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2 絡んできて、いやぁな感じ。 穂高side
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中等部の三年間、僕は園芸部に所属していた。
特に草花が好きだったわけではないが、運動は得意ではないし、放課後遅くまで残らなくてもいいのが良かったんだ。でも、いざやり始めたら長期の休暇のときに何回か登校しなきゃならなくて…ほら、花壇の水やりとかでね。ちょっと大変ではあったけど、それでも毎日部活で長い時間取られるよりはマシだった。
その園芸部で、園芸のことはまったくの素人だった僕にいろいろ教えてくれたのが、須藤美里香先輩。
園芸部は弱小クラブだし、中等部でも高等部でもやることは変わらないので、よく中高合同で活動をしていた。それで、僕が中等部三年、須藤先輩が高等部一年のとき。中高園芸部合同で、春に向けて花壇にパンジーなどの植え付けをしていたとき、須藤先輩が僕に言ったのだ。
「ねぇ、穂高くんは園芸部に入るよね?」
高等部の園芸部は三年の先輩が卒業すると三人になってしまい、廃部間近だというのだ。
でも中等部の園芸部員は、高等部に進学したら違う部活をやってみたいってみんな言っていて。
須藤先輩は勧誘に必死だった。
僕は、元々高等部でも園芸部に入るつもりだったし。恋愛感情ほどではないが、いつもニコニコしている彼女に好意を持っていたので、その話にうなずいたのだった。
「やったぁ、これでたぶん廃部は免れるわぁ。穂高くん、ありがとう」
ショートカットで快活な印象の彼女が満面の笑みで笑った。
悪い気はしなかった。
そうして五月になり、僕は今高等部の敷地にある花壇を耕している。夏用の花の種を植えるためだ。土いじりをするから、体育のジャージに着替えてある。
「ねぇ、穂高くんって、あの新入生挨拶をした藤代くんと同クラ?」
須藤先輩に聞かれ、僕はスコップを変な箇所にザクっと刺してしまった。
手元が狂った。だって、部活中にその名前を聞くとは思わなかったんだ。
「はぁ、まぁ…そうですけど」
焦って返答し、冷や汗が出る。汚れた手で、思わず額をこすってしまった。
「あぁぁ、顔が汚れちゃったよ、穂高くん。相変わらずドジねぇ」
ひまわりの種を持って、キャラキャラ笑うのは、いつもの明るい須藤先輩だ。でも、ちょっとだけ頬がピンクに色づいている。
「彼って、どんな人? 優しい?」
種を植えながら、なんの気なしに、という態度を装っているが。
須藤先輩が藤代に興味津々なのは透けて見えた。
そばで、他者が藤代に好意を向けるのがわかると、僕はなんだか気持ちが萎えた。
そんなに良いかぁ? って、反発心が出ちゃうんだよね。
わかっている、これは妬みによる嫉みであると。
四月の一週目から、藤代の存在に上級生が注目しはじめ、部活の勧誘なんかは大変な騒ぎになった。運動部などは主将が教室に自ら足を運んだし、ちょっと強引な勧誘もあって、教師から注意を受けた部などもあった。
さらに、女子の先輩が告白してきたって、教室で友達が騒いでいたのも耳にした。
高等部の女子はのきなみ藤代の魅力に撃沈しているようだ。
だから須藤先輩もそうなんだなって、容易に思いつく。みんなイケメンに弱い。
「さぁ、僕は藤代とあまり話したことないから。藤代はみんなに優しいし、美形で、頭が良くて、スポーツもできる」
「そんな、みんなが知ってる情報じゃ、つまんなーい。同クラなのに藤代くんと話さないの、もったいなくなーい?」
一年前、ショートカットだった髪が、今は肩口まで伸びている須藤先輩は、指で前髪をいじりながら言った。
「やっぱり、須藤先輩も藤代がタイプなんですか?」
わかりきった質問だけど、聞くと。須藤先輩ははにかんだ笑顔で答えた。
「そういうわけじゃないけどぉぉ。つい、見ちゃうよね。無意識に目で追っちゃうの。それで、藤代くんのレアな情報がゲットできたら、テンション爆上がり。そういうの、わかる?」
わかりますよ。それって、もう好きじゃん。
そうは思いつつ。僕は作り笑顔で須藤先輩に言った。
「なんか、楽しそうで良いですね」
そうして、ひまわりの種を植えて。そのときは普通に部活を終えた。
しかし、その翌日から須藤先輩は園芸部に来なくなった。
さらに数日後。校内で須藤先輩と藤代が並んで歩いているところを見かけ。
あぁ、そういうことかと。
藤代をゲットするなんて、須藤先輩、すごいなって。
そんなことをぼんやりと考えた。
園芸部には幽霊部員がいる。それでかろうじて廃部は免れているわけだが。
でも、幽霊は花の世話をしない。
今までは須藤先輩と僕が変わりばんこで花壇の見回りをしていたのだけど、須藤先輩が部活に来なくなったから僕が毎日花壇を見るようになってしまった。
苗や花には命が宿っているだろう? 世話をしないで枯らしちゃったら、僕のせいって思っちゃう。面倒くさいけど、僕はその小さな命を無視できないんだ。
でもまぁ、一番手がかかる植えつけは済んでいるし、あとは水やりをするだけだから。普通の部活よりは時間を取られないからいいよ。うん。
園芸用のエプロンを制服の上につけた僕は、そんなふうに自分を納得させながら、ジョウロで花壇の水やりしていた。ジョウロが軽くなって、水が出なくなった…そのとき。
なんでか藤代が現れた。
「穂高、ひとりで部活を続けているの?」
取り巻きがいない、ひとりきりの藤代は珍しい。
でも、いきなり絡んできて、いやぁな感じ。僕はいぶかしげに彼を見やる。
これは、妬みや嫉みからの印象ではないぞ。唇が弧を描いて妙に綺麗に笑っているからさ、ひとりで水やりをしている僕をからかっているんだって思ったんだよ。
「美里香ちゃん、もう園芸部やめるって言ってたよ。聞いた?」
須藤先輩のことを美里香ちゃんと呼び、藤代が彼女との親密さをアピールすると、なんでかイラっとした。
まぁ、僕は須藤先輩の彼氏ではないから、イラッとする資格はないけどね。
でも、どうしても僕のほうが須藤先輩と関わった期間は長いのにって思ってしまうんだ。
「聞いていないけど、彼氏の君が言うのなら、そうなんだろうね」
ジョウロの口から、水滴がピチョンと落ちる。
なんか、藤代と話をするのが面倒になってきた。
早く、どこかに行ってくれないかな。
「彼氏って? 美里香ちゃんの彼氏が俺ってこと? 違う違う。彼女と付き合ってなんかいないよ。ただの友達だ」
それについての感想は特になかったので。蚊の鳴くような声でふぅんとうなずいて、ジョウロを握り直した。
暗に、早く後片付けしたいんですけどぉ、という空気を出してみる。
たが、通じていない模様。藤代がいなくなる気配はみじんもなかった。
「なぁ、穂高。園芸部は廃部だろ? 俺、来期の生徒会に誘われているんだけど、穂高も一緒に立候補しない?」
「は?」
まったくもって脈絡のない話に、僕は間抜けな声を出すしかなかった。
特に草花が好きだったわけではないが、運動は得意ではないし、放課後遅くまで残らなくてもいいのが良かったんだ。でも、いざやり始めたら長期の休暇のときに何回か登校しなきゃならなくて…ほら、花壇の水やりとかでね。ちょっと大変ではあったけど、それでも毎日部活で長い時間取られるよりはマシだった。
その園芸部で、園芸のことはまったくの素人だった僕にいろいろ教えてくれたのが、須藤美里香先輩。
園芸部は弱小クラブだし、中等部でも高等部でもやることは変わらないので、よく中高合同で活動をしていた。それで、僕が中等部三年、須藤先輩が高等部一年のとき。中高園芸部合同で、春に向けて花壇にパンジーなどの植え付けをしていたとき、須藤先輩が僕に言ったのだ。
「ねぇ、穂高くんは園芸部に入るよね?」
高等部の園芸部は三年の先輩が卒業すると三人になってしまい、廃部間近だというのだ。
でも中等部の園芸部員は、高等部に進学したら違う部活をやってみたいってみんな言っていて。
須藤先輩は勧誘に必死だった。
僕は、元々高等部でも園芸部に入るつもりだったし。恋愛感情ほどではないが、いつもニコニコしている彼女に好意を持っていたので、その話にうなずいたのだった。
「やったぁ、これでたぶん廃部は免れるわぁ。穂高くん、ありがとう」
ショートカットで快活な印象の彼女が満面の笑みで笑った。
悪い気はしなかった。
そうして五月になり、僕は今高等部の敷地にある花壇を耕している。夏用の花の種を植えるためだ。土いじりをするから、体育のジャージに着替えてある。
「ねぇ、穂高くんって、あの新入生挨拶をした藤代くんと同クラ?」
須藤先輩に聞かれ、僕はスコップを変な箇所にザクっと刺してしまった。
手元が狂った。だって、部活中にその名前を聞くとは思わなかったんだ。
「はぁ、まぁ…そうですけど」
焦って返答し、冷や汗が出る。汚れた手で、思わず額をこすってしまった。
「あぁぁ、顔が汚れちゃったよ、穂高くん。相変わらずドジねぇ」
ひまわりの種を持って、キャラキャラ笑うのは、いつもの明るい須藤先輩だ。でも、ちょっとだけ頬がピンクに色づいている。
「彼って、どんな人? 優しい?」
種を植えながら、なんの気なしに、という態度を装っているが。
須藤先輩が藤代に興味津々なのは透けて見えた。
そばで、他者が藤代に好意を向けるのがわかると、僕はなんだか気持ちが萎えた。
そんなに良いかぁ? って、反発心が出ちゃうんだよね。
わかっている、これは妬みによる嫉みであると。
四月の一週目から、藤代の存在に上級生が注目しはじめ、部活の勧誘なんかは大変な騒ぎになった。運動部などは主将が教室に自ら足を運んだし、ちょっと強引な勧誘もあって、教師から注意を受けた部などもあった。
さらに、女子の先輩が告白してきたって、教室で友達が騒いでいたのも耳にした。
高等部の女子はのきなみ藤代の魅力に撃沈しているようだ。
だから須藤先輩もそうなんだなって、容易に思いつく。みんなイケメンに弱い。
「さぁ、僕は藤代とあまり話したことないから。藤代はみんなに優しいし、美形で、頭が良くて、スポーツもできる」
「そんな、みんなが知ってる情報じゃ、つまんなーい。同クラなのに藤代くんと話さないの、もったいなくなーい?」
一年前、ショートカットだった髪が、今は肩口まで伸びている須藤先輩は、指で前髪をいじりながら言った。
「やっぱり、須藤先輩も藤代がタイプなんですか?」
わかりきった質問だけど、聞くと。須藤先輩ははにかんだ笑顔で答えた。
「そういうわけじゃないけどぉぉ。つい、見ちゃうよね。無意識に目で追っちゃうの。それで、藤代くんのレアな情報がゲットできたら、テンション爆上がり。そういうの、わかる?」
わかりますよ。それって、もう好きじゃん。
そうは思いつつ。僕は作り笑顔で須藤先輩に言った。
「なんか、楽しそうで良いですね」
そうして、ひまわりの種を植えて。そのときは普通に部活を終えた。
しかし、その翌日から須藤先輩は園芸部に来なくなった。
さらに数日後。校内で須藤先輩と藤代が並んで歩いているところを見かけ。
あぁ、そういうことかと。
藤代をゲットするなんて、須藤先輩、すごいなって。
そんなことをぼんやりと考えた。
園芸部には幽霊部員がいる。それでかろうじて廃部は免れているわけだが。
でも、幽霊は花の世話をしない。
今までは須藤先輩と僕が変わりばんこで花壇の見回りをしていたのだけど、須藤先輩が部活に来なくなったから僕が毎日花壇を見るようになってしまった。
苗や花には命が宿っているだろう? 世話をしないで枯らしちゃったら、僕のせいって思っちゃう。面倒くさいけど、僕はその小さな命を無視できないんだ。
でもまぁ、一番手がかかる植えつけは済んでいるし、あとは水やりをするだけだから。普通の部活よりは時間を取られないからいいよ。うん。
園芸用のエプロンを制服の上につけた僕は、そんなふうに自分を納得させながら、ジョウロで花壇の水やりしていた。ジョウロが軽くなって、水が出なくなった…そのとき。
なんでか藤代が現れた。
「穂高、ひとりで部活を続けているの?」
取り巻きがいない、ひとりきりの藤代は珍しい。
でも、いきなり絡んできて、いやぁな感じ。僕はいぶかしげに彼を見やる。
これは、妬みや嫉みからの印象ではないぞ。唇が弧を描いて妙に綺麗に笑っているからさ、ひとりで水やりをしている僕をからかっているんだって思ったんだよ。
「美里香ちゃん、もう園芸部やめるって言ってたよ。聞いた?」
須藤先輩のことを美里香ちゃんと呼び、藤代が彼女との親密さをアピールすると、なんでかイラっとした。
まぁ、僕は須藤先輩の彼氏ではないから、イラッとする資格はないけどね。
でも、どうしても僕のほうが須藤先輩と関わった期間は長いのにって思ってしまうんだ。
「聞いていないけど、彼氏の君が言うのなら、そうなんだろうね」
ジョウロの口から、水滴がピチョンと落ちる。
なんか、藤代と話をするのが面倒になってきた。
早く、どこかに行ってくれないかな。
「彼氏って? 美里香ちゃんの彼氏が俺ってこと? 違う違う。彼女と付き合ってなんかいないよ。ただの友達だ」
それについての感想は特になかったので。蚊の鳴くような声でふぅんとうなずいて、ジョウロを握り直した。
暗に、早く後片付けしたいんですけどぉ、という空気を出してみる。
たが、通じていない模様。藤代がいなくなる気配はみじんもなかった。
「なぁ、穂高。園芸部は廃部だろ? 俺、来期の生徒会に誘われているんだけど、穂高も一緒に立候補しない?」
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