1人で異世界4役物語

尾高 太陽

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~第2章~

真面目な…展開?

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「かはっ!」
 みぞおちの奥に拳が入ると同時に、シオンの口から一筋の血が流れた。
「姫!!ちょっとミナト!やりす!」
 そして、俺の口からも一筋の血。
 が、出るはずはない。
 俺は契約の〈例外〉なのだから。
 これはさっき厨房で貰ったケチャップ。
 さすがに今魔王とバレるのはまずいからな。
「くっ!かはっ…はぁ、ほら…続けようぜ。」
 おお!我ながら神演技!
 俺、俳優目指そうかな。
 すると、シオンは無言で新たな剣を手に走って来た。
 これで2本っと。
 俺はシオンを殴った時に回収した剣を踏んで折り。
 そしてその破片を俺に向かって来る剣先にぶつけて、軌道をずら。
「せないっ!?」
 確かに剣先に当てたのに剣の軌道は間違いなく俺の首を狙ってきた。
 俺は何とか仰け反り、剣を避ける。
「あぶねぇ。何で軌道がずれなかった?」

 「簡単だ。」 とシオンは答える。
 そう、簡単。
 シオンは見る限り俺が口と足でしか破壊出来ないと考えた。
 ならそこ以外を狙えばいい。
 問題は軌道をずらされること。
 だから俺の手と足の動きを見て、剣先に当てる物の向きと強さを予測。
 あとは軌道をずらされた先を目的の軌道になるように調整しただけ。
 確かに簡単だ…言うだけなら。
「そんな事を短時間で思い付いた上に、実効したのか!?」
 すると剣が当たらない位置で俺らを眺めていたアカリが口を開いた。
「シオン姫はこの国一の剣士。その剣術は誰もが認めてる。」
「うお!マジで!?その剣避けた俺って凄くね!?」
 アカリは大きくため息を吐く。
「本当に。それが勇者って言うものなのか、単純にミナトが凄いのか。認めざるを得ないね。」
 やった!褒められた!

「貴様。それよりも自殺願望者とはどう言う事だ。」
「あん?言った通りだよ。」
 痛みに慣れるのは、オススメはしないがまぁいい。まだ感じるなら身体の危険には気付ける。
 恐怖に慣れるのも…まぁこれもオススメはしないが緊張を無くしてくれる。
 なら自らの命を何とも思わないのは?
「はいアウトォォォ!!」
 命を大切に出来ない奴が強い訳がない。ましてや殺せば自分も死ぬって言うのに迷いなく喉を狙ってくるような奴は論外。
「〈そんな奴には勇者の紋章どころか人間としても論外〉だ。」
 シオンの顔が歪んだ。
 と言うかさっきから真面目な展開!!なんか初めて異世界って感じ!

「フゥ!!怒った?いいねぇ!…こいよ。」
 シオンは深く剣を構えると全速力で走ってきた。
 本気か。
「殺す。」
「やってみろよ。」
 それは最高速度の剣先。
 もしかすれば昔俺に飛んできたボウガンより速いかもしれない。
 軌道をずらそうとしても対策はされてる。
 つまりお手上げ………と共に後ろに倒れ、バク転。
 向かって来る剣を蹴り上げ、体制を整えた俺は全力全開でシオンを殴
 シオンが両手を挙げた。
「降参だ。もう、剣がない。」

 ◆◆◆

 勇者-屋敷-寝室

「はあぁぁぁ!!?姫の剣を全部壊した!?」
 アカリの声が屋敷中に響いた。
「ん?あぁ、壊す以外にやりようがなかったからな。」
 戦い終わった俺達は、最初に俺が目を覚ました魔王城の見える部屋にいた。
「ミナトはあれがどんな物か分かってないでしょ!あれは強力な龍や魔族が蓄えていた秘宝!この世に2つとない剣だったのに!!」
 なるほど。
 そんな剣は国1の剣士に預けるのが最もいい使い方って訳だ。

「さぁてシオンすわぁん?お願いの時間ですぅ!」
「ちょ!ミナト!節度あるお願いよ!?変な事は絶対にしない事!!」
 アカリさんそんなに俺の事が信じれませんか。
「そんなに言わなくても分かってるって。別にエロい事なん、て………いや別にそれでも。」
 「ダメ!」とアカリは顔を赤くしながら声を上げた。
 ですよねぇ~。

 でも、これでクエストクリアかな?
「じゃあシオン、お願いだ。
 シオンはこの間〈子供の頃から痛みには慣れてきた〉って言ったよな?その根源はなんだ?」
 シオンは顔色が変わった。
「父に言われたのだ、私のような者が召喚者に向いている、と。」 
 前王、つまり前召喚者のことか。
 …ん?いやまて、前召喚者は俺の2日前に召喚された。
 召喚者なら他の世界にも行っているはず、もちろん王にも…。
 でもたった2日でシオンを養子にとって、しかもここまで信頼されるのは不可能。
 でもアカリは前王って言った。
 なら考えられる事は…。
 前召喚者は王まで他の世界を回らずに姫と駆け落ちしやがったのか!?
 前召喚者クソだな。

「王は単純で、とても複雑な人。」
 あぁ、シオンが話してるんだった。
 ならこれは前召喚者よりも前の召喚者の話なわけだ。
「望み通りの結果になれば喜び、望まぬ結果になれば子供のように機嫌を損ねる。だから私は慣れた、痛みに、恐怖に。ポータルに呼ばれて魔王を倒すために。」
 えーと…?
 シオンの中では、ポータルに呼ばれて魔王を倒す=勇者、って考えで。
 そして王の期待に応えるために〈召喚者〉になりたかった、ってことか?

 話を聞いてなかったから一応に確認しないと。
「長々と話してるけどさ。
つまりは父親だから、だろ?
父親の言葉だから、期待に応えたかった。でも国1の剣術を持ってもなおポータルには呼ばれず。しかも王は消えた。その上俺が召喚者として来た。」
 戦いが終わってから1度も目を合わせてくれなかったシオンの目が一瞬こっちを見た。
 図星。
 やっぱり俺の考え通りか。
 それに王が〈消えた〉ことに反論して来ないと言う事は王は俺と同じく召喚者。
 おそらく元の世界に戻ったんだろう。

 んー?なんかこれは簡単に見えてヒロインの心を読まないとダメなタイプのクエストだったかな…。
 なら、
「ところで別の質問なんだけどさ。この世界に漢字ってあるの?」
「かんじ?」
 アカリが首を傾げた。
 やっぱりか。
「ならシオン。シオンは絶対にポータルには呼ばれない。」
「何故!!」
 何故、か。

 そう、魔王の図書室にあった召喚者の書かれた本。
 そこの名前は全て漢字だった。
 つまり勇者、召喚者は全員〈日本人〉。
 漢字の無いギリティア人ではない………。
 が!
「…不可能かもしれないけど、試してみるか。」
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