殿下、あなたはいりません。お父様も不要です。

富士とまと

文字の大きさ
21 / 32

21

しおりを挟む
 着替えが終わり、食堂へ向かう。
 席に座ると、すぐに父も座った。
 私の給仕はメイで、父の給仕はセバスがするようだ。まだ使用人の数は足りていないようだ。
「今日は、王宮で婚約締結書にサインする予定だったが」
 え?
 それはまずい。
「嫌よ、行きたくないわ!」
「何故だ?一日も早くアレン殿下と婚約したいと言っていただろう?」
 理由、理由……。頭を回転させてていると、セバスが音を立ててカップを置いた。
 給仕に慣れていないのだからそんなものだろうと思ったが、父は不愉快そうにセバスをにらみつけた。
「ほら、セバスが給仕しなくちゃいけないくらい、使用人が足りてないでしょ?誰が私の準備をするの?ドレスを着せてもらえばいいわけじゃないのよ?綺麗に化粧して素敵に髪を結ってもらわないと恥ずかしくて殿下の前になんて出れないわ!」
 ユメアらしい理由じゃないだろうか?
「ユメアはそのままでも十分かわいいぞ。気にすることはない」
「でも、昨日はあんなことがあって疲れちゃったし、お義姉様の容態とか聞かれてもめんどくさいし、っていうか、お義姉様があんな状態だったら、婚約しても祝ってもらえないんじゃないの?いやよ、そんなの。ちゃんとみんなに祝ってほしいわ。そうね、婚約披露パーティーでは3回くらいドレスを着替えて、1着目のドレスは殿下の瞳の色に合わせて、それから」
 と、ユメアらしくペラペラと話出すと、父が止めた。
「あー、わかった、分かった。ドレスの話はまた後で考えような。ユメアなら何を着ても似合うと思うが。王宮には使いをやろう。昨日のことで体調を崩しているとでも言えばいいだろう。確かに今急いで婚約するのは外聞が悪いかもしれないな。日は改めるか。それにしても忌々しいルイーゼめ」
 今回のことは”ルイーゼ”本人のせいではなく、怪我をさせた殿下が悪いのだろう。
 でも、世の中の悪いことはすべてルイーゼのせいにしたいのか。
 そこまで父は私を憎んでいるんだ。
 もう、何の未練もない。
 最後にマーサにも会えた。
 カーク様の運命も変えられた。
 お母様の真実を知り明らかにする。ユメアの出生も。
 そうすれば、私が罰せられるだろう。お父様はルイーゼもユメアも二人とも娘を失うのだ。しかも、自ら招いたことで。王家からも睨まれ、もう公爵家はおしまい。

 部屋に戻ろうとすると、ルイーゼに自分のパンを運んでくれていたという使用人がカートを押しているのが見えた。
 カートの上には、温かい食事が載せられている。
「ねぇ、意識が戻ったの?」
「い、いえ。その……少しは食べられるかもしれないと、マーサさんが……意識が戻らなければ、こちらを少しずつ流し込んでいくそうです」
 栄養のある蜂蜜を溶かしたミルクだろうか。
 いくら栄養があるからと言っても……。
 ずっとそればかりで食事ができなければ……。
 意識がこのまま戻らなければ、もって1週間といったところだろうか。
 使用人がルイーゼの体のある部屋へカートを運び込む。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

エミリーと精霊

朝山みどり
恋愛
誰もが精霊と契約する国。エミリーの八歳の誕生日にやって来たのは、おもちゃのようなトカゲだった。 名門侯爵家の娘としてありえない恥。家族はエミリーをそう扱った。だからエミリーは居場所を得るために頑張った。役に立とうとした。

【完結】チャンス到来! 返品不可だから義妹予定の方は最後までお世話宜しく

との
恋愛
予約半年待ちなど当たり前の人気が続いている高級レストランのラ・ぺルーズにどうしても行きたいと駄々を捏ねたのは、伯爵家令嬢アーシェ・ローゼンタールの十年来の婚約者で伯爵家二男デイビッド・キャンストル。 誕生日プレゼントだけ屋敷に届けろってど〜ゆ〜ことかなあ⋯⋯と思いつつレストランの予約を父親に譲ってその日はのんびりしていると、見たことのない美少女を連れてデイビッドが乗り込んできた。 「人が苦労して予約した店に義妹予定の子と行ったってどういうこと? しかも、おじさんが再婚するとか知らないし」 それがはじまりで⋯⋯豪放磊落と言えば聞こえはいいけれど、やんちゃ小僧がそのまま大人になったような祖父達のせいであちこちにできていた歪みからとんでもない事態に発展していく。 「マジかぁ! これもワシのせいじゃとは思わなんだ」 「⋯⋯わしが噂を補強しとった?」 「はい、間違いないですね」 最強の両親に守られて何の不安もなく婚約破棄してきます。 追伸⋯⋯最弱王が誰かは諸説あるかもですね。 ーーーーーー ゆるふわの中世ヨーロッパ、幻の国の設定です。 約7万字で完結確約、筆者的には短編の括りかなあと。 R15は念の為・・

手放してみたら、けっこう平気でした。

朝山みどり
恋愛
エリザ・シスレーは伯爵家の後継として、勉強、父の手伝いと努力していた。父の親戚の婚約者との仲も良好で、結婚する日を楽しみしていた。 そんなある日、父が急死してしまう。エリザは学院をやめて、領主の仕事に専念した。 だが、領主として努力するエリザを家族は理解してくれない。彼女は家族のなかで孤立していく。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

ある王国の王室の物語

朝山みどり
恋愛
平和が続くある王国の一室で婚約者破棄を宣言された少女がいた。カップを持ったまま下を向いて無言の彼女を国王夫妻、侯爵夫妻、王太子、異母妹がじっと見つめた。 顔をあげた彼女はカップを皿に置くと、レモンパイに手を伸ばすと皿に取った。 それから 「承知しました」とだけ言った。 ゆっくりレモンパイを食べるとお茶のおかわりを注ぐように侍女に合図をした。 それからバウンドケーキに手を伸ばした。 カクヨムで公開したものに手を入れたものです。

いつか優しく終わらせてあげるために。

イチイ アキラ
恋愛
 初夜の最中。王子は死んだ。  犯人は誰なのか。  妃となった妹を虐げていた姉か。それとも……。  12話くらいからが本編です。そこに至るまでもじっくりお楽しみください。

婚約破棄されたから、執事と家出いたします

編端みどり
恋愛
拝啓 お父様 王子との婚約が破棄されました。わたくしは執事と共に家出いたします。 悪女と呼ばれた令嬢は、親、婚約者、友人に捨てられた。 彼女の危機を察した執事は、令嬢に気持ちを伝え、2人は幸せになる為に家を出る決意をする。 準備万端で家出した2人はどこへ行くのか?! 残された身勝手な者達はどうなるのか! ※時間軸が過去に戻ったり現在に飛んだりします。 ※☆の付いた話は、残酷な描写あり

蔑ろにされた王妃と見限られた国王

奏千歌
恋愛
※最初に公開したプロット版はカクヨムで公開しています 国王陛下には愛する女性がいた。 彼女は陛下の初恋の相手で、陛下はずっと彼女を想い続けて、そして大切にしていた。 私は、そんな陛下と結婚した。 国と王家のために、私達は結婚しなければならなかったから、結婚すれば陛下も少しは変わるのではと期待していた。 でも結果は……私の理想を打ち砕くものだった。 そしてもう一つ。 私も陛下も知らないことがあった。 彼女のことを。彼女の正体を。

処理中です...