死神と呼ばれた俺は聖母と呼ばれた彼女に恋をした。

尾高 太陽

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~始まりの異変~

ーエサー

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 俺はジグムンドのページを開いたままだった書類をめくっていく。
 その中には権利持ちとその付き人、さらにはその関係者のまでの情報が記されていた。
 ………よし。
「開発政策旧文明解読者最高責任者の付き人、マイケルはいるか?」
 会議室の全員がキョロキョロと周りを見渡すと、そのうちの1人が首を横に振った。
ーーーーーーーーーー
 マイケル
 開発政策最高責任者アテーナーの部下、旧文明解読者最高責任者ティーターン付き人。ごく平均的に育ち、ごく平均的な能力を持つ。ただ一つ、異常なほど忠誠心が強い。そのため、シェルターを滅ぼしかねない情報を扱う、機密性を求める旧文明解読者最高責任者の付き人に抜擢された。
ーーーーーーーーーー
「今すぐそいつを呼べ。」
 すると雑用係のスケール役員の1人が急いで扉を開けた。
「呼び出しの理由は俺が説明する、外で情報を口にするなよ。」
 その俺の言葉に役員は深く頷き、廊下を走っていった。
「次に畜産者最高責任者パーンの付き人ボックスと水産者最高責任者オーケアニスの付き人インは……。」
 と書類から前に目を移すと、それぞれの場所で権利持ちの後ろに立つ2人が手を挙げた。
「いるな。」
 よし、
「おそらくこれで5人が揃った。」
 すると、会議室数人がホッとした様子で肩の力を抜いた。
「さて、今から確認を兼ねて詳しく作戦会議をする。解放門の外に行かない奴にも仕事はあるからな?」
 俺は無意識のうちに口角が少し上がっていた。



「タナトス様!」
 と解放門の前で立っていた俺に声がかかった。
「ん?ああマイケルか。色々と聞きたいだろうがまずは俺から言わせろ。」
 丸メガネをかけた若い男のマイケルは、解放門を見てよほどと事と気づいたのか黙って頷いた。
 俺は会議室での作戦を口にしていく。



「確認だ。」
 そう言って、机の上に貼り付けられたシェルターの地図に目を移すと、一部数人を除いて地図を覗き込んだ。
「まず解放門の前で解放者が殺された。」
 俺は地図上の解放門に小さく光る赤光石を置く。
「凶器は人間を一撃で2つに出来る鋭利な何か。しかしスケール、いやこのシェルターではそれだけの物は作れないし使えない。そして解放門には解放者1人だけでは足りない血液とその血液から残留害物質が検出された。この事から今回の原因は解放門外の生物だと仮定。現在は市民には知らせずに秩農畜水製の者たちが探索をしている。」
 俺は10個の青光石を、シェルター内探索をしている10班のそれぞれの位置に置く。
「そして今から少人数による解放門外の探索に向かう。これは俺とベルセルク、ジグムンド、ボックス、イン、そして今呼びに行っているマイケルで向かう。なおシェルター内に解放門外生物がいた場合、俺たちへの報告員はトーマスだ。」
 俺は地図に印を置くために乗り出していた体をイスに座らせると、俺と同じように身を乗り出していた者らもイスに座った。
「さてここからが多少忙しい。まずは製造者。」
 しかし製造者最高責任者の席には誰も座っていなかった。
 「編成もついさっき終わったばかりだからな」とテミスが呟いた。
 どちらにせよ最後にする事だ。後でいい。
「次に。先の会議で何の仕事も頼まれなかった者らは、付き人と信用できる数人で人通りの少ない場所を回れ。解放門外生物が侵入されたとされると時間は消灯後だ、その間に人通りの少ない場所で他の市民も殺られているかもしれん。これも市民には勘付かれないように行動しろ。」
 すると、権利持ちに細かな指示や伝言をされた付き人達は会議室を走って出て行った。
 行動が早い……いい事だ。
 そして俺がジジイに目を移すと、ジジイは「分かっている」とでも言うように手をたたいた。
 すると、1人の長髪の女が会議室の扉を開いた。
「解放門外への探索をする方、報告員の方は付いて来てください。」
 と、まるで人形のように無表情で、感情の感じられない話し方をするその女は会議室を出て廊下を歩いて行った。
 なるほど………。
 ジジイに今の感情をあらわにして目を向けると、ニヤニヤと気分の悪い笑みを浮かべていた。
「チッ。」
 ………同類か。



 余計な事まで思い出してしまった。
「あとは解放門外探索者の選抜の時に、〈立候補した者は解放者選抜軍からの除外〉と言うエサを使った事と、〈もし立候補が出なければ俺が強制的に選抜する。拒否すれば老後最優先で解放者に選抜する〉というムチを使った事も一応言っておかないとな。」
 するとマイケルは「!?」と驚いた表情をした。
「そ、そんな事をして大丈夫なんですか!?」
 大丈夫に決まっている。
 なぜなら
「言っただろ。〈エサ〉だと。そんな事をするつもり最初からない。目の前のエサに釣られて周りの危険に気付けないやつを解放門外に連れて行けないからな。」
 すると解放門の周りでスケール役員がドタバタと作業をし始めた。
「さて、そろそろ急がないといけない。俺と一緒に解放門外の探索へ来てくれ。マイケル。」
 マイケルはメガネをかけ直すと、生唾を飲んで首を縦に振った。
「あと今回の生物の事は全て機密だ。市民やたとえスケール役員であっても権利持ちとその付き人以外には何も話すな、いいな?」
 そう言って俺は腕にかけていた防護服をマイケルに渡すと「分かりました。」と脇に立っていた役員から防護服を受け取った。



「お~いタナトス!」
「やっと来たか。」
 目の前には人1人分ほどあるロープの束を肩にかけた製造者最高責任者のヘーパイストスがいた。
「やっとじゃない!急に1番軽いロープをあるだけ一本に繋げて持ってこいとか言いやがって。…一体何に使うんだ。1500メートルほどあるぞ。」
 俺はロープの束を受け取ると、解放門に入ってすぐの場所に投げ入れた。
「解放門は地上に繋げるために螺旋状の階段になっている。そのため筒状に伸びる階段の中央は付き抜けていて、ここから地上までが直接繋がっている。」
 するとマイケルが「あぁ!」と俺の考えを理解した様子で笑みを浮かべた。
「俺たちはロープの橋を持った状態で階段を登る、つまりロープが伸びていく限り俺たちは生きていると言う事だ。」
 ヘーパイストスは一瞬感心するように驚いた表情を見せたが、すぐに渋い表情へと変わり。
「ロープが伸びなくなれば………どうすればいい。」
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