死神と呼ばれた俺は聖母と呼ばれた彼女に恋をした。

尾高 太陽

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~始まりの異変~

ーいつか理解できる日がー

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「ロープの下の端は固定して置いてくれ。休憩をする時は上から赤光石を投げる。もしロープが足りない、もしくは赤光石がなくなって、まだ先に進む時はロープにこの鈴を通して下に落とす。」
 俺はポケットから紐付きの鈴を取り出す。
 するとヘーパイストスは「そこでは無い」とでも言いたいのか、少し身を乗り出した。
「待て。言いたい事は分かる。もし帰れなくなれば何らかのモーションをおこす。石が落ちれば休憩、鈴が落ちればロープは止まるが探索、それ以外なら帰れない。覚えておけ。」
 ヘーパイストスは〈帰れない〉の意味に顔を暗くしたが、すぐに「分かった」と頷いた。
「あと、もし帰れなくなればこの扉をすぐに塞いでくれ。爆薬を使って解放門を崩しても構わん。」
 そう言って俺は旧文明解読者と製造者が協力して作った筒状の爆薬をヘーパイストスに渡す。
「火薬量は最大にしてある、これ1つで足りるだろう。」
 その威力を聞いたヘーパイストスは、腕を伸ばして体から爆薬を遠ざけた。

「俺らは着替えてくる。階段の下には最低でも1人を置いてくれ、常にロープを見張る奴がいないとな。」
 そして俺とマイケルは、解放門近くに仮で建てられた布製テント。新生物対策作戦拠点に入った。



「それはなんだ?」
 服を脱いだマイケルは服の中に隠れていた四角の箱を机の上に置いた。
「これは射影機と呼ばれるその場の景色を紙に映し出す物です。これの小型かつ高品質化したカメラというものもあるようなのですが、射影機の時点でもう量産は無理でして。」
 まぁ、景色を記録する必要もない世界だしな。
「でも今はそれがあるおかげで生物を記録できるわけだ。」
「私は旧文明時代の生物は大まかですが記憶しています。ですがやはり詳しく調べないといけない場合もあるので。」
 そう言ってマイケルはガスマスクを付けて、防護服の透明な頭の部分に頭を入れた。
「少し息苦しいですね。」
「まぁ残留害物質を防ぐだけの物だからな、っ。」
 そして俺もガスマスクを付け、防護服に頭を入れた。
「マイケル後ろを向け、しめてやる。防護服の関節可動域は狭いからな、背中まで手が届かない。」
 俺はマイケルの背中のチャックを閉める。
 「ありがとうございます」とマイケルはすぐに俺の後ろに回り、防護服服の閉めてくれた。

「これでいいか?」
 仮拠点から出ると、数人のスケール役員が俺とマイケルの服を隅から隅までチェックし始めた。
「問題ありません。致死量でなければ、これで3日は害物質を完全に防げます。」
 往復を考えるとタイムリミットは1日半か。

「タナトス様!」
 声の方を向くと、防護服を着たベルセルクがいた。
「ベルセ………。」
 急に叫んだからだろう、ベルセルクの防護服の透明な部分が真っ白に曇っていた。
「あれ?タナトス様?タナトス様!?何も見えません!例の生物ですか!?」
 と、勝手にパニックになっていくほど白く、濃く曇っていく。
「一度落ち着け。」



「このロープが伸び続けている限りは無事だ。」
 と、インの背負うリュックに固く縛り付けたロープを見せる。
「ロープの下の端はヘーパイストスにでも縛っておけ。」
 「おい!!」というヘーパイストスの言葉にそれを聞いていた奴らが笑った。
「石は休憩、鈴は続行、それ以外なら防ぐ。もし戻れないのなら必ずなんらかのモーションをおこす。最悪この体ごと落ちてでも。」
「タナトス様!?」
 後ろでワーワーとベルセルクが何かを言っているが、何も聞こえない事にした。
「何かあればトーマス、頼むぞ。」
 するとトーマスは俺たちを安心させようとでもしているのか、ぎこちない笑みを浮かべた。
「フッ………行ってくる。」
 そう言って、俺、ベルセルク、イン、ボックス、ジグムンドの順番で解放門の外へと出た。



「タナトス様が笑ったの初めて見ました…。」
 と、トーマスさんはヘーパイストスさんに話しかける。
「そうでもないぞ?会議の時も見ただろうが、あいつは人を思い通りに動かした時に邪悪な笑みを浮かべる。」
 「邪悪……」とトーマスさんは顔を引きつらした。
 確かにあの笑みは邪悪そのものですね。
「まああいつは職業柄、人と会話をしないからな。誰にも理解されず、誰にも感謝されず、誰にも必要とされない、される必要がない………とでも思っているんだろうな。」
 そう、タナトスさんの目はいつも違う何かを見ていた。
 扉の隙間からたまにこちらを覗くだけで、誰にも覗かせない。
 その苦しさを知っているから、誰にもその苦しみを与えたくない。その苦しみを誰かに渡して苦しむなら、たった1人で苦しみ続ける。
 あなたは誰よりも他者を愛し、誰よりも自分の事が嫌いなのですね。
 最も危険な解放門外への探索。
 解放門の血痕を見る限り、例の生物はシェルター内に侵入していない。
 その危険な解放門外の探索は自らの身を守れる付き人だけでの編成、それなのに訓練すら受けていない貴方は迷いなく外に行く事を決めていた。
 でも大丈夫、いつか私が貴方を抱きしめた理由を理解できる日がきっとくる。
 だってほら。
「でもまぁ。あんな表情の柔らかいタナトスは俺も初めて見る。」
 そう言ってヘーパイストスさんは安心したような目で、トーマスさんは信頼した目でタナトスさんの背を見送り。
 その他のスケール職員も、全員タナトスさんの背中を心配そうに眺めていた。
 そしてタナトスさんの隣にはタナトスさんを信頼、心配している付き人がいる。
 これほどまでに貴方は、理解されているのだから。
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