婚約者に売られ子供ができたけど、訳あり元騎士様が代理パパになってくれたので幸せです

富士とまと

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「公爵もだが、お前たちもまだわからぬか!」
 陛下が私に今にもつかみかかろうとする側近2人を張り倒した。
「アイシャ殿の……ミスリル級冒険者を何人も育て上げているアイシャ殿の弟子で、すでに一級ダンジョンを踏破しているんだぞ?その意味をよく考えろ!」
 張り倒された側近の一人が、慌てて私に土下座した。
「失礼をいたしました。未来のミスリル冒険者様」
 うん?
 公爵が驚きのあまりしりもちをついた。
「やっと理解したか。お前はミスリル冒険者の子供をさらったと何年後かに言われることになる。国の争いや政治には手出しはしないが、冒険者は冒険者に危害を加えたものを決して許さない。それがミスリル冒険者をこけにするようなことであればなおさら。わかるか?」
 公爵が震えだした。
「公爵家取りつぶしだけで許されれば助かったと胸をなでおろすようなことをお前はしでかしたんだ。貴族の行いをただせなかったとして、責任を王家も取らざるを得ないような……」
 公爵が慌てて土下座をする。
 師匠が想像以上にすごい人物だったのには驚いたけれど。
 ミスリル級冒険者というのも私が思っていた以上にすごい立場だということが分かった。
 ……私の一番近くにいるミスリル級冒険者があれ……ギルド長だったから、そんなにすごいとは思ってなかった。だって、いつも師匠に怒られてるし、ギルドの職員にあきれられてるし、足臭いし。
「お許しを……!お許しを……」
 今までの態度が一変。公爵は力ない声を出している。
「私は、公爵様がおっしゃったように、師匠の虎の威を借るキツネにすぎません。銀色級ですから。謝っていただくような立場でもありません。ですので、顔を上げてください」
 ほっとした空気が流れた。
「ですけど、私は子供を守るために全力で冒険者をすることにしました。師匠が私がミスリル級になれると思ってくれているなら、ミスリル級を目指します。自分の力で大切な子供を守れるように」
 二度と、公爵だろうが陛下だろうが、ジャンを奪われないように。
「申し訳なかった……子供は返す……だが、どうか少しでいい。親子で滞在してくれないだろうか?」
 嫌だよ。ジャンを攫うような人のところになんて行きたくないよ。
「息子……英雄となった息子を取り戻したいんだ」
「は?あなたは子供も孫も、物のようにしか考えてないんですか?取り戻すって、大人なんですから自分の意志で姿を消したのでしょう?」
 公爵が首を垂れた。
「……無事でいるのかが知りたいんだ……戦地に赴いてから終戦までは生きた心地がしなかった。無事に戻ってきて、英雄と称され。名誉も金も地位も……何もかも約束されているというのに、何が不満で出ていたたのか教えてほしいんだだから、戻ってきてほしい」
 師匠が舌打ちした。
「戦争に送り出した親を恨んでるんじゃないのかい?シャリアを……平民には何をしてもいいと思っているような考えに嫌気がさしたとか……いや違うね」
 師匠が箒の柄で公爵の胸を突いた。
「話を聞かないところが気に入らなかったんだろうよ。教えてほしい?姿を消す前にいくらだって話なんてできたんじゃないかい?ろくに話を聞かずに自分の思い通りに動かそうとでもしたんじゃないのかい?」
 師匠の言うのが私も真実なんじゃないかと思う。
「私の話も、まったく伝わりませんでしたよね」
 言葉を漏らすと公爵がぴくっと動いた。どうやら今度は私の言葉は届いているらしい。
「今回だってそうだよ。英雄さんは行方不明なんだろう?ジャンの父親の話も聞かずに勝手に連れていくとかね。英雄が子供なんていらないって言ったらどうするつもりだい?むしろ子供がいるなら家に戻りたくないって思うとは考えなかったのかい?ったく、そんなの誰も幸せになりゃしないじゃないかい」
 公爵は床で丸まってしまった。
 土下座でもなく、床に這いつくばって丸まった。
「息子は幸せだと思っていたんだ。幸せだと……。戦争で活躍して、皆に褒められる。多くの女性から縁談も持ち掛けられ、使い切れないほどの報奨金を手にして……。幸せだと、再び活躍すればさらに多くのものを手に入れ、もっと幸せになれると……。嫡男が爵位を継ぐから、次男のあの子には残してやれるものが少ない。だが自分の手で幸せをつかんだあの子が誇らしく……。それなのに、あの子は幸せではなかったと……何を私は間違えてしまったのか、あの子をどうすれば幸せにしてやれるのか……」
 師匠が箒を持ち替えて、毛先を下にして床を掃く動作を始める。
「あー、うっとうしいねぇ、子供なんて親の手を離れりゃ勝手に幸せになるもんさ。何言ってんだい。ほら、さっさとジャンを返しな!」
 師匠が公爵をゴミ扱いだ。
 のろのろと立ち上がった公爵が師匠の顔を見た。
「……そうかもしれません……。息子はもう、大人だったんですね……」
 ふんっ。と師匠が鼻を鳴らした。
 公爵は私の前に立つと、深々と頭を下げた。
「申し訳なかった……。ジャンを見ていたら、息子が小さかったことをよく思い出したよ。いやいやと首を振る姿が息子にそっくりなんだ。おいしいものを食べた時に目を輝かせる姿も。ぴよんと髪の毛が跳ねるかわいい姿も」
 許せない。
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