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第5章 相思
涙の向こう側
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その日、久遠は朝からそわそわして落ち着きがなかった。
朝食後すぐ知らせがあり、早馬の伝令が到着して、俄率いる遠征隊が今日の昼過ぎに大門に帰還すると伝えたのだ。
(とっくにお昼過ぎてるよ…まだかな?そろそろかな?)
静夜には真っ直ぐにここに来るよう伝えられているはずなので、久遠は何もせず寝て待っていてもよかったのだが、静夜が帰ってくると思うとつい居ても立ってもいられなくなり、始終病室をうろうろしたり、見えもしないのに窓の外を眺めたり、身づくろいやお茶の用意は大丈夫か何度も確認したりと無意味に忙しく動き回っていた。
(戦地に赴いた恋人の帰りを待つのってこういう気持ちなのか…歌や本の中でしか知らなかったなぁ…)
どきどきしている胸に手を置いて今か今かと待ちわびていると、突然廊下の奥から早足の靴音が聞こえてきた。はっとして振り向いた瞬間、扉が勢いよく開く。
迦楼羅を背負った静夜がそこに立っていた。
「久遠…」
どういう感情なのかわからない目でじっと凝視され、今更気恥ずかしくなって久遠はつい照れ隠しにぎこちない笑顔を作った。
「…静夜、あのときは助けてくれてありがと…げ、元気してた?」
「…」
静夜は何も答えないまま真顔と大股でずんずんと近づくといきなり無言でがばと久遠を抱擁した。
「んんっ…!!」
驚きつつも嬉しくて、おとなしく目を閉じ、たくましいその肩に埋まる。
(…気持ちいい…)
背中を締めつける腕にさらに少し力が込もったと思った途端、静夜が小さく呻き声を漏らしたので、久遠は焦って身体を離した。
「…そうだ、静夜おまえ、肋骨にひびが入ってるって…!大丈夫か?」
「ああ。…大丈夫」
軽く眉根を寄せて微笑むその顔は少し痩せ、疲れを溜めているように見える。しかしその瞳は古い呪縛から解き放たれた清々しさからか、はたまた日々の充実感からか、濁りなくきらきらと輝いていた。久遠は彼の表情に安堵すると腕の中でその胸に手を当てた。
「そのままじっとしてろ…」
柔らかい金色の光が注がれると静夜は痛みがぬくもりに溶けて消えていくように感じた。
「君のその力は…」
「天地神煌…毎日少しずつ特訓してる。でも今はその話はいい…とにかくよかった。おまえが元気そうで」
久遠は白い手で静夜の頬を優しく撫で、心の底から満面の笑顔になった。
「お帰り、静夜。遠征、お疲れ様」
「久遠…君も…お帰り」
頬を包む久遠の手を包み返すと静夜は万感胸に迫り、たまらなくなってまた彼を抱きしめた。
「心配した…いろいろなこと…すべてのこと…でも今君の顔を見て、声を聞いて、やっと安心した…」
「心配かけてごめん。もう無茶はしないから…」
ようやく二人は互いに背を向けた本当の理由を素直に打ち明けた。
「聞いてくれ、久遠…君の心を傷つけてしまって本当にすまなかった…本当の気持ちをきちんと話さず君と向き合わなかったことも…謝って済まされるものじゃないことはわかってる。ただあのときは、記憶が戻り真実が明らかになったことでもう俺に君の側にいる資格はないと、せめて君の大切なお姉さんである永遠にひどい行いをしたことに対して償いをすることで君に報いようと思ったんだ」
「じゃあ、最初から姉さんじゃなくて僕を…?」
静夜はきっぱりとうなずいた。
「その後は君を突き放し、君の心が俺から離れることで君への未練を断ち切ろうとした…だがそれがかえって君を傷つけてたんだな…」
「もういいよ、そんなの…僕もおまえと姉さんのこと、勝手に勘違いしていじけてた…おまえが僕の手の届かないところに行ってしまいそうで怖かったんだ。その上、ご両親のお墓参りのこと…あまりにもひどい言い方をした…ごめん…本当に…」
静夜は優しく、ゆっくり首を振る。
「君が誤解したのも無理はない。元はと言えば俺がはっきり態度を示さなかったことが原因なんだ。ぶつかるのを避けて、つまらない意地を張って…結果、君を苦しめ追いつめることに…」
「僕たち、すごく回り道して時間をかけちゃったんだね。これからは、二人の時間、大事にしよう」
頑固に押し固められていた気持ちが、今は驚くほどするすると唇から紡ぎ出されていき、それとともに二人の心も軽くなっていった。勇気を出して率直に話せば事実は何ということはなかったのだ。言いたいことは言葉で表さなければ伝わらないとギルの一件でわかっていたはずなのに。
「なあ静夜、いつか僕を潭月の郷に連れてってくれるか?おまえのご両親のお墓にご挨拶したいんだ。おまえを生んでくれた大切なお二人に…」
「ああ、もちろん。両親も楽しみに待ってると思う」
「うん!」
二人の間に温かで朗らかな笑顔が輝いた。
「…永遠に言われた、君が好きなら恐れずに立ち向かい、自分の気持ちにちゃんとけじめをつけろと。俺は記憶を失くし、生まれてから一番まっさらで純粋な心で君を好きになった。君の目に確かに俺は別人のように映ったかもしれないが、俺のこの気持ちは記憶を取り戻した今も少しも変わらない。どちらも本当の俺なんだ」
「静夜は?天地神煌に目覚めた僕が、もう自分が知ってる僕じゃない、変わってしまったって思わない?」
「どちらでも変わらない。どちらも本当の君だ」
ーー君は君らしくありのままでいい…。
物心ついてからこれまで自己肯定感が持てず、自分の未来を諦めていた久遠は、二度の言葉の贈り物に初めて魂ごと救われる思いがした。
「ありがと、静夜…」
静夜はうなずいた後、急に真面目な顔つきで久遠の顔を覗き込んだ。
「それで?」
「へ?」
「俺は君に自分の気持ちを伝えた。でも君はまだはっきり返事をしてくれていない」
「あっ…」
そう言えば、と気づいた途端、静夜はさらに近く、久遠の瞳の中を深く探るように見つめてくる。とっくに知れたひと言を、わざわざ催促しているのだ。それでもやっぱり言うべき言葉はちゃんと言わなきゃな、と肩の力を抜き、飾らず、気取らず、久遠は告げた。
「静夜…僕も、おまえが好きだ…」
「…」
静夜は意表を突かれたように灰色の瞳を大きくしている。
(え?何だよその顔…言えって言ったのはそっちだろ?)
唇を尖らせてしきりに小首を傾げていると静夜は今度は可笑しそうに表情を崩し、ささやいた。
「まったく、君は…つくづく不思議な人だ…」
「はあ?それどういう…っ!」
三度強く抱きしめられて息ができなくなる。訳がわからず目を白黒させるも、これでもかと与えられる身体の熱と力強さにすっかり参ってしまい、あっさりぼやきを引っ込めた。そうして互いの背中に手を回ししばし睦まじく抱き合っていると…
「ごほんっ!」
『!!』
後ろからわざとらしい大きな咳払いの声が聞こえて久遠と静夜は飛び上がるほど驚いた。
扉の方を見ると、いったいいつからそこにいるのか、俄と瞬が戸枠にもたれかかってにやにや笑いを浮かべながらこちらを眺めていたので、二人は急いで身体を離した。
「俄様、それに瞬様!」
「いつの間に…」
「扉を開けっぱなしにしていちゃついておいて、なんだその顔は」
「二人の世界の邪魔をして大変申し訳ないけど、そろそろ礎主の僕にも可愛い弟子の顔色を確かめさせてもらえないかな」
「もちろんです」
静夜は立ち位置を瞬に譲る。
「顔をよく見せて、久遠」
「はい」
久遠は頬にまだ熱を残したまま顔を上げた。こうして瞬の顔を見るのも久しぶりだ。
「うん、あのときよりもずっといい顔をしている。…心配したよ」
「…ご心配をおかけして申し訳ありませんでした」
殊勝な様子で見つめる久遠の頭を撫でて瞬は微笑む。
「まさかおまえが天地神煌の宿主だったとは…その覚醒の時に立ち会えて感慨深いよ。しかも静夜くんと仲直りして気持ちを確かめ合えたみたいで、喜ばしい限りだ。彼は瑪瑙の窟に乗り込む前も、遠征の間も、ずっとおまえのことを気にかけていたから。…でも」
「でも?」
瞬は今度は静夜の肩に親しげに手を回して、悪びれもせずこう言った。
「君と一緒にいたいとあれほど情熱的な告白をした舌の根も乾かないうちにおまえを僕に押しつけて自分は残ると言うのだから、彼は存外悪い男かもね」
意味ありげな視線と笑みを送ってくる瞬に静夜は歯切れ悪く弁解した。
「それは…俺が付き添っても何もできませんし、瞬様が大森林まで運んでくださるなら安心だと思ったからで…」
「何もできないなんて、そんなことないぞ。もしおまえが付き添ってくれてたら、たとえ気絶しててわからなくても僕は嬉しい。もちろん、みんなから慕われる部下思いのおまえも最高に自慢できるけど」
「久遠…」
「もうそこまで、そこまで!」
俄がぱんぱんと手を叩いて話に水を差した。
「惚気はもう結構。後で二人だけで存分にやってくれ。数日は休みがあるし、曜と界がおまえに面会しようとさっきからずっとそこで待ってるんだ」
「すみません…」
「そうそう、彼方から伝言。おまえが目覚め、僕たち遠征隊も帰還したということで、明日の午前琥珀の館で報告会を行うそうだ。今回の遠征で摑んだ情報や判明した事実がいろいろ聞けるよ」
「そんなにいろんなことが?」
隣に立つ静夜を見上げると、彼は先ほどまでとは打って変わって真剣な面持ちでうなずいた。自分が何も知らずに療養している間に事態は刻一刻と動き続けていたのだ。
(静夜と想いが通じ合えたからって浮かれてる場合じゃない…天地神煌に目醒めた今、本当に姉さんの言ってたとおり、僕も今後の運命を左右するいくつもの力のひとつになったんだ。…きちんと向き合っていかなきゃ)
「わかりました」
そう答えたとき静夜が自分の気持ちを察し励ますようにしっかりと肩を抱いてくれたので、久遠はこの上なく頼もしく思い、二人はまた笑顔を交わしたのだった。
その後ようやく順番が回ってきて入室を許された曜と界と再会を喜び合い、さらに永遠が暁良と耶宵を連れてきて、久遠の病室は夕方まで話し声と笑い声が途切れることはなかった。
翌朝、琥珀の館の宇内のもとには呼び出しを受けた関係者たちが続々と集まってきていた。久遠と永遠と静夜はもちろん、十二礎主に彼方と麗、曜と界、さらには暁良が特別に大森林に入る許しを得て参加していた。
「今回の遠征の結果明らかになったことで最も重大と思われるのは、瑪瑙の窟で行われていた煌気移植の技術と設備がすでに確立され、他の拠点に普及していることです」
「今回解放した研究拠点で僕たちは瑪瑙の窟で見た設備とまったく同じものを実際に目撃しました」
総大将の俄と副将の瞬が主体となって報告会は進む。
「こちら側としては瑪瑙の窟の実験室が万全の管理体制のもと保全、調査されているので、今回新たに判明した設備はすでに破壊し、実験体として捕らえられていた人間たちも救出して野営地に収容しています」
「ただこれは氷山の一角に過ぎず、我々が想像しているよりも遥かに多数の煌人と狂人がすでにどこかに潜伏、または徘徊している可能性が高いと思われます」
俄の示した見解に他の十二礎主たちは一斉にざわめいた。
「瞬のもたらした知らせで狂人の存在を初めて知り、これは由々しき事態だと思っていたが、黄泉と明夜の計画がまさかそこまで進行しているとは…」
「捜索隊を編成し派遣するべきだろうか?」
「しかし瑪瑙の窟の管理と調査、それに救出された人間たちの移送や看護にすでにかなりの人員を割いていて、そんな余裕は…」
聞くにつけ久遠は静夜の心中が案じられ、隣に座る彼の横顔をちらりと窺い見た。再会を果たした昨日はうちとけた雰囲気を乱したくなかったのか、静夜は遠征の成果については何も口にしなかった。今彼は唇を噛み、硬い表情で何事かじっと考え込んでいる。
(静夜…また責任を感じて…)
刺々しく露骨に静夜を責める者はもういないが、彼はやはりその計画に加担したひとりには違いない。彼の向こう側に控えた暁良もいたたまれない様子で肩を縮めている。ただでさえ美しく神秘的な風貌の原礎の要人たちに囲まれて緊張しているのに、この上さらに厳しい尋問を受けて晒し者にされているように苦しげな顔つきだ。
(過去の罪はけして消えない…こればかりは誰にも、どうしようも…)
久遠は昨日静夜が自分にしてくれたように今度は自分が彼に寄り添う気持ちで彼の手に手を重ねた。そして顔をこちらに向けた彼に、大丈夫、と目で励ましを送った。
「…」
静夜は無言のまま薄い微笑みだけ浮かべて応えた。
「居場所や人数がはっきりしない以上、広大な範囲を闇雲に捜し回ることに人員を割くのは賢明ではない。星養いの旅をする同胞には、瞬が久遠を連れ帰って一報をくれた時点で煌人と狂人への注意を促し、発見し次第可能な限り捕縛を試みるよう通達している。その際に応援や対応の要請が来ればその都度一個小隊を速やかに派遣できるよう、十二礎主には人選や装備面で備えておいてもらいたい」
「承知いたしました」
宇内の指示に十二礎主たちはうなずいたが、そのうちのひとりがこう懸念を示した。
「煌狩りの拠点の解放が進捗しているのは結構だが、最たる懸案事項は黄泉の動向だ。いくらこちらが拠点を奪っても、肝心の首謀者が野放しのままでは、いつまで経っても根本的な解決にならないのではないか?」
別の者も同調する意見を述べる。
「私もそう思います。こちらには天地神煌が使えるようになった久遠がいますし、拠点をひとつずつ地道に潰して回るより、いっそここは一気呵成に本拠地の攻略に打って出るのもひとつの選択肢かと」
居並ぶ出席者の間に動揺とざわめきが広がった。黄泉の本拠地とは即ち黒玉の城である。そこに攻め込むということはつまり長きに渡る平和を破り、安穏の中に守られてきた同胞たちを戦に駆り出すということだ。もしそれが現実になれば大森林の歴史上の重大な分岐点になるが、久遠が聞き咎め鼻白んだのはその点ではなかった。
(今まで僕のことさんざん低能呼ばわりしてたくせに、戦力になるとわかった途端に最前線に突き出す気満々なんだな…まったく、都合がいいんだから)
これまでの評価と扱いを思い出し、久遠は内心唇を尖らせた。
(それに静夜が満身創痍で休まず頑張ってるっていうのに自分たちは安全なとこで守られて言いたいだけ言って…瞬様と俄様は別にしても、さすがに態度がでかくないか?)
静夜の体調と精神状態が心配になって再び彼の横顔を見たちょうどそのとき、静夜は控えめな声量と抑揚ながら堂々と発言した。
「確かに、拠点を押さえてもこちら側に利点や収穫はさしてありません。しかし黄泉の戦力の供給源を減らし、その勢力を少しでも削ぐという点では意義はあると思います。少なくとも俺自身は、時間がある限り、たとえ小さな成果でも少しずつ積み重ねていくつもりです」
(静夜はあくまで実働に徹する気なんだな)
現場で汗や血を流すことではなく頭を使い弁舌を揮うことが要職にある者の役割だし、いざとなればすべての責任を負うのは彼らだ。外に出て戦いたがる瞬と俄の方が異色の存在であるとも言える。久遠はそれぞれの立場を慮り、また何を言われても感情的にならず常に己の主義主張を貫いている静夜の手前、仮に心の中だけでも悪態をつくのはやめにした。すると彼方が静夜の支持に回った。
「煌人と煌狩りの構成員を減らし、さらに火天の製造数を減らすことで黄泉の戦力は倍々に減じていくと考えられます。同時に聴取した構成員や博士から新たな情報も得られていますので、静夜くんたちの仕事は近道ではありませんが非常に実りのあるものになっています」
静夜と彼方の発言によって俄と瞬も体面を保つことができたらしく、二人とも溜飲を下げたように得意満面だ。さらに永遠がしれっと澄ました顔で言い放った。
「それに久遠はまだ天地神煌を使いこなせる段階ではありませんので、今は戦力としてあてにするべきではないと私は思います。実際に黒玉の城の攻略に乗り出すかどうかは宇内様と礎主の方々による決議次第になると思いますが」
(姉さんはほんと痛いとこ突いてくるなあ。これは近々退院したら急いで真剣に修行しないと…僕を馬鹿にしてきたみんなを見返すためにも)
そのとき瞬が言った。
「新しい情報と言えば、瑪瑙の窟から姿を消した黄泉の居場所がわかりました。拘束した博士たちの証言です」
「黒玉の城だろう?」
「いや、違います。彼が今いるのは永久煌炉というところだと」
「永久…煌炉?」
初めて聞く名に久遠が首を傾げると、俄が答えた。
「黄泉が最近掘り起こした、封印されていた古代の最大の溶鉱炉らしい。伝承によればそれは不滅の炎ではなく煌気そのものが大量に、永久に燃え続ける場所で、滅びた文明の繁栄の基礎だったとか」
不吉な響きを帯びた俄の説明に一同は再びざわめく。
「静夜殿が煌狩りを抜け煌気の供給が途絶えた黄泉はこれまで溜め込んだ煌気を最大限に利用するため、瑪瑙の窟を留守にしてまで永久煌炉の復活に腐心していたということですか」
「黄泉の野望の新しい中枢になる永久煌炉を攻めるか、今存在する武力の供給源を減らすか…難しい判断だな」
「久遠は天地神煌に熟達しておらず、森羅聖煌を持つ永遠も未だ本調子ではない。あらゆる準備が整っていない今、この場ではこの議題に結論を下すことはできない。十二礎主の面々には熟慮の上、検討を重ねておいてもらいたい」
宇内が話をまとめると会議は次の話題に移った。
「瑪瑙の窟から回収した迦楼羅に関する明夜の蔵書は賢人集団によって目下精査中です。ただすべての内容を把握し究めるのは非常に困難であるため、まだしばらく時間がかかるものと思われます」
迦楼羅の話が出たところで礎主のひとりが久遠に言った。
「そうだ、久遠、あなたの天地神煌で迦楼羅を破壊できませんか?静夜くんが帰還したらぜひ試してもらいたいと思っていたのですが」
「…ああ」
その件については久遠自身も目覚めて気持ちが落ち着くにつれて自然と考えるようになっていた。天地神煌は永遠の森羅聖煌や瑞葉の精髄をも遥かに凌ぐ至高の力だからだ。試してみない手はない。
「どうだ、久遠。やってみてはくれぬか」
「静夜さえよければ、やってみましょう。…静夜、どうする?」
「もちろん、試してみてくれ」
互いに了解を得た二人は椅子から腰を上げた。胸を張ってテラスの中央に進み出る久遠に誰もが期待の視線を注いだが、久遠本人は天地神煌に自信を抱く一方で、とある可能性においてあまり期待を持っていなかった。
抜き身の迦楼羅を横向きに両手に持った静夜と、向かい合って立つ。
(これで片がつけばこんなに楽なことないんだけど…だとしたら僕たちの今までの努力や苦悩は何だったんだろう)
それはそれで口惜しい気もするのはただただ身勝手ってもんだよな、などと考えながら、覚悟の決まったように真剣な静夜の目を真っ直ぐに見上げた。
「じゃあ、いくよ」
「うん」
久遠は迦楼羅に両掌をかざし、集中力を込め、病室で連日ひそかに特訓してきたように天地神煌を発動させた。七色のきらめきを帯びた金色の光が掌からあふれ出し、風圧のない風で久遠の金髪と静夜の黒髪を吹き上げてテラスの中央から森の上空高く立ち昇った。初めて目にする天地神煌の発現の様を、全員が固唾を呑んで見守っている。久遠は今発揮できるありったけの煌気を迦楼羅の剣身に捩じ込むような意識で振り絞った。天地神煌を注がれた迦楼羅は輝きを強め始め、あたかも二人の間に小さなひとつの星が墜ちてきたかのように強烈な光を放ち、とうとう目も開けていられなくなったとき、突然天地神煌の光は消え失せた。久遠が自身の判断で煌気の注入をやめたのだ。辺りは午前の澄み切った陽光にみるみるうちに包まれ、天地神煌に比べればほどよく柔らかな明度が皆の視力を癒した。
迦楼羅はまったくの無傷のまま静夜の両手の上に横たわっていた。
しんと静まる空気の中、ぱちぱちと目を瞬いて物問いたげな顔で見つめてくる衆人たちに久遠はあっけらかんとしてこう言い放った。
「無理ですね」
出席者は一斉に色めき立ちたちまち騒然とした。
「それはおまえがまだ天地神煌に練達していないからでは?これから修行を積んで天地神煌を自分のものにすれば無理ではないかも」
「それか、ここにいる原礎全員の煌気を操り叩き込めば…あるいは大森林中の同胞たちを一箇所に集めて改めて再挑戦するとか…」
なんとかして自分をその気にさせ物事を円滑に楽に進めようと躍起になっている十二礎主たちが滑稽に見えて思わず失笑しそうになりながら久遠は答えた。
「いえ、そういうことではなく、根本的に無理なんです。実は少し前からそうじゃないかとは思ってたんですが、今実際にやってみてはっきりわかりました。迦楼羅は空から降ってきた黒い星を鍛えて作られたって話は聞いてますよね?つまりこの星の外から来た物質で作られたので、この星の礎から生まれる煌気の干渉を一切受けないんです」
逆を言えばこの星の物質で作られたアグニや火天は煌気で破壊できるということだ。久遠の見解に一同は腕を組んで深いうなり声を発した。
「なんと…天地神煌でも破壊がかなわないとは…」
「珠鉄の技術でも天地神煌でも不可能となると、これは…何か他に打つ手はあるのだろうか…」
書物の方が未だ研究の途中とは言え、これで迦楼羅の破壊はいよいよ手詰まりになった。久遠にとって最も気がかりなのは静夜の心情だった。久遠は自分の無力を素直に受け入れ、迦楼羅を鞘に収める静夜に、二人にしか聞こえない声でささやいた。
「ごめん、静夜…力になれなくて…」
静夜は理解にあふれた優しい瞳で久遠を見つめ返した。
「皆がひとつの目的のために心を砕き知恵と力を貸してくれただけで俺は十分だ。迦楼羅のことはこれからまた少しずつ考えていこう」
「…うん」
久遠は安堵とともにうなずいた。
「…」
二人が席に戻ってくると、永遠は小さな顎に指を置いて何事かじっと考え込んでいた。
「姉さん、どうかした?」
「ああ…いや、何でもない」
「?」
生返事の後も永遠は心ここにあらずといった表情で遠いどこかを見つめていた。
その後もいくつかの報告がなされ、最後に人間たちの野営地の問題が取り上げられた。
「拠点解放の際に煌狩りを抜けて静夜くんについてきた人間たちで野営地は規模を拡大しているそうですね」
「…はい」
質問を向けられた静夜は最近新たに降って湧いた悩みの種を思い出し、思わず眉を曇らせた。
「ご負担をおかけして申し訳ありません、まさかこれほどの人数になるとは思わなかったので…原礎の皆さんに不安を与えることがないよう、俺も見回りと注意喚起をしながら、それぞれ故郷に帰るなり新しい仕事を見つけるなりして独立するよう説得します」
静夜としては彼らを連れてきたのはあくまで一時的な避難のためで、彼らの支度が整い次第順次送り出すつもりが、大部分の者が静夜を慕って彼のいる大森林を離れようとしないので野営地の人口は増え続ける一方なのだ。大門の外とは言え彼らは原礎のお膝元の土地を占有し提供される物資を消費しており、そろそろ門衛や出入りする原礎たちの視線も冷たくなってきたように感じられて、静夜は恩義よりも後ろめたさと責任の意識の方が大きかった。
彼の表情にそれを見て取った宇内が鷹揚な物腰で言った。
「大森林の門前の野営地は看護を要する者と静夜殿が許可した者に限定し、他の人間たちは別の場所に移転してもらうことにしよう。ちょうど野営地から西に少し離れたところに定住と耕作に適した土地がある。行き場のない若者たちはそこに生活基盤を築けるよう、我々も引き続き協力するということでいかがかな」
「そうしていただけると助かります。ご高配に感謝いたします」
双方が納得できる案にほっとして少し表情を緩めた静夜の服の袖を久遠は軽く引っ張った。
「なあ静夜、暁良さんと耶宵さんは移転しないで野営地に残れるよな?」
「ああ。二人にはいろいろ頼んだり相談したりしたいから」
「だって!よかったね、姉さん」
「…」
永遠はまだ考え事に没入しているようで、目すら上げようとしない。すっかり上の空だ。久遠と静夜は不思議に思って顔を見合わせた。
少し長引いた会議はそこで終了し、出席者は銘々席を立って解散した。久遠が静夜に小声で話しかけた。
「迦楼羅は破壊できなかったけど、さっきの、二人の初めての共同作業みたいだったな」
「ああ。…それより大丈夫なのか?急にあんなにも力を使って」
「大丈夫。もうぶっ倒れて寝込むこともないし、煌礎水飲む必要もないんだから」
両拳を腰に当ててふんぞり返る久遠に、静夜はなぜか顔をしかめる。
「それは残念だな」
「なんで?」
「目を回して倒れた君を運んで介抱するのも割と楽しかったから」
「…言ってくれるなあ」
軽口が叩ける間柄に戻れたのも嬉しくて二人は微笑み合った。
朝食後すぐ知らせがあり、早馬の伝令が到着して、俄率いる遠征隊が今日の昼過ぎに大門に帰還すると伝えたのだ。
(とっくにお昼過ぎてるよ…まだかな?そろそろかな?)
静夜には真っ直ぐにここに来るよう伝えられているはずなので、久遠は何もせず寝て待っていてもよかったのだが、静夜が帰ってくると思うとつい居ても立ってもいられなくなり、始終病室をうろうろしたり、見えもしないのに窓の外を眺めたり、身づくろいやお茶の用意は大丈夫か何度も確認したりと無意味に忙しく動き回っていた。
(戦地に赴いた恋人の帰りを待つのってこういう気持ちなのか…歌や本の中でしか知らなかったなぁ…)
どきどきしている胸に手を置いて今か今かと待ちわびていると、突然廊下の奥から早足の靴音が聞こえてきた。はっとして振り向いた瞬間、扉が勢いよく開く。
迦楼羅を背負った静夜がそこに立っていた。
「久遠…」
どういう感情なのかわからない目でじっと凝視され、今更気恥ずかしくなって久遠はつい照れ隠しにぎこちない笑顔を作った。
「…静夜、あのときは助けてくれてありがと…げ、元気してた?」
「…」
静夜は何も答えないまま真顔と大股でずんずんと近づくといきなり無言でがばと久遠を抱擁した。
「んんっ…!!」
驚きつつも嬉しくて、おとなしく目を閉じ、たくましいその肩に埋まる。
(…気持ちいい…)
背中を締めつける腕にさらに少し力が込もったと思った途端、静夜が小さく呻き声を漏らしたので、久遠は焦って身体を離した。
「…そうだ、静夜おまえ、肋骨にひびが入ってるって…!大丈夫か?」
「ああ。…大丈夫」
軽く眉根を寄せて微笑むその顔は少し痩せ、疲れを溜めているように見える。しかしその瞳は古い呪縛から解き放たれた清々しさからか、はたまた日々の充実感からか、濁りなくきらきらと輝いていた。久遠は彼の表情に安堵すると腕の中でその胸に手を当てた。
「そのままじっとしてろ…」
柔らかい金色の光が注がれると静夜は痛みがぬくもりに溶けて消えていくように感じた。
「君のその力は…」
「天地神煌…毎日少しずつ特訓してる。でも今はその話はいい…とにかくよかった。おまえが元気そうで」
久遠は白い手で静夜の頬を優しく撫で、心の底から満面の笑顔になった。
「お帰り、静夜。遠征、お疲れ様」
「久遠…君も…お帰り」
頬を包む久遠の手を包み返すと静夜は万感胸に迫り、たまらなくなってまた彼を抱きしめた。
「心配した…いろいろなこと…すべてのこと…でも今君の顔を見て、声を聞いて、やっと安心した…」
「心配かけてごめん。もう無茶はしないから…」
ようやく二人は互いに背を向けた本当の理由を素直に打ち明けた。
「聞いてくれ、久遠…君の心を傷つけてしまって本当にすまなかった…本当の気持ちをきちんと話さず君と向き合わなかったことも…謝って済まされるものじゃないことはわかってる。ただあのときは、記憶が戻り真実が明らかになったことでもう俺に君の側にいる資格はないと、せめて君の大切なお姉さんである永遠にひどい行いをしたことに対して償いをすることで君に報いようと思ったんだ」
「じゃあ、最初から姉さんじゃなくて僕を…?」
静夜はきっぱりとうなずいた。
「その後は君を突き放し、君の心が俺から離れることで君への未練を断ち切ろうとした…だがそれがかえって君を傷つけてたんだな…」
「もういいよ、そんなの…僕もおまえと姉さんのこと、勝手に勘違いしていじけてた…おまえが僕の手の届かないところに行ってしまいそうで怖かったんだ。その上、ご両親のお墓参りのこと…あまりにもひどい言い方をした…ごめん…本当に…」
静夜は優しく、ゆっくり首を振る。
「君が誤解したのも無理はない。元はと言えば俺がはっきり態度を示さなかったことが原因なんだ。ぶつかるのを避けて、つまらない意地を張って…結果、君を苦しめ追いつめることに…」
「僕たち、すごく回り道して時間をかけちゃったんだね。これからは、二人の時間、大事にしよう」
頑固に押し固められていた気持ちが、今は驚くほどするすると唇から紡ぎ出されていき、それとともに二人の心も軽くなっていった。勇気を出して率直に話せば事実は何ということはなかったのだ。言いたいことは言葉で表さなければ伝わらないとギルの一件でわかっていたはずなのに。
「なあ静夜、いつか僕を潭月の郷に連れてってくれるか?おまえのご両親のお墓にご挨拶したいんだ。おまえを生んでくれた大切なお二人に…」
「ああ、もちろん。両親も楽しみに待ってると思う」
「うん!」
二人の間に温かで朗らかな笑顔が輝いた。
「…永遠に言われた、君が好きなら恐れずに立ち向かい、自分の気持ちにちゃんとけじめをつけろと。俺は記憶を失くし、生まれてから一番まっさらで純粋な心で君を好きになった。君の目に確かに俺は別人のように映ったかもしれないが、俺のこの気持ちは記憶を取り戻した今も少しも変わらない。どちらも本当の俺なんだ」
「静夜は?天地神煌に目覚めた僕が、もう自分が知ってる僕じゃない、変わってしまったって思わない?」
「どちらでも変わらない。どちらも本当の君だ」
ーー君は君らしくありのままでいい…。
物心ついてからこれまで自己肯定感が持てず、自分の未来を諦めていた久遠は、二度の言葉の贈り物に初めて魂ごと救われる思いがした。
「ありがと、静夜…」
静夜はうなずいた後、急に真面目な顔つきで久遠の顔を覗き込んだ。
「それで?」
「へ?」
「俺は君に自分の気持ちを伝えた。でも君はまだはっきり返事をしてくれていない」
「あっ…」
そう言えば、と気づいた途端、静夜はさらに近く、久遠の瞳の中を深く探るように見つめてくる。とっくに知れたひと言を、わざわざ催促しているのだ。それでもやっぱり言うべき言葉はちゃんと言わなきゃな、と肩の力を抜き、飾らず、気取らず、久遠は告げた。
「静夜…僕も、おまえが好きだ…」
「…」
静夜は意表を突かれたように灰色の瞳を大きくしている。
(え?何だよその顔…言えって言ったのはそっちだろ?)
唇を尖らせてしきりに小首を傾げていると静夜は今度は可笑しそうに表情を崩し、ささやいた。
「まったく、君は…つくづく不思議な人だ…」
「はあ?それどういう…っ!」
三度強く抱きしめられて息ができなくなる。訳がわからず目を白黒させるも、これでもかと与えられる身体の熱と力強さにすっかり参ってしまい、あっさりぼやきを引っ込めた。そうして互いの背中に手を回ししばし睦まじく抱き合っていると…
「ごほんっ!」
『!!』
後ろからわざとらしい大きな咳払いの声が聞こえて久遠と静夜は飛び上がるほど驚いた。
扉の方を見ると、いったいいつからそこにいるのか、俄と瞬が戸枠にもたれかかってにやにや笑いを浮かべながらこちらを眺めていたので、二人は急いで身体を離した。
「俄様、それに瞬様!」
「いつの間に…」
「扉を開けっぱなしにしていちゃついておいて、なんだその顔は」
「二人の世界の邪魔をして大変申し訳ないけど、そろそろ礎主の僕にも可愛い弟子の顔色を確かめさせてもらえないかな」
「もちろんです」
静夜は立ち位置を瞬に譲る。
「顔をよく見せて、久遠」
「はい」
久遠は頬にまだ熱を残したまま顔を上げた。こうして瞬の顔を見るのも久しぶりだ。
「うん、あのときよりもずっといい顔をしている。…心配したよ」
「…ご心配をおかけして申し訳ありませんでした」
殊勝な様子で見つめる久遠の頭を撫でて瞬は微笑む。
「まさかおまえが天地神煌の宿主だったとは…その覚醒の時に立ち会えて感慨深いよ。しかも静夜くんと仲直りして気持ちを確かめ合えたみたいで、喜ばしい限りだ。彼は瑪瑙の窟に乗り込む前も、遠征の間も、ずっとおまえのことを気にかけていたから。…でも」
「でも?」
瞬は今度は静夜の肩に親しげに手を回して、悪びれもせずこう言った。
「君と一緒にいたいとあれほど情熱的な告白をした舌の根も乾かないうちにおまえを僕に押しつけて自分は残ると言うのだから、彼は存外悪い男かもね」
意味ありげな視線と笑みを送ってくる瞬に静夜は歯切れ悪く弁解した。
「それは…俺が付き添っても何もできませんし、瞬様が大森林まで運んでくださるなら安心だと思ったからで…」
「何もできないなんて、そんなことないぞ。もしおまえが付き添ってくれてたら、たとえ気絶しててわからなくても僕は嬉しい。もちろん、みんなから慕われる部下思いのおまえも最高に自慢できるけど」
「久遠…」
「もうそこまで、そこまで!」
俄がぱんぱんと手を叩いて話に水を差した。
「惚気はもう結構。後で二人だけで存分にやってくれ。数日は休みがあるし、曜と界がおまえに面会しようとさっきからずっとそこで待ってるんだ」
「すみません…」
「そうそう、彼方から伝言。おまえが目覚め、僕たち遠征隊も帰還したということで、明日の午前琥珀の館で報告会を行うそうだ。今回の遠征で摑んだ情報や判明した事実がいろいろ聞けるよ」
「そんなにいろんなことが?」
隣に立つ静夜を見上げると、彼は先ほどまでとは打って変わって真剣な面持ちでうなずいた。自分が何も知らずに療養している間に事態は刻一刻と動き続けていたのだ。
(静夜と想いが通じ合えたからって浮かれてる場合じゃない…天地神煌に目醒めた今、本当に姉さんの言ってたとおり、僕も今後の運命を左右するいくつもの力のひとつになったんだ。…きちんと向き合っていかなきゃ)
「わかりました」
そう答えたとき静夜が自分の気持ちを察し励ますようにしっかりと肩を抱いてくれたので、久遠はこの上なく頼もしく思い、二人はまた笑顔を交わしたのだった。
その後ようやく順番が回ってきて入室を許された曜と界と再会を喜び合い、さらに永遠が暁良と耶宵を連れてきて、久遠の病室は夕方まで話し声と笑い声が途切れることはなかった。
翌朝、琥珀の館の宇内のもとには呼び出しを受けた関係者たちが続々と集まってきていた。久遠と永遠と静夜はもちろん、十二礎主に彼方と麗、曜と界、さらには暁良が特別に大森林に入る許しを得て参加していた。
「今回の遠征の結果明らかになったことで最も重大と思われるのは、瑪瑙の窟で行われていた煌気移植の技術と設備がすでに確立され、他の拠点に普及していることです」
「今回解放した研究拠点で僕たちは瑪瑙の窟で見た設備とまったく同じものを実際に目撃しました」
総大将の俄と副将の瞬が主体となって報告会は進む。
「こちら側としては瑪瑙の窟の実験室が万全の管理体制のもと保全、調査されているので、今回新たに判明した設備はすでに破壊し、実験体として捕らえられていた人間たちも救出して野営地に収容しています」
「ただこれは氷山の一角に過ぎず、我々が想像しているよりも遥かに多数の煌人と狂人がすでにどこかに潜伏、または徘徊している可能性が高いと思われます」
俄の示した見解に他の十二礎主たちは一斉にざわめいた。
「瞬のもたらした知らせで狂人の存在を初めて知り、これは由々しき事態だと思っていたが、黄泉と明夜の計画がまさかそこまで進行しているとは…」
「捜索隊を編成し派遣するべきだろうか?」
「しかし瑪瑙の窟の管理と調査、それに救出された人間たちの移送や看護にすでにかなりの人員を割いていて、そんな余裕は…」
聞くにつけ久遠は静夜の心中が案じられ、隣に座る彼の横顔をちらりと窺い見た。再会を果たした昨日はうちとけた雰囲気を乱したくなかったのか、静夜は遠征の成果については何も口にしなかった。今彼は唇を噛み、硬い表情で何事かじっと考え込んでいる。
(静夜…また責任を感じて…)
刺々しく露骨に静夜を責める者はもういないが、彼はやはりその計画に加担したひとりには違いない。彼の向こう側に控えた暁良もいたたまれない様子で肩を縮めている。ただでさえ美しく神秘的な風貌の原礎の要人たちに囲まれて緊張しているのに、この上さらに厳しい尋問を受けて晒し者にされているように苦しげな顔つきだ。
(過去の罪はけして消えない…こればかりは誰にも、どうしようも…)
久遠は昨日静夜が自分にしてくれたように今度は自分が彼に寄り添う気持ちで彼の手に手を重ねた。そして顔をこちらに向けた彼に、大丈夫、と目で励ましを送った。
「…」
静夜は無言のまま薄い微笑みだけ浮かべて応えた。
「居場所や人数がはっきりしない以上、広大な範囲を闇雲に捜し回ることに人員を割くのは賢明ではない。星養いの旅をする同胞には、瞬が久遠を連れ帰って一報をくれた時点で煌人と狂人への注意を促し、発見し次第可能な限り捕縛を試みるよう通達している。その際に応援や対応の要請が来ればその都度一個小隊を速やかに派遣できるよう、十二礎主には人選や装備面で備えておいてもらいたい」
「承知いたしました」
宇内の指示に十二礎主たちはうなずいたが、そのうちのひとりがこう懸念を示した。
「煌狩りの拠点の解放が進捗しているのは結構だが、最たる懸案事項は黄泉の動向だ。いくらこちらが拠点を奪っても、肝心の首謀者が野放しのままでは、いつまで経っても根本的な解決にならないのではないか?」
別の者も同調する意見を述べる。
「私もそう思います。こちらには天地神煌が使えるようになった久遠がいますし、拠点をひとつずつ地道に潰して回るより、いっそここは一気呵成に本拠地の攻略に打って出るのもひとつの選択肢かと」
居並ぶ出席者の間に動揺とざわめきが広がった。黄泉の本拠地とは即ち黒玉の城である。そこに攻め込むということはつまり長きに渡る平和を破り、安穏の中に守られてきた同胞たちを戦に駆り出すということだ。もしそれが現実になれば大森林の歴史上の重大な分岐点になるが、久遠が聞き咎め鼻白んだのはその点ではなかった。
(今まで僕のことさんざん低能呼ばわりしてたくせに、戦力になるとわかった途端に最前線に突き出す気満々なんだな…まったく、都合がいいんだから)
これまでの評価と扱いを思い出し、久遠は内心唇を尖らせた。
(それに静夜が満身創痍で休まず頑張ってるっていうのに自分たちは安全なとこで守られて言いたいだけ言って…瞬様と俄様は別にしても、さすがに態度がでかくないか?)
静夜の体調と精神状態が心配になって再び彼の横顔を見たちょうどそのとき、静夜は控えめな声量と抑揚ながら堂々と発言した。
「確かに、拠点を押さえてもこちら側に利点や収穫はさしてありません。しかし黄泉の戦力の供給源を減らし、その勢力を少しでも削ぐという点では意義はあると思います。少なくとも俺自身は、時間がある限り、たとえ小さな成果でも少しずつ積み重ねていくつもりです」
(静夜はあくまで実働に徹する気なんだな)
現場で汗や血を流すことではなく頭を使い弁舌を揮うことが要職にある者の役割だし、いざとなればすべての責任を負うのは彼らだ。外に出て戦いたがる瞬と俄の方が異色の存在であるとも言える。久遠はそれぞれの立場を慮り、また何を言われても感情的にならず常に己の主義主張を貫いている静夜の手前、仮に心の中だけでも悪態をつくのはやめにした。すると彼方が静夜の支持に回った。
「煌人と煌狩りの構成員を減らし、さらに火天の製造数を減らすことで黄泉の戦力は倍々に減じていくと考えられます。同時に聴取した構成員や博士から新たな情報も得られていますので、静夜くんたちの仕事は近道ではありませんが非常に実りのあるものになっています」
静夜と彼方の発言によって俄と瞬も体面を保つことができたらしく、二人とも溜飲を下げたように得意満面だ。さらに永遠がしれっと澄ました顔で言い放った。
「それに久遠はまだ天地神煌を使いこなせる段階ではありませんので、今は戦力としてあてにするべきではないと私は思います。実際に黒玉の城の攻略に乗り出すかどうかは宇内様と礎主の方々による決議次第になると思いますが」
(姉さんはほんと痛いとこ突いてくるなあ。これは近々退院したら急いで真剣に修行しないと…僕を馬鹿にしてきたみんなを見返すためにも)
そのとき瞬が言った。
「新しい情報と言えば、瑪瑙の窟から姿を消した黄泉の居場所がわかりました。拘束した博士たちの証言です」
「黒玉の城だろう?」
「いや、違います。彼が今いるのは永久煌炉というところだと」
「永久…煌炉?」
初めて聞く名に久遠が首を傾げると、俄が答えた。
「黄泉が最近掘り起こした、封印されていた古代の最大の溶鉱炉らしい。伝承によればそれは不滅の炎ではなく煌気そのものが大量に、永久に燃え続ける場所で、滅びた文明の繁栄の基礎だったとか」
不吉な響きを帯びた俄の説明に一同は再びざわめく。
「静夜殿が煌狩りを抜け煌気の供給が途絶えた黄泉はこれまで溜め込んだ煌気を最大限に利用するため、瑪瑙の窟を留守にしてまで永久煌炉の復活に腐心していたということですか」
「黄泉の野望の新しい中枢になる永久煌炉を攻めるか、今存在する武力の供給源を減らすか…難しい判断だな」
「久遠は天地神煌に熟達しておらず、森羅聖煌を持つ永遠も未だ本調子ではない。あらゆる準備が整っていない今、この場ではこの議題に結論を下すことはできない。十二礎主の面々には熟慮の上、検討を重ねておいてもらいたい」
宇内が話をまとめると会議は次の話題に移った。
「瑪瑙の窟から回収した迦楼羅に関する明夜の蔵書は賢人集団によって目下精査中です。ただすべての内容を把握し究めるのは非常に困難であるため、まだしばらく時間がかかるものと思われます」
迦楼羅の話が出たところで礎主のひとりが久遠に言った。
「そうだ、久遠、あなたの天地神煌で迦楼羅を破壊できませんか?静夜くんが帰還したらぜひ試してもらいたいと思っていたのですが」
「…ああ」
その件については久遠自身も目覚めて気持ちが落ち着くにつれて自然と考えるようになっていた。天地神煌は永遠の森羅聖煌や瑞葉の精髄をも遥かに凌ぐ至高の力だからだ。試してみない手はない。
「どうだ、久遠。やってみてはくれぬか」
「静夜さえよければ、やってみましょう。…静夜、どうする?」
「もちろん、試してみてくれ」
互いに了解を得た二人は椅子から腰を上げた。胸を張ってテラスの中央に進み出る久遠に誰もが期待の視線を注いだが、久遠本人は天地神煌に自信を抱く一方で、とある可能性においてあまり期待を持っていなかった。
抜き身の迦楼羅を横向きに両手に持った静夜と、向かい合って立つ。
(これで片がつけばこんなに楽なことないんだけど…だとしたら僕たちの今までの努力や苦悩は何だったんだろう)
それはそれで口惜しい気もするのはただただ身勝手ってもんだよな、などと考えながら、覚悟の決まったように真剣な静夜の目を真っ直ぐに見上げた。
「じゃあ、いくよ」
「うん」
久遠は迦楼羅に両掌をかざし、集中力を込め、病室で連日ひそかに特訓してきたように天地神煌を発動させた。七色のきらめきを帯びた金色の光が掌からあふれ出し、風圧のない風で久遠の金髪と静夜の黒髪を吹き上げてテラスの中央から森の上空高く立ち昇った。初めて目にする天地神煌の発現の様を、全員が固唾を呑んで見守っている。久遠は今発揮できるありったけの煌気を迦楼羅の剣身に捩じ込むような意識で振り絞った。天地神煌を注がれた迦楼羅は輝きを強め始め、あたかも二人の間に小さなひとつの星が墜ちてきたかのように強烈な光を放ち、とうとう目も開けていられなくなったとき、突然天地神煌の光は消え失せた。久遠が自身の判断で煌気の注入をやめたのだ。辺りは午前の澄み切った陽光にみるみるうちに包まれ、天地神煌に比べればほどよく柔らかな明度が皆の視力を癒した。
迦楼羅はまったくの無傷のまま静夜の両手の上に横たわっていた。
しんと静まる空気の中、ぱちぱちと目を瞬いて物問いたげな顔で見つめてくる衆人たちに久遠はあっけらかんとしてこう言い放った。
「無理ですね」
出席者は一斉に色めき立ちたちまち騒然とした。
「それはおまえがまだ天地神煌に練達していないからでは?これから修行を積んで天地神煌を自分のものにすれば無理ではないかも」
「それか、ここにいる原礎全員の煌気を操り叩き込めば…あるいは大森林中の同胞たちを一箇所に集めて改めて再挑戦するとか…」
なんとかして自分をその気にさせ物事を円滑に楽に進めようと躍起になっている十二礎主たちが滑稽に見えて思わず失笑しそうになりながら久遠は答えた。
「いえ、そういうことではなく、根本的に無理なんです。実は少し前からそうじゃないかとは思ってたんですが、今実際にやってみてはっきりわかりました。迦楼羅は空から降ってきた黒い星を鍛えて作られたって話は聞いてますよね?つまりこの星の外から来た物質で作られたので、この星の礎から生まれる煌気の干渉を一切受けないんです」
逆を言えばこの星の物質で作られたアグニや火天は煌気で破壊できるということだ。久遠の見解に一同は腕を組んで深いうなり声を発した。
「なんと…天地神煌でも破壊がかなわないとは…」
「珠鉄の技術でも天地神煌でも不可能となると、これは…何か他に打つ手はあるのだろうか…」
書物の方が未だ研究の途中とは言え、これで迦楼羅の破壊はいよいよ手詰まりになった。久遠にとって最も気がかりなのは静夜の心情だった。久遠は自分の無力を素直に受け入れ、迦楼羅を鞘に収める静夜に、二人にしか聞こえない声でささやいた。
「ごめん、静夜…力になれなくて…」
静夜は理解にあふれた優しい瞳で久遠を見つめ返した。
「皆がひとつの目的のために心を砕き知恵と力を貸してくれただけで俺は十分だ。迦楼羅のことはこれからまた少しずつ考えていこう」
「…うん」
久遠は安堵とともにうなずいた。
「…」
二人が席に戻ってくると、永遠は小さな顎に指を置いて何事かじっと考え込んでいた。
「姉さん、どうかした?」
「ああ…いや、何でもない」
「?」
生返事の後も永遠は心ここにあらずといった表情で遠いどこかを見つめていた。
その後もいくつかの報告がなされ、最後に人間たちの野営地の問題が取り上げられた。
「拠点解放の際に煌狩りを抜けて静夜くんについてきた人間たちで野営地は規模を拡大しているそうですね」
「…はい」
質問を向けられた静夜は最近新たに降って湧いた悩みの種を思い出し、思わず眉を曇らせた。
「ご負担をおかけして申し訳ありません、まさかこれほどの人数になるとは思わなかったので…原礎の皆さんに不安を与えることがないよう、俺も見回りと注意喚起をしながら、それぞれ故郷に帰るなり新しい仕事を見つけるなりして独立するよう説得します」
静夜としては彼らを連れてきたのはあくまで一時的な避難のためで、彼らの支度が整い次第順次送り出すつもりが、大部分の者が静夜を慕って彼のいる大森林を離れようとしないので野営地の人口は増え続ける一方なのだ。大門の外とは言え彼らは原礎のお膝元の土地を占有し提供される物資を消費しており、そろそろ門衛や出入りする原礎たちの視線も冷たくなってきたように感じられて、静夜は恩義よりも後ろめたさと責任の意識の方が大きかった。
彼の表情にそれを見て取った宇内が鷹揚な物腰で言った。
「大森林の門前の野営地は看護を要する者と静夜殿が許可した者に限定し、他の人間たちは別の場所に移転してもらうことにしよう。ちょうど野営地から西に少し離れたところに定住と耕作に適した土地がある。行き場のない若者たちはそこに生活基盤を築けるよう、我々も引き続き協力するということでいかがかな」
「そうしていただけると助かります。ご高配に感謝いたします」
双方が納得できる案にほっとして少し表情を緩めた静夜の服の袖を久遠は軽く引っ張った。
「なあ静夜、暁良さんと耶宵さんは移転しないで野営地に残れるよな?」
「ああ。二人にはいろいろ頼んだり相談したりしたいから」
「だって!よかったね、姉さん」
「…」
永遠はまだ考え事に没入しているようで、目すら上げようとしない。すっかり上の空だ。久遠と静夜は不思議に思って顔を見合わせた。
少し長引いた会議はそこで終了し、出席者は銘々席を立って解散した。久遠が静夜に小声で話しかけた。
「迦楼羅は破壊できなかったけど、さっきの、二人の初めての共同作業みたいだったな」
「ああ。…それより大丈夫なのか?急にあんなにも力を使って」
「大丈夫。もうぶっ倒れて寝込むこともないし、煌礎水飲む必要もないんだから」
両拳を腰に当ててふんぞり返る久遠に、静夜はなぜか顔をしかめる。
「それは残念だな」
「なんで?」
「目を回して倒れた君を運んで介抱するのも割と楽しかったから」
「…言ってくれるなあ」
軽口が叩ける間柄に戻れたのも嬉しくて二人は微笑み合った。
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