三年分の記憶を失ったけど、この子誰?

富士とまと

文字の大きさ
13 / 48

13

しおりを挟む
 よし。
 とりあえず中央に向かって歩いて行こう。
 流石に、貴族街に入れば私のこの服装では目立ちすぎるだろう。
 だけど、その外側。貴族街に出入りする商店が並ぶ区域なら、この服装でもギリギリ問題ないはずだ。
 下町は王都にいたころにも来たことがなかったため道は分からない。でも中央のお城は見えているから迷子になることは無いだろう。
 住んでいる国境沿いの街に比べてとても人が多い。
 お店の数もけた違いだ。広場はずらりと屋台が取り囲んでいる。
「お祭り……みたい」
 ふと前世の祭りの屋台を思い出してつぶやきが漏れた。
「なんだい、あんた王太子の誕生祭に来たのかい?残念ながら祭りは数日前に終わってるよ」
「あ……えっと」
「あはは、落ち込むことはないよ。そういう人いっぱいいるけど、祭りは終わってもひと月くらいはいつもより王都はにぎぎわってるからね。ほら、祭りで一儲けしようと集まってきた人が屋台に出店、たくさんいるから楽しいよ」
 屋台以外にもフリーマーケットのように地面に物を並べている人もたくさんいる。
「出店するのは厳しいんですね」
 准騎士の制服に身を包んだ者たちの姿が目立つ。
 出店を一つずつ回ってじっくりと品を見ながら店主に聞き取りをしている。
「いや。商売してるやつはどの街でも商業ギルドに登録しているはずだろう?商業ギルドで王都での短期商売許可証をもらっていればいいはずなんだけどねぇ」
 と、女性は首を傾げつつ楽しむんだよと声をかけて去って行った。
 准騎士は、年若い騎士になる前の子や騎士昇格試験に受からなかった貴族の子や平民だ。騎士とちがい王宮へと上がることはできない。
 つまり、王宮で顔を合わせていた騎士がいることは無い。……万が一私の顔を知っている人がいたらと心配することもない。
 そっと准騎士の横に並び、店の商品を見ているふりをして会話に耳を傾ける。
「指輪は置いてないか?」
「指輪?」
 指輪を探してるの?准騎士が?
「ああ、青い石が付いた指輪だ」
 青い石?殿下にもらった青い宝石のついたネックレスを思い出す。
「宝石か?そんなもんはこんな露天で売ったりしないだろう」
 確かにそうか。
「いや、宝石ではない。青く染めた石だ。小指の爪くらいの大きさの石がついた銀製の指輪を探している」
 青く染めた石?……どこかで見たような?どこだったかな?
「なんでそんなもん探してるんだ?騎士様が」
 騎士ではなく准騎士だけど、もしかしたら庶民には見分けはつかない?制服がちょっと違うんだけど?
「!#%&&’$%’(分からない)」
 首をかしげると、大きな声が聞こえてきた。
「だから、指輪を見なかったか?」
「$’%(%)#)”($%$#”)$$($((私は何も悪いことはしてない!)」
 焦ったような声と困ったような声。
 准騎士が隣の露店の男性に話かけているようだが、露天主はこの国の言葉があまり分からない隣国の者のようだ。
 准騎士に話しかけられれば、不正を疑われているのかとか、追い出されるのかとか、不安になるよね。
「あの、紙と筆記具は持っていませんか?」
 隣にいる准騎士に尋ねる。
「ああ、あるにはあるが」
 不審な目を向けられた。そりゃそうか。それでも准騎士は准がついていても騎士だ。紳士的な態度が求められる職業なだけあり、特に女性には丁寧に対応してくれる。
しおりを挟む
感想 65

あなたにおすすめの小説

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

地味な薬草師だった俺が、実は村の生命線でした

有賀冬馬
ファンタジー
恋人に裏切られ、村を追い出された青年エド。彼の地味な仕事は誰にも評価されず、ただの「役立たず」として切り捨てられた。だが、それは間違いだった。旅の魔術師エリーゼと出会った彼は、自分の能力が秘めていた真の価値を知る。魔術と薬草を組み合わせた彼の秘薬は、やがて王国を救うほどの力となり、エドは英雄として名を馳せていく。そして、彼が去った村は、彼がいた頃には気づかなかった「地味な薬」の恩恵を失い、静かに破滅へと向かっていくのだった。

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

皇太子夫妻の歪んだ結婚 

夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。 その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。 本編完結してます。 番外編を更新中です。

次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢

さら
恋愛
 名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。  しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。  王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。  戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。  一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

処理中です...