婚約者の王子様に愛人がいるらしいが、ペットを探すのに忙しいので放っておいてくれ。

フジミサヤ

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第二章

14 王子様と秘密の会合4

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 その後もノアは度々サミュエル王子に呼び出され、彼の実験のために魔力提供をすることになった。ただ、サミュエルがノアと交流するのは純粋に実験のためだけではないと、何となくノアは察することとなる。もしかしたら、実験はサミュエルとの交流をノアに受諾させるための口実だったのかもしれない。

 
 どうやら王宮内では密かに派閥争いが起こっているらしい。王位継承順位第二位のサミュエルは、兄であり第一位のユリウス王太子の信奉者に命を狙われているとか何とかで、色々と警戒する必要があるようだ。
 サミュエルの兄である第一王子ユリウスは数年前に病にかかり、表舞台から遠ざかっている。王太子となったにも関わらず一度も公務を遂行したことがない。しかも彼の病は闇の眷属による呪詛が原因だという噂が流れていた。
 第一王子自身は光属性を持たず、第二王子だけが光属性を持っているので、尚更第一王子を支持する者たちからの反感を買っているようだ。


「兄弟仲は悪くないんだよ。けれど、周囲が勝手に色々なことを企ててくる」

 サミュエルは困ったように笑いながら愚痴をこぼす。ノアが傍らで話を聞く限りでは、彼は兄のユリウス王太子を尊敬しており、自らは影から支えていきたいと考えているようだ。王太子の病がどういった状況なのか詳しくは教えてもらえなかったが、『浄化』能力を欲しているのはそのせいかと納得した。

 サミュエルはノアと親しく装うことで、ファーレンホルスト公爵が第二王子派であると周囲に牽制したい狙いがあったようだ。実際にノアだけでなく、姉のカロリーナも頻繁にサミュエルからお茶会に招待されて舞い上がっている。

 王太子は賢く聡明な方だとは聞くが、その人となりを直接知っているわけではないノアにはあまり興味がない。父は子どもたちがサミュエルと親しくすることに何も言わないので、第二王子派と呼んでも差し支えないのかもしれない。ノアはもちろん第二王子に忠誠を誓っている。自分に利用価値があり、それで彼の身の安全を確保する手助けができるのであれば、いくらでも使い潰されたい。

 ノアを呼び出す口実となった『魔力提供』を伴う実験について、サミュエルはノアが嫌なら無理強いはしないと最初は言ってくれたが、「他にも闇属性の魔力を取り込む方法はいくらでもあるしね」などと聞き捨てならない台詞を口走りはじめた。

 
「魔物を捕まえて魔力を取り込んでもいいし、どうしてものときは悪魔を呼び出して契約取引をすれば闇属性持ちになれるし。そうそう、先日孤児院で闇属性持ちの子を見つけたから拉致……王宮に連れて来て奴隷……従者として働かせながら無理矢理魔力を絞り取……協力してもらう方法もあるしね。だから、ノアの協力がなくても大丈夫だよ」

 サミュエルの口からチラホラ本音がダダ洩れしている気がするが、最後の方は完全に犯罪である。全く大丈夫ではない。サミュエルは爽やかな笑顔で語っているが内容は非常に物騒だ。このままでは、サミュエルに目をつけられてしまった闇属性持ちの孤児院の少年とやらの未来が、悲惨なことになりそうである。
 

「分かりました。僭越ながら協力させていただきますので、私で我慢してください」

 ノアは即座に白旗を揚げた。王族に悪事を働かせる訳にはいかない。サミュエルは嬉しそうに笑って「ありがとう」とノアに礼を述べた。 



 彼は命を狙われすぎて思考が常軌を逸してしまった気がしないでもない。そう考えると少し憐れだ。王子の名誉のためにも、将来はノアが汚れ仕事を引き受けるなど、できる限り力になろうと誓った。

「ちなみに先程言ったことは冗談だからね。本気にされると困る」
「大丈夫です。全て承知しております」


 犯罪行為は流石に隠さねばならないから冗談ということにして、誤魔化したのだろう。そう察してノアはサミュエルを見つめながら深く頷いた。しかしサミュエルは微妙な表情を浮かべている。何か気に障るようなことをしてしまったのだろうか。

「……まあ、とりあえずはいいか。ノアとは以前から『仲良く』したいと思っていたから、こうして交流できて嬉しいよ」

 やや含みのある台詞と共に眩しい微笑みが向けられる。実際、実験道具として傍に置くのに公爵家令息というノアの身分はサミュエルにとって都合がいいのだろう。

 魔力提供は、握手などの緩やかな身体接触で行われた。サミュエルは、触れる前に必ずノアに許可を求めてくる。最初の接触でのノアの反応が衝撃的で反省しているのか、彼自身も慎重になっているようだ。

 触れる箇所が少ないので、一気に大量の魔力の受け渡しはできないが、少しずつ試してみるのには支障がない。それに異変があればすぐに察知ができる。ノアは少しだけ安堵した。 

 やむを得ず了承はしたものの、自分の魔力を他人に渡すのはやはり怖い。闇属性の魔術によって精神を汚染されて豹変してしまう者もいる。サミュエルが闇に魅入られてしまったら大変だ。


 このため、ノアは魔力提供の最中、サミュエルの変化を一瞬たりとも見逃さないよう、手を繋げた状態のときは常に彼を見つめ続けていた。そんなノアの熱視線を受け止めながら、サミュエルはいつも困ったように笑っていた。


「あんまり見つめられると恥ずかしいな」
「見張っていないと殿下が暴走してしまうかもしれないので」
「……ノアは心配性だね」

 サミュエルは呆れたように肩を竦めるが、ノアは真剣だ。何があってもサミュエルに害を与えないようにしなければ。ノアにとってサミュエルは大切な恩人だ。彼が壊れるなんて考えただけでも恐ろしい。

「怖がらなくても大丈夫だよ。最初みたいにノアの意思に反して無理矢理魔力を搾り取ったりしないから。君を泣かせてしまったことを、私は深く反省しているんだ」
「殿下が反省なさることはありません。あれは私が悪いのです」
「ノアは悪くないよ。君を傷付けたのは私だし」
「……違います」

 ノアは困惑していた。実際、ノアが怖いのはサミュエルが自分に何かをすることではない。自分こそが、自分の中にある忌むべき力がサミュエルに何かしてしまわないか心配なのである。

 なぜなら、自分は『闇』の力があると判明した瞬間からそう言われ続けてきて、なんとか自分を治そうと努力してきたけれど、結局治せなかった出来損ないなのだから。
 
 ノアの不安と恐怖をサミュエルは勘違いをしているようだ。どうしたらうまく伝わるのだろうか。

 頭を悩ませていると、サミュエルにノアの困惑が伝わったのか、彼の口角が緩く上がる。少し困ったような笑みだ。

「言い方が悪かったかな。君の魔力で私は壊れないし、精神汚染もされない。これでも魔術耐性は強い方なんだよ。君は自分のことを信用できていないし、何か心に傷を抱えているようだけど、そもそも君の魔力は私にとって危険なものではないと、私はもう知っている。
 だから怖がる必要はないんだけど、それをきちんと君自身が受け入れるまで……君が安心するまでは、絶対に無理強いしないし近付きすぎないように注意するよ」

 繋がれた手を優しく撫でられながらそう告げられる。サミュエルの掌の温度が心地好くて、じんわりと温かさが全身に広がっていく感覚に、自然とノアの肩の力が抜けていく。
 

「ノア、もしかして泣いてるのか?……ひょっとして、私はまたやらかしたか?」

 俯いたまま肩を震わせているノアの様子に気が付き、サミュエルが慌てたように声を上げた。ノアは静かに首を横に振る。

「……違います」
 
 

 かつて自分を救ってくれた優しい言葉を、思い出さずにはいられない。
 
 どうしても、マティアスと重ねあわせて切なくなってしまう。今、大好きだった兄に逢いたくてたまらない。逢いたいのに逢えなくて苦しい。二度と逢えないなんて絶対に信じない。ノアは必死に涙を耐えた。


 

  多分正解は、辛気臭い空気を吹き飛ばすために笑うことなのだと思う。笑って感謝を伝えるべきなのだ。ノアは自分の未熟さに嫌気がさす。
 この人の前では感情を抑えられなくなる。本当に困る。

 
 
 ノアはまだ、人前で笑うことができない。

 
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