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一度だけ訪れたことのある、クリスの住んでいるアパートの部屋のドアを叩く。
「んー?クリスならいないぞ」
「いつ、帰ってきますか?」
隣の部屋のドアが開いて男の人が顔を出した。
「あー、もう帰って来ないんじゃないか?」
それって、ここを引き払ってあの家に移り住むということよね。
じゃあ、私はあそこでクリスを待っていればよかったんだわ!
「大金を手に入れたって言ってたからなぁ」
「大金?」
どういうこと?
だって、クリスは爵位を継ぐこともできない貧しい子爵家の3男で、城の下級文官として働いているから大金が入るようなことはないのに。
「新しい金づるでも見つけたんじゃないかぁ?前の……どこぞの金持ちの令嬢は家を飛び出しちまって当てがはずれたって言ってたからなぁ」
え?
「金持ちの令嬢?」
「んー、なんつったか、なんたら伯爵令嬢の、マリーだかミリーだか」
アリーだ。
それ、私……シャリアリー・フェントラーゼだ。
「そうそう、売ったら金になったとも言ってたな。プレゼントでも売り払ったんかな?」
私だ。
売られたのは、私だ!
クリスは、一夜の花嫁としてあの男に大金で売りつけたんだ!
家に戻ってベッドに腰掛ける。
「どう、しよう……」
床のきしむと音が聞こえた。
この部屋を訪ねてくる人なんているはずない。だって、家族も友人も誰も私がここにいるなんて知らないのだから。っていうことは……。
「クリスっ!」
やっぱり私は騙されてなんていなかったんだわ!と、扉を勢いよく開けるとおばあさんが立っていた。
「なんだ、まだいたんか。一泊二日の約束で貸したんだ。早く出て行ってくれにゃ」
「は?」
「はじゃないよ。次の客が使うんだ。ほら、出て。追加料金貰うよ!」
クリスが用意したという家は、1棟貸しの宿だった。
「どう、しよう……」
昨日まで住んでいたアパートは引き払ってしまった。
荷物は新居に運ぶ前に一時的に預かるとクリスが持って行った。
……ってことは、売れば多少のお金になるはずの荷物もないってことだ!
お金もクリスに預けてあった。
全部、クリスに持ち逃げされたってこと?クリスはその上私自身もお金に替えた……。
「どう、しよう……」
一文無し。
家無し。
婚約者なし。
そして、なぜか顔も名前も分からない仮初の夫もち。いらないけど。
実家に、クリスと別れたと言って戻る?
「だから、あんな男やめておけと言っただろう!」
「ほらみたことか。姉さんはバカなんだから」
「こんどは間違えないようにいい男を選んであげるわよ」
「見る目がないんだから言うことを聞いてればいいのよ」
家族のバカにした言葉と、政略結婚の勧めしか思い浮かばない。
一度男を追って家を出た令嬢なんてろくでもない男との縁談しかないだろう。
「んー?クリスならいないぞ」
「いつ、帰ってきますか?」
隣の部屋のドアが開いて男の人が顔を出した。
「あー、もう帰って来ないんじゃないか?」
それって、ここを引き払ってあの家に移り住むということよね。
じゃあ、私はあそこでクリスを待っていればよかったんだわ!
「大金を手に入れたって言ってたからなぁ」
「大金?」
どういうこと?
だって、クリスは爵位を継ぐこともできない貧しい子爵家の3男で、城の下級文官として働いているから大金が入るようなことはないのに。
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え?
「金持ちの令嬢?」
「んー、なんつったか、なんたら伯爵令嬢の、マリーだかミリーだか」
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「そうそう、売ったら金になったとも言ってたな。プレゼントでも売り払ったんかな?」
私だ。
売られたのは、私だ!
クリスは、一夜の花嫁としてあの男に大金で売りつけたんだ!
家に戻ってベッドに腰掛ける。
「どう、しよう……」
床のきしむと音が聞こえた。
この部屋を訪ねてくる人なんているはずない。だって、家族も友人も誰も私がここにいるなんて知らないのだから。っていうことは……。
「クリスっ!」
やっぱり私は騙されてなんていなかったんだわ!と、扉を勢いよく開けるとおばあさんが立っていた。
「なんだ、まだいたんか。一泊二日の約束で貸したんだ。早く出て行ってくれにゃ」
「は?」
「はじゃないよ。次の客が使うんだ。ほら、出て。追加料金貰うよ!」
クリスが用意したという家は、1棟貸しの宿だった。
「どう、しよう……」
昨日まで住んでいたアパートは引き払ってしまった。
荷物は新居に運ぶ前に一時的に預かるとクリスが持って行った。
……ってことは、売れば多少のお金になるはずの荷物もないってことだ!
お金もクリスに預けてあった。
全部、クリスに持ち逃げされたってこと?クリスはその上私自身もお金に替えた……。
「どう、しよう……」
一文無し。
家無し。
婚約者なし。
そして、なぜか顔も名前も分からない仮初の夫もち。いらないけど。
実家に、クリスと別れたと言って戻る?
「だから、あんな男やめておけと言っただろう!」
「ほらみたことか。姉さんはバカなんだから」
「こんどは間違えないようにいい男を選んであげるわよ」
「見る目がないんだから言うことを聞いてればいいのよ」
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一度男を追って家を出た令嬢なんてろくでもない男との縁談しかないだろう。
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