迷作集

尾高 太陽

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 仕事終わり。駅前の布教看板の〈夢〉という字を見てふと昔の事を思い出した。

 私の小学生の頃の夢はサッカー選手だった。
 朝起きて練習をして、休み時間に練習をして、放課後練習をして。
 私の時間の大半をサッカーに捧げた。

 中学生の頃の夢はサッカーの名門高校に入学する事だった。
 サッカーで推薦を取って高校に行くと意気込んでいた私は他の小学校から来た同級生との力の差に圧倒された。
 この時、努力だけでは才能という不平等には逆らえない事を知った。
 そして私は努力を裏切らない〈勉強〉に依存した。
 勉強をすればするだけ成績が伸びる。
 努力が結果に出る勉強はいつしか夢となっていた。

 高校生の時の夢は名門大学に入学する事だった。
 志望高校に入学できた私はダラダラと続けていたサッカーをやめて勉強に専念した。
 そして高校初のテスト。
 9位だった。
 1位がいつも寝ているアイツだと知った時、あらゆる全てにおいて才能を持った人間がいる事を知った。

 大学生の時の夢は彼女を作る事だった。
 なんとか滑り止めに入学した私は小中高で出来なかった恋愛に夢見た。
 そして1人の女性に恋をした。
 彼女の目を少しでも引くために様々な方法を試した。
 昔していたサッカーで好成績を取ろうとした。
 勉強で好成績を取ろうとした。
 しかしそんな事をしている間に彼女は顔立ちの整った男と交際した。
 この時、生まれ持った顔すらも才能だという事を知った。

 大学を卒業した私は大手企業に就職した。
 今となっては夢を追いかけて。叶わず、叶い、妥協し、叶わなかった事はいい思い出だ。
 人の夢は儚い。しかし儚いからこそ輝くのかもしれない。あの時の私はその事に気付くことが出来なかった。そして気付く事なくここまで来てしまった。
 だからもし、もし神がいるのなら。



 どうか私に…夢を返してくれ。
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