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シュレーディンガー
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(結局帰す気が無かったのなら先に言って欲しかったな。)
結末が分かっているならば、無駄な心理戦をする事も、騙す事もする必要も無く、諦めがついていただろう。
しかし、鏡はあのやり取りの意味に気付いていた。
〈君はきっと必要性有りだね〉
つまりあのやり取りはテストだったのだろう。
おそらく、あのテストで鏡の人間性や知性を試していた。
そして、今鏡がしているのは、赤い岩を見ると言うテスト。
おそらく朱雀の言っていた〈2つの事〉のうちの1つ。
しかし、もう1つの事はいくら考えても分からないままだった。
(まぁ、今はこのテストに集中しよう。)
「全く、本当に酷い話です。
、、、で、色々と聞きたい事があるんですけど、、、。」
「んー、っと、、、今答えを言っても分からない事だけだろうけど、、、もう見ちゃったし、いいかな。
まずは基本の事から。
あの岩、あれは石神(せきじん)って言うの。石(いし)の神(かみ)と書いて石神。
「もう一度眼鏡を外してくれる?
今度は気を付けて、ね。」
その嫌味な笑顔に鏡は苦笑いしかできなかった。
鏡は用心して石神から1mほど離れた場所に立つと、眼鏡を外す。
「え!?」
「気づいた?」
鏡の視界からはついさっきまであった石神は消えていた。
いくら目が悪いと言っても、1メートルの距離にある、しかも赤く光った大きな岩を見失う事はあり得ず。
しかし、見えているのは岩があって見えていなかった石レンガの地面と、鏡の横で何も無い空中に持たれかかった体勢の朱雀だった。
「消えた、え!?」
朱雀はクスリと笑う。
「じゃあもう一度眼鏡をかけて見て。」
鏡は言われた通り眼鏡をかけると、目の前にはまた赤く輝く石神が現れた。
「これって!」
「そう、その眼鏡をかける事で石神を見る事が出来る。」
「この眼鏡で?なんで、」
朱雀は石神に手を触れる。
「正直に言うと私にも分からない、でもその眼鏡が石神を見る事の出来る道具と言うのは確か、、、うん。」
「、、、」
2人の間に沈黙が流れる。
この沈黙は鏡は今起こった事、朱雀の言ったことから頭の中でパズルを組み立てていく。
朱雀も難しい顔をしていることから、きっと何かを考える時間なのだろう。
数分たって、朱雀が沈黙を破った。
「さっき言った〈2つの事を確認する〉って言うの覚えてる?」
(来た、)
待ちに待った疑問をやっと解く時が来た。
長く待ちすぎたせいで、一気に上がったテンションを抑えて、頷く。
「この石神はね普通の人には見えない、見えるのは私みたいな石神の、、、〈選ばれた者〉か今回が初めてだけど、鏡君みたいな道具を使う者だけ。」
鏡は落ち着いて石神を眺めていた。
「見えない、ですか。」
朱雀は驚きと笑みの混じった表情を浮かべた。
「へー、驚かないんだ。」
鏡は長いため息を吐く。
「あの化け物を見たんですか、ら、ってそうだ!!あの化け物はどうなったんですか!?」
「化け物、か、、、。心配しなくてもここには入ってこれないよ、あと何時間かすれば助けも来るし。」
助け、それが鏡の知っている警察などでは無いことは明らかで、だからこそそれが〈何か〉とは聞く事は出来なかった。
「えっと、どこまで話したっけ?」
「、、、あの岩、石神が普通の人には見えないって部分まで。」
朱雀はあぁと首を頷かせた。
「そうだった。
それで2つの事を確認するって話
だよね。
まず1つ目が〈本当に石神が見えるのか〉。」
鏡は推理通りの答えに心の底で喜びながら、目の前の石神に手を触れた。
「そして、僕は見る事ができた、、、」
「そう。だから1つ目の確認はこれでクリアって事。
ただ、私としては鏡君が谷に落ちたっていうことが信じられなかった。
でも鏡君が見た赤く光った谷っていう物は明らかに石神。
だから一度本物を見せてみて、本当に見えるのかを確認することが1つ目の確認だったの。」
ここで鏡は単純な疑問を抱いた。いつものなら真っ先に聞かず、まず自分の頭の中で整理する鏡も、疲れのせいか迷いなく口を開いた。
「ちなみにその確認って何のためなんですか?」
すると朱雀は不思議そうに首を傾げながら、鏡を見た。
「あれ?さっき上で言わなかったっけ?
必要性の有無の判断だよ。」
「あ、」
すっかり忘れていた。
化け物に追われ、小学校の時に聞いた怪談を思い出すような長い階段を降りている途中で、考える事を止めていた。
「そうだった。僕、巻き込まれたんだ、、、」
鏡のこぼした言葉に、朱雀は少し笑いの混じった声で答えた。
「鏡君、心の声が漏れてる。」
鏡はあっと口を塞ぎ、咳払いをする。
「そ、それで2つ目の確認は何なんですか?」
朱雀はクスリと笑うと、真面目な、それでいて少し暗い顔つきに変わる。
しかし、互いに言葉を発する事はなく、また2人の間に沈黙が流れる。
「、朱雀さん?」
最初に声を出したのは鏡だった。
このまま待っていても、何も返って来ないと理解した。
「そうだね、、、。
ねぇ鏡君、鏡君は地獄と知って地獄を歩くのと、地獄と知らずに地獄を歩くの、どっちがいい?」
これがただのクイズやなぞなぞではない事はすぐに分かった。
だからこそ、鏡はいつものように深く考えるのではなく、ただ自分の考えを口にする。
「結局地獄を歩くのなら、何も知らない幸せよりも、大きな絶望の中で〈知る〉と言う小さな幸せの方が僕はいいと思います。
僕は何も知らないのは怖、、、嫌です。」
すると、朱雀は優しい笑みを浮かべた。
しかしそれはさっきまでの笑みではなく、どこか生き生きとした笑み。
「知らない方がいいかもしれないよ?」
朱雀は鏡を見ず石神を眺め。
また鏡も朱雀を見ずに石神を眺めて会話をする。
鏡は朱雀の、朱雀も鏡の声が弾んでいる事には気付いていただろう。
「なら知っていた方がいいかもしれませんね。」
朱雀は石神に優しく手を触れる。
「、、、聞きたい?」
鏡は小さく深呼吸をした。
「どうせ地獄を歩くのなら。」
鏡もまた石神に優しく手を触れ。
「、、、2つ目の確認はね、石神を見れるのが鏡君なのか。、、、それとも眼鏡を掛けた人なのか、の確認だったの。」
それを聞いて、朱雀がなぜ鏡の眼鏡を欲しがっていたのかを理解した。
そして、朱雀のシリアスな前置きを踏まえて考えると、朱雀が何故口籠もったのかが分かった。
「なるほど。僕がいなくても、その眼鏡をかけた人が石神を見れる以上、僕に必要性は無いって事ですか。」
朱雀の反応から見ると当たっている。
しかし首を縦には振らなかった。
「で、でも!もしその眼鏡をかけたとしても鏡君以外が見れなかったら!」
2人は石神から手を離し、互いに目を見て話す。
朱雀の焦り様、上で聞いた元の生活に戻れない話、そんな不安の種ばかりを思い出していたにもかかわらず、鏡は落ち着いていた。
「もし、僕以外に見る事が出来ればどうなるんですか?」
朱雀は励ます様な言葉を失い、暗い表情で俯いた。
「分からない、それを決めるのはお祖母様だから、、、」
お祖母様。
おそらく朱雀の後ろに付いている組織の人物なのだろう。
「そうですか、、、まあ、地獄に行く準備とチケットは揃いましたね。」
(ついでに、脱出用のヘリでも用意してくれればな、、、)
鏡は冗談めいた笑みを浮かべる。
しかし、朱雀は俯いたまま動く事は無かった。
しばらくすると鏡は石神に手を触れ、朱雀に背を向けたまま口を開いた。
「朱雀さん。成り行きでこんな事になりましたけど、ここまでこればもう逃げ道は無いと思います。」
その言葉に朱雀が小さく声を上げた事を鏡は背中で感じていた。
「なので、僕は逃げます。」
突然言い放たれた言葉に思わず朱雀は声を上げた。
「え!?」
鏡は振り返り、朱雀を見つめる。
「もちろん、今ここから逃げるわけじゃ無いですよ?
結果的に巻き込まれるのなら、ただ元の生活に戻るため、それだけのために足掻きます。
わけのわからない石神とかいう石とか、惜しいですけど綺麗な髪の女の子とか、全部から逃げて、何があっても元の生活に戻って見せます。」
鏡は笑みを浮かべた。
「なので、地獄の事を教えてくれませんか?」
(出来るだけ情報が欲しい。玄武さんは今の所〈後ろ〉から厳しく口止めはされていない、だからこそペラペラと話してくれる。なら今のうちに、出来るだけ多く、詳しい情報を。)
朱雀は少し開いていた口を閉じると、小さな笑みを浮かべた。
「逃げられないかもしれないよ?」
鏡は、ついさっきしたやり取りを繰り返す。
「なら逃げられるかも知れませんね。」
すると、朱雀は大声で笑いはじめた。
「あはははははは!れっ、鏡君!君!面白すぎ!!」
今までの重い空気はどこへいったのやら。
鏡も朱雀につられて笑みをこぼしていた。
朱雀は一通り笑うと、涙目で息を整えた。
「あー、笑った!、、、で〈地獄〉の事だっけ?
いいよ、教えて上げる。」
朱雀はさっきの声よりも、さらに生き生きとした笑みで鏡を見つめた。
「で、何を聞きたいの?」
2人は石神に持たれるように座っていた。
「えーっと、じゃあ仮説2って事を教えて欲しいんですけど。」
朱雀は口をポカンと開いて、首を傾げた。
「カセツ、ニ、、、?」
鏡は思わず固まった。
「、、、え~、いや、えっ?さっき言ってたじゃないですか!仮説2の方で良かったとかなんとか、、、」
すると、腕を組んで眉間にしわを寄せていた朱雀が、あっ!と声を上げる。
(思い出したか。)
鏡はホッとため息を吐き。
「やっぱり分かんないや、、、」
鏡はまるでどこかの喜劇のように、よろけるフリをした。
「だから僕があの岩、石神にぶっ飛ばされた時に言ってた事ですよ!」
すると、朱雀は自分の手のひらを拳で叩いた?
「ああ!仮説の事!思い出した、思い出した。」
(よかった、)
「そうだな、じゃあちょっと難しくなるけど。さっき石神は普通の人には見えないって言ったよね?」
「はい。」
「実はあれはちょっと違うの。正しくは、私達見える者以外には、、、〈存在しない〉。」
その不可解な言葉に鏡は固まってしまった。
存在しないと言う言葉は、この世に無い物に言う言葉であって、今目の前に見え、触れる事が出来る石神には当てはまらない言葉、のはず。
「存在、しない?」
鏡の困惑具合に、朱雀は優しく微笑む。
「鏡君はシュレーディンガーの猫って知ってる?」
それは、今までの会話とは一切の関係の無い唐突な質問だった。
しかし、鏡の困惑する時間はもう終わっていた。
「たしか、箱の中に猫と毒をいれる、でしたっけ?」
「そう、例えば1時間で50%の確率で放出される毒と1匹の猫を同じの箱に入れる。
そして箱の蓋を閉めた瞬間から猫の生死は不明であり、1時間後に蓋を開けるまで猫は〈生きている猫〉と〈死んでいる猫〉が1:1で重なっている、って言う人間中心の考えだね。詳しくはもう少し複雑らしいけど。」
(確かに、僕の知っている限りではあれは人間の観測が全てって言う考え方だしな。実際にあの実験をしていないとはいえ、あれは嫌いだ。)
「で、それがどうしたんですか?」
「石神はね、シュレーディンガーの猫と似てるの。」
「似てる?」
朱雀は石神に手を触れた。
「そう、石神はね〈存在する〉と〈存在しない〉が重なってる。
正しくは〈見える事で結果的に存在する〉と〈見えない事で結果的に存在しない〉が重なってる、だけど。」
鏡は、腕を組んで首を傾げる。
「えーと、、、えーと?」
鏡はその言葉の意味は理解していた。
しかし、あり得ない事すぎるために言葉の意味を理解していても頭は理解しきれていなかった。
「えーと、さっき普通の人には石神は見えないって説明したでしょ?
だから〈見えない〉結果〈存在しない〉に確定される。
でも私は肉眼で、鏡君は眼鏡を通す事で見える。だから〈見える〉結果〈存在する〉に確定される。分かった?」
「んー、一応言葉では理解出来まし、た。」
鏡は朱雀に、そして自分に言い聞かせるように頷く。
「じゃあ続きだね。」
朱雀は休む間も置かず、次へ。
「えーと、、、そうだ。さっき鏡君吹き飛ばされたでしょ?あの時、眼鏡を外した瞬間に岩が消えてなかった?」
「はい、なんと言うか、本当に消えたって感じで、、、」
(まるで魔法みたいに。)
鏡は閉じたり開いたりする自分の手の平を眺めながら、石神に吹き飛ばされる前に感じた、持たれかかる対象が急に無くなった感覚を思い出していた。
「本来、鏡君自体は石神を見る事が出来ない。
ただ、その眼鏡を通すことで石神を〈見る事ができる〉、そして結果的に石神は〈存在する〉に確定された。だから」
「眼鏡を外して石神が〈見えなくなった〉瞬間、石神は〈存在しない〉に確定され、消えたのか!」
朱雀は、おぉ!驚いた表情を浮かべた。
「さっすが鏡君!理解が早い。
(まあ、理解したく無いくらいだけど、、、)
そうそう、私から見ると鏡君は
石神に溶けるように入って行ってたよ。」
鏡は現実とかけ離れた言葉と事実に苦笑いを浮かべた。
「何か、、、すっごい非現実って感じですね。」
「私からすれは日常なんだけどね、あはは。」
しばらくして2人は休憩も兼ねて、空洞の壁にもたれかかっていた。
「それで、結局どう仮説2に繋がるんですか?」
「そうそう、そうだったね。
例えば、もし石神を自分の意思で存在の有無を変えられる、つまり鏡君が眼鏡を付け外しする事だね。
それが出来た場合、もし〈存在しない〉に確定した状態で石神のあった場所に入り、その状態で〈存在する〉に確定した場合どうなると思う?。」
鏡は、難しく言われた内容を、一旦簡単な言い方に整理する。
「つまり、僕が眼鏡を外して石神のあった場所に重なって、その位置で眼鏡をかけたらどうなるか、、、。吹き飛ばされましたね。」
朱雀は満面の笑みで正しいと返事をする。
「そして、私達の研究では3つの仮説があったの。
1つ目が、石神と重なった部分は石神が例外的に存在しないに確定される。
もしくは人間の存在が打ち勝ち石神が消滅。人体に問題は起こらないけど、全身が石神に入ってしまった場合は実質行動不能、死ぬまで石神の中に閉じ込められる。」
(死、!?)
「そして2つ目、石神と人間は〈重なる事なく〉反発し合い、吹き飛ばしあう。
これがさっきの状況だから、つまりはこれが答えだったと言う事になるね。
で、一応3つ目、石神と存在が重なった部分は、高位な存在である石神に〈打ち負け〉存在が〈消される〉。」
(消さ、、、)
「つまりそれって、、、」
「石神と重なった部分はちりひとつ残らず消えるって事。
もし答えが仮説3なら、今頃鏡君はチリ1つ残らず死んで、いや消えていたって言うことになる。」
「、、、え」
(え、、、)
結末が分かっているならば、無駄な心理戦をする事も、騙す事もする必要も無く、諦めがついていただろう。
しかし、鏡はあのやり取りの意味に気付いていた。
〈君はきっと必要性有りだね〉
つまりあのやり取りはテストだったのだろう。
おそらく、あのテストで鏡の人間性や知性を試していた。
そして、今鏡がしているのは、赤い岩を見ると言うテスト。
おそらく朱雀の言っていた〈2つの事〉のうちの1つ。
しかし、もう1つの事はいくら考えても分からないままだった。
(まぁ、今はこのテストに集中しよう。)
「全く、本当に酷い話です。
、、、で、色々と聞きたい事があるんですけど、、、。」
「んー、っと、、、今答えを言っても分からない事だけだろうけど、、、もう見ちゃったし、いいかな。
まずは基本の事から。
あの岩、あれは石神(せきじん)って言うの。石(いし)の神(かみ)と書いて石神。
「もう一度眼鏡を外してくれる?
今度は気を付けて、ね。」
その嫌味な笑顔に鏡は苦笑いしかできなかった。
鏡は用心して石神から1mほど離れた場所に立つと、眼鏡を外す。
「え!?」
「気づいた?」
鏡の視界からはついさっきまであった石神は消えていた。
いくら目が悪いと言っても、1メートルの距離にある、しかも赤く光った大きな岩を見失う事はあり得ず。
しかし、見えているのは岩があって見えていなかった石レンガの地面と、鏡の横で何も無い空中に持たれかかった体勢の朱雀だった。
「消えた、え!?」
朱雀はクスリと笑う。
「じゃあもう一度眼鏡をかけて見て。」
鏡は言われた通り眼鏡をかけると、目の前にはまた赤く輝く石神が現れた。
「これって!」
「そう、その眼鏡をかける事で石神を見る事が出来る。」
「この眼鏡で?なんで、」
朱雀は石神に手を触れる。
「正直に言うと私にも分からない、でもその眼鏡が石神を見る事の出来る道具と言うのは確か、、、うん。」
「、、、」
2人の間に沈黙が流れる。
この沈黙は鏡は今起こった事、朱雀の言ったことから頭の中でパズルを組み立てていく。
朱雀も難しい顔をしていることから、きっと何かを考える時間なのだろう。
数分たって、朱雀が沈黙を破った。
「さっき言った〈2つの事を確認する〉って言うの覚えてる?」
(来た、)
待ちに待った疑問をやっと解く時が来た。
長く待ちすぎたせいで、一気に上がったテンションを抑えて、頷く。
「この石神はね普通の人には見えない、見えるのは私みたいな石神の、、、〈選ばれた者〉か今回が初めてだけど、鏡君みたいな道具を使う者だけ。」
鏡は落ち着いて石神を眺めていた。
「見えない、ですか。」
朱雀は驚きと笑みの混じった表情を浮かべた。
「へー、驚かないんだ。」
鏡は長いため息を吐く。
「あの化け物を見たんですか、ら、ってそうだ!!あの化け物はどうなったんですか!?」
「化け物、か、、、。心配しなくてもここには入ってこれないよ、あと何時間かすれば助けも来るし。」
助け、それが鏡の知っている警察などでは無いことは明らかで、だからこそそれが〈何か〉とは聞く事は出来なかった。
「えっと、どこまで話したっけ?」
「、、、あの岩、石神が普通の人には見えないって部分まで。」
朱雀はあぁと首を頷かせた。
「そうだった。
それで2つの事を確認するって話
だよね。
まず1つ目が〈本当に石神が見えるのか〉。」
鏡は推理通りの答えに心の底で喜びながら、目の前の石神に手を触れた。
「そして、僕は見る事ができた、、、」
「そう。だから1つ目の確認はこれでクリアって事。
ただ、私としては鏡君が谷に落ちたっていうことが信じられなかった。
でも鏡君が見た赤く光った谷っていう物は明らかに石神。
だから一度本物を見せてみて、本当に見えるのかを確認することが1つ目の確認だったの。」
ここで鏡は単純な疑問を抱いた。いつものなら真っ先に聞かず、まず自分の頭の中で整理する鏡も、疲れのせいか迷いなく口を開いた。
「ちなみにその確認って何のためなんですか?」
すると朱雀は不思議そうに首を傾げながら、鏡を見た。
「あれ?さっき上で言わなかったっけ?
必要性の有無の判断だよ。」
「あ、」
すっかり忘れていた。
化け物に追われ、小学校の時に聞いた怪談を思い出すような長い階段を降りている途中で、考える事を止めていた。
「そうだった。僕、巻き込まれたんだ、、、」
鏡のこぼした言葉に、朱雀は少し笑いの混じった声で答えた。
「鏡君、心の声が漏れてる。」
鏡はあっと口を塞ぎ、咳払いをする。
「そ、それで2つ目の確認は何なんですか?」
朱雀はクスリと笑うと、真面目な、それでいて少し暗い顔つきに変わる。
しかし、互いに言葉を発する事はなく、また2人の間に沈黙が流れる。
「、朱雀さん?」
最初に声を出したのは鏡だった。
このまま待っていても、何も返って来ないと理解した。
「そうだね、、、。
ねぇ鏡君、鏡君は地獄と知って地獄を歩くのと、地獄と知らずに地獄を歩くの、どっちがいい?」
これがただのクイズやなぞなぞではない事はすぐに分かった。
だからこそ、鏡はいつものように深く考えるのではなく、ただ自分の考えを口にする。
「結局地獄を歩くのなら、何も知らない幸せよりも、大きな絶望の中で〈知る〉と言う小さな幸せの方が僕はいいと思います。
僕は何も知らないのは怖、、、嫌です。」
すると、朱雀は優しい笑みを浮かべた。
しかしそれはさっきまでの笑みではなく、どこか生き生きとした笑み。
「知らない方がいいかもしれないよ?」
朱雀は鏡を見ず石神を眺め。
また鏡も朱雀を見ずに石神を眺めて会話をする。
鏡は朱雀の、朱雀も鏡の声が弾んでいる事には気付いていただろう。
「なら知っていた方がいいかもしれませんね。」
朱雀は石神に優しく手を触れる。
「、、、聞きたい?」
鏡は小さく深呼吸をした。
「どうせ地獄を歩くのなら。」
鏡もまた石神に優しく手を触れ。
「、、、2つ目の確認はね、石神を見れるのが鏡君なのか。、、、それとも眼鏡を掛けた人なのか、の確認だったの。」
それを聞いて、朱雀がなぜ鏡の眼鏡を欲しがっていたのかを理解した。
そして、朱雀のシリアスな前置きを踏まえて考えると、朱雀が何故口籠もったのかが分かった。
「なるほど。僕がいなくても、その眼鏡をかけた人が石神を見れる以上、僕に必要性は無いって事ですか。」
朱雀の反応から見ると当たっている。
しかし首を縦には振らなかった。
「で、でも!もしその眼鏡をかけたとしても鏡君以外が見れなかったら!」
2人は石神から手を離し、互いに目を見て話す。
朱雀の焦り様、上で聞いた元の生活に戻れない話、そんな不安の種ばかりを思い出していたにもかかわらず、鏡は落ち着いていた。
「もし、僕以外に見る事が出来ればどうなるんですか?」
朱雀は励ます様な言葉を失い、暗い表情で俯いた。
「分からない、それを決めるのはお祖母様だから、、、」
お祖母様。
おそらく朱雀の後ろに付いている組織の人物なのだろう。
「そうですか、、、まあ、地獄に行く準備とチケットは揃いましたね。」
(ついでに、脱出用のヘリでも用意してくれればな、、、)
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しかし、朱雀は俯いたまま動く事は無かった。
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「え!?」
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「もちろん、今ここから逃げるわけじゃ無いですよ?
結果的に巻き込まれるのなら、ただ元の生活に戻るため、それだけのために足掻きます。
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鏡は笑みを浮かべた。
「なので、地獄の事を教えてくれませんか?」
(出来るだけ情報が欲しい。玄武さんは今の所〈後ろ〉から厳しく口止めはされていない、だからこそペラペラと話してくれる。なら今のうちに、出来るだけ多く、詳しい情報を。)
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「逃げられないかもしれないよ?」
鏡は、ついさっきしたやり取りを繰り返す。
「なら逃げられるかも知れませんね。」
すると、朱雀は大声で笑いはじめた。
「あはははははは!れっ、鏡君!君!面白すぎ!!」
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鏡も朱雀につられて笑みをこぼしていた。
朱雀は一通り笑うと、涙目で息を整えた。
「あー、笑った!、、、で〈地獄〉の事だっけ?
いいよ、教えて上げる。」
朱雀はさっきの声よりも、さらに生き生きとした笑みで鏡を見つめた。
「で、何を聞きたいの?」
2人は石神に持たれるように座っていた。
「えーっと、じゃあ仮説2って事を教えて欲しいんですけど。」
朱雀は口をポカンと開いて、首を傾げた。
「カセツ、ニ、、、?」
鏡は思わず固まった。
「、、、え~、いや、えっ?さっき言ってたじゃないですか!仮説2の方で良かったとかなんとか、、、」
すると、腕を組んで眉間にしわを寄せていた朱雀が、あっ!と声を上げる。
(思い出したか。)
鏡はホッとため息を吐き。
「やっぱり分かんないや、、、」
鏡はまるでどこかの喜劇のように、よろけるフリをした。
「だから僕があの岩、石神にぶっ飛ばされた時に言ってた事ですよ!」
すると、朱雀は自分の手のひらを拳で叩いた?
「ああ!仮説の事!思い出した、思い出した。」
(よかった、)
「そうだな、じゃあちょっと難しくなるけど。さっき石神は普通の人には見えないって言ったよね?」
「はい。」
「実はあれはちょっと違うの。正しくは、私達見える者以外には、、、〈存在しない〉。」
その不可解な言葉に鏡は固まってしまった。
存在しないと言う言葉は、この世に無い物に言う言葉であって、今目の前に見え、触れる事が出来る石神には当てはまらない言葉、のはず。
「存在、しない?」
鏡の困惑具合に、朱雀は優しく微笑む。
「鏡君はシュレーディンガーの猫って知ってる?」
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「たしか、箱の中に猫と毒をいれる、でしたっけ?」
「そう、例えば1時間で50%の確率で放出される毒と1匹の猫を同じの箱に入れる。
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(確かに、僕の知っている限りではあれは人間の観測が全てって言う考え方だしな。実際にあの実験をしていないとはいえ、あれは嫌いだ。)
「で、それがどうしたんですか?」
「石神はね、シュレーディンガーの猫と似てるの。」
「似てる?」
朱雀は石神に手を触れた。
「そう、石神はね〈存在する〉と〈存在しない〉が重なってる。
正しくは〈見える事で結果的に存在する〉と〈見えない事で結果的に存在しない〉が重なってる、だけど。」
鏡は、腕を組んで首を傾げる。
「えーと、、、えーと?」
鏡はその言葉の意味は理解していた。
しかし、あり得ない事すぎるために言葉の意味を理解していても頭は理解しきれていなかった。
「えーと、さっき普通の人には石神は見えないって説明したでしょ?
だから〈見えない〉結果〈存在しない〉に確定される。
でも私は肉眼で、鏡君は眼鏡を通す事で見える。だから〈見える〉結果〈存在する〉に確定される。分かった?」
「んー、一応言葉では理解出来まし、た。」
鏡は朱雀に、そして自分に言い聞かせるように頷く。
「じゃあ続きだね。」
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「はい、なんと言うか、本当に消えたって感じで、、、」
(まるで魔法みたいに。)
鏡は閉じたり開いたりする自分の手の平を眺めながら、石神に吹き飛ばされる前に感じた、持たれかかる対象が急に無くなった感覚を思い出していた。
「本来、鏡君自体は石神を見る事が出来ない。
ただ、その眼鏡を通すことで石神を〈見る事ができる〉、そして結果的に石神は〈存在する〉に確定された。だから」
「眼鏡を外して石神が〈見えなくなった〉瞬間、石神は〈存在しない〉に確定され、消えたのか!」
朱雀は、おぉ!驚いた表情を浮かべた。
「さっすが鏡君!理解が早い。
(まあ、理解したく無いくらいだけど、、、)
そうそう、私から見ると鏡君は
石神に溶けるように入って行ってたよ。」
鏡は現実とかけ離れた言葉と事実に苦笑いを浮かべた。
「何か、、、すっごい非現実って感じですね。」
「私からすれは日常なんだけどね、あはは。」
しばらくして2人は休憩も兼ねて、空洞の壁にもたれかかっていた。
「それで、結局どう仮説2に繋がるんですか?」
「そうそう、そうだったね。
例えば、もし石神を自分の意思で存在の有無を変えられる、つまり鏡君が眼鏡を付け外しする事だね。
それが出来た場合、もし〈存在しない〉に確定した状態で石神のあった場所に入り、その状態で〈存在する〉に確定した場合どうなると思う?。」
鏡は、難しく言われた内容を、一旦簡単な言い方に整理する。
「つまり、僕が眼鏡を外して石神のあった場所に重なって、その位置で眼鏡をかけたらどうなるか、、、。吹き飛ばされましたね。」
朱雀は満面の笑みで正しいと返事をする。
「そして、私達の研究では3つの仮説があったの。
1つ目が、石神と重なった部分は石神が例外的に存在しないに確定される。
もしくは人間の存在が打ち勝ち石神が消滅。人体に問題は起こらないけど、全身が石神に入ってしまった場合は実質行動不能、死ぬまで石神の中に閉じ込められる。」
(死、!?)
「そして2つ目、石神と人間は〈重なる事なく〉反発し合い、吹き飛ばしあう。
これがさっきの状況だから、つまりはこれが答えだったと言う事になるね。
で、一応3つ目、石神と存在が重なった部分は、高位な存在である石神に〈打ち負け〉存在が〈消される〉。」
(消さ、、、)
「つまりそれって、、、」
「石神と重なった部分はちりひとつ残らず消えるって事。
もし答えが仮説3なら、今頃鏡君はチリ1つ残らず死んで、いや消えていたって言うことになる。」
「、、、え」
(え、、、)
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連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
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私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜
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※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。
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三話完結です。
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