同棲契約

森川圭介

文字の大きさ
18 / 23
#1同棲契約

対立

しおりを挟む
「この企画のリーダーになってくれないか」
超特大プロジェクトの企画であり、責任者に抜擢された。
「私がですか。まだそんな」
「君に期待しているからこそ、一度任せてみたい。」
「でも」
部長は資料を手渡した。
「そんなこと言わずに、何でも挑戦してみて。若いうちはいくらでも失敗していいんだから。任せたよ」
「はい」
こんなわけで、8人中6人は私の年下で後輩を引き連れてのプロジェクトを任された。気が重くて朝から溜め息が漏れる。
「というわけで、企画説明は以上です。それでは、意見を出して下さい。」
「スパンが短すぎて不可能です。それに向こうの方々との打ち合わせはいつになるんですか。こちらが段取りを決めておかなければ向こうも動けませんよね。」
「確かにその通りですね。」
ホワイトボードに書き込む。
「それに、企画も大雑把過ぎます。その辺りも練りなおした方がいいのではないでしょうか。」
次々と意見を出されて、会議は進んだけれど全くまとまらなかった。
会議は明日に再度行うことになったから、それまでにスムーズに進むように資料集めをしないと。
「お疲れ様です。」
向かいの席になつっこい笑顔があった。
「高畑くん、帰ったんじゃなかったの」
「いえ。たまたま忘れ物を取りに来たら浅田さんがいたので。難しい案件らしいですね。俺で良ければ手伝いましょうか」
「ありがとう」
会議用の資料を作ったり、企画案の練り直しを手伝ってもらった。
「これで、明日は大丈夫ですね」
「うん。ありがとう助かった。遅くなったし、うちでご飯でも食べていく?献立は決めてあるから。」
「あれ、城﨑さんと住んでるって言ってませんでした?」
「うん。柚子は出張で外泊だから。」
はっと気がついた。まずい。
これじゃ、積極的に家に誘ってるみたいじゃない。
「あ、いや。やめとこうか。高畑くんの家から遠いし、近くのカフェでも」
うまく誤魔化せたか。顔を窺うと高畑くんはいつも通りだった。
「いえ、うちでも大丈夫です。図々しいですけど一人暮らしなので、どうしても買った惣菜やお弁当ばっかりになってしまって。是非手料理を食べたいです。食べたら帰りますんで。」
そんなこと言われたら断れないよね。私から提案したし、このまま帰らせるわけにもいかない。
「わかった。付き合わせたお礼に」
「やった」
足りない材料をスーパーで買い一緒に家に帰った。
部屋の中に招き入れる。まさか人を入れるとは思ってなくてパジャマは脱ぎっぱなしだし、物も出しっぱなしだ。
女の二人暮らしってこんなもん。
「汚くてごめんね」
ソファの上の服をハンガーにかける。
「いえ」
「すぐ作るから待ってて」
高畑くんをソファに座らせて準備をする。
「なんだか新婚みたいですね」
前にホテルであんなことがあって、意識しちゃう。
高畑くんは美味しそうにご飯を食べてくれた。
犬みたいだな。思わず吹き出してしまう。
「何笑ってるんですか」
「いや、美味しそうに食べるなあって」
「とても美味しいです。」
ペットにほしい。
「おかわりお願いします」
「よく食べるね」
お茶碗をもらい、ご飯をよそう。おかわりってそれも犬みたい。
「こんな上手だったんですね。毎日食べたいくらい。
僕の為に毎日作ってくれたらいいな」
それって、プロポーズじゃん。お味噌汁を毎日作ってくれみたいな。
考えすぎか。赤面を隠すように、キッチンに向かう。気まずい。
何か言わないと。
「浅田先輩に話があります。僕はそのために家に来たんです」
妙に真面目なトーンになった。
「どうしたの」
食後の珈琲を持って向かいの席に座った。
「篠崎さんと真剣に付き合うことにしました。彼女に対して中途半端な気持ちは失礼だと思って。」
どんな顔をしてなんて言ってあげればいいんだろう。
「そっか、良かったね」
高畑くんは顔を上げて私を見た。その目は何処か寂しげだった。
「ご馳走さまでした。美味しかったです。」
食器を片付けると彼はジャケットを着た。
「お疲れ様でした。帰りますね」
鞄を手に取り玄関まで見送る。
「手伝ってくれてありがとう。それと、大事な話をしてくれて嬉しかった」
靴を履いた彼は顔を上げると私を見つめた。
「好きになってしまったんで、しょうがないんです。
浅田さんが僕のことを好きになることはこれからも絶対ないと思うんです。
だから、僕は身を引きます。
浅田さんは相沢さんのとこに行って気持ちを伝えて下さい。
好きな人の恋を応援するのが男ですから」
そして触れるように優しいキスをした。
「最後だから許して」
掠れた声が耳元に残る。目の前で扉がしまっていく。

午後の会議に向かおうとしていると、後輩達が隣の部屋に入っていくのを見た。
部屋を間違えたのかな。それに、もうすぐ会議だってのに遅れてしまう。
一言声をかけようと部屋に近づくと部屋の中から声が聞こえた。
「正直、浅田先輩ってこの企画向いてないと思うんだよね。だって服のセンスとか壊滅的だし、リーダーっぽくなくてグダグダだし。」
「浅田先輩って本当役立たず」
「今回のプロジェクトは駄目かもしれないな」
やっぱりそうだ。纏められていなかった。
私を押し退けるようにして、部屋に人が入っていった。
「すみません。この部屋予約していたのですが、間違っていませんか」
彼らは目をパチクリして、慌てて扉に向かった。
「あ、すみません。隣のA4室と間違えました。失礼します」
恥ずかしそうな仕草で出口から出た。
「面と向かって言った方がいいんではないですか。それに全て責任者任せでは駄目ですよ。あなた方も担当者の一人なんですから。」
高畑くんが庇ってくれたんだ。彼らに気づかれないように会議室に入った。
それから会議は終わり、デスクに戻った。
なんとか企画案は纏められた。これで一歩前進した。まだほんの少しだけど。
すると部長が側にきて、私の手元を覗き込んだ。
「企画はうまく進んでいるか」
「はい、なんとか」
資料を手に取り私を見た。
「取引先への電話はもう済んだのか」
「いえ」
彼は眉にシワを寄せた。
「困るよ。もう一月もないんだから」
「申し訳ありません。企画がまとまったので先方に伝えます。」
「まだその段階か。先が思いやられる。このままで期間内に終わるのだろうか。君には期待していた分がっかりだ。」
「必ずやご期待に添えるよう」
彼は私の言葉を切って背を向けた。
「もういい。言い訳はいいから行ってきなさい」
何でこんなに上手くいかないんだろう。
「ここは妥協出来ない。」
何度も頭を下げて。
「この話はなかったことにしてくれませんか。この条件で私達も飲むわけにはいかないのです。リスクも伴っているわけですし。」
「そこをなんとかお願いします。」
この方の首を縦に振らせないと話が始まらない。
白紙に戻ってしまう。
「明日また来て下さい」
とぼとぼと帰路についた。ムシャクシャする。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

アラフォーリサの冒険 バズったSNSで退職からリスタート

MisakiNonagase
恋愛
堅実な会社員として働いてきた39歳のリサ。まだまだ現役の母親と二人暮らしで高望みしなければ生活に困ることはなく、それなりに好きなことを楽しんでいた。 周りが結婚したり子育てに追われる様子に焦りがあった時期もあるなか、交際中の彼氏と結婚の話しに発展した際は「この先、母を一人にできない」と心の中引っ掛かり、踏み込めないことが続いてきた。 ある日、うっかりモザイクをかけ忘れインスタグラムに写真を上げたとき、男性から反応が増え、下心と思える内容にも不快はなく、むしろ承認欲求が勝り、気に入った男性とは会い、複数の男性と同時に付き合うことも増え、今を楽しむことにした。 その行動がやがて、ネット界隈で噂となり、会社の同僚達にも伝わり… リサは退職後、塞ぎ込んでいたが、同じような悩みを抱えていたカナリア(仮名)と話すようになり立ち上がった。ハローワーク経由で職業訓練を受講したり、就活したり、その間知り合ったり仲間と励まし合ったり、生きる活力を取り戻していく… そして新たな就業先で、メール室に従事する生涯枠採用の翔太という男性と知り合い、リサの人生は変わる… 全20話を予定してます

終着駅のパッセージ

苺迷音
恋愛
分厚い眼鏡と、ひっつめた髪を毛糸帽で覆う女性・カレン。 彼女はとある想いを胸に北へ向かう蒸気機関車に乗っていた。 王都から離れてゆく車窓を眺めながら、カレンは想う。 この結婚は一体何のためだったのだろうかと。 三年という長い間、縛られていた時間。その間に夫が帰宅したのは数えるほど。 あなたへの想いを伝えたい。そして、届けたい。 だから、私から会いに行きます。 ※ご覧いただけましたらとても嬉しいです。よろしくお願いいたします。

No seek, no find.

優未
恋愛
経理部で働くアマラは結婚相手を探して行動を始める。いい出会いがないなと思う彼女に声をかけてきたのは、遊び人の噂もある騎士オーガスタで―――。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

いちばん好きな人…

麻実
恋愛
夫の裏切りを知った妻は 自分もまた・・・。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

幼馴染の許嫁

山見月あいまゆ
恋愛
私にとって世界一かっこいい男の子は、同い年で幼馴染の高校1年、朝霧 連(あさぎり れん)だ。 彼は、私の許嫁だ。 ___あの日までは その日、私は連に私の手作りのお弁当を届けに行く時だった 連を見つけたとき、連は私が知らない女の子と一緒だった 連はモテるからいつも、周りに女の子がいるのは慣れいてたがもやもやした気持ちになった 女の子は、薄い緑色の髪、ピンク色の瞳、ピンクのフリルのついたワンピース 誰が見ても、愛らしいと思う子だった。 それに比べて、自分は濃い藍色の髪に、水色の瞳、目には大きな黒色の眼鏡 どうみても、女の子よりも女子力が低そうな黄土色の入ったお洋服 どちらが可愛いかなんて100人中100人が女の子のほうが、かわいいというだろう 「こっちを見ている人がいるよ、知り合い?」 可愛い声で連に私のことを聞いているのが聞こえる 「ああ、あれが例の許嫁、氷瀬 美鈴(こおりせ みすず)だ。」 例のってことは、前から私のことを話していたのか。 それだけでも、ショックだった。 その時、連はよしっと覚悟を決めた顔をした 「美鈴、許嫁をやめてくれないか。」 頭を殴られた感覚だった。 いや、それ以上だったかもしれない。 「結婚や恋愛は、好きな子としたいんだ。」 受け入れたくない。 けど、これが連の本心なんだ。 受け入れるしかない 一つだけ、わかったことがある 私は、連に 「許嫁、やめますっ」 選ばれなかったんだ… 八つ当たりの感覚で連に向かって、そして女の子に向かって言った。

処理中です...