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12 ファーストインパクト 藤代side
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俺こと、藤代永輝には幼い頃から特別な能力があった。
どんな人も、俺がひとつ笑いかけるだけで、過ぎるくらいの好意が返ってくるのだ。
たとえば、近所のおばさんに挨拶すると、それだけで手に持ちきれないくらいのお菓子をもらえた。
同級生はこぞって俺と友達になりたがる。両方の腕を引っ張られて、千切れるぅぅって何度も思ったよ。
担任はあからさまに俺を贔屓し、個人的に勉強を見てくれたりね。
これらは、小学校くらいの話。
でもまぁ『みんな親切だな』って、その頃は思っていて。
この頃はまだ、自分だけが特別だなんてことは思っていなかったんだ。
そんなある日、事件が起きた。
小学校四年生のとき、俺は下校していたときに誘拐された。
あとから聞いたところによると、犯人は交通事故で娘を失った父親だった。
俺の父の病院に搬送された娘は、手遅れで死亡してしまう。そして逆恨みした娘の父親が、病院長であった父に同じ痛みを味わわせようと、俺を誘拐したというわけだ。
もしかしたら、殺すつもりだったのかもしれない。
けれど、車に押しこめられた俺は、犯人を説得しようと思い。
とりあえず、笑いかけた。
そうしたら、その父親は。その足で自首したのだ。
犯人は、並々ならぬ恨みを募らせて犯行に及んだはずだった。俺に敵意があった。殺意もあったかもしれない。
だけど俺は、笑顔ひとつで、その犯人を懐柔してしまった…らしい。
ここまでくると、さすがの俺でも他者の極端な好意をおかしいと思い始めちゃうだろ。
で、この事件を機に俺は周りをよく観察するようになった。
すると、町中の人が自分を見ていることに気づく。
俺と目が合っても、視線をそらす人物はなく。初対面の人間は俺と接点を持とうとして、近寄ってくる。
誕生日も、そうでない日も、プレゼントが贈られる。
俺の意見に逆らう者はなく。たとえば学校の掃除のゴミ捨てとか、俺が嫌そうな素振りをすると、率先して誰かが代わってくれた。
でも、その親切はすべて俺だけのもので、みんながそういう待遇ってわけじゃないみたいで。不思議だなぁとは思ったけれど。
それって、俺にはメリットしかないじゃん。
だから、不思議だ、おかしいな、とは思っても、まぁいいかってスルーしてしまったんだ。
藤代家は、足利幕府の室町時代から医術を生業としてきた家系だ。
だから俺は、将来医者になることが決められている。勉強を精進するのが当たり前の環境で育った。
俺には兄貴がいて、彼はすでに医者への道をひた走っているから。ぶっちゃけて言えば、俺は医者にならなくても良いのかもしれないけど。でも、親戚もみんな医者だからな。
俺も別に他にしたいことがあるわけでもなく、医者になるのが嫌なわけでもないから。
まぁ、そういう歴史を背負った家系に生まれたからには、医者になるのが当然って。そう思ったから、将来医者になりたいと自然に思うようにはなったかな。
で、医者になるなら、成績は国内で上位をキープすること、医者になるための優れた人格などを求められた。
俺は、親や兄弟、藤代の親族たちの、その期待に応える。
医大ストレート合格のため、成績優秀であれ。
医者は体力も必要ゆえ、スポーツ万能であれ。
患者とのコミュニケーションに不可欠な、フレンドリーな対応を身に着けろ。
藤代家の体面を損ねないよう、品行方正であれ。などなど。
自分で言うのもなんだけど、女子にも男子にもモテモテで、友達は星の数ほどいる。そんな、一見、なんの苦労もなさそうに見える、俺だけど。
孤独だった。
俺はプライドが高くて、見苦しいところはマジで誰にも見せたくない。
でも、俺のことはいつもどこかで誰かが見ているのだ。
常に視線を集めている俺は常に気を抜けない。完璧主義であるゆえに、常時緊張する生活を送っていた。
友達は多い。けれど、その友達にも俺は弱みを見せられなかった。
それに、なんでも俺に従う友達は、他人行儀でつまらない。
つか、友達は、本当に俺の友達なのか?
特別な能力のせいでそばにいるだけなんじゃないのか?
その能力がなかったら、俺のことなど誰も目に留めないのではないか?
そんなふうに思ってしまったら、もう友達に心を開くことはできなくなった。
だが、そんな中。俺にひとつの転機がやってきたのだ。
藤代総合病院が、規模拡大、リニューアルオープンするために移転することになり、俺たち家族もその土地に引っ越すことになったのだ。
違う土地に行けば、新たな関係を一から築けるんじゃないか?
心を開ける新しい友達をゲットし、笑い合い、たまに喧嘩もする、ごく普通のやり取り。
俺はそれを期待して、夢を膨らませて喜んだ。
ちょうど、高校入学の折だったのはタイミングもいい。
それで、新しい家からほど近く、良家の子女が通い、医大の進学率もなかなか良い、中高一貫の私立梓浜学園の高等部へ編入することになったのだった。
入学式の三日前。
編入試験の結果で、俺が入学式の新入生挨拶をすることに決まった。
まぁ挨拶などは今までもやってきたことなので、俺にとっては珍しいことではない。
教師に依頼されても『はい、わかりました』と普通に電話口で了解した。
それで、詳しい内容や段取りなどを打ち合わせするため、俺は学園内に足を踏み入れたのだった。
新しい学校でどんな出会いがあるのか、それが今から楽しみだ。
真新しい制服に袖を通し、家の最寄駅へと向かう。駅ふたつ分先の場所に学校はある。まぁ、自転車で行けないこともないけど、しばらくは電車通学かな。
梓浜学園は駅から歩いて五分の好立地。中高一貫校なので、新学期になったら駅は生徒たちであふれるのだろうが、春休み中の今は、まだ人はまばらだ。
学園の入り口から校舎までの道筋には見事な桜並木がある。今年は温かくなるのが早かったから、もう満開で花びらもちらほら落ち始めていた。
三日後の入学式まで桜もつのかなって、ちょっと心配してしまう。
やはり、入学式には桜の花の下を歩きたいものだ。
そう思いながら高等部の敷地へと入っていった。
桜の木の下、道沿いに花壇があって。そこに色とりどりのチューリップが植えられている。
その彩りになんとなく目を向けていたら、花に水を与えている生徒がいた。
黒い学園の制服の上に、薄汚れた白いエプロンをつけ、青いジョウロを傾けている。
色白の肌に、頬がほんのりピンクで。低めの鼻に丸い形のメガネがちょこんと乗っているのが可愛い男の子。
高等部の敷地でなければ、中学生かなって思っちゃうくらい、体格が小さくて華奢で未発達って感じ。
前髪が、額の真ん中にかかるくらいの超短髪で、清潔感があった。
俺の印象としては『頭良さそう、体育苦手そう』だ。
それが、俺と穂高のファーストインパクトであった。
どんな人も、俺がひとつ笑いかけるだけで、過ぎるくらいの好意が返ってくるのだ。
たとえば、近所のおばさんに挨拶すると、それだけで手に持ちきれないくらいのお菓子をもらえた。
同級生はこぞって俺と友達になりたがる。両方の腕を引っ張られて、千切れるぅぅって何度も思ったよ。
担任はあからさまに俺を贔屓し、個人的に勉強を見てくれたりね。
これらは、小学校くらいの話。
でもまぁ『みんな親切だな』って、その頃は思っていて。
この頃はまだ、自分だけが特別だなんてことは思っていなかったんだ。
そんなある日、事件が起きた。
小学校四年生のとき、俺は下校していたときに誘拐された。
あとから聞いたところによると、犯人は交通事故で娘を失った父親だった。
俺の父の病院に搬送された娘は、手遅れで死亡してしまう。そして逆恨みした娘の父親が、病院長であった父に同じ痛みを味わわせようと、俺を誘拐したというわけだ。
もしかしたら、殺すつもりだったのかもしれない。
けれど、車に押しこめられた俺は、犯人を説得しようと思い。
とりあえず、笑いかけた。
そうしたら、その父親は。その足で自首したのだ。
犯人は、並々ならぬ恨みを募らせて犯行に及んだはずだった。俺に敵意があった。殺意もあったかもしれない。
だけど俺は、笑顔ひとつで、その犯人を懐柔してしまった…らしい。
ここまでくると、さすがの俺でも他者の極端な好意をおかしいと思い始めちゃうだろ。
で、この事件を機に俺は周りをよく観察するようになった。
すると、町中の人が自分を見ていることに気づく。
俺と目が合っても、視線をそらす人物はなく。初対面の人間は俺と接点を持とうとして、近寄ってくる。
誕生日も、そうでない日も、プレゼントが贈られる。
俺の意見に逆らう者はなく。たとえば学校の掃除のゴミ捨てとか、俺が嫌そうな素振りをすると、率先して誰かが代わってくれた。
でも、その親切はすべて俺だけのもので、みんながそういう待遇ってわけじゃないみたいで。不思議だなぁとは思ったけれど。
それって、俺にはメリットしかないじゃん。
だから、不思議だ、おかしいな、とは思っても、まぁいいかってスルーしてしまったんだ。
藤代家は、足利幕府の室町時代から医術を生業としてきた家系だ。
だから俺は、将来医者になることが決められている。勉強を精進するのが当たり前の環境で育った。
俺には兄貴がいて、彼はすでに医者への道をひた走っているから。ぶっちゃけて言えば、俺は医者にならなくても良いのかもしれないけど。でも、親戚もみんな医者だからな。
俺も別に他にしたいことがあるわけでもなく、医者になるのが嫌なわけでもないから。
まぁ、そういう歴史を背負った家系に生まれたからには、医者になるのが当然って。そう思ったから、将来医者になりたいと自然に思うようにはなったかな。
で、医者になるなら、成績は国内で上位をキープすること、医者になるための優れた人格などを求められた。
俺は、親や兄弟、藤代の親族たちの、その期待に応える。
医大ストレート合格のため、成績優秀であれ。
医者は体力も必要ゆえ、スポーツ万能であれ。
患者とのコミュニケーションに不可欠な、フレンドリーな対応を身に着けろ。
藤代家の体面を損ねないよう、品行方正であれ。などなど。
自分で言うのもなんだけど、女子にも男子にもモテモテで、友達は星の数ほどいる。そんな、一見、なんの苦労もなさそうに見える、俺だけど。
孤独だった。
俺はプライドが高くて、見苦しいところはマジで誰にも見せたくない。
でも、俺のことはいつもどこかで誰かが見ているのだ。
常に視線を集めている俺は常に気を抜けない。完璧主義であるゆえに、常時緊張する生活を送っていた。
友達は多い。けれど、その友達にも俺は弱みを見せられなかった。
それに、なんでも俺に従う友達は、他人行儀でつまらない。
つか、友達は、本当に俺の友達なのか?
特別な能力のせいでそばにいるだけなんじゃないのか?
その能力がなかったら、俺のことなど誰も目に留めないのではないか?
そんなふうに思ってしまったら、もう友達に心を開くことはできなくなった。
だが、そんな中。俺にひとつの転機がやってきたのだ。
藤代総合病院が、規模拡大、リニューアルオープンするために移転することになり、俺たち家族もその土地に引っ越すことになったのだ。
違う土地に行けば、新たな関係を一から築けるんじゃないか?
心を開ける新しい友達をゲットし、笑い合い、たまに喧嘩もする、ごく普通のやり取り。
俺はそれを期待して、夢を膨らませて喜んだ。
ちょうど、高校入学の折だったのはタイミングもいい。
それで、新しい家からほど近く、良家の子女が通い、医大の進学率もなかなか良い、中高一貫の私立梓浜学園の高等部へ編入することになったのだった。
入学式の三日前。
編入試験の結果で、俺が入学式の新入生挨拶をすることに決まった。
まぁ挨拶などは今までもやってきたことなので、俺にとっては珍しいことではない。
教師に依頼されても『はい、わかりました』と普通に電話口で了解した。
それで、詳しい内容や段取りなどを打ち合わせするため、俺は学園内に足を踏み入れたのだった。
新しい学校でどんな出会いがあるのか、それが今から楽しみだ。
真新しい制服に袖を通し、家の最寄駅へと向かう。駅ふたつ分先の場所に学校はある。まぁ、自転車で行けないこともないけど、しばらくは電車通学かな。
梓浜学園は駅から歩いて五分の好立地。中高一貫校なので、新学期になったら駅は生徒たちであふれるのだろうが、春休み中の今は、まだ人はまばらだ。
学園の入り口から校舎までの道筋には見事な桜並木がある。今年は温かくなるのが早かったから、もう満開で花びらもちらほら落ち始めていた。
三日後の入学式まで桜もつのかなって、ちょっと心配してしまう。
やはり、入学式には桜の花の下を歩きたいものだ。
そう思いながら高等部の敷地へと入っていった。
桜の木の下、道沿いに花壇があって。そこに色とりどりのチューリップが植えられている。
その彩りになんとなく目を向けていたら、花に水を与えている生徒がいた。
黒い学園の制服の上に、薄汚れた白いエプロンをつけ、青いジョウロを傾けている。
色白の肌に、頬がほんのりピンクで。低めの鼻に丸い形のメガネがちょこんと乗っているのが可愛い男の子。
高等部の敷地でなければ、中学生かなって思っちゃうくらい、体格が小さくて華奢で未発達って感じ。
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(この回は箸休めのようなものなので、読まなくても次の章に差し支えはないです。)
番外編は、2人の高校時代のお話。
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