最後の転生しました。公爵令嬢に生まれ落ち、素敵な仮婚約者もできました。家族や仮婚約者から溺愛されて、幸せです。ですけど、神様。私、お願いしましたよね?寿命をベッドの上で迎えるような普通の目立たない人生を送りたいと。やりすぎですよ💢神様。
毎週火・金曜日00:00に更新します。→完結済みです。毎日更新に変更します。
R15は、念のため。
自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)
裏ありイケメン侯爵様と私(曰く付き伯爵令嬢)がお飾り結婚しました!
麻竹
恋愛
伯爵令嬢のカレンの元に、ある日侯爵から縁談が持ち掛けられた。
今回もすぐに破談になると思っていたカレンだったが、しかし侯爵から思わぬ提案をされて驚くことに。
「単刀直入に言います、私のお飾りの妻になって頂けないでしょうか?」
これは、曰く付きで行き遅れの伯爵令嬢と何やら裏がアリそうな侯爵との、ちょっと変わった結婚バナシです。
※不定期更新、のんびり投稿になります。
いつかの空を見る日まで
たつみ
恋愛
皇命により皇太子の婚約者となったカサンドラ。皇太子は彼女に無関心だったが、彼女も皇太子には無関心。婚姻する気なんてさらさらなく、逃げることだけ考えている。忠実な従僕と逃げる準備を進めていたのだが、不用意にも、皇太子の彼女に対する好感度を上げてしまい、執着されるはめに。複雑な事情がある彼女に、逃亡中止は有り得ない。生きるも死ぬもどうでもいいが、皇宮にだけはいたくないと、従僕と2人、ついに逃亡を決行するのだが。
------------
復讐、逆転ものではありませんので、それをご期待のかたはご注意ください。
悲しい内容が苦手というかたは、特にご注意ください。
中世・近世の欧風な雰囲気ですが、それっぽいだけです。
どんな展開でも、どんと来いなかた向けかもしれません。
(うわあ…ぇう~…がはっ…ぇえぇ~…となるところもあります)
他サイトでも掲載しています。
転生したので推し活をしていたら、推しに溺愛されました。
ラム猫
恋愛
異世界に転生した|天音《あまね》ことアメリーは、ある日、この世界が前世で熱狂的に遊んでいた乙女ゲームの世界であることに気が付く。
『煌めく騎士と甘い夜』の攻略対象の一人、騎士団長シオン・アルカス。アメリーは、彼の大ファンだった。彼女は喜びで飛び上がり、推し活と称してこっそりと彼に贈り物をするようになる。
しかしその行為は推しの目につき、彼に興味と執着を抱かれるようになったのだった。正体がばれてからは、あろうことか美しい彼の側でお世話係のような役割を担うことになる。
彼女は推しのためならばと奮闘するが、なぜか彼は彼女に甘い言葉を囁いてくるようになり……。
※この作品は、『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。
偉物騎士様の裏の顔~告白を断ったらムカつく程に執着されたので、徹底的に拒絶した結果~
甘寧
恋愛
「結婚を前提にお付き合いを─」
「全力でお断りします」
主人公であるティナは、園遊会と言う公の場で色気と魅了が服を着ていると言われるユリウスに告白される。
だが、それは罰ゲームで言わされていると言うことを知っているティナは即答で断りを入れた。
…それがよくなかった。プライドを傷けられたユリウスはティナに執着するようになる。そうティナは解釈していたが、ユリウスの本心は違う様で…
一方、ユリウスに関心を持たれたティナの事を面白くないと思う令嬢がいるのも必然。
令嬢達からの嫌がらせと、ユリウスの病的までの執着から逃げる日々だったが……
モンスターを癒やす森暮らしの薬師姫、騎士と出会う
甘塩ます☆
恋愛
冷たい地下牢で育った少女リラは、自身の出自を知らぬまま、ある日訪れた混乱に乗じて森へと逃げ出す。そこで彼女は、凶暴な瘴気に覆われた狼と出会うが、触れるだけでその瘴気を浄化する不思議な力があることに気づく。リラは狼を癒し、共に森で暮らすうち、他のモンスターたちとも心を通わせ、彼らの怪我や病を癒していく。モンスターたちは感謝の印に、彼女の知らない貴重な品々や硬貨を贈るのだった。
そんなある日、森に薬草採取に訪れた騎士アルベールと遭遇する。彼は、最近異常なほど穏やかな森のモンスターたちに違和感を覚えていた。世間知らずのリラは、自分を捕らえに来たのかと怯えるが、アルベールの差し出す「食料」と「服」に警戒を解き、彼を「飯をくれる仲間」と認識する。リラが彼に見せた、モンスターから贈られた膨大な量の希少な品々に、アルベールは度肝を抜かれる。リラの無垢さと、秘められた能力に気づき始めたアルベールは……
陰謀渦巻く世界で二人の運命はどうなるのか
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる