1人で異世界4役物語

尾高 太陽

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~第1章~勇者と魔王と王と不明

~第1章~勇者と魔王と王と不明 総集編

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 天井から雫が落ちた。

 窓ひとつない部屋の扉から差し込む光は宙を漂う埃を煌めかせ。
 部屋の隅には透き通った水がながれる。

 そんな、見ようによっては神秘的にも寂れたようにも見える部屋で目を覚ますと。

 拷問器具に縛り付けられていた。



「貴様のような者がどんなペテンで勇者の紋章を手に入れた。」
 謝れ。何のことかは分からないけどもペテンって言ったことを謝れ。
 いや、それよりも…。
「なんで俺は目覚めたら拘束されている上。金髪ロングの美人系少女さんに剣を突き付けられているのでしょうか。」
 清楚な見た目に反して、かなりハードなご趣味をお持ちのようだ。

 ◆◆◆

 いつも通りのある日、アパートの押入れが異世界に繋がった。

 一般人-アパート-201

「ふぃー!たらいまー!!って、られもいらいんらけろれー。(※ふぃー!ただいまー!!って誰もいないんだけどねー。)」
 その日、2次元制作部の飲み会でデロデロになった俺は、家に帰るなり玄関に倒れこんだ。
「あぁぁぁぁぁ………ふろん。(※あぁぁぁぁぁ………布団。)」
 さすがに木の板の上で寝ると言うのは3月にはまだ寒く。おぼつかない足取りで布団の入った押入れの襖を引いた。
 ガタッ。
「あれぇ?(※あれ?)」
 ガタガタッ、ガタガタガタ。
 立て付けが悪いのか襖が妙に重い。
 朝はこんな事は無かったのだが。
 早く寝たいと考えすぎてそんな事にも気付かず、開かない襖にイライラが積もっていく。
「らんらよぉぉぉ!あけよぉぉぉ!(※なんだよ!開けよ!)」
 そしてイライラが最高潮に達した瞬間。
 ボロいアパートでは明らかに近所迷惑なレベルの声を出し、体重を使った全力で襖を引いた。
「うおりぁぁぁ!!!」
 まるで鉄の様に重かったが、一度動けば勢いで簡単に開くことが出来た。
「ふろん~♪ふろん~♪俺はふかふかふろん~♪(*布団~♪布団~♪俺はふかふか布団~♪)」

 …もしこの時の俺を殴れるのなら、全力全開武器有りで殴りたい。

 襖が開き、合わない焦点で布団を取ろうと手を伸ばした時だった。
 二重に見える世界が真っ赤になり、窓と扉を締め切った俺の部屋に風が吹き抜けた。
「あえぇ?ふろん。(※あれ?布団。)」
 その瞬間、飲んだビール8本とチューハイ9杯の酔いが一瞬で覚めた。
 襖を開けば本来は暗い押入れに1セットの布団が入っているはずだ。もちろん布団は赤ではない。
 しかし襖を開けて見た物は布団ではなく。
 押入れ一杯に詰まった、〈ドラゴンの顔〉だった。
「………。」
 現状が理解出来ず、一旦襖を閉める。
 …竜、だったな。いわゆるドラゴンだったな。ここは俺の部屋…だよな。
 酔い…は覚めてる。いやもしかしたら今はもう夢の中で、玄関で寝たまま夢を見ているのか?
「………。」
 でもまさか…。
 試しにもう一度襖を開けると状況は変わっていなかった。
 うんそうだ!きっとそうだ!だから夢の中でもう一度眠れば現実に戻れる!
 最近ゲームのし過ぎか…。ついに夢にドラゴンが出て来た。
 たかが夢だ。そんな事考えるよりもさっさと寝よう。
「…今日は布団なしかぁ。」
 その日、寒い床で寝た。

 ◆◆◆

 チュンチュンと頭に響く音で目を覚ました。
 うぅ、雀の鳴き声が頭に響く。
 昨日は飲みすぎたおかげでひどい夢を見たし。今日はもう寝よう。
 二日酔いで大学を休む決心をし、2度寝のために布団を出そうと襖を開くと。
「ギャァァァァァス!!!」
 生暖かい、いや熱いほどの湿度の高い風が俺の体を吹き抜けた。

 まぁ、御察しの通り…。
 夢では無かった。

「オマエ、ユウシ」
 襖を閉めた。
 自分の部屋の押入れにゲームやらアニメやらのドラゴンがいたら誰だってこうする。
 夢、だよな…いや夢じゃないと困る!このアパートはペット禁止なんだ!犬どころかドラゴンを飼ってるなんてバレたら…大家さんに殺される!

 今『気にするとこそこか?』と思ったろ。
 思い出した俺自身そう思った。

 試しに襖を少しだけ開いて、片目で中を覗くと。
「………ナゼソンナスキマカラノゾク?」
 とカタコトの日本語で話しかけて来た。
 そしてまた襖を閉め。
「あー…あーーー!」
 発散出来ない驚きと戸惑いで、思いっきり自分を殴った。
「グェ!!」 
 しかし何故この時の俺は殴ったのだろう、しかも拳で。
 手をつねるくらいでよかったのに。

 よほどパニックだったのか、いややっぱり酔いが覚めてなかったのか。
 襖を開けた俺は…走った。いやドラゴンに向かって突進しようとした。
 本当にこの時はどうにかしていた。
 酔いが覚めてなかったとしか言えない、いやそうだと言ってくれ!
 そして、食われた。開かれた口にいらっしゃいだ。
 噛まれる事なく丸呑みにされ、気付けば暗闇の中でヌメヌメの液体に浸かっていた。
 多分消化液だったのだろう。
 しかしこの時の俺は何が起こったのか理解できず、とにかく近くに浮いていた〈何か〉に掴まった。
 そしてただ暗闇の中で固まっていると、とつぜん全身が締め付けられた。
 しかし何も出来ず、今掴まっている〈何か〉に頼る事しか出来ない。
 そんな事をしていると、さらに体は締め付けられ息苦しくなっていく。
 もう死ぬ。
 覚悟を決めて全身に入っていた無駄な力を抜いた瞬間。
 全身を締め付ける何かが大きく動き始めた。まるで鼓動の様に。しかし今回は締め付けるだけでは無く、絞り出すように俺を移動させていく。
 そんな途中も、俺はしがみ付いていた〈何か〉を離せなかった。
 すると今までに無い強さで全身を締め付けられたかと思うと、滑り台ぐらいのスピードで上へと滑らされた。
 酸欠だろうか、どんどん気が遠くなる中でより一層〈何か〉に強くしがみ付き、ただ動かされる。
 突然、背中を強い衝撃が襲った。
 短い呻き声を上げて目を開くと、眩しい真っ白の世界に大きな影と小さな影が見えていた。
「オェ、キモチワルイ」
「なぜ勇者様を丸呑みにするのだ!!」
 勇者?
「シカタナイ、キュウニトビカカッテキタ、コロサレルカトオモッタ」
 殺す?
「はぁ…。勇者様の事は助かったから良いとして…。なぜ、この女も出したのだ?」
 女?
「オレ、ワカラナイ、ユウシャサマ、ダキカカエテタ」
 あれ?
「一応この女も今は寝かせておこう。勇者様が覚えていたら記憶との食い違いで気づくかもしれない。」
 なんか、急に暗…く………。

 俺は気を失った。

 ◆◆◆

 不明-不明-不明

 体が痛い…?
 目を覚ますと体が痛みで動かせなかった。
 出来るだけ体に無理をかけないように少し首だけを起こして今の状況を確かめる。
 その部屋は無駄に広かった。
 天井には天使の絵が描かれ。右側の壁はよく分からない模様。左側は全面ガラスで青空が見えていた。
 正面の壁は…世界地図?いやでも、地球はあんな大陸の形じゃない。
 それにここはどこだ?部屋と言い、まるでゲームみたいな…。
 すると部屋の隅から扉の開く音がした。
 しかし、寝た状態の俺は布団が邪魔で入ってきた人が見えず、足音だけが聞こえていた。
「誰…。」
 口から出た声はまるで俺の声では無いような弱々しいものだった。
 その声が届いたのか一瞬足音が止まり、またすぐに足音が近づいてくる。
 そして足音が俺の頭の横で止まった。
 黒い短い髪にツンとした目。
 可愛わらしい顔そしてメイド服…。
 メイド服だなあれ。
 ん?おかしい、人の頭には三角の耳なんて付いてない。
 その女の子の頭には三角が2つくっつき、ピクピクと動いていた。
 猫耳!なんだあの可愛い生物は!黒猫だ!
 まるで俺の好きなキャラを散々入れ込んだ様な…タイプです!!
 はぁぁぁ!尻尾!尻尾もある!俺は猫メイドカフェに来たのか?
 来るわけがない…。
 その黒猫少女はお盆を持っていて。その上には洗面器とタオル。そしてドラマとかで出てくる無駄に高そうなティーセットが乗っていた。
「大丈夫?腰の骨が折れてたんだよ。」
 少女はベットの横の机にお盆を置くとティーカップに何かを注いだ。
「………。」
「聞いてる?」
 もちろんこの時の俺は聞いていない。
 尻尾が触りとうて触りとうて仕方なかったのじゃ。
 人は欲望のためなら何でも出来る………とは言わないけども、さっきまでの全身の痛さが嘘の様に手を尻尾に伸ばす事が出来た。
「えい(ハート)」
 殴りたいだろ?
 尻尾を掴むと少女は手に持っていたティーカップを落とした。
「キニャァァァ!!?」
 ティーカップが割れる音と同時。
 さっきまではなかったはずの尖った手の爪が俺の顔に向かっていた。
 ハイ、お約束ー。
「アァァァァァ!!!」

 ◆◆◆

 その後、部屋のソファーに座らされて待っていると西洋風の服を着た1人の男がやって来た。
「申し訳ありません!この子はまだ新人でして…。」
 「こう言うシーンアニメとかでよく見た記憶があるけどさ…。新人を出すなよ!」とは言えず。
 〈2次元で〉お約束の3本線のバツ傷を顔に付けて会話を続けた。
「いえいえ、俺が触ったのが悪いんで…。ごめんね?」
 低い机を挟んで向かいのソファーに座る男の後ろに立っていた黒猫少女は一向に目を合わせてくれなかった。
「あははー、で…ここどこ?」
「おや、貴方は別世界の方でしたか。」
 すると男は突然両手を大きく広げ、するとどこからか風が吹き抜けた。
 その風は、カーテンと部屋の人達の髪を大きくなびかせた。

「貴方はここ再生の国!ギリティアへ呼ばれやってきた勇者なのです!!」

「………。」
 全く聞こえなかった…。

 ※男のセリフは作sy…神の力によって聞こえています。主人公には聞こえていません。

 風が強いんだよ!しかも肝心の国の名前の部分が聞こえなかったし。
 異世界?的な所に行って国の名前を知る所で風が吹く演出とかあるけどさ…強いわ!
「…あっ、ごめんなさい、風で聞こえなかった、もう一回いいですか?」
 すると男は「えっ!?」驚くと、顔を赤くして少し俯いた。
「あっ、え!?えーと貴方は、再生の国ギリティアへ呼ばれてここへやってきた、ですね?勇者様なのです…はい。」

 勇者-不明-不明

 うわぁ、落ち込んでる。
 まぁ、あれだけ手を広げだりして国の名前を叫んで、しかもそれが1番必要な俺に聞こえな…あーあー黒猫少女も笑っちゃってるよ。
 抑えれてない抑えれてない!自分では抑えれてると思ってるかもしれないけど抑えれてないから!
 さて、面白いからまだ沈黙の時間を楽しんでもいいけど、そろそろ可哀想になってきたから話を切り替えてあげよう。
「…で?俺は何をすればいいんです?」
 俺のその言葉に男のテンションが急に上がった。
「おお!理解がお早い!貴方には!魔王を討伐していただきたい!!」
 はい!出た定番の設定!というかそれ以外に何があるって言うんだよ!
 まあ、たまにはこういう異世界系の夢もいい!
 …とか言いながらもどうせヒロインが出る寸前で目がさめるんだろうし?それならそれで今をエンジョイしてやる。
「イイっすよ!?」
「軽!ま、まあいいか。言いましたからね!?後からナシとかは無しですよ!?」
 ナシとかは無し、ってちょっと面白いな…。
 ………。
 と言うかさっきから明らかに視線を感じる…。の
 うん、主に右後方のドアから感じる。
「あのー、それはそれとして…後ろの〈アレ〉なんですか?」
 俺は親指で後ろを指差すと、男は「あっ!」と声を上げた。。
「お前達!仕事に戻りなさい!」
 男がそれに気付き大声を出すと、扉の向こうから可愛らしい笑い声が聞こえた。
「仕事は全部終わりましたー!後はこの部屋だけでーす!」
 その馬鹿にしたような声とともに他にも数人の女の笑い声が聞こえる。
 その笑い声の中、男は呆れた様子でため息を吐いた。
「申し訳ありません、彼女達はメイドとしての仕事は完璧なんですが、獣人のためかどうも探究心と言いますか、好奇心が強く…。」
 …よしここは。
「イイですよ、なんなら話しを聞いて貰っても。」
 女に囲まれるなら大歓迎!
 それも獣人!さっきの黒猫少女は目を合わせてくれないし!他の獣人がいるなら別にそっちでも…。
 俺ゲスいなぁ…。
「勇者様?顔がにやけてますよ?」
 ついさっきまでドアの向こうから聞こえていた声が耳元で聞こえ、それと同時に耳に優しく息を吹きかけられた。
「うわぁぁ!」
 驚いて体制を崩したまま声の方を見ると、そこには数人の女の子がいた。
 獣人と呼ばれた女の子達にはもちろん、いぬ耳にうさ耳、狐耳に…あれは熊?
 最近のアニメとかでは熊耳は見てなかったはずだけど。
 それに夢にしてはリアルだよなぁ…毛並みとか…。
 ん?待て、ちょっとズレてはいるけど、俺好きなゲームみたいな異世界とか。
 ドストライクの黒猫少女メイドに、その他獣人メイドのハーレム。
 これって………明晰夢(望んだままになる夢)かっ!!なら!
 俺は明晰夢が望みを声に出さなくてもいい事を知らず、大声で望みを叫んだ。

 そう、この時の俺はまだ夢だと思っていた。
 いや諦めていたのだと思う。
 でも次の瞬間、この考えは打ち砕かれた。
「黒髪ショートの猫耳童顔美少女ぉぉぉ!!!」

 もちろん俺の好みです!
 どこかのアニメみたいなピンクや青の髪なんて知るか!と言うか色素どうなってんの?
 俺は清純な黒がいい!
 などと考えているとまた扉の開く音がした。
「失礼します。」
 そう言って入って来たのは!!
 紫髪のエルフ耳の女の子だった。
 俺は両手両膝をついて涙をこぼす。
「クソぉぉぉ!!俺は夢でまで不憫なのか!確かに可愛い!程よくあどけなさが残っているところやエルフ耳がピクピクと動いている所とか!でも違うんだよ!!さっきからわざと上目遣いしてる犬耳なんて論外なんだよ!」
 すると犬耳は「なっ!」と声を上げた。

 まあ、夢〈でまで〉と言ったが。
 不憫といっても別に日常生活に支障が出るほどではない。
 今まで付き合った相手全員に浮気されたり、信号で止まるたびに車に突っ込まれるくらいで………。
 あぁ、あと〈でも次の瞬間、この考えは打ち砕かれた〉なんて言い回しをしているが、それは単に俺の好みの女の子が出てこなかったからだ。

「ちょ!?」
 頭を抱えた俺の背中をさすりながら心配したのは、黒猫少女だった。
 ん?さっきは諦めていたが他のメイドと見比べて、この子がまさに俺の理想じゃないか?
 黒い髪に猫耳、そしてツンデレ!
 まぁ、俺が単に怒らしただけなんだけど。
 もしかしてこの子が俺の夢物語のヒロインなのか?いやそうだ!そうに違い無い!

「グフッ、グフフ、さっきはごめんねぇ?痛かった?ねぇ、ごめんねぇ?」
 今思えば心底気持ち悪い、俺が相手なら迷わず目潰しをしているところだ。
「シャァァァ!!」
 いやぁ、怒り方も猫ですなぁ。
 その女の子は悲鳴と共に俺の目を潰した。

 ◆◆◆

「すんませんした。」
 正気を取り戻した俺が最初にした行動は土下座だ。
「ま、まぁ勇者様もこちらに来て戸惑っているのでしょう。」
 男は、いやさっきの俺を見た全員が俺と目を合わせてくれなかった。

 少しの沈黙の後、男は絞り出すように話しだした。
「そ、それでですね!勇者様様には魔王を倒していただきたい!」
 随分豪速球だな。さっき聞いたし。
 まあ今の俺と会話がなくなるほど気まずいものはないか。
「なるほど、つまり俺はここから旅に出ろと。」
 男は「いえいえそんな!」と申し訳なさそうに首を振った。
「魔王城はこの屋敷のすぐ後ろにありますので!」

 勇者-屋敷-不明

「…は?、え?ちょっと待って、今なんて?」
「いえ、ですから魔王城はこの屋敷のすぐ後ろに。ほらここから見えますよ。」
 男が指差した窓の向こうの山には明らかな魔王城があった。
「え?まって?あれが魔王城?」
「?…ええ。」
 ウゼェ。首を傾げたところを〈?〉で代用する作sy、神がウゼェ。
 じゃなかった。
 何あの全面紫と黒の城。メッチャ崖に立ってますけど。サスペンスの最後の10分張りに崖ですけど。
「まあ、下は海じゃないけどね。」
「海?」
 おっと、心の声が漏れてしまった。
「いや、やけに近いんだなと思って。」
 男は手のひらを拳で叩くと「ああ!」と声を出した。
「最近魔王城の場所がわかったところなんですよ!そこで、どんな別世界のどんな辺境からでも勇者を召喚出来るポータルをここへ移動させまして。その時にポータルを守るためのこの神殿と、屋敷が建てられたのです。」
 ポータルを移動させるなよ…と言うか移動できるのか。
 なんかさ、最初は寂れた村スタートで徐々に魔法使いやら戦士やらと仲間になって、最後魔王ドーン!だろ!?
 最初の召喚された場所に魔王ドーン!だよ。ありがたみ薄れるわ!…ありがたみってなんだよ!もう、逆に仲間探しに旅に出るわ!なんならレベル上げすら出来ないしね!
 だってここラスボスの縄張りだもん!初っ端から中ボス並みの強さの雑魚モンスターだもん!
 などと、心の中で長々とツッコんでいる間に、周りからは「またか…」とでも言うように不審の眼差しを向けられていた。
「えーっと、で〈神殿〉と言うのは?」
「ああ!神殿と言うのはこの屋敷の隣に立っている保護結界をかけたポータルを守る建物の事です。全ての勇者はそこにあるポータルで召喚されるんですよ。」
「全ての勇者?」
「今までに召喚された勇者の事です。最後に召喚されたのは…2日前ですかね。」
 2日!?最近と言うか、つい一昨日じゃねぇか。
「その勇者は?」
「………。」
 うわ、また分かりやすく動揺してるなー。
 あーあー目が、目が泳いでるよ。
 まるでメダカのように泳いでる。
「別に大丈夫です。言ってください。」
 まあ死んだとかそんなとこだろ。
「失踪したんですよ…。」
「…失踪?ああ魔王の城に入ったきり…みたいな?」
 男は小さく溜め息を吐いて、首を振った。
「いえ、勇者様が召喚されるほんの数分前に…。」
「はぁ!?数分!?なんでそんな細かく!と言うか理由は?」
 思わず声を荒げてしまった俺に男は驚く事もなく、今度は大きく溜め息を吐いた。
「召喚された日にこの国の姫に一目惚れされたようで…。姫を連れて…。」
「駆け落ちしたのか!?」
 その俺の声に男は俯いた。
 勇者が!?一国の姫と!?バカじゃねえの?
「その勇者はどこに?」
「何やら姫と共にポータルのピンクの扉と共に消えたと…。その時私はここにおらず、見ていた者も屋敷の窓から見ていただけだそうで詳しい情報が無く。」
 ん?ピンクの扉…ピンクのドア?…おぉっと!まさかの!?狸の!? アレ!?いやまさか…。
「そ、その勇者は眼鏡を掛けてませんでしたか?」
 男は「いいえ?」と俺の質問に首を傾げながら答えた。
 よかった…。まあ流石にそんな事はありえないか…ピンクのドアなんで探せばいくらでもあるような物だしな…。
「ただ歌が下手でしたが。」
 そっちかー!そっちかー!
「そ、それでその扉は?」
「その扉は召喚された勇者にしか使用できず。勇者様達はその扉を通ってどこかへ消えるのですが、私達はその扉を開けようともどこにも通じないのです。それに姫を連れて行ったすぐ後その扉は消滅しました。」
 消滅………。
「ん?」
 達?って事は…
「じゃあ俺にもその扉があるのか?」
「ええ、勇者様と共に召喚されましたが勝手に移動させるのもどうかと思い、ポータルに置いたままです。」
 「じゃあまずはその扉に連れて行ってくれる?」と言うと、部屋にいた黒猫少女以外の全員が俺に向かって頭を下げた。
「かしこまりました。」
 なるほど、勇者と言うのは気分がいいや。
「あ、ところで名前聞いていい?」
 すると男は咄嗟に頭を上げた。
「も、申し訳ありません!色々と想定外で…。」
 あー、カッコつけて国の名前言って失敗したり。召喚した勇者が変態だったりね…。
 言ってて虚しい。
「私はアキラと申します。」
 ワオ!想定外の和名!え?何?ここは西洋風の世界で名前は和風なの?バランス悪!
「っと、俺も言ってなかったな,俺は湊、中居 湊(なかい みなと)だ。」
「なるほど、勇者様の国はナカイと言う国なのですね。」
「は?」
 何を言ってやがるんだ。
「いえ、ですからナカイ ミナトと言う事はナカイ国のミナト勇者なのでは?」
「いやいや中居って言うのは国じゃなくて苗字だぞ?」
「ええ、なのでナカイ国なのでは?」
 ん?、あぁ………ん?
「え?何?つまりこの世界では苗字は国の名前なの?」
「?はい、私ですとギリティア アキラですしここにいる全員はギリティア国民ですので姓はギリティアです。
ミナト様の国では別で?」
 別も何も………めんどくせぇ!
「まあ…そんな感じ。」

 ◆◆◆

 その後、無理やり貴族風の服に着替えさせられた。
 もちろんメイドにズボンを脱がされる時にパンツも一緒に、と言うようなハプニングも起こったがその事は省略する。

 勇者-神殿-階段

 屋敷から徒歩2分の神殿。
「こちらが神殿でございます。」
「うわ~!スッゲー神殿!…うん!パルテノン神殿!」
 その神殿はパルテノン神殿と言われても見分けがつかないほどにパルテノン神殿そのものだった。
「ぱ、ぱる?」
 説明したところで意味はないか。
「…いやなんでもない。じゃあ入ってもいい?」
 アキラは腹に手を当てて頭を下げた。
「どうぞ。中にはポータルを守る守護神がいますが無害ですので。」
「へー、守護神…。」
 夢にしては作り込まれてる。俺の妄想力すげぇな、小説家か漫画家にでもなれるんじゃねぇの?
 にしても守護神ってどんなやつだろ。
 神殿は中に入ってもまさしくパルテノン神殿で。
 中央にはアニメでよく見るような魔法陣とその中央に見慣れたうちの押入れの襖があった。
「守護神かぁ!カッワイイ子ならい………よかったのに。」
 神殿の柱の影から出てきたのはドラゴンだった。
 昨日見た夢に出てきた、いや今朝だったかな。
 10メートルほどある巨大な体は全体的に紅く、腹部から顎にかけてはヘビのように白い。コウモリのように前足と同化した翼は畳んだ片翼だけで胴体と同じくらい、もしくはそれ以上の長さがある。頭から背中にかけては、炎のように曲がり尖った鱗が並び、まさにゲームやアニメで見るドラゴンだった。
 そんな事はどうでもいい!!なんで俺の夢はことごとく俺の夢をぶち壊すんだ!
 守護神って言ったらさ!
 ほらなんか可愛い女の子とか、ゴスロリとかさー。
 なんでこんな時に限って定番のドラゴンなんだよ!せめてドラゴン少女くらいにして欲しかったぁ!
 俺は深く溜め息を吐くと「おや?」とアキラはハテナを浮かべた。
「どうしたんです?そんな分かりやすく落ち込んで。」
 ケントを軽く睨み、まるで王のように堂々と座っているドラゴンを指差す。
「だってアレ。俺を食いやがりやがったドラゴンでしょ?」
 するとアキラは深く頭を下げた。
「その度は本当に申し訳ありません。彼も反省しておりますので。」
 あいつ俺の事飲み込んだ癖に堂々と出て来やがって。
 クソ、イライラして来た。
「うおぉぉぉぉぉ!!!」
 俺はドラゴンに殴りかかった。
 なぜだろう、俺はその時飲み込まれれば〈美味しい〉そう思ってしまった。
「ヘブシッ!」
 まあ勿論?俺の考え通りに行くわけもなく?腰の激痛で顔面から転げた。
「大丈夫ですか!?」
「ユウシャサマ、コワイ。」
 俺が怖いだと!?いろんな意味で否定はしない!
「いてててて、ごめんごめんつい飲み込まれたやり返しをしようと思って。」
「ユウシャサマ、ゴメン、アレコワカッタ、シヌカトオモッタ。」
 そう言って、ドラゴンは俺の3倍くらいの高さにあった頭を目の前に下げてきた。
「死ぬ?いつ?なんで?」
「ユウシャサマ、キュウニハシッテキタ、コロサレルトオモッタ。」
 ドラゴンは頭を下げたことで近づいた俺との距離を考えたのか、声のボリュームを下げていた。
「殺さんわ!!」
 しかし俺は距離など考えず、大声を出してしまった。
 すると、アキラはドラゴンをかばうように俺の前に立つ。
「申し訳ありません。彼は勇者に使える契約をしてからと言うもの、長生きな彼は様々な勇者と出会いました。契約により勇者に攻撃を出来ない彼は、様々な勇者に理不尽な攻撃をされた事もあり…。ああ!勿論その他の人間や魔物との戦いでは優秀な戦力になりますので。」
 勇者を攻撃できない契約…理不尽な攻撃ねぇ…関係ねーな。
 でもここはある程度のいい話風に話を進めるべきか。
「おいドラゴン、お前の名前はなんだ。」
「…オレ、アカ、サイショノユウシャサマ、ツケテクレタ。」
 アカ…って絶対色で決めたな!
 それはダメだわ、さすがにドラゴンに色はノーセンスだわぁ。
「その勇者の事は好きなのか?」
「イチバン、ヤサシクシテクレタ。」
 その声はどこか寂しそうで…。
「そうか、ならアカ、お前はその名前は好きか?」
「…スキ。」
 そしてどこか嬉しそうな…。
 そんな声を聞いて俺はアカの鼻の角に手を置く。
「ならいい。アカ?お前の事を俺は絶対に傷付けない。」
 だってこいつに攻撃したら飲み込まれ…。
 あれ?
「おい、さっきの話だと勇者の事は攻撃出来ないみたいだけど。」
 アキラに背を向けたまま問いかける。
「はい、そうですが…。」
 聞き間違いではないと…。
「俺、丸呑みにされなかったっけ?」
「それは恐らくですが、彼が咄嗟に行ったからかと。私達もですが、彼の契約は勇者を傷付けない事です。例えば彼が勇者様を殺そうと考え実行に移った場合は、彼は契約に殺されます、ですが。」
 私達も?
「ちょっと待て!え!?勇者を攻撃したらこいつ死ぬのか!?」
「正くは勇者の受けた攻撃相応の痛みや苦痛、死ですが。」
 最初の勇者鬼だろ。
「それで?」
「ですが、もしアカが敵の軍勢を攻撃しようとしていたとします。もし勇者がその中に紛れアカが気づかず軍勢を焼き殺した場合、アカは契約に殺されません。」
 アカによると一番優しくしてくれたとかなんとか言ってたが、一番鬼畜だったんじゃないか?
「つまりは、アカ自身が勇者を殺そうとしたか否か、気付いたか否かと言うことか?」
 アキラに聞いたことを簡潔にまとめて確認すると、アキラは「そうなりますね。」と答えた。
「ですがいかに不可効力だとしても勇者様と理解して捕食し、腰の骨を砕いた時にそれ相応の苦痛があるはずなのですが…。」
 あれ?俺骨砕かれたの?今ピンピンしてるけど…。
「おいアカ、お前俺を食った時どうだった。」
 するとアカは舌を出して「ユウシャサマ、キモチワルカッタ。」と言った。
「テメェ喧嘩売ってんのか?」
 俺が怒りの炎を目に燃やすと、すかさずアキラのフォローが入る。
「ミナト様を吐き戻した時では無いでしょうか。」
 ああ、なるほど。
「それは気持ち悪いわ。」
 ………ふむ。
「まあ難しい事はいいや。さっきの繰り返しだが俺は別にお前を攻撃しないから安心しろ。」
 そしてさっきの気になった疑問を口にする。
「あと、契約が〈私達も〉って言ってたけど、どういうことだ?」
 するとアキラは「それは私達人間もアカと同じような契約がなされているからです。」と答えた。
「つまり俺ら人間も勇者…は俺だから、あんたら人間は俺を殺せないのか?」
 アキラは首を横に振る。
「いえ、私達の契約は人間同士の殺し合いを禁じる契約です。」
 なるほど俺らはさっきの仕組みでお互いに殺せないわけか。
「つい数百年前まで争っていた私達の争いを止める為に神と行った契約だとか………ですが。」
 まぁこういう時、絶対に〈例外〉というものが出てくるのもお約束だ。
「その契約が効かない人間がいるのです。」
 そしてそれは大抵。
「現在確認されている契約の効かない人間は1人」
 敵になる。
「私達はその者を〈魔王〉と読んでいます。」
 やっぱりかぁ~。
 そしてその〈例外〉を
「俺たちは殺せないわけだ。」
 アキラは深く頷いた。
「それが終戦後続いている問題です。先ほども言ったとおり、私達人間の契約は神との契約。生まれついた瞬間に契約はなされます。つまり私達は。」
「契約のせいで魔王を殺せない、だが魔王は俺らを殺せる。」
「はい…。」
 確かにお約束の展開だが、体験してみるとここまで追い詰められた感じなんだな。
「勇者は契約を無視できるとかはないのか?」
「確かに神に契約の解除を求めた事もあるようなのですが。解いて欲しければ、と無理難題を押し付けられ、結局目的は果たせなかったと文書に…。」
 大抵勇者は契約を無視出来たり、契約を壊せる剣を持ってたりするもんだがな。
「過去に数回、差し違いで魔王を殺した事もあるそうなのですが。新たな魔王が生まれ、結果状況に変わりはなかったと。」
 つまり、
「じゃあアカに殺らせるのが最適って事か…。」
「えぇ、俺やるぅ?」
「なんだそのやる気のない話し方は!!というかカタコトのの話し方はどうした!!」
 俺は心身共に疲れ、溜め息を吐く。
「もういいな、その辺は後だ。それよりも〈アレ〉見ていいか?」
 俺が洋風世界には違和感しか無い和風の襖を指差すと、話を聞いていたアカは地響きをさせながら神殿の入り口近くに座った。
 「どうぞ。」とアキラは頭を下げる。
 さてと、これはただの襖か開けば夢が覚めるか。
「どっちだ!!」
 襖を開けるとそこには見慣れた風景があった。
 いつもの狭い畳部屋と小さなちゃぶ台にワタの少ない座布団、カッコつけて買った似合わない服、すべてが見慣れていた。
「…も~。」
 これは夢じゃ無かったのか!?それともこういう夢なのか!?はたまた現実なのか!?いやこれは俺の夢なんだ、俺の部屋が出てきてもおかしくはない。
 ………。
「…夢じゃねーよ!!」
 ああ!気づいてたさ、顔を引っ掻かれた時に痛かったもん!なんならあのドラゴンに食われた時も痛かったしね!でも、だがまあ…。
「異世界LIFEキタァァァァァ!!!」
 俺のつまらない人生なんて捨ててこの異世界で最高の生活を送ってやる!
 ピンポーンというインターホンの音。
「はーい、今出まーす!」
 俺は襖からいつも通りの部屋に入り、いつも通り開けた襖を閉めた。

 一般人-アパート-201

 そしていつも通りの玄関で、いつも通りJungleの宅配便を受け取る。
 なんか配達員の人に笑みの混じった可哀想な人を見る目で見られたけど…ってこれ!!
 受け取ったダンボールの箱を開けると、衝撃吸収剤に包まれたBananaと書かれた箱が入っていた。
「やったー!忘れてたけど新型のスマホ頼んでたんだったー!」
 Bananaの最新機種Banana10!完全防水かつ250度の熱まで耐え、さらにマシンガンの弾を10発食らっても画面が割れないと言う優れものだ!
「今までずっと忘れてたぜーーーぇ!、え…ぇ?………シマッタァァァ!!」
 まずい!異世界召喚の定義は元の世界に戻る事だ!
 そして今俺がいるのは元の世界!もしお約束の世界なら本来の目的は果たしている!
 この流れだと俺はもうあの異世界には行けない!
 最悪だ!!
 俺は新型スマホなんか地面に叩きつけて襖に手をかけた。
 しかし俺は襖を引く事をためらった。
「これは開けていいのか!?
 今開けて元の押入れならマジ泣く。
 明日にするべきか…いや!きっとあの程よくしかお約束を拾わない世界は消えていない!…でも俺の前の勇者は部屋に戻ったら扉消滅したとか………。いや!あの世界は夢でもなければ妄想でもない!!そうだろ!!?」
 勢いよく襖を開くと、そこはさっきまでと正反対だった。
 正反対と言っても押入れに戻ってはいる訳ではなく。しかしさっきまでいた綺麗な白いレンガの神殿とは違い、そこは薄汚れた黒紫色のレンガの建物だった。
「ん~?っと?あれ?」
 俺は混乱しながらゆっくり襖を閉めていくと。
 隙間が5㎝ほどのところで〈向こう〉から声が聞こえた。
「魔王様?」
 その何とも言えない可愛らしい声に、俺は思わず襖を開けてしまった。
「呼んだ!?」
 おっと俺は魔王ではなかったな。するとそこにはメイド服を着た何十人もの美少女が居た。
 いや、正しくはメイド服を着た数十人の美少女と執事服を着た数十人の少年………男いらねぇ、っと本音が漏れた。
 男はともかく、なんだあの美少女達の幅広いジャンルは!年齢ギリギリセーフゾーンからお姉さん系まで!なっ!金髪ツインテールだと!?絶対にツンデレだぞあの娘!
 中には趣味ではないロリっ娘もいたが、あと何年かすれば立派なセーフゾーンだ、その時までこの異世界で楽しむ………。
「のは違うな…。知ってた。」
 頭の冷えた俺は静かに情報収集に移った。
「えー、と?魔王様って俺?」
 すると1番近くにいた女の子。
 おそらくさっき声を出したであろう女の子が小さく頷いて「はい。」と答えた。
 えーと?これは、なんかいくつもの異世界に行くパターンか?
 いやいやいや!それにしては展開が早いわ!!
 それに勇者の次が魔王って…。
 いやよくあるよ?魔王に転生やら何やらは、でも勇者の次に魔王って…。
 いや、もし魔王になったならなったでさっさと新しい勇者を殺してハーレムするのもありだが。
 それにしても勇者終わるの早すぎねぇか!?
 なんか色々引っかかるな…。このレンガも、と言うか色?が…。
「あ、」
 俺は迷いなくラスボス的な世界に足を踏み入れ。
 急いで部屋の左右についていた縦長の窓外から外を覗いた。
 そこにはついさっきまで居たはずの、神殿と屋敷が見えていた。
 俺は窓の外を見たまま、後ろの不特定多数に問いかける。
「おい少年よ、ここはどこだ。」
「魔王城でございます。」
  俺の問いに誰かわからないが、1人の少年が答える。
「おい少女よ、俺は誰だ。」
「魔王様にございます。」
 今度はさっきの少女であろう声で答えが返ってくる。
 振り返り改めて部屋を見ると、そこはラスボスの魔王が待ち構えているようなTHE魔王部屋、玉座の間だった。

 魔王-魔王城-玉座の間

「………。」
 何で少年を先にしたかって?俺は好きなものを残しておくタイプなん
「違ぁぁぁぁぁう!」
 おかしいだろ!え?何?俺いつの間にか魔王にジョブチェンジしてんだけど!
 しかも同じ世界で!
 勇者あの一瞬で終わり!?俺ドラゴンに食われて、変態的行動をした覚えしか無ぇけど!
 いやまさか!流石にあの一瞬で勇者終了はあり得……るんだよなぁ。
 だって現に俺が来た数秒前に別の勇者がいたわけだろ!?じゃあ勇者終了でもおかしくねぇ!
 俺バカじゃねえの!?何であんなスマホなんかのために勇者を捨てたんだよぉぉぉ!
「ん?いや待てよ?俺は1度元の世界に戻ってもう1度開けたらここに来たんだ、同じことをすれば勇者に…。」
 いやいやいやリスクが高すぎる!なんならこの世界に戻れない可能性もある!たとえ戻れても勇者でも魔王でもない村人とかになりそうだ!
 どうする俺。
「あの魔王様。」
 と、さっきから何度か聞いた声が耳に入った。
「あぁ!?」
 多分この時の俺の顔はまさしく魔王だったと思う。
「ひっ。」
 マズった!
「あー、ごめんごめん!違うから!考え事してただけだから!ね?君は何も悪くない、悪くなぁい。」
 泣きかけた少女を何とか落ち着かせると、少女は1冊の本を俺に渡した。
「これは?」
 少女は目尻に浮かべた涙を拭きながら、少し怯えたような声で話を続けた。
「前魔王様が次来る魔王様にと。」
 …やっぱり魔王になってるんだな。
 だがでかした前魔王!少しでも情報を残すとは!
「ありがとな。」
 俺は少女の頭を撫でると、他の奴らから熱い程の視線を感じた。
「どうした。」
 しかし誰1人返事はせず。
「もしかして撫でて欲しいのか?」
 すると全員が打ち合わせをしたかの様に激しく頷いた。
 こいつらはそんなに魔王が好きなのか。それとも前魔王に命令されていたのか…こんなところに子供が入れば伸びるもんも伸びんだろうに。
「あとで嫌と言うほど撫でてやる。」
 まぁ今はまず本だな。
 本を開くとそれは全ての英語だった。
 英語かぁ、昔から英語だけは出来ないんだよなぁ。
 パラパラと流し読みでめくっていると、一枚の栞が落ちる。
 その栞はやけに古びたメモで。文字も掠れていたが、良く見ると日本語が書いてあった。
「あった!」
 前魔王が残したのはこれか!
 何何?〈元の世界に戻れ。〉やっぱり考える事は漫画やらと同じか。
 いや、戻れって言うのは俺の考えるように勇者の世界か?それともやっぱり本当の元の世界か?
 分からん!
 もしかしたら、これは後々分かってくる暗号的な何か………。
 もういい。
 俺は栞を本に戻して。無意識の内に座っていたTHE魔王!のイスの肘掛に本を置いた。
「さてと、じゃあまずは少年少女達よ、話を聞いていいか?」
 すると全員が、〈2次元で〉よく見る、片膝をついて頭を下げる服従のポーズをとった。
「あー!待って待って!それはやめて!話しにくいから!」
 なんだろう、勇者んとこで同年代のメイド達に頭を下げられるのは楽しかったのに、子供達にされると悪い事をしている気分になる。
 しかしそいつらは俺の言葉も聞かず、一向に動かないままだった。
「えー…じゃあ魔王命令!今後俺と話す時はそれはやめる事!いいね?」
 すると少女達は渋々立ち上がり俺の目をジッと見つめ、また動かなくなった。
 これはこれでやりにくいな。
「えーとまず1つ目。君達は何でここにいるんだ?」
「………。」
「………。」
 あれ!?えーと?魔王様完全無視されちゃってますね。
「えっ?と?」
 するとさっき頭を撫でた少女が一歩前に出る。
「皆は前魔王様に名前を呼ばれてから答えろと言われまして。」
 なるほど前魔王。めんどくせぇ事しやがった!
 というかお前ら喋ってたじゃねぇか!!
「えーと、名前が分からんからそこの金髪。」
 中学生くらいの金髪の髪の少女を指差すと、金髪と言う意味が分からなかったのか俺が指をさしてから口を開いた。
「…私達は世界に必要とされていませんでした。」
 おっと?ポエムか?
「いえ、家族と言う小さなものにすら必要とされていなかったのです。先の見えない苦しみの中でただ絶望を味わっていた中、前魔王様に救っていただきました。奴隷屋の馬車、牢獄の中、中には処刑寸前の状態から救われた者もいます。」
 処刑?人を殺せない世界で?
「ですが魔王様は救っていただいただけではなく、この城で一緒に暮らしてもいいと言ってくださったのです。
それ以来私達は恩を返すために召使いとして魔王様にお仕えしています。」
 なるほど、さらって来たのかと思ってたが前魔王は良い奴だったみたいだな。
 奴隷やら処刑の事も聞きたいが子供達の辛い過去をえぐるのもなぁ…。
 まぁ若干引っかかる部分があったが、確かに奴隷やら処刑寸前だったなら魔王の元と言うほど安全な場所は無いか。
「そうか…ああ魔王が変わったからって出て行かなくて良いぞ?好きなだけここにいていい。」
 するとみんな心配していたのか、ホッと肩を落とした。
 どれだけ心配だったんだ。
「じゃあ2つ目。魔王ってなんか仕事とかは有るのか?…えーとそこのお姉さん系。」
 これは指を刺さなくても分かったのか、大人びた高校生くらいの少女は豊満な胸に左手を当てて頭を下げて話し始めた。
「魔王様に主な仕事はございません。料理や身の回りのお世話は全てさせていただきますので。
ですが前魔王様は図書室へと毎日こもっていらっしゃいました。」
「図書室があるのか!」
 これは好都合だ!
 そこで情報を掘り出せばいい!と言うか、禁書的な何かで使い魔的な物と契約出来たりして!
「じゃあ連れてってくれ!」

 ◆◆◆

 魔王-魔王城-廊下

 歩きにくい。
 さっき勇者のところで履き替えたんだった。この靴絶対に靴擦れになるタイプだぞ。
 その歩きにくい靴で俺はレンガの上をコツコツと音を立てて歩いていた。
 …何十人もの召使いを連れて。
「いや、全員が付いて来なくていいんだぞ?」
 すると、俺の1歩後ろ右手に歩いていた一番最初に話した少女が口を開いた。
「ですが私達は魔王様にお仕えする身、常にお側にいなければ行けませんので。」
 正直邪魔だ。
 俺は勉強する時は1人で静かにしたいタイプなんだよ!
「じゃあお前ら遊んで来い。この屋敷は広いんだから走り回れるぞ?」
 「あの、」と戸惑うような少女の声を「いいから。」と俺は遮ると「いえその、遊びとは何でしょうか…。」と言い放った。
「………。」
 そう来たか!
 遊びと言われてもな…。
「楽しい事だ!お前らも楽しい事はあるだろ?」
 するとまた打ち合わせでもしたのか、全員が左手を胸に当てて頭を下げる。
「私達の1番の幸せは魔王様のお側にいる事です!」
 クソめんどくせぇ。
 俺は元から子供が得意じゃ無いんだよ…。
「なら、それ以外の楽しい事を見つけてみろ。今回は俺が遊びを教えてやる。」
 まずは………かくれんぼだな。
 これだけ広い城でこれだけの人数だ、当分は終わらないだろう。
 全員にルールを教えて、一応年上の奴らに『子供らが危ない動きをしないように』と注意して俺は図書室へと向かった。

 ◆◆◆

 魔王-魔王城-図書室

 おお!さすが城!これだけあれば逆に何が無いんだ!!
 図書室は円形で扉の部分以外の壁全てが本だった。
 しかし、数が多すぎでどれから読めばいいのやら…。
 すると部屋の中央にポツンと置かれた小さな机の上に1冊の本が置かれていた。
 まずはこれを読め…と?
「〈コレを読んでいる召喚された者へ〉」
 何と都合のいい本でしょう!?まさしく俺の望んだ本だ!
「何何?〈一度元の世界に帰って見ろ。〉?」
 「またこれか!!」
 一体どう言うことなんだ。そしてこれも日本語…。
 続きは。
「えーと?〈元の世界に戻ろうとも世界は消えない、安心して戻れ。〉?」
 つまり魔王になった感じで戻ってもまたここに来れるって?
 信じられるか!たとえ嘘じゃないとしても現に魔王になっている時点で俺の望む立場になれるとはかぎらねぇ。
 本もたった1ページで終わってるし。
「…他の本を読むか。」

 どれを読もう。
 適当に本棚の中から1冊の本を手に取って適当にページをめくってみた。
 第128235代召喚 木村 結城
 第128236代召喚 小山 悠人
 第128237代召喚 宇口 大地
 全員日本人だ、って第128000!?これ今までに召喚された奴らか!?
 ふと上を向くと天井だと思っていた部分は2階の床だった。
 部屋の中央から見上げると、部屋は5階建ての吹抜けになっていて。
 下から見える限り、4階の本棚までは隙間もないほどに本が詰まっていた。
「まさかこの本棚全部が名前、なのか?」

 ◆◆◆

 もっと運動をしとくんだった。
「はぁ、はぁ、はぁ、この図書室、絶対にエレベーターを付けるべきだ。
でもまぁ、やっぱり上のほうが新しいのか。」
 本が上に行けば行くほど新しくなっている事に気付いた俺は、1番新しい本を探してみる事にした。
 しかし5階には一冊も本がなく、4階を歩いていた。

「ん?」
 すると、茶色の表紙が並ぶ本棚にめちゃくちゃ目立つピンクの表紙が挟まっていた。
 これは?
 俺はその本を手に取り。
「エロ本じゃねぇか!」
 あんなに子供がいるところにこんな物は有害極まりない、あとで崖の下に投げておこう。
 それよりも、あれか。
 本棚はまるで計算されたかのようにギッシリと詰まっており。
 4階の一番古い本から一周回ってその隣にあった一番新しそうな本を見つけた。
 高い所の本を取るための小さなはしごで、1番上の棚にあった1番新しそうな本を手に取り、そのままはしごの上で本を開いた。

 第4444443256代召喚 木下 大輝

 一、十、百、千…40億!?
 すげぇとしか言えねえ。

 その本も今までの本と同じように名前がギッシリとうまっていた。
 1番新しい奴は、っと。
 古い順に書かれた本の最後のページの最後の欄。
 つまり1番新しい名前。
 そこにはこうかかれていた。

 第4444444444代召喚 中居 湊

 そうかかれた文字を見て俺は一瞬何も考えれなくなった。
「俺の、名前?」
 なぜだ!俺はまだここに書いて無いぞ!
 それに4のゾロ目とは不吉な。
 そんな事を考えていた時。
 急に俺の視線が上を向いた。
「はぁ!?」
 いや、俺の乗っていたはしごを引っ掛ける部品が外れ、吹き抜けの上に投げ出されていた。
「は?」
 全く、普段は止まらない口もこんな時に限って動かない。ダメだ、周りに何もない〈今回ばかり〉はどうにも出来ない。せめて漫画とかアニメみたいに叫んで死にたかったなぁ。
 俺は全てを諦め、目を瞑って地面を待っていた。

 ◆◆◆

 あれ?
 しかし一向に地面は来なかった。
「もう、死んだのか?」
「まだ死ぬのは早いですよ。魔王様。」
 目を開くとと、そこには最初に頭を撫でた女の子の顔があった。
 で、俺はその少女に抱き抱えられていた。
「ふう…。」
 初めてのお姫様抱っこがする側じゃなくてされる側なんてやぁだぁ!
「あの、離して…。」
 多分この時の俺は顔が真っ赤だったと思う。
「ですが…。」
「早く…お願い。」
「いえその、落ちませんか?」
「へ?」
 抱えられた体、と言うか抱えている少女の体は吹き抜けの上で宙に浮いていた。
「あの、〈床に〉お願いします。」

◆◆◆

 I LOVE JIMEN。
 まさか空中浮遊があんなに怖いとは…今なら地面宛にラブソングを歌える。
「なぁ少女よ。」
「ハル、と。」
 やっぱり和名か。
「ならハル、今のはどうやった?」
「今、と言うのはどの事でしょうか?」
「あれだよ!今飛んでたじゃねぇ…飛んでたやつ!」
「あれは飛んでいるのではなく乗っていたのです。」
「乗る?」
「はい、私はごく一部分の時を止める事が出来ますので。」
 マジか、
「え、え?…え?」
 待てよ?この子は思春期男子が〈色々〉な理由で欲しい異能力第1位の時間停止を出来るのか!?
「ならそれを使えば物の時間を止めれると言うことか!?」
「いえ、物体の〈動き〉なら止める事は出来ますが〈時〉を止める事は出来ません。」
 まぁためんどくさそうな…。
「例えば今上から本を落とした場合、その本自体の時は止められません。が、その本の周囲の時を止める事で結果的に本の動きを止め、時を止めるとほぼ同じ効果を出す事は出来ます。」
 ん?つまりは物は止められないが空気、気体限定で時を止められる?なるほど!さっきは時間を止める事でできた空気の摩擦の上に乗っていたと言うことか!
 って、おもわず今起こった事をおさらいしつつ解説してしまった。
「でも、よく物体の時を止められないと分かったな。」
「はい。止まった空気に引っかからないように色々なもので試すと、滑り落ちました。」
 なるほど、本の時が止まったのなら本は落ちないはず。
「そして、生命体はどうかと思い、私は自分の体で試すことにしました。」
「ん?」
「まず私の腕を含むその周りの時を止めたのですが、いつまで経とうと私の体に異変は全くなく…。それどころか腕の部分のみ時が止まっておらず、引き抜く事が出来ました。」
「ああなるほど。生命体が物体とは違って空気のように止まるのなら、ハルの血液は腕で止まるはずってことか…。」
「はい。」
「って危ねぇ!!それ、もし下手したら腕が壊死してたぞ!いいかハル?これからはそんな危ない事は絶対にするな!もし何かの実験がしたいならまずは俺に言え!いいな!?」
「…はい。」
 するとハルは俯いたまま動かなくなってしまった。
 ちょっと大声を出しすぎたか…。
「そ、それでその力は誰でも使えるのか?」
 魔法的な物なら覚えたいな。
「いえ、使えるのは悪魔の血を持った者です。」
 またありきたりな単語が出てきたぞ。
「悪魔の血?」
「はい、ここギリティアで産まれた子供の約1割がなぜか悪魔の血を持っているのです。」
 1割?って結構な確率だぞ。
「でも、血ってことはハルも親から貰うったのか?」
「いえ、悪魔の血は突如現れます。例え両親が悪魔の血を持っていなくとも、産まれた子供は悪魔の血を持っている可能性が1割あると言う事です。」
 つまりは遺伝ではないと…。
 異世界の謎だな。
「そして悪魔の血はその力ゆえに穢れた物として奴隷や処刑、差別の対象となります。」
 しかしまぁ、ハルは遊びの意味は分からないのに言葉使いは綺麗なもんだ。
「えーと、て事はさっきの子らは全員悪魔の血を持っているのか?」
「はい…。」
 少女は寂しげ、いや自らを見下している目をした。
「はあぁぁぁ!!」
 わざとらしい俺のため息にハルは顔をあげる。
「正直に今の感想を言おうか、ハルはバカだ!いやこの城にいる俺以外の全員がバカだ!第一奴隷やら処刑やらが嫌なら悪魔の血の力を使え!いいか!?その力は悪魔なんかじゃない!1割の確率でしか手に入れられない特別な力なんだよ!もし貰えるなら今にでも欲しいねその力。」
「魔王さま…。」
 しまった、思わず主人公のような恥ずかしい事を言ってしまった。
「いや!なんでも」
「差し上げれます。」
「…は?」
「悪魔の〈血〉と言うだけあって、魔王様に私の血液を混ぜれば悪魔の血を持っている事になりますので…。元の持ち主と同じ強さと言うのは無理ですが…。」
 え?ここは「魔王様、」ってなって正妻登場の流れじゃねえの!?
 あぁ違った、この子は年齢的にアウトなんだった。
 というか、マジか!これはついに異世界の夢、魔法使いにジョブチェンジじゃね!?
「ハル…今すぐにやってくれ!」
「ですが魔王様。」
「なんだ?」
「いくら魔王様と言っても稀に拒絶反応を起こす事があります。適正検査をしなければ危険かと。」
 こいつ、本当に遊びの意味を知らなかったのか!?
「ま、まぁいい。なら検査をしてくれ。」
「かしこまりました。」
 するとハルは廊下へと出て行った。

 魔王-魔王城-廊下

 「では魔王様少々お離れ下さい。」
 離れる?
 俺はハルから3mほど離れた場合に移動すると、ハルはどこからか出したベルを鳴らした。
 なんだ?
 ベルの音は廊下を響き渡り。
 少しするとハルの真上、5mほどの高さの場所にサザエの蓋みたいなのが現れた。

 あーそうそう。
 サザエの蓋って取りにくいんだよなぁ。
 なかなか爪楊枝は入らないし。入ったと思ったら折れるし。身を出そうとしたら途中で千切れるし。
 かと言って酒を飲まない俺にとってはめちゃくちゃ美味いって程でもない…なぜサザエには蓋があるんだろうか。
 もちろんそんな事を言っているやつから身を守る為だ。

 などと脱線しているとサザエの蓋(のようなもの)から金髪のロリっ娘が出産された馬のように頭からドゥルンと出てきた。
 しかし少女は勢いよく落ちる事は無く。
 突然空中に現れた闇とも言える真っ黒な長方体の上に横たわると、その長方体ごとゆっくりと下りてきた。
「ありがとねハル。で?お前が新しい魔王かい?」
 黒い箱の上に横たわっていた金髪ロリっ娘は立ち上がると30㎝ほど身長差のある俺を見上げた。
「ん?ああそうだ。」
「あんたには検査の前に色々と説明する、ついて来な。」
 偉そうな奴だな…まぁサークルの後輩にも似たやつがいたから慣れてはいるが。
 ん?検査の事って言ってないよな?
「今行きますよと…ああ待て。ハル?今他の奴らは何をしてる?」
「みんなは魔王様に教えていただいた隠れんぼをやって下ります。」
「ならいい、全員捕まえたらさっき教えたジャンケンで鬼を決めてもう一回やっててくれ、なんなら新しい遊びをしてもいいぞ。あぁ、もちろん仕事があるならそっちをしてくれてもいいし、今日くらいならサボってもいいだろ。」
「かしこまりました。」
 そう言うとハルは俺の進行方向と反対の方向へと歩いていった。
 あいつは本当に子供なのか?
「っておい!」
 金髪ロリっ娘は俺の〈待て〉も聞かずに数メートル先を歩きやがっていた。
 俺は魔王だぞ!じゃなかった、俺は勇者だ!そっちの方がかっこいい!
「あー、もー。」
 俺は走って金髪ロリっ娘を追いかけたが、なかなか追いつけず。
 何度か曲がり角を曲がると金髪ロリっ娘は1つの部屋へと入った。

 ◆◆◆

 魔王-魔王城-不明

 靴擦れした。
 うわ!めっちゃ皮がめくれてる!
 アキラの野郎!クソ、スマホを取りに行った時にシューズも持ってこれば良かった。
「まだ若いんだからへばるなよ。」
 何様のつもりだ。
「おい…お前、名前は?」
「あぁ!?〈お前、名前は?〉じゃ無くて〈貴方様のお名前は?〉だろうが、このボケ!」
 怖。え?、怖。
 なんで俺はこんな金髪ロリっ娘に説教されてるんだ?
「お、おい!さっきから聞いていれば、お前は何様だ!ぐちぐちぐちぐちと、いいか!?俺は年上だ!年上には敬語を使え!」
 言いすぎたか?
 いやバカには多少きつめに言わないと直さないからな。
「ぉ、、はぃ、っ、」
「なんだって?」
「だからお前はいくつだと聞いている!!」
「…え。」
 怖!この子怖!え!?何?その鬼の顔、え?怖!
 とは言いつつも、今更引くわけにもいかず。
「21だ。」
 すると金髪ロリっ娘は鬼の形相のまま笑みを浮かべた。
 え!?何その笑顔!子供の表情じゃ無ぇ!え?めっちゃ怖え…。
「お前、21と言ったな。」
「あ、ああ。」
「私は835歳だ…。」
 は?
「ぷっ、何だよ可愛いところあるじゃねぇか。どうした夢でも見たのか?」
「お前、一回死○。」
「ちょっ!肝心の部分が隠れてなっ!!!」
 俺は殴られた、パパにも殴られたことな…じゃなくて。
 子供とは思えない力だった。
 もしこれがフィギュアスケートオリンピックなら金メダル確実の回転を横向きでしながら硬いレンガに叩きつけられた。
「………。」
 すると金髪ロリっ娘は横たわる俺の髪を掴み持ち上げると。
 般若と言っても過言ではない顔で俺を見つめた。
「私は835歳だ、年上には何だった!?あと今失礼な事考えたなぁ。」
「…すいませんした。」
 桁違いの寿命。はい、異世界のお約束ね。
 BBAじゃねぇか!!でも、怖すぎてツッコむ勇気すら出ねぇ。

「それで?俺に説明したい事って何…ですか?」
「…まぁいい、座れ。」
 はいはい座りますよと。
 俺は部屋の中央に置かれた椅子に座ろうとした。
「おいボケ、何勝手に椅子に座ろうとしている。」
「は?じゃあどこに座れと?」
「正座だ。」

 ◆◆◆

「お前、勇者のとこでどこまで聞いた?」
 いや待てよ!!え?何この状況!?
 835歳に見えない835歳の女の子が椅子に座って、その前で21の男にしか見え無い21歳の男が正座って、もしこれが日本なら職質物だぞ!…俺が。
「…ん?あぁ!勇者のとこではこの国の名前と魔王が人を殺せて、それ以外の人間は人を殺せないってぐらいで…。」
 まさか俺が魔王になるとは思ってなかったけど…あぁ!?
「何で知ってんだよ!!」
「あぁ!?」
 やめてその目、怖いから。
「…知ってるんですか?」
「はぁ、」
 え?何?その俺が間違ってるみたいなため息。
「いいか?私は835年生きてるんだ。今まで出会った召喚者は万を超え、そしてそれだけの召喚者に出会えば他の場所の知識もつくさ。もちろんあんたが勇者の他にもう1、いや2つか…あと2つの世界に行った事もね。」
 ん?
「おい。じゃなくて、あの~、〈他の〉2つ?」
「あぁ?勇者と魔王と…って、もしかしてお前!まだ扉を2回しか通っていないのか!?」
「2回?えーとまずは最初の勇者の行きと帰りの。」
「違う!行った世界の数の事だ!
あんたはまだ勇者と魔王しか行ってないのか?」
「しかって、他にもあるのか!?」
 金髪ロリBBAはまるで〈遠回しに告白されたにも関わらず意味を理解出来ていない鈍感主人公〉を見る非モテ男みたいなため息をつくと、片手で頭を抱えた。
「もういい話は後だ、一度戻れ。」
「戻れ?どこに?さっきの部屋に?」
「違う!元の世界にだ!」
「元の世界って…勇者のか?」
「あぁ!?」
「っ!ですかっ?」
 いちいた敬語に突っかかるなよ。
 ちっさいなぁ。
「お前、今失礼な事を考えただろ。」
 俺は風呂に入った後の犬みたいに首を振った。
「…戻るのは最初の世界。あんたが生まれ育った世界だよ。」
「なんでっ、ですか!」
「それは自分の目で見たほうが早い。
まぁどちらにせよ魔王なんて暇なだけだ、今はともかく召喚者の事を知ってこい。」
「え!?知って来いって!ちょっと、え!?待って!」
 …追い出されてしまった。
下を向くと俺の足は靴を履いていなかった。
 あ、靴。

 ◆◆◆

 魔王-魔王城-廊下

「冷たい…。」
 靴擦れが痛くて脱いだ靴と靴下を金髪ロリBBAの部屋に忘れた俺は、裸足で冷たいレンガの廊下を歩いていた。
 金髪ロリBBAも、あの紙も本も全部が全部が戻れ戻れってそんなに俺はこの世界にいて欲しく無いか!
 でも知りたければやら他の世界やらとも言ってたし。
 戻れる、のか?現に勇者から魔王になってるわけだし…。
 などと考えているうちに、気付けば自分がどこにいるのかわからなくなっていた。
 これだけ広ければ迷うわ。まあ?お約束っちゃ、お約束なんだけどな。
 ここまで来たら正妻登場までのお約束になってほしい!
「あ!魔王様!」
 キター!
「じゃなくて、助かった!部屋までのみ」
 その瞬間、F1かと思うくらい、いやそれ以上の速さのものが俺の横を通りすぎて行った。
「え………?」
 恐る恐る振り返るとそこには埃が舞い上がっていた。
 何が起こったのかわからず固まっていると、服の裾を斜め下方向に引っ張られた。
「あ?」
 前を向くとそこにはまだ母親が見ていないと行けないくらいの子供がいた。
「どうした?迷ったか?」
「ううん。魔王様、カリンがごめんなさい。」
「ごめんなさい?何がだ?」
「カリンが魔王様に挨拶もしないで行っちゃったから。」
 …もしかしてさっきの。
「カリンって言うのは走るのが速いか?」
「うん、悪魔の血を使ったらすごく速いよ。」
 悪魔の血かぁ、すっかり忘れていた。
「まあ、遊んでたんだから仕方ない、君は鬼か?」
「うん。」
「なら早く見つけないとな、ほら行ってこい。」
「じゃあ魔王様。」
 その子は年齢に似合わないお辞儀すると、一瞬で目の前から姿を消した。
 …あの子は瞬間移動なんだなAHAHAHAHAHA!
 もう俺の驚きと言う感情は心の隅を通り越して、つま先くらいに隠れていた。
「あ、道聞くの忘れた。」

 ◆◆◆

 魔王-魔王城-玉座の間

 その後、適当に歩いていると何とか最初の部屋に戻る事が出来た。 
 さて、金髪ロリBBAの言う通り元の世界に戻るべきか、無視するべきか。
「やっぱりここは無視か…。」
 いや、足も冷えたし靴下だけでも。
 襖を開けるとそこはいつも通りの部屋だった。
 靴下は部屋の1番隅の棚。
 この襖は自動扉じゃないから閉まることはないが、変に手放しで部屋に入るのは怖いな…。
 そして俺は驚きの隠れたつま先で襖を固定しつつ部屋に入り、タンスを開けていた。
 ダメだ届かねぇ。ここは足を離して一瞬で終わらすか?でもなぁ。
 などと迷っていると背中に悪寒が走った。
「なぁ魔王様よぉ、私は戻れと行ったよなぁ?」
 やっば、これ振り返ったらまたあの鬼の顔で睨まれる。
「はい…。」
「じゃあ何で足で引っ掛けてるんだろうなぁ?」
「それはその、元の世界に戻るのが怖いと言いますか…。」
「知らん。」
 そう言うと金髪ロリBBAは俺の足の小指を全力全開、本気で蹴りやがやった。
 ミシッ。
「があぁぁぁぁぁ!!!何しやがる!今絶対になったらダメな音がしたぁぁぁ!!」
 折れた!絶対折れた!複雑骨折した!慰謝料払えコラァ!
「敬語を忘れるなよ…。」
 アニメなら鼻から上が真っ黒になっているような顔でそう言うとゆっくり襖を閉められた。

 一般人-アパート-201

「…ふぅ。」
 …大学行こうかな。
「いや、いやいやいや!そんな簡単にNEW人生諦めてたまるか!」
 そうだ!そうだぞ俺!
 俺はもう一度襖に手をかけた。
 いや待て、このまま開けて魔王に戻れるとも限らん。
 なら勇者…いや、金髪ロリBBAはあと2つとか言ってたし…。
 脳内に〈戻れない〉と言う選択肢はもう消されていた。
 勇者、魔王と来たら…何だ?
 はっ!まずい!これは開けていいのか!?この流れで行けば村人Aとかになりそうな。
 いや、もしダメならすぐに戻れば…。
 などと自分で言いながらも襖にかけた手は動かさなかった。
 このままビビっても何も変わらない!行くぞ!俺!行くぞ!…行くぞ!!
 よし、3.2.1!行くぞ!行くぞ!行くぞ!!
 さっさと行けよ俺。
「おりゃぁ!!」

 襖の向こうは勇者の屋敷でもなく魔王の城でもなく。
 まさしく。
 わぁ、ピアノの発表会みた~い。漫画やアニメで見る、色以外は魔王の部屋とも良く似た玉座だった。

 王-不明-玉座の間

 俺王様!?マジで!?
 俺は王座の横に立っていた。
 しかも高価そうな服を着た大勢の人に服従のポーズをとられて。
 ほほう、王ともなれば付き人ですら貴族なのか。
 その付き人達の胸にはそれぞれの紋章が付いている。
 家紋か………そう言えば俺ん家の家紋ってどんなんだったけ?
 じゃなくて。
 よし決めた、勇者とか魔王とかどうでもいい!女大量に連れ込んで一夫多妻の家庭持って…。
 いや待て!この国は一夫多妻制の国じゃない気がする………。
 法律変えるか!だって俺王だもん!なんでもありだもん!俺もう一生ここで暮らすぅ!

 ほんと、俺って生まれてきたことが間違いな気がする。

 まぁ、そんな事は置いといて。
「で…そのわざとらしく王の椅子の横置かれた紙の山はなぁに?」
「貴方様、新王の仕事であります。」
 ありますとかって本当に言うんだ。
 一枚紙を取ると、魔王死すべし殺すべし、殺さず生かせ、生かして殺せ、と書かれていた。
「それはデモ隊が持っていたチラシでございます。早く悪魔の血の根源である魔王を殺せと…。」
 うん…。
「俺王やめる。」
「はい!?」
  その場で頭を下げていた全員が、同時に頭を上げた。
 「ごめん、俺大学生なんだわ。そんな仕事とかあと1年やる予定ないんだわ。だから俺帰るわ。」
 正直この国民が怖すぎて、王としていられない気がする。
 そして俺は召喚ポータルもとい俺の部屋の襖を開く。
 「お待ちください!!」と服従のポーズを続ける集団の中の誰かが声を上げた。
「なに?」
 振り返ると一人のひ弱そうな男が顔をこちらに向けていた。
「い、いえ、その仕事を…。」
「…俺王じゃねぇし。」
 部屋に戻ろうとする俺を、大きなカブ方式で何十人もの人が引っ張った。

 ◆◆◆

「で?言い訳は!?」
 俺はTHE王の豪華な金ピカの椅子に座っていた。
 頭に包帯を巻いて。
 あの後無理矢理引っ張られた俺はその勢いに負け。
 そのまま王座の階段を転がり落ち頭から出血。今は王の椅子に座り、俺を引っ張った全員に土下座されていた。
「申し訳ありませんでした!!王のおふざけをおふざけと気付かず。」
 ああ?
「俺がいつふざけた。いたって本気、いたって真面目、いたって正常。」
「あれが本気ならこれこそ〈糞王〉だな。」
 そんなアリような小さな声も俺の地獄耳が聞き逃すはずもなく。
「よし、そこのお前死刑。」
 するとそいつは嫌味に笑いながら立ち上がり。
「はっ!今回の王は愚王も愚王!!今までの王もかなりのものだったが!今回ほどの王は歴代10位に入る!!いいか新王!!人は人を殺せず!!人を殺せる人は魔王ぐらいだ!!」
 ふむ、さすがに王の付き人なだけあるな………上から目線に腹が立つ!!
 と言うか俺は王だ!俺に逆らうな!俺に反抗するな!俺に口答えするな!と、大人の俺は口にはしない。
「そうか。だが心配するな人には殺させない。俺…じゃなくて、勇者のとこにいるアカに食ってもらう。」
 その言葉を聞いた瞬間、俺を除くその場の全員が顔を真っ青にした。
「お、王!おやめくだ」
 するとさっき散々言いたい放題言った男は、他の貴族の言葉を遮った。
「申し訳ありませんでしたぁぁぁぁぁ!!!」
「許さん死刑。よし勇者んとこ行くぞぉ~。あとさっさと魔王倒して貰おう。」
 の前に一つ訂正しよう。「ふむ、さすがに王の付き人なだけあるな…手のひら返しがエグい。」
「「「おやめください!!!」」」

 ◆◆◆

「さて………言い訳はあるかぁぁぁ!!!」
 バカの襟首を掴んで勇者の所に連れて行こうとすると、その他の使用人に大きなカブ方式で引っ張っられ、その勢いで吹き飛ばされた俺は王座の階段で〈また〉頭を強打した。
 このまま行けば俺は生きるミイラに…いや死にかねん。
「よしお前、死刑はまた今度だ俺は帰る。もし邪魔したら…分かるな?」 

 あれ?俺魔王の方が向いてね?

 ◆◆◆

 一般人-アパート-201

 俺は王座とはかけ離れた自分の部屋に戻り、襖を閉めた。
 さて、金髪ロリBBAによるとあと1つか。
 って、あれ?これってわざわざそこに入らなくても襖開けて、すぐ閉めたらいいんじゃね?そうじゃん!俺って馬鹿だなぁ。
 「いやぁ、そう考えると急に楽になった。」
 そう気づき、スキップする勢いで襖を開いて素早く閉め、閉め…閉め…なかった。

 目の前には金貨の山。
 その周りにはスポットライトのように金貨を照らす光る宝石。
 さて問題です。目の前には、売れば一生生活できそうなくらいの金貨があります。
 さてどうしますか?
「とっびこっみまぁ~す!」

 不明-洞窟-不明

 金貨の山に飛び込む俺。
 金貨の山に仕掛けられていた縄製の罠。
 その縄の輪に頭から突っ込む俺。
 罠が作動して首で閉まる縄。
「グェ!」
 はい。見た目は自殺、中身は他殺の完成です。(よいこのみんなはまねしないでね。)

 ほんと、もうそのまま死ねよ。

「全く、誰だよこんなショボい罠仕掛けたの。これくらいの罠がなら、対処の仕方ぐらい知ってるっての。」
 俺は縄と首の間に指を入れて、頸動脈の流れを確保し(以下略)

 ◆◆◆

「ふう、脱出。」

 おい、今なんでこんなクソ野郎が死なないんだとか、なんでワイヤートラップの対処法を知っているんだとか思ったろ。

 にしてもこれ凄ぇな、いくらあるんだ?
 金貨を一枚持ち上げて見ると、それは想像以上に重さがあった。
「うぉ!」
 凄ぇ!!まずは1000枚くらい俺の部屋に投げ込んどこう。
 俺は開かれたままの襖に向かって次々と金貨を投げ込んでいった。

 ◆◆◆

 さてと、これくらいかな。
 俺が部屋に帰ろうと振り返るとそこにはもちろん襖があり、そしてその奥にも道が続いていた。
 ん?
 すると、その道の奥から数人の足音が聞こえた。
 やっば!
 急いで自分の部屋に戻ろうとすると、暗い洞窟の奥から懐中電灯のような灯りが俺の足元を照らした。
「誰だ!」
 誰でしょう!湊さんでした!!
「また来るぜ!アリィヴェデルチ!」
 俺は急いで部屋に戻り、襖を閉めた。

 一般人-アパート-201

 危ねぇ、もうちょいで捕まるとこだった!今までの所は全部歓迎されてたから良かったものの…。まぁ王は別として。今回も歓迎されてるとは限らないしな。
 されてたとしてもあれだけ金貨を取れば歓迎もへったくれも無いし。
「まあ、でも。」
 これいくらだろぅ。
「ぐふ、ぐふふふふ、ぐひっ。」

 「気持ち悪!」って思ったろ?

 さてと、さっさと換金しに行くかな。
 俺は数枚の金貨をズボンのポケット、部屋に忘れたままだったヒビ一つ無いスマホを胸ポケットに入れて玄関に向か、わずに足を止めた。
 …あれ?金髪ロリBBAの話だと勇者と魔王とあと2つって話だったから。
 王と今の…って何なんだろうアレ。
 まぁいいや、金髪ロリBBAの話通り、あと2つの世界にいったけど…。次襖開けたらどうなるんだ?もう一回勇者?
「…まさか!!」 
 俺はよろけながらも襖へと走り、勢いよく襖を開く。

「嘘、だろ…?」
 襖を開いた向こうには約半日ぶりに見る、俺の布団が畳まれていた。
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