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34 ちょっと、嫌な、勘だ 藤代side
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選挙結果が出た日の放課後は、生徒会室で新旧役員が集まり引継ぎなどをすることになっていた。
しかし、その場に千雪の姿はない。
俺は、正式に生徒会役員になった千雪と初仕事できるって、すっごくワクワクしていたのに。
次第にイライラしてくる。
千雪の性格上、ここにきて逃げるとか、そんなことはないと思うのだけど。
俺は千雪が来るのを待ちきれず、一度教室に戻った。
ホームルームの時間も千雪は戻ってこなくて、真面目な彼にしては珍しいなとは思っていた。
万が一、やっぱり生徒会副会長にはなりたくないと思って、家に帰っちゃったりするかなとも考えたけど。
千雪のカバンはまだ教室にあった。
帰っちゃってはいない。それはひとまずホッとしたけど。
じゃあ、今千雪はどこにいるんだ?
スマホを鳴らしてみるけど、コール音は鳴るのに、出てくれない。むぅぅ。
GPSアプリを入れておけばよかったか…いや、千雪が怒るからやめたのだった。むぅぅぅ。
俺は生徒会室にもう一度戻る。でもまだ、そこに千雪の姿がなくてがっかりするのだけど。
それで、前生徒会副会長の萩原に八つ当たりした。
「萩原先輩、千雪が挨拶に来たでしょ? どうして一緒に来なかったんですかっ!?」
「そんなこと言われてもぉ。穂高くんは挨拶に来たあと、花壇に行って、それから生徒会室に行くって言っていたのよ。顔合わせがあることは知っていたみたい。なのになんで来ないのかなぁ?」
首を傾げる萩原を横目に、俺は生徒会室の窓から体を乗り出して、階下の花壇を見てみる。
でも千雪の姿はそこになかった。
花壇は、生徒会室の真下にあるそこだけではないから、一概には言えないけど。
たぶん、千雪は花壇にはいないんじゃないかな? と思った。
ちょっと、嫌な、勘だ。
明日デートしよう、なんて俺が無茶ぶりをしても、千雪は約束をしたら絶対に破らなかった。
ダメなときはきっぱり断られたけど。断られた数のほうが多いけど。
つまり、千雪はできない約束はしないタイプなんだ。
そういう真面目で律儀な性格を知っているから、大事な用事に顔を出さず、校内にいるらしいのにスマホにも出ない、そんなことが千雪に関しては考えられず、逆に気に掛かる。
不愉快な違和感を感じ、胸がざわざわした。そのとき――
「遅くなってすみません」
扉が開き、千雪が来たかと思った。
が、声は別人で落胆する。
振り返ると、生徒会室に入ってきたのは選挙で副会長に落選した高瀬だった。
「穂高は副会長を辞退するそうです。で、次点の俺に任せるって言ってくれて。あの、精一杯がんばりますのでよろしくお願いします」
喜びいっぱいの笑顔で元気に挨拶する高瀬を、その場にいた新旧生徒会メンバーがギョッとした顔で見やった。
「そんなこと、千雪が言うはずないだろ。嘘つくなっ、高瀬!!」
俺は即座に否定する。
でも、長い間千雪が生徒会入りを渋っていたのも知っているから、もしかしたらという想いが一瞬よぎった。
内心動揺する俺の肩をポンと叩いたのは、深見だった。
彼は笑顔で俺をなだめ、そして高瀬と相対した。
「高瀬くん。せっかく来てもらったんだけど、厳正な選挙結果なので、信任された座を簡単に譲ったり奪ったりはできないんだよ」
高瀬は深見の言葉に激しい動揺を見せ、視線を揺らした。
「そんな…奪ったりしていませんよ。俺は、穂高に…」
「わかってるってぇ、でもまずは、穂高くん本人から話を聞かないとならないんだ。そうでないと、君を副会長とは認められないなぁ」
高瀬は少しがっかりした顔つきになったが、あっさり引っ込み、深見に会釈した。
「そうですか。なら出直しますね」
「いやいや、話は終わってないよ、高瀬くん。それで、穂高くんは今どこにいるの?」
部屋を出て行こうとする高瀬の腕を掴んだ深見は、口元に笑みを張りつけ、しかし凶悪な迫力でせまる。
「えっと、それは、知りません」
「穂高くんに委譲されたんだろう? 穂高くんと最後に会った人物が君なんだ。で? どこで穂高くんとその話をしたのかって、聞いてんだよっ!」
深見が凄むと、高瀬は言葉を失った。
簡単な質問にすぐに返答しない高瀬の挙動不審さを見て、俺も、これはやはりおかしいことなのだと腑に落ちた。
千雪が逃げたんじゃない。高瀬に、なにかされたのか?
「ついさっき…教室で」
あえぐように言う高瀬に、俺はすかさずツッコんだ。
「教室にはいなかった。おい、嘘つくんじゃねぇよ」
いつになく乱暴な言葉遣いで声を荒げると、高瀬はひきつった笑みを浮かべて言い訳した。
「う、嘘じゃないよ、藤代。穂高は副会長なんかやってらんないって言ってた」
その言葉を聞いた深見が、今度はキレた。
ガンと椅子を蹴っ飛ばして高瀬を威嚇する。
「はぁ? なに言ってんの? 当選の報告に来た穂高くんは、すっごく嬉しそうにして笑っていたぞ。穂高くんは、副会長になって彼にしかできないことをする、その責任をしっかり認識していた。だから『副会長なんか』なんて絶対に言わないし、会長におもねるばかりの君に副会長職を委譲するとかも、あり得ねぇんだっつぅの!」
「そうよ、穂高くんは私たちの頑張りを無下にするような子じゃないんだからっ」
萩原も加勢に入る。ふたりに責め立てられ、高瀬は声を震わせた。
「お、俺…知らない。穂高が出てきたら聞けばいいじゃないっすか。出て、くれば…」
そうして高瀬は、頬を引きつらせながら…笑った。
しかし、その場に千雪の姿はない。
俺は、正式に生徒会役員になった千雪と初仕事できるって、すっごくワクワクしていたのに。
次第にイライラしてくる。
千雪の性格上、ここにきて逃げるとか、そんなことはないと思うのだけど。
俺は千雪が来るのを待ちきれず、一度教室に戻った。
ホームルームの時間も千雪は戻ってこなくて、真面目な彼にしては珍しいなとは思っていた。
万が一、やっぱり生徒会副会長にはなりたくないと思って、家に帰っちゃったりするかなとも考えたけど。
千雪のカバンはまだ教室にあった。
帰っちゃってはいない。それはひとまずホッとしたけど。
じゃあ、今千雪はどこにいるんだ?
スマホを鳴らしてみるけど、コール音は鳴るのに、出てくれない。むぅぅ。
GPSアプリを入れておけばよかったか…いや、千雪が怒るからやめたのだった。むぅぅぅ。
俺は生徒会室にもう一度戻る。でもまだ、そこに千雪の姿がなくてがっかりするのだけど。
それで、前生徒会副会長の萩原に八つ当たりした。
「萩原先輩、千雪が挨拶に来たでしょ? どうして一緒に来なかったんですかっ!?」
「そんなこと言われてもぉ。穂高くんは挨拶に来たあと、花壇に行って、それから生徒会室に行くって言っていたのよ。顔合わせがあることは知っていたみたい。なのになんで来ないのかなぁ?」
首を傾げる萩原を横目に、俺は生徒会室の窓から体を乗り出して、階下の花壇を見てみる。
でも千雪の姿はそこになかった。
花壇は、生徒会室の真下にあるそこだけではないから、一概には言えないけど。
たぶん、千雪は花壇にはいないんじゃないかな? と思った。
ちょっと、嫌な、勘だ。
明日デートしよう、なんて俺が無茶ぶりをしても、千雪は約束をしたら絶対に破らなかった。
ダメなときはきっぱり断られたけど。断られた数のほうが多いけど。
つまり、千雪はできない約束はしないタイプなんだ。
そういう真面目で律儀な性格を知っているから、大事な用事に顔を出さず、校内にいるらしいのにスマホにも出ない、そんなことが千雪に関しては考えられず、逆に気に掛かる。
不愉快な違和感を感じ、胸がざわざわした。そのとき――
「遅くなってすみません」
扉が開き、千雪が来たかと思った。
が、声は別人で落胆する。
振り返ると、生徒会室に入ってきたのは選挙で副会長に落選した高瀬だった。
「穂高は副会長を辞退するそうです。で、次点の俺に任せるって言ってくれて。あの、精一杯がんばりますのでよろしくお願いします」
喜びいっぱいの笑顔で元気に挨拶する高瀬を、その場にいた新旧生徒会メンバーがギョッとした顔で見やった。
「そんなこと、千雪が言うはずないだろ。嘘つくなっ、高瀬!!」
俺は即座に否定する。
でも、長い間千雪が生徒会入りを渋っていたのも知っているから、もしかしたらという想いが一瞬よぎった。
内心動揺する俺の肩をポンと叩いたのは、深見だった。
彼は笑顔で俺をなだめ、そして高瀬と相対した。
「高瀬くん。せっかく来てもらったんだけど、厳正な選挙結果なので、信任された座を簡単に譲ったり奪ったりはできないんだよ」
高瀬は深見の言葉に激しい動揺を見せ、視線を揺らした。
「そんな…奪ったりしていませんよ。俺は、穂高に…」
「わかってるってぇ、でもまずは、穂高くん本人から話を聞かないとならないんだ。そうでないと、君を副会長とは認められないなぁ」
高瀬は少しがっかりした顔つきになったが、あっさり引っ込み、深見に会釈した。
「そうですか。なら出直しますね」
「いやいや、話は終わってないよ、高瀬くん。それで、穂高くんは今どこにいるの?」
部屋を出て行こうとする高瀬の腕を掴んだ深見は、口元に笑みを張りつけ、しかし凶悪な迫力でせまる。
「えっと、それは、知りません」
「穂高くんに委譲されたんだろう? 穂高くんと最後に会った人物が君なんだ。で? どこで穂高くんとその話をしたのかって、聞いてんだよっ!」
深見が凄むと、高瀬は言葉を失った。
簡単な質問にすぐに返答しない高瀬の挙動不審さを見て、俺も、これはやはりおかしいことなのだと腑に落ちた。
千雪が逃げたんじゃない。高瀬に、なにかされたのか?
「ついさっき…教室で」
あえぐように言う高瀬に、俺はすかさずツッコんだ。
「教室にはいなかった。おい、嘘つくんじゃねぇよ」
いつになく乱暴な言葉遣いで声を荒げると、高瀬はひきつった笑みを浮かべて言い訳した。
「う、嘘じゃないよ、藤代。穂高は副会長なんかやってらんないって言ってた」
その言葉を聞いた深見が、今度はキレた。
ガンと椅子を蹴っ飛ばして高瀬を威嚇する。
「はぁ? なに言ってんの? 当選の報告に来た穂高くんは、すっごく嬉しそうにして笑っていたぞ。穂高くんは、副会長になって彼にしかできないことをする、その責任をしっかり認識していた。だから『副会長なんか』なんて絶対に言わないし、会長におもねるばかりの君に副会長職を委譲するとかも、あり得ねぇんだっつぅの!」
「そうよ、穂高くんは私たちの頑張りを無下にするような子じゃないんだからっ」
萩原も加勢に入る。ふたりに責め立てられ、高瀬は声を震わせた。
「お、俺…知らない。穂高が出てきたら聞けばいいじゃないっすか。出て、くれば…」
そうして高瀬は、頬を引きつらせながら…笑った。
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