誰の子か分からない子を妊娠したのは私だと義妹に押し付けられた~入替義姉妹~

富士とまと

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「食べないのか?」
 お腹は空いているのに、胸がいっぱいで……目の前にご馳走があるというのに、手を伸ばしていなかった。
「もしかして、自分だけが食べるのが気が引けるのか?」
 確かにそれもある。食事は一人分しか用意されていない。そりゃ、朝食の時間には遅いし、昼食には早い時間だ。
「気にしなくていいよ。ほら」
 ルーノ様が、スプーンでスープをすくって私の口元へと運ぶ。
 ああ、昔マーサが、病気をした私のために、こうして食べさせてくれたなぁ……。
 と、懐かしく、そして幸せな気持ちを思い出して口元に運ばれたスプーンからスープを飲んだ。
「え?」
 声に驚いてルーノ様を見ると真っ赤になって口を押えている。
「あ、いや、スプーンを受け取ってもらえるかと……その……」
 しまった。
「ご、ごめんなさい、あの、な、慣れていなくて、こ、こういう時どうしたらいいのか、分からなくて……」
「いや、俺の方こそ、何するにも配慮が足りない……っ」
「違うんです、本当に私が、物事を知らな過ぎて……」
 アイリーンとして出るまではずっと使用人のように屋敷で過ごしていたから。
「病気の時に、ミルク粥を食べさせてもらったことを思い出して……ずっと昔……私を我が子のように育ててくれたマーサに……」
 マーサのことを思い出したら、また涙が出てきた。
「アイリーン、ゆっくり食べたらいいよ」
 ルーノ様がもう一度スープをスプーンですくって私の口元に持ってくる。
 今度は間違えないようにスプーンを受け取ろうとすると、ルーノ様が首を横に振った。
「寝不足のせいか、顔色が悪いよ。目の下のクマもひどい。それにひどく空腹なのだろう?病人みたいなものだよ。俺が食べさせてあげるよ」
 え?
「さ、口を開けて」
 言われるままに口を開けると、スプーンを入れられる。
「ああ、ごめんっ、ちょっと多すぎたか?」
 うまく口の中に入らなくてスープが口の端からこぼれ出てしまった。
 ルーノ様の指が私の口元をぬぐう。
「あっ」
 慣れない感覚に思わず声が出る。
「ご、めん」
 ルーノ様が、真っ赤になった顔をそむけた。
 ごくりと唾を飲み込む音が聞こえる。
「わ、私っ」
 だめ。こんなこと、言っちゃ。
 私は、今はアイリーンなのだから。
 でも、止められない。
「ルーノ様のことが……好きです」
 ああ、言ってしまった。
 弾かれたように、ルーノ様が私を見た。
「ア……アイリーン……」
 苦しそうに眉を寄せるルーノ様。
 分かっている。
 ルーノ様にとっては迷惑なことだと。
 だから……。
 懸命に笑顔を作る。
「もう、私に構わないでください」
 ルーノ様を拒絶する。
 これ以上好きにさせないで。
 どうせ、私とルーノ様に未来などないのだから。
 傷が深くならないうちに。
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