ガラス越しの宝石

尾高 太陽

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「え!?ちょっとまって下さい?もし仮説3なら僕は跡形も無く消えていたんですか!?」
「んー、まぁ、、、そうなるかな?」
 鏡はそれそこ非現実な事すぎて心の底から驚く事は出来なかった。
 しかしそれよりも、平然とその返事をした朱雀に恐怖を抱いていた。
「、、、」
「鏡君?」
 朱雀は、あと数センチのところまで顔を近づけてきた。
「うぇ!あ、すいません。
ところで上で見た化け物も眼鏡をかけたら見えたんですけど、、、あの石神と同じ原理ですか?」
「んー、原理は一緒だけど、根本的な部分が違うかな。
鏡君の言う化け物はね〈なり損ない〉って言うの、詳しくは言っていいか分からないからまた今度に言うけど。
つまりはあれも〈見える〉と〈見えない〉が重なってる。」
「じゃあ石神と同じなんじゃ。」
 朱雀は首を横に振る。
「ううん、石神は〈見える〉結果存在する、と〈見えない〉結果存在しないが重なってる。
けどなり損ないは〈見える〉と〈見えない〉が重なっているだけ、存在はしてる、、、あれは私たちが〈見える〉に確定する事が出来るだけで、石神とは似て非なるものだね。
だからもし、あの時鏡君が私の事を信用せずに眼鏡を掛けていなかったら、なり損ないに食べられて、中から外が見える状態で消化されてたかもね。」
 朱雀は鏡に笑いかけた。
 しかし、その朱雀の笑顔は鏡を安心させようとしているものなのか、それともただ朱雀にとっての死とは笑顔を浮かべるようなものなのか、どちらか分からない鏡にはただただ朱雀への恐怖心が大きくなるばかりだった。

 どれくらいの時が経ったのか。太陽も月も見えない地下では時間は分からず、鏡は俯いて震えていた。
「、、、玄武さん、助けっていつ来るんですか?」
「んーどうだろう、いろいろやってたから今の時間が分からないし、多分夜明けくらいになるだろうから、最低でも6時間くらいかな、、、ってどうしたの?そんなぬ震えて。」
「いや、その、ちょっとピンチと言うか、かなりピンチと言うか、、、トイレ、に、、、」
「あ、、、ごめんここトイレない。」
 今いる空洞の底、階段を下りる途中のどこにも扉が無かった事からその事は分かっていた。
「ですからせめて上の草むらに!」
 あの瓦礫の量から家が半壊、またはそれ以上の被害が出ている事が予測でき、それによって家の中のトイレが生き残っている可能性が低い事は理解していた。
「ダメだよ!今はまだ危ないし!例えなり損ないがいなくても瓦礫のせいで出口は塞がれちゃってるし。」
「そんな!あと6時間も我慢なんて無理ですよ!」
 6時間、鏡にはそれどころか1時間すら耐えられるか分からないほど限界だった。
「後ろ向いててあげるからあっちでしてきなよ!」
 鏡は必死に首を横に振る。
「絶対に嫌ですよ!地面が土ならまだしも、ここは石レンガじゃないですか!うっ、、、」
「出た?」
 朱雀はニヤニヤと笑いながら鏡を見つめていた。
「出てませんよ!!あーーー!もっ!もう玄武さん!後ろ向いてて下さい!!」
 朱雀が声を堪えて笑っている事を背中で感じながらも、石神を挟んで朱雀の反対側の壁に回った。

「ねぇ、鏡君。」
 鏡はビクッと反応する。
「え!?な、何ですか!?」
「あ、ごめん邪魔しちゃった?」
 その声には笑いが混じっていた。
「じゃっ、邪魔って何ですか!!何も邪魔な事なんてありませんよ!」
「鏡君、気づいてないかも知れないけど〈音〉聞こえてるよ。」
 鏡はまさしく〈出していた〉。
鏡自身は近距離で聞いているために気づかなかったが、音はトンネルのように空洞内で響き渡り、
朱雀の耳へ届いていた。
「あ、え!?なぁ!!」
「こぼした?」
「こぼしてません!!と言うか女の人がそんな事を言わないでください!」
 朱雀はとうとう堪え切れなくなり、声を漏らした。
「フフッ、ごめんごめん。終わった?」
 鏡は赤面しながら朱雀の元に戻った。
(死にたい、、、)
「聞かないでください。」

 しばらくの間、朱雀と何気ない会話をしていると冷気が鏡を襲った。

「ここ、寒くないですか?」
「一応地下だからね。
周りが谷だから温度としてはそんなに下がらないんだけど、やっぱり体感温度は低いね。」
「、、、あと何時間くらいでしょうか。」
「んーどうだろ、する事ないし寝ておいたら?寝てないんでしょ?」
(確か僕が寝たのって、、、)
 よく思い出して見ると、お使いに出たのが夕方でそこから眠ったと言えるのは気を失っている間だけだった。
 それを思い出すと、急に眠気が鏡を襲った。
「そうですね、、、そうします。」
 出来るだけ保温、そして寝顔を隠すために、壁際で朱雀に背を向けるて寝転がった。
 すると、鏡の背に背を密着させ朱雀が寝転がった。
「っ!?」
「あったかいでしょ?」
(確かにあったかいはあったかい、けどこれは!)
 出来るだけ気にしないようにと目を瞑ったが、女の子と触れるどころか話した事すらもほぼ無い鏡には、背中の温もり、後ろから聞こえる静かな寝息も、全てが目を覚ます物だった。

 しかし、少しするとすぐに眠気に負けゆっくりと眠りに落ちた。



 まるで爆発のような音で鏡は目を覚ました。
「えっ!?」
 どれくらい眠っていたのか、そんな事は驚きで考える間も無く体を起こした。
 背中にはもう温もりはなく、朱雀は空洞の中央で上を見上げていた。
「鏡君、、、来たみたいだよ。」
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