三年分の記憶を失ったけど、この子誰?

富士とまと

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 殿下にも見つかってはいけないんだ。きっと……。
 王都に、来てはいけなかった。
 ルゥイを連れて来ては行けなかった。
 殿下が知らないルゥイ。
 リンクル殿下は結婚していない。
 そしてルゥイのことを知らない。
 ルゥイが殿下の子だとしたら……御落胤だとしたら……。
 後継者問題に貴族の派閥問題……いろいろ問題が起きる可能性があるってことなのだろう。
 だから、この子はいないものとして、私に預けられた。
 預かった私は見つからないように隠れ住んでいる。
 下手をしたら、ルゥイは闇に葬られる。
 恐ろしい想像に、すっと凍り付く。

「ああ、いたいた!」
 リンクル王子の後ろに、ルゥイを抱っこしたマーサさんの姿が見えた。
 ま、まずい!
 ルゥイを見られるわけにはいかない。
 幸い、ルゥイは眠っているのか、顔をマーサの肩に伏せて顔は見えない。見えているのは……。
 目の前に立つリンクル王子とそっくりな金色の髪だけだ。
「侍女が呼びに来たみたいだから。行くわね!」
「あ、ああ」
 にこりと笑って見せると、リンクル王子がほっぺたを少し赤らめる。
 引き留めてしまったことを恥じているのだろうか?
 殿下の横を通るときに、殿下が私の腕をつかんだ。
「え?」
 見上げれば、殿下の目があった。
 どきりと、心臓が音を立てる。
 見上げるくらいに身長も伸びた殿下。
 私を掴む腕はあの時よりも、ずっと大きくてゴツゴツとしている。
 ……。
 あの時?
 あの時って何?失った3年の間の記憶の一つ?
 心臓がバクバクと早まる。
 分からないけど、思い出してはダメなことのような気がする。
「あ、明日、会いに行くよ」
「ダメ」
 即座に否定すると殿下が悲しそうな顔をする。
 だって、私が家に戻っていないことがばれてしまう。時間を稼がないと。
 王都を離れる時間を……。
「急に予定を変更しては周りに迷惑をかけてしまうわ。分かるわよね?」
 殿下がうんと頷いた。
 まるで、教師と生徒に戻ったようなやり取りに、自然と笑みがこぼれる。
「そうだね……。シャリアに会えて……我を忘れてしまった。いつもはこんなんじゃないんだ。本当だよ?こんなに子供っぽいことはしない」
 ああ、3年前。俺も成人する。大人になると言っていた殿下の姿を思い出す。
 今では、私と歳が変わらないくらい成長している。
 ……あ、私も成長というか年を取ったんだけど、3年の記憶を失って気持ちはまだ22のままだ。殿下は今20歳……あ、うん。それでも2歳年下なんだよね。見上げるくらい大きくなっただけで同じ年ではないよ。
 実際は私は25歳だし。記憶がなくても木っと3年間で精神的にも成長しているはずだし。
 それなのに、なぜかいろいろと頭が働いてない。
「予定の調整に10日はかかるでしょう?」
「そんなにはかからないよっ」
 首を横に振る。
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