婚約者の王子様に愛人がいるらしいが、ペットを探すのに忙しいので放っておいてくれ。

フジミサヤ

文字の大きさ
28 / 33
第四章

27 療養院で母と対峙1

しおりを挟む


 レッドサーペントの素材はとりあえず異空間倉庫に収納し、先に進むことにする。馬車は無事だったが、肝心の御者のほうが恐怖のあまり使い物にならなくなり、退職届を出してしまった。このため、サミュエルは馬車ごと、御者を引き返させて街へ戻してしまう。

 まさか、ここからは徒歩で目的地を目指すつもりなのだろうか。



「ノアとの婚前旅行も終わりかあ。もう少し楽しみたかったんだけど、仕方ないな。あんまり遅くなると先方に迷惑になるしね」

 残念そうな顔で呟きながら、サミュエルはノアに嵌めた手枷を何故か外しはじめた。魔力が身体に漲ってくる感覚に安堵感を覚えるが、急な方針転換についていけず、ノアは混乱してしまう。

「あの、殿下?何故急に?」
「ノアの母上がいる療養院の座標だ。君は転移魔法を使えるだろう?」

 魔道具なのか、正確な位置情報の載った立体的な地図を見せられ目が点になる。これがあれば、訪れたことのない場所でもたしかに転移可能だ。しかしサミュエルはこれをどこで手に入れたのか。昨日の母についての情報といい、ノアにとっては未知のナゾの情報網を持っているのかもしれない。

 というか、最初からこの地図の存在を教えてもらえれば、長時間列車に乗ったり、こんな山道を馬車で進んだりする必要はなかったのではなかろうか。
 隣にいる爽やかな笑顔の被告人がサミュエルでなければ、ノアは相手を罵倒しながら絞め殺しにかかっているところである。 

 馬車の中で途中となってしまった会話の件も含め色々聞きたいことはあるが、今は置いておくべきだ。余計なトラブルを呼び込む前に早く移動しなければ。

「では、目的地に向けて転移しますが、よろしいでしょうか?」

 ノアの提案にサミュエルは大きく頷く。ノアは目を閉じてイメージを集中する。
 魔力を放出し周囲に拡散させる。一瞬視界がブラックアウトした後、目の前の景色が切り替わった。




***

 療養院は崖に面した静謐な空気漂う高級保養施設のような趣だった。

 正面玄関に近づくと、なぜか見知った顔の青年が出迎えてくれた。濃紺の髪にターコイズブルーの瞳をした胡散臭い優男が微笑みかけてくる。学園の制服ではなく、洒落たスーツ姿ということが新鮮に映る。
 ノアと一緒に現れたサミュエルの姿を認めたその男は瞠目した後、意味深な笑みを浮かべた。


「お待ちしておりました。随分遅かったですね。もっと早く来られると思っていたのですが」

 二日前、学園で別れたシモンは、いつもの飄々とした態度で二人を迎えてくれた。


「……なぜお前がここにいる?」

 ノアは苛立ち混じりの声で問い質す。まさかこいつも密かについてきたのだろうか?そういえばコイツは過去、ノアを尾行したり監視してたりしたことがある。ストーカーか変態なのかもしれない。サミュエルの手前があるので、声に出して罵詈雑言を浴びせかけるのは控える。

「ノア様が奥様に会いに来られるというので、旦那様に命じられて尾行……あいや、転移魔法で先回りしていました。まあ、まさか本当にこちらの療養院へいらっしゃるとは驚きましたけど」

 ノアの罵倒的な思念に気付いているのかいないのか、シモンは憎たらしいまでの笑顔を振り撒いてきた。何処まで本当なのか怪しすぎる。

「父にチクったのか……?」

 ノアの責めるような眼差しを受け流し、シモンは朗らかに答える。

「いえ、そもそも旦那様はすべて最初から承知していますよ。そちらの殿下が一緒にいらしてくださることは想定外でしたが……。貴方が何か危険なことに巻き込まれたりしないよう、見張っておくよう指示されておりました」

 ノアの睨みをどこ吹く風といった感じで受け流すシモン。余裕綽々の態度が小憎らしい。

「結局お前も父上の手先ということか。俺がまた何かやらかさないか見張るために、監視役として寄越された訳だ」

 ノアの吐き捨てるような言葉に、シモンはやれやれと言った様子で両手を広げる。

「旦那様は普通にノア様のことを心配されております。単なる親心ですよ」
「余計なお世話だ」
「そういう貴方の意固地な態度と旦那様の無愛想な対応もあって、親子喧嘩が延々と続くのですよねぇ……」
「喧嘩などしたことがない」
「あー、そうですか。それはそれで、……本当に貴方たちは困ったものですね」
「うるさいぞ、黙れ」

 不機嫌を隠さないノアの態度にも、シモンは面白そうに笑うだけだった。なんとも腹立たしい男である。
 

「ノア。もうその辺にしておきなさい。君は公爵と少し話し合う必要がありそうだ。まぁ、それも帰宅してからだけと。それでいいね?」

 今まで黙って成り行きを見守っていたサミュエルが嗜めるように口を開いた。穏やかな表情をしているが有無を言わせぬ威圧感がある。

「はい、わかりました」

 サミュエルにそう言われれば、従わざるを得ない。ノアは素直に項いた。
 
 大人しくサミュエルの言葉に従ったノアを見て、シモンが驚愕に満ちた顔で目を見開き、何故かサミュエルを尊敬と畏怖が入り混じった複雑な表情で凝視している。

「猛獣使いですか……流石王族ですね……」

 シモンが小声で呟いた台詞はしっかりと聞こえていた。不敬すぎるので後で殴り飛ばそうと思う。


 
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

妹に婚約者を取られるなんてよくある話

龍の御寮さん
BL
ノエルは義母と妹をひいきする父の代わりに子爵家を支えていた。 そんなノエルの心のよりどころは婚約者のトマスだけだったが、仕事ばかりのノエルより明るくて甘え上手な妹キーラといるほうが楽しそうなトマス。 結婚したら搾取されるだけの家から出ていけると思っていたのに、父からトマスの婚約者は妹と交換すると告げられる。そしてノエルには父たちを養うためにずっと子爵家で働き続けることを求められた。 さすがのノエルもついに我慢できず、事業を片付け、資産を持って家出する。 家族と婚約者に見切りをつけたノエルを慌てて追いかける婚約者や家族。 いろんな事件に巻き込まれながらも幸せになっていくノエルの物語。 *ご都合主義です *更新は不定期です。複数話更新する日とできない日との差がありますm(__)m

記憶を無くしたら家族に愛されました

レン
BL
リオンは第三王子で横暴で傲慢で侍女や執事が少しでも気に入らなかったら物を投げたり怒鳴ったりする。家族の前でも態度はあまり変わらない… 家族からも煩わしく思われたていて嫌われていた… そんなある日階段から落ちて意識をなくした…数日後目を覚ましたらリオンの様子がいつもと違くて…

【完結】マジで婚約破棄される5秒前〜婚約破棄まであと5秒しかありませんが、じゃあ悪役令息は一体どうしろと?〜

明太子
BL
公爵令息ジェーン・アンテノールは初恋の人である婚約者のウィリアム王太子から冷遇されている。 その理由は彼が侯爵令息のリア・グラマシーと恋仲であるため。 ジェーンは婚約者の心が離れていることを寂しく思いながらも卒業パーティーに出席する。 しかし、その場で彼はひょんなことから自身がリアを主人公とした物語(BLゲーム)の悪役だと気付く。 そしてこの後すぐにウィリアムから婚約破棄されることも。 婚約破棄まであと5秒しかありませんが、じゃあ一体どうしろと? シナリオから外れたジェーンの行動は登場人物たちに思わぬ影響を与えていくことに。 ※小説家になろうにも掲載しております。

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

「自由に生きていい」と言われたので冒険者になりましたが、なぜか旦那様が激怒して連れ戻しに来ました。

キノア9g
BL
「君に義務は求めない」=ニート生活推奨!? ポジティブ転生者と、言葉足らずで愛が重い氷の伯爵様の、全力すれ違い新婚ラブコメディ! あらすじ 「君に求める義務はない。屋敷で自由に過ごしていい」 貧乏男爵家の次男・ルシアン(前世は男子高校生)は、政略結婚した若き天才当主・オルドリンからそう告げられた。 冷徹で無表情な旦那様の言葉を、「俺に興味がないんだな! ラッキー、衣食住保証付きのニート生活だ!」とポジティブに解釈したルシアン。 彼はこっそり屋敷を抜け出し、偽名を使って憧れの冒険者ライフを満喫し始める。 「旦那様は俺に無関心」 そう信じて、半年間ものんきに遊び回っていたルシアンだったが、ある日クエスト中に怪我をしてしまう。 バレたら怒られるかな……とビクビクしていた彼の元に現れたのは、顔面蒼白で息を切らした旦那様で――!? 「君が怪我をしたと聞いて、気が狂いそうだった……!」 怒鳴られるかと思いきや、折れるほど強く抱きしめられて困惑。 えっ、放置してたんじゃなかったの? なんでそんなに必死なの? 実は旦那様は冷徹なのではなく、ルシアンが好きすぎて「嫌われないように」と身を引いていただけの、超・奥手な心配性スパダリだった! 「君を守れるなら、森ごと消し飛ばすが?」 「過保護すぎて冒険になりません!!」 Fランク冒険者ののんきな妻(夫)×国宝級魔法使いの激重旦那様。 すれ違っていた二人が、甘々な「週末冒険者夫婦」になるまでの、勘違いと溺愛のハッピーエンドBL。

聖女召喚の巻き添えで喚ばれた「オマケ」の男子高校生ですが、魔王様の「抱き枕」として重宝されています

八百屋 成美
BL
聖女召喚に巻き込まれて異世界に来た主人公。聖女は優遇されるが、魔力のない主人公は城から追い出され、魔の森へ捨てられる。 そこで出会ったのは、強大な魔力ゆえに不眠症に悩む魔王。なぜか主人公の「匂い」や「体温」だけが魔王を安眠させることができると判明し、魔王城で「生きた抱き枕」として飼われることになる。

処理中です...