ガラス越しの宝石

尾高 太陽

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蔵に住む少女

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「あっ!」
 机の上に置いていたビーカーに着物の袖が引っかかり、ガラス特有のパリンと言う音が部屋に響いた。
「っちゃー…片付けなきゃ。」

 少女は谷に囲まれた蔵に住んでいた。
 あるのは自由と呼べない限りある自由と必要最低限の生活用品、理科室のような実験器具と、図書室のような大量の本。
 そして、蔵の床一面に描かれた、魔法陣のような星型の模様。
 しかし、少女にとってその不自由な生活こそが当たり前であり、不満のあるものではなかった。

 膝を曲げ、床に飛び散ったガラスの破片を片付けていくと指に痛みが走った。
「っ!」
 指からは丸い血が膨み、腕を伝うように一筋の血が流れていた。
「ててて。」
 少女は指に付いた血をはらう様に大きく手を振る。
「あっ!」
 すると、飛び散った血は机の上の本に飛び、紙に染み込んでいった。
「あぁ。」
 これはお祖母様に怒られるな…。
 そう思いながら小さく溜息を吐きガラスの破片の片付けを続けた。



 片付けが済み、休憩を兼ねて蔵に似合わない洋風のソファーに寝転がる。
「お祖母様に命令された石神の眼の人口精製。第一、試す人がいないのにどうやって検証すればいいのやら。」
「ぁ………。」
 蔵の外から聞こえた、空耳かと思えるほどの小さな声。
 その声に少女は急いで体を起こし耳を澄ます。
 しかし、声はもう聞こえず何の声だったのか、それ以前に声だったのか。
「人が落ちた!」
 しかし少女は誰にでもなくそう声を上げ、急いで蔵から飛び出した。


 谷の淵へと着くと、反対側の淵がえぐれたように崩れていた。
「っ!やっぱり…」
 少女は急いで蔵に引き返した。
 落ちたと思った時点で準備をしてから来るべきだった。
 そんな公開をしながら机の下に置いてあった縄の束と、何に使おうとしていたのかも忘れた鈴を手に持つ。
「これで!」
 もし谷底で奇跡的に生きていれば。下ろされた縄を見つけ、それを引けば地上の縄につけて置いた鈴が鳴り少女に聞こえる。そんな無駄とも言えるような仕掛けに賭けるしかなかった。
 少女はあるだけの縄の束を両手で持ち、きちんと閉まっていなかった蔵の扉を足で蹴って開いた。
 次の瞬間、少女は急ぐ足を止め抱えていた縄をバタバタと落とした。
「…なんで!」
 扉の前にはつい数秒前までいなかった、眼鏡をかけた少年が倒れていた。
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