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第四章 別離?? 決意!? 溺愛!!

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 ぶおん!
 ぶんっ、ぶんっ、ぶおん!

「……あのー、ヤン?」
「ん?」
「ボジェクのあれ、みんな死んじゃわない?」
「……っすねー」

 ――否定してよ!

 練習試合しませんか? っていう私の提案は、帝国側どころか王太子も一番隊も乗り気になって、選抜された者たちで御前試合やりましょう、になった。

 元騎士団本部(今は支部になっちゃった)の演習場で、椅子を並べたりしてなんとか形になり、いざ開催の今日。
 
 アルソス国王を初めて見たけれど、弟と全然似ていない。
 王太子とは、さすがに似ている。二人ともなんか、いかにも貴族って感じのオーラがすごい。あまり近寄りたくないと思っていたら、ヨナターンが私のことは「御身が危ないので、公表はしません」と言い切ってくれた。気遣いが嬉しくて、感激した。

 少将のボジェクが「やっと出番だ!」て振り回しているあれは、確かに模擬戦用に切れないようにした槍らしいのだけど、音がさっきから不穏過ぎて――

「あー、ボジェク? お前、出る気か?」
 とヨナターン、苦笑い。
「もちろんです」
 とボジェク、満面の笑み。

 ――参加予定者、全員絶句。顔面蒼白。

「えーと、相手は誰が?」
 肩をすくめるロランに
「まあ……俺だろうな」
 しかめっ面のレナート。
 私は思わず飛び上がった。
「ぎえ!? ちょ、レナート、大丈夫なの!?」
「ま、やるだけやってみるさ」

 結局、一番隊対帝国軍人が三組、そしてルイス対ヤン、ロラン対オリヴェル、最後がレナート対ボジェクになった。

「ボジェク……レナートに怪我させたら、絶対に許さないからね!! っせーの!」
「「「がんばれルイス! がんばれロラン! がんばれ団長ーーー!」」」

 応援部隊(私、ロザンナ、メリンダ)、観覧席に移動です。

 

 ◇ ◇ ◇

 
 
「ぐは、誰も俺の味方してくれねえし! ぴえーん!」
「そりゃそうだろー」
「大将までひどいすよー!」
「手は抜くな。だが怪我はさせるな」
「んな無茶な!」
「レナートに怪我させたら、一生キーラに嫌われると思え」
「……割とマジな気がしますね!」
「マジだぞ。見ろよあのふくれっ面。可愛いな」
「くそう! 可愛い!」


 
 ◇ ◇ ◇


 
 御前試合、いよいよ開幕です!
 
 ブルザーク帝国軍は、武器魔道具が標準装備だけれどそれを禁止にして、普通の武器(模擬戦用)で戦ってもらう。まいったと言うか、失神で負けになる。重傷を負わせたり、命を奪うような危険な攻撃は禁止。審判は、ヨナターンだ。

 私は、観覧席でロザンナ、メリンダとともに見守っている。肩に力が入るし、歯を食いしばっちゃうし、なんなら胸の前で両手を握りしめてしまう。

「では、ただいまより御前試合を開始する。一番手、前へ!」

 外面ヨナターンの、威厳のある声が響き渡る。
 レナートたちは順番に並ぶためここにはいないので、ただひたすら勝利を祈ることしかできないのが悔しい。

 一組目――新人だという帝国の軍人相手に騎士団員が順当勝ち。
 二組目――力自慢の騎士団員だったけれど、技が大振りで、隙をつかれて帝国軍人の勝ち。
 三組目――お互い譲らず時間切れで、引き分け。

 そして。
 
「遠慮なく来い」
「ういっす!」

 ルイスとヤンだ。二人とも刃を潰してある剣を持っている。盾はなし。

「では、両者構えて……はじめ!」

 ヨナターンの声で一気に間合いを詰めた二人は、同時に斬りかかる。速いのはヤン。ルイスはなんというか、うまい。力を逃がしたり、押したり、引いたり。
 私は素人だから、模擬剣でも当たったら痛そうとか、ひゃあ! とか、いけー! とか、あー! しか声が出なかった。

 やがて
「く、まいった!」
 ルイスが片膝を地面に突いて右手を挙げた。
 ヤンの攻撃が脛に当たったようで、痛みで顔を歪めている。
「勝者ヤン! ルイス、大丈夫か?」
「……っ」
「捕まってください!」
 ヤンが肩を貸して運ぶと、オリヴェルがさっと駆け寄った……怪我を診てくれるのだろう。

 しばらく試合が中断され、その間にお茶の時間が取られた。ようやくぷはぁ、と呼吸ができる。

「ひー、ドッキドキするねー!」
「いやあ、騎士ってえのはすごいんだねえ」
「うんうん。こりゃあ、迫力があって良いねえ」
 ロザンナとメリンダは、楽しんでいるようだ。怖がらないところがまた、肝っ玉が据わっているというかなんというか。
 私は、参加者の待機場所に目を向けてみる。レナートとロラン、そしてボジェクが談笑している姿を見てホッとした。三人が慌てていないということは、ルイスの怪我は大したことがないということだからだ。

「お待たせした。再開! 副団長ロランと、オリヴェル中尉!」

 わあ! と歓声が上がり、演習場の中に降り立つ二人には、華がある。

「両者構えて……はじめ!」

 ヒュンッ、と空気の切り裂く音がしたかと思うと、ロランが剣を振り抜いた姿勢でオリヴェルが後方に飛んでいた。続けざま、ロランは上、下、斜めと縦横無尽に剣を振るう。オリヴェルは、それらを紙一重で避ける、飛ぶ、避ける。

 ロランの後ろで結んだ長い銀髪がふわり、ふわりと舞っていて、なんだか幻想的だった。

 ――静寂の中、二人がダンスしているみたい。

 オリヴェルはとても冷静に剣をさばき、ロランの姿勢が崩れたところに鋭い突きを放つ。

「しっ」
 
 ロランは首だけで避けた。オリヴェルは手数が少ない分、一撃必殺の予感がして、冷や汗が背中を伝う。

 ガン!
 
「はっ!」
 
 オリヴェルの剣を弾くや否や、小さな動きで斬りかかったロランの背後に、すかさず素早い動きでぐるりとまわり込み、返す逆手でその首元に剣を当てるオリヴェル。
 
 ――ああ、負けちゃった!

 と瞬間的に思ったのだけれども、
「引き分け!」
 ヨナターンが叫ぶ。

 ロランとオリヴェルが離れて、ホッとした笑顔でがっちり握手を交わしている。

「え? え? 引き分け!?」
「あ、こっちからは見えなかったかー……副団長の剣も、オリヴェルさんの腹を斬れるところにあったんすよ」
「ヤン!」
「解説いるかと思ってー」
「いる! ルイスさん、大丈夫だった?」

 大丈夫、と言いながら、ヤンは後ろに座った。背もたれに両肘を乗せるようにして私とロザンナの間から身を乗り出して
「いやー、いい試合だったなー! んで次どっちに勝って欲しいんすか?」
「レナート!」
「即答だし。ふひっ」
 と笑う。

「団長負けたら、どうします?」
「負けてもいいの」
「へえ! 意外!」
「無事なら良いの」

 ニコニコするヤンが、
「うわ! 愛を感じるー!」
 と言って、振り返ったロザンナ、メリンダ姉妹に同時に頭をはたかれていた。



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 お読み頂き、ありがとうございました!
 
「いだっ! 酷いよ、ロザンナさーん、メリンダさーん」
「あんたは一言多いんだよ」
「だからモテないのさ」
「ぐはあ!」

 試合に勝って、姉妹に負けたヤンなのでした。
 
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