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「ああ。旦那が冬の間、家の中ですることがないからと彫ってるんだが売れないからねぇ」
 売れない?
「こんなによくできてるのに?」
「あー、よくできてても何にも使えないだろう?だから、コップや皿を彫れって言ってるんだけどねぇ。コップや皿も、たくさん作っても売れる数には限りがあるからねぇ……」
 冬の間……雪に閉ざされた間の内職?
 なんとなく、この土地は北海道に近いイメージだけど、そういえば北海道のお土産の定番って木彫りの熊だよね。冬の間の男の内職だったんだろうか?
 いや、木彫りの熊よりも繊細でまさに職人芸なんだけど。こんなに技術があっても売れない……。いや、まぁ、たしかに木彫りの熊が欲しいかといえば……。買ってどうするのかといえば……。
 お土産でなければ買わないというか……。お土産で貰っても微妙だけども……。
 手の平に乗る木彫りの人形。そうか。確かに子供が人形遊びに使うくらいしか使い道がない?
 推しのフィギュアを部屋一面に並べる文化のある日本。ガチャガチャで小さい人形を集めて並べる文化のある日本。木彫りの熊みたいに大きくないから、集めて並べて楽しいと思うんだけどなぁ……。
 って、それも……お金があればこそか。
 もったいないなぁ。これだけすごい物が作れるのに……。
 王都なら銀貨数枚。人気の騎士様モチーフとか……そう、ブリキの兵隊じゃないけど、木彫りの騎士団なんて貴族の子供に人気があったはず。この技術で作れば人気商品になるはず。
 ん?王都なら……?
 って、ここで売れないなら、売りに行けばいいんじゃない?
 だって、傘地蔵だって、お爺さん作った傘を町に売りに行ったんだよね?……あ、だめだ、あれは売れなかった話だ。
 この人形は売れる。何も、領地の作物だけが売り物になるわけじゃない。日持ちする作物とか考えたけど……食べ物じゃなきゃ日持ちなんて考えなくたってよかったんだよ!
 鉱山ないかなぁと思ったけど、鉱物以外だって売れる物はどれだけでも探せばあるはずだ。
「刺繍、素敵ですね」
 縫物をしている店主の手元を見れば、これまたとてつもない技術で刺繍がされてる。色とりどりの花。
「これは、えっと、何ですか?」
 こんな立派な刺繍を施して、果たして売れるのだろうか?と少し疑問がわく。ハンカチにしては大きな布。ベッドカバー?
「ああ、これは花嫁のベールになるんだよ」
 そうか!一生に一度の贅沢品か!普段使いじゃなきゃ頑張ってお金を貯めて買う人もいるということか。


==============
刺繍、レース、織物、女性の手仕事。
そうそう、曾祖母が和裁の仕事をしていました。分厚いレンズの眼鏡をかけて、目の手術もして……仕事を続けていました。
細かい手仕事には「見える」ことが大切なんだなぁと思います。
そうです。よく見るためには……


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