姉から始まる魔法少女

大崎 狂花

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魔法少女的な、余りに魔法少女的な

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我々が住んでいる、地球のあるこの世界は、色々な世界に挟まれて存在している。地獄や天国と言った、メジャーな世界もあれば、いわゆる異世界と呼ばれる剣と魔法のファンタジーな世界もあったり、人類が見れば発狂するであろう、おぞましき世界もある。そんな世界に挟まれるようにして、この地球がある宇宙は存在している。

そしてその宇宙に最も近い世界に、ドラゴンやらミノタウルスやらゴブリンやら魔物の跋扈する『魔界』と呼ばれる世界もある。

この魔界と、この宇宙とが、何が原因かある日衝突してしまった。世界が完全に壊れて二つの世界が一つとなってしまうまでにはならなかったが、それによって世界にヒビが入り、宇宙と魔界とが行き来できるようになってしまった。

それから先はさあ大変!

この宇宙に入り込んだ魔物が地球まで飛来してしまって、アメリカもイギリスも中国もてんてこ舞い!もちろん日本も大変だ!

日本は最初、自衛隊を動員したものの、そんなものじゃ全国で悪行の限りを尽くす魔物たちには対応できないぞ!

と、いうことで日本政府は有志を募ることにした。魔物を強さでランク分けして、その魔物を倒したものに、ランクに応じた賞金を出すことにしたのだ。ただでさえ財政赤字が増大してるってのに、そんな大盤振る舞いしちゃってもいいのかい?政府よ。

ま、国の財政赤字うんぬんのことはとりあえず置いておいて、とにかくそういうことになったので、魔物を倒して生計を立てる者なんかも現れたんだ。

魔物を倒して生計を立てる者たち・・・・・・人々はその者たちのことを総称して、『セカンド』、と呼び始めたのである。

なんで『セカンド』と呼び始めたのかって?それは・・・・・・なんか語感がいいから。

とにかく世界がそんなふうになって、それから・・・・・・もう40年近く経った。

街中に魔物が現れることは、慌てはするものの別にそこまであり得ないことではないといった感じで、『ファンタジー』ではなく『災害』になったし、魔物を倒す『セカンド』という職業も消防士や警察となんら変わりのない職業となった。

そして・・・・・・

「なあおい!またラピスちゃんが魔物を倒したってよ!」

「マジでか!?・・・・・・え!?その魔物って確かB級の魔物とかじゃなかったっけ!?」

「可愛くて強いとか最高かよ・・・・・・はあ、ラピスちゃん・・・・・・マジ推せる」

セカンドの中には、こういうふうにアイドル的な応援のされ方をする者も出てきた。

ここは学校。ごく普通の公立高校だ。その教室、朝の喧騒に包まれた教室で、男子たちがそんな会話をしていた。

「ほら、見ろよ。俺この前、偶然ラピスちゃん見かけてさ、なんと、写真撮れちゃったんだよ!」

「お前マジかよ!おまおまおま、おま!マジかよ!」

「ちょ、見せろよ!お前見せろ!」

「・・・・・・なんだお前ら、いいもん持ってんじゃねえか。あたしにも見してくれよ」

「なんだお前、急に話に割り込んできて・・・・・・ってお前は!校内でも有名な、この町で一番デンジャラスでクレイジーと噂のスーパーヤンキーガールの谷村じゃねえか!お前もラピスちゃんのファンだったのか!?」

「おう、そうだよ。だからとっととあたしにもその写真を見せやがれ。でないと殺すぞ」

「は、はい、見せさせていただきます・・・・・・」

「おう、物分かりが良くて助かるぜ」

「・・・・・・おや、何やらいいものを持ってるね。僕にも見せてくれないかい?」

「なんだ急割り込んできやがって・・・・・・お、お前は!?校内でも有名な、町で一番ビューティフルでクールだと噂される、超絶イケメンボーイの佐藤じゃないか!お前もラピスちゃんのファンだったのか!?」

「ああそうだよ、だから僕にもその写真を見せてほしいな」

「ひゃ、ひゃい、見せさせていただきます・・・・・・」

「あ、素直に渡した」

「やはりいかにヤンキーガールといえどイケメンには敵わなかったか・・・・・・」

「うるせえ!ぶん殴るぞ!」

と、朝からギャーギャーとクラスメイトたちは大騒ぎをしていた。その話題の中心にいるのは、どうやらラピスというセカンドらしかった。

ラピス、魔法少女ラピスというのは、今一番勢いがあると噂される、新進気鋭のセカンドであった。C級の魔物であるミノタウロスやサイクロプスは朝飯前。複数のB級魔物どもに囲まれた時もそこそこの苦労で突破した。12時間近くに及ぶ死闘の果てにA級のレッドドラゴンを打ち破った話はあまりにも有名だ。

彼女は強い。そして強いだけでなく単純に顔がいい。めちゃくちゃに可愛くて、小動物的な可愛さがあるのに、そんな彼女が強いというそのギャップも人気の要因になっている。

可愛い上に強いっていうのはいいよな。興奮してくるね。

とにかく、そんなことで魔法少女ラピスちゃんというのは今かなり人気のセカンドなのだ。歌とかも出てるし、雑誌の表紙とかにもなって、ほんとにアイドルみたいな感じなのである。

だからクラスメイトたちがラピスの写真一つくらいで、こんなに大騒ぎするのも無理もないことなのである。

だがしかし!ここに全く反応を示していない男がいた!

その男の名は瑠璃!緑瑠璃だ!成績も平凡!運動神経も平凡!交友関係も平凡!容姿はちょっといいし、名前の通り瑠璃色の目に瑠璃色の髪という、珍しい目と髪色をしているものの、それでも平凡の域を出ない!つまりは全てにおいて平均的な、校内でも別に有名ではない、町で一番のノーマルでノーマルなスーパーノーマル男なのである!

しかし!そんなノーマル男も、今この時は他のクラスメイトたちとは違って、ラピスの写真に食いついたりしていないかった!そんなクラスメイトたちの様子を見ながらため息さえついていたのである!この反応は普通ではない!

と、そうこうしているうちに先生がやってきたので、この騒ぎは終わりを告げた。

その後もちょくちょくラピスの話題が出たものの、瑠璃は全く反応を示さず、盛り上がるクラスメイトたちを見つめるだけだった。

こうして、今日の授業も全て終わって、部活に所属していない瑠璃は帰宅することになったのだ─────。



「ただいまー」

瑠璃がそう言って玄関のドアを開き、帰宅すると、ちょうど冷蔵庫から飲み物を取って自分の部屋へと帰ろうとしていた姉が出迎えてくれた。

「おや、おかえり」

瑠璃の姉、緑鏡花は、小説家である。結構な売れっ子で、色々と賞を取ったりとか、ドラマ化したりとかもしているらしい。

家でも着物とか着ていて、なぜか顔の半分だけにうさぎのお面を被っているところから見ても、かなりの変人であるところが見え隠れしている。

鏡花は瑠璃色の長い髪の毛をポニーテールに縛っていて、瑠璃色の左目で弟を見ている。着物がややはだけて谷間が少し見えている。ただ、瑠璃は弟なので別にこれには反応しなかった。

鏡花は、帰ってきた弟である瑠璃を見て、不思議そうに言った。

「なんだ、瑠璃。ずいぶん消沈した様子じゃないか。どうかしたのか?」

「どうしたもこうしたもないよ!」

瑠璃はバーンと学生鞄を投げ出して叫んだ。

「なんで男子高校生がクラスメイトに可愛いだの妹にしたいだの言われなくちゃならいんだよ!」

「・・・・・・・なんだ、またお前のことでクラスメイトが盛り上がっていたのか?大変だな、『魔法少女』ラピスちゃんは」

揶揄うように言う鏡花に対して、瑠璃はビシっと人差し指を向けながら言った。

「その名前で呼ぶな!!」

・・・・・・今の会話で、読者の皆様にも御理解いただけただろうか。

そう、実はこの瑠璃、ザ・ノーマルマンの男子高校生緑瑠璃とは表の顔!

しかし彼の本当の正体とは!魔法少女!世間で有名、大人気の、小動物系魔法少女のラピスなのである!!

「もうどーなってんだよ。なんでこんなに人気なんだよ俺は・・・・・・。今日なんかずーっとクラスメイトが俺への愛を語り続けてて気が狂うかと思ったんだぞ!!」

「贅沢な悩みだね。人から必要とされずに悩むよりも、求められすぎて悩むことの方がはるかにいいということを、瑠璃は知るべきだね」

「うるせえよ!!大体、俺が魔法少女としてセカンドをやることになったのだって、元はと言えば姉さんのせいだろ!?」

「仕方ないだろう?小説のネタになりそうだったんだから」

「ネタのために弟を魔法少女にするな!第一、ネタにするつもりなら自分がなりゃよかっただろ!」

「それも仕方がない。なにせ、私には魔力が馴染まなかったのだから。・・・・・・魔界と呼ばれるところから飛来した魔物たち。そんな魔物たちに対抗するためには、こちらも魔界の力にて対抗するしかない。毒を以て毒を制す。つまり、魔界というところに遍満している魔力というものをなんやかんやで引っ張ってきて、なんやかんやで対象者の体に馴染ませる。そうすることで魔法少女と言うものが生まれるのだから。魔力が馴染まなかったら仕様がないのである」

「のである・・・・・・じゃねえよ!だからって弟を魔法少女にするな!・・・・・・姉さんはいっつもそうだよ!姉さんの『ネタ探し』のせいでどれだけ俺が割りを食ったと思ってるんだよ!」

「・・・・・・?私が瑠璃に割りを食わせたことなんてあったか?」

「・・・・・・ガチでクソでか芋虫の丸焼きを食わせられたことあったよな?」

「ああ、あったねえ。でも味はそれほど悪くはなかっただろう?」

「味は悪くなくてもビジュアルが最悪なんだよ!!・・・・・・・シュールストレミングを家の中で開けたせいで、家の中大変なことになったこともあったよな?」

「世界一臭いと言われている缶詰なんて、小説家として体験しないわけにはいかないだろう?」

「・・・・・・俺の布団に、いつの間にか潜り込んでたこともあったよな?」

「ああ、あれは、フィクションとかだと良くあるだろう?弟に正常な愛情を超えた性的恋愛的愛情を抱いてる姉というのが出てくることが」

「ああ。でもあれはあくまでフィクションに限った存在だろ?」

「ああ。私も瑠璃に対してそう言った感情を抱くことはこれっぽっちもない。ただ、小説家というものは色んな人間の感情というものを知っておく必要があるだろう?だから、朝勃ちのの一つでも見れば多少はそういう気持ちを理解できるかと思って潜り込んでみることにしたのだよ」

「朝だ・・・・・・!?」

「ただ、全然駄目だったな。流石に子供の時とは違って立派になってるな、ぐらいの感想しか抱けなかったよ」

「決めたよ姉さん。俺、小説家にだけはならないことにする」

「ところで瑠璃。君は小説家が自分の作品に同じく小説家のキャラクターを登場させることについてどう思う?」

「急にどうした?」

「そういうのって、なんかイタくてサムいとは思わないかい?なんていうか、その小説家の理想みたいなのが透けて見えるような気がしてさ」

「もしかしなくても高度な皮肉か?それは」

「さてと、瑠璃には怒られてしまったことだし・・・・・・佳織にでも『ネタ出し』を付き合ってもらうことにするかな」

佳織とは瑠璃の妹である。瑠璃がこんなに不満たらたらなのに魔法少女であることをやめない理由は、この妹のためというのが大半を占めている。山ほどのお金を稼いで、山ほどのお菓子やおもちゃを買ってあげたいのである。山ほどのお金を稼げば山ほど税金がかかるだろ、というツッコミは無しの方向でお願いします。

「佳織を巻き込むんじゃねえ、殺すぞ」

「あっはっはっは!瑠璃は相変わらずのリトルシスター・コンプレックスだねえ。その妹に向ける愛情を、欠片でもいいから私にかけてくれないかい?そうすれば、姉弟で禁断の恋に落ちる人々の気持ちが少しはわかるかもしれない」

「キモい!いーよもうその話は!」

「はっはっは!」

と、そんな話をしていると、瑠璃の家の中にブーッブーッと急にブザーのようなものが鳴り渡った。

「ほら、魔法少女ラピス、出番だよ」

「その名前やめろ!その名前!」

瑠璃は魔法少女に変身する。

パッと光に包まれると、某ニチアサ女児向けアニメヒロイン風のフリフリの衣装に身を包み、瑠璃色の髪の毛をツインテールに結んだ、小学生くらいに見える少女となり、ドアを開けると勢いよく空へ飛んでいった。

・・・・・・・これは、普通の男子高校生である緑瑠璃が、小説家である姉の緑鏡花のネタ出しに巻き込まれて魔法少女として活躍することになるという話である。

続く・・・・・・といいなあ。
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