1人で異世界4役物語

尾高 太陽

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~第2章~

勝負

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 さっきからワーワーうるさいな。
「何怒ってんだよ。」
「怒るに決まっている!まず一つなぜ私の剣が避けられる!!」
「だから殺されかけてんだから避け…。」

 殺す?人を殺せば自分も死ぬこの世界で?
「お前、契約はどうするつもりだった。」
「ふん、契約なんぞは無視できる。子供の頃から痛みには慣れてきた、恐怖にも…。」
 シオンは真剣な顔で言った。
 こいつ、ガチで俺を殺そうとしてたのか。
 自分の命と引き換えに…。
 ふと幼い頃に亡くした母親を思い出した。
「自分の命を粗末にする奴と話す事なんてねぇ。勇者の紋章もやらん。
 だが質問には答えてやる。
 今最もお前に必要な事だよく聞け。
 剣を避けられる理由〈痛いのが嫌だ、死ぬのが怖い〉たったそれだけだ。」
 そう言って俺はその場を後にした。

 ◆◆◆

 勇者-屋敷-廊下

 あの部屋、屋敷の地下だったのか。
 …恥ずかしっ!!俺捨て台詞言っちゃった!!恥ず!!
「でもまあ、」
 あいつを更生させるのがこの世界の初クエストってとこかな。

 ◆◆◆

 勇者-屋敷-寝室 

 2階から1人のメイドの頭に小さなドングリを落とす。
「痛っ!何?」
「悪い!遊んでたら外に出ちまった!大丈夫か?」
「あぁ!勇者さまぁん!大丈夫ですぅ!」
「なら良かった。そのドングリやるよ。」
 俺は部屋の中に入った。
 確かに、思わず人に痛みを与えたのなら契約とやらは発動しない。
 しかし、今俺がやったのは偶然を装ってドングリを〈意図的〉に当てた。
 でも俺に痛みはない。
 つまり、唯一契約の聞かない人間。
「魔王の力は引き継がれている。というかは元から契約されてない地球人のままってことか。」

「魔王がどうかしたの?」
「のわぁぁ!!…って何だ黒猫少女か」
「そう言えば自己紹介がまだだったね、アカリです。」
 アカリは頭を下げた。
「これはどうもご丁寧に、ミナトです。…って言うのはもういいからさ。シオン知らない?金髪ロングの美人系少じょっ!!」
 アカリは俺の口を手で塞いだ。
 そして猫のような目で睨みつけ。
「私の前で姫を呼び捨てにするのは許さないよ。」
「姫!?シオンは姫なのか!?」
 アカリは忠告しても呼び捨てをする俺の胸ぐらを掴んだ。
「そう、王の血は繋がってないけど。王が、いやこの間お帰りになったから前王かな。その前王が養子を取ったの、それがシオン姫。」
「ヘェ~。」
 ………。
 しまったあぁぁぁぁぁ!
 姫とか知らねぇし!!もし知ってたらもっと優しくしたのに!!
 姫を散々呼び捨てにした挙句説教。
 しかも
「姫のプライドをあの剣のごとく砕いたなんててバレたら…。」
 …王にころされる!!
 あ、俺王だった。
「今何て言った!?姫のプライドを砕いたって聞こえたけど!!」
「あぁ、大丈夫だよ。例えバレても問題ない。」

「何がバレる、と?」
 その声に俺とアカリが振り返ると、そこにはシオン、姫がいた。
 「シオン姫!!」とアカリは頭を下げた。
「おぉシオン!今から行こうと思ってたんだよ。」
「ちょっと!敬語を!」
 アカリは頭を下げたまま小声で俺にそう言うとシオンがアカリを止めた。
「さっきの言葉の意味を教えて貰おう。」
 なんだ。
「まだ理解出来てないのかよ。しかももう答えを聞きに来た。シオン、お前クイズ苦手だろ。」
 しかしシオンは表情を変えず、「早く」と急かした。
 ………ま、いいか。
「へぇ、じゃあ勝負するか?」
「何故。」
「俺に勝ったら答えを教える。ただし俺が勝ったら俺の頼みを聞いてくれ。」
 するとまだ頭を下げたままのアカリは顔を真っ青にして俺に手を掴んだ。
 お?誘ってんのか?
「ちょっと!姫に勝負を挑むなんて正気!?ましてや勝ったら頼みを聞いてくれなんて!」
 違ったわ。
 「いいだろう、その勝負受けよう。」
「姫!?」
 と声を上げるアカリは無視をする。
「良いの?内容も聞かずに受けて。」
「ああ。どうせ貴様からでも来る気だったのだろ?」
 おお!『今から行こうと思ってたんだよ』って言う俺の言葉を聞き逃さないとは。
「じゃあ勝負内容は剣術にしよう。どうせ異世界の不思議な力とやらでまだ剣は残ってるんだろ?」
「貴様に砕かれたせいで残り1桁しかないがな。」
「ちょうど良い。じゃあその剣で俺に一撃でも当てれたらお前の勝ち。剣を全部破壊したら俺の勝ち。OK?」
 シオンは頷いた。
「なら外に行こう。室内でやったらメイド達に迷惑がかかる。」

 ◆◆◆

 勇者-屋敷-中庭。

「よーし、じゃあ詳しいルールを決める前に。1つ質問だ、人が人を殺したら自分も死ぬ契約、シオンもしてるんだよな?」
 シオンは体の正面の芝生西洋剣を突き立て、王族らしい気高さを放ちながら落ち着いた声で返事をした。
「当たり前だ。あれは生まれた瞬間に契約がなされる。そのおかげで私の身体は人には見せれん。」
 そう言って、肩を見せるように服をずらすと、刃物で切られたような傷跡を覗かせた。
 あぁ………せっかくの綺麗な肌が…。
「っと、そうじゃなかった。契約があるならそれでいい。さて、詳しいルールを決めようか。勝ち負けの判定はさっきも言った通り。ただし相手が参ったと言えばその時点で勝ちが確定。もし痛みに慣れているならワザと殴らせて、契約の痛みで逆に参ったさせるのもあり。いいか?」
 「いいだろう。」とシオンは地面から西洋剣を抜き、そっと構える。
「じゃあアカリ。スタートの合図を頼む。」
「はぁ。姫もミナトも、どうなっても私は知らないですからね。あとミナトは何で剣の1つも持ってないの?」
 まだ周りには情報は与えたくないんだけどなぁ…まぁ。
「これでいいんだよ。」
 アカリはぼやきながらも右手を上げ、強く振り下ろす。
「始め!!」

 シオンの剣は1桁。
 つまり最大で9本。
 嘘は、無いだろう。
「ふっ!」
 俺に向かってくるシオンの剣が、俺の喉に来る。
 迷わず喉に来るか
 でも。
「甘い。」
 俺は剣を白刃どりして剣と、それを掴むシオンの腕を捻った。
「っ!」
 シオンは手が壊れてはこの後の戦いに支障が出るとでも思ったのか、すぐさま剣から手を離す。
「あらら~、手を離しちゃったねぇ。」
 俺は剣を噛み砕く。
 はぁ!?と言うアカリの声を聞きながら、破片を手に持ち。
「これで防御はかんぺっ!!」
 セリフを言い終わる前に、俺の顔には剣先が飛んで来ていた。
「最後まで言わせろよ。この自殺願望者!」
 俺はしゃがんで剣を避け、シオンの腹に拳を入れた。
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