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9 男に二言はないな? サファ・ターン   ★

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     ◆男に二言はないな? サファ・ターン

 油断も隙もない。ユーリは女の武器で、テオを誘惑するつもりだな?
 俺は、さりげなく。テオの肩を抱いて、テントの方へ誘導した。
 そして去り際に、ギロリと、ユーリを睨む。彼女は、スイィィと。目を横に逃がすのだった。

 初めの頃は、俺の嫉妬光線に、ギョッとしていたユーリだったが。
 この頃は。クリスがするように。俺の視線を華麗にスルーするようになってきた。
 まぁ、ユーリはともかく。クリスは無害だろうけど。

 クリスは、外見が、もっさりしたおじさんだから。独身のくせに、自分に色恋沙汰は無縁だと思っているような、節がある。だから、女も男も、恋愛の目で見ないんだよな?
 まぁ、テオが狙われないなら、俺は助かるけど。
 でも、クリスは。クマのような外見だけど、いい男だぞ? 剣士としては、文句なく優秀だし。
 気は優しくて、力持ち。体も大きくてたくましいし。
 ヒゲを剃ったら、なかなかの美形だ。旅の間は、無精するのが、玉にきずだな。

 どちらかというと、女性陣よりクリスの方が手ごわい敵のような? テオの手伝いも、率先してやるしな?
 テオも、クリスを頼りにしていそう。むむぅ。

 とにかく。ユーリもクリスも、ついでにイオナも。テオには指一本、触れさせないからな?

 俺は、独占欲を発揮して、テオの肩を引き寄せて、頬にチュウする。
「なんだよぉ。べたべたすんなよぉ」
「いいじゃないか、婚約者なんだから。それよりユーリに目移りとかしたら、怒るからな?」
「してないよ。つか、まだ、婚約者じゃねぇしっ」
「…まだ、ね?」
 その言葉は、いずれがあるってことだろ? 楽しみに待っているよ、テーオ。

 ふと見ると、テオの肩にテントウ虫が止まっているのをみつけた。
「テオ、肩に虫が…」
 つぶやいて、俺はテントウムシを手で払ったが。
 テオはギョギョっとして、水の入った瓶を持ったままで、体をブンブンする。
「なに? 虫? 毛虫? やだやだっ、取って、サファっ、ウネウネのくねくね、キモいっ」
 毛虫ではないのだが。嫌悪感に打ち震えるテオは、体勢を崩して、俺の方に倒れ掛かってきた。
 俺はテオを支えるが、彼を抱いたまま地面に倒れ込む。俺の体の上に、テオが乗ってきたから。ラッキー。

「大丈夫だ、テオ。もう払ったし。虫、苦手だったっけ?」
 ちょっと涙目で、心許なく瓶をギュッと抱き締めるテオは、俺を見下ろす。
 うぅ、キュートで、胸がキュウとなるぅ。
 下から見上げるこのアングルは、新鮮で。いわゆる、騎乗位だと思うと…たぎるな。

「あぁ。料理人にゴキは大敵だし。なんでかこっちに向かってくるし。腹のジャバラがキモいし。そう思うと、せみとかバッタとか、他の虫もダメだし。虫の子供はウネウネでキモいし…」
 虫の悪口が際限なく出てきて、俺は苦笑する。

「じゃあ、これからは。俺が虫を退治してやるな? 頼りにして?」
「マジで? それはっ、頼む。森は嫌いではないが。虫だけが、唯一の懸念事項だった…」
 ホッとした笑みを向けるテオを。俺は体を反転させて、地面に押し倒す。
 せっかく、テントウ虫さんが与えてくれた、絶好の機会ラッキータイムだ。有効活用しなければっ。
 瓶を抱えたテオは、今度は伸し掛かる俺を見上げる。

「テオ? さっき、ユーリのお尻を見ただろ? 仲間をエッチな目で見るなんて、いけないなぁ」
 ちょっと、睨みを効かせて、俺はテオの顔に顔を寄せる。そして間近で、囁いた。
「罰だな。チュウさせろ」
「なんだよ、その罰…っ」
 有無を言わせず、テオの唇を奪う。
 深いキスは、あの日以来だな?
 ついばむキスとか、かすめるキスは、何度か、奪ったけど。テオがひらりと逃げるから。
 でも、押し倒したこの状況では、どこにも逃げられないね?

 それにテオは。罰とか言うと、応じてくれるんだ。根が、素直だからな。

 テオの体の下に手を入れて、腕の中に囲い込むように抱きしめると。唇に唇を押し当てるようにして、くちづける。テオの柔らかい口唇を揉むように、唇で触れていくと。ゆっくりとあわいが開いて。そこから口腔に舌を差し入れていく。
 最初は、舌で、舌をくすぐるように。
「ん…んぁ」
 テオが、感じて、吐息を漏らすようになったら。じっくりと絡めて。甘露な飴を転がすように、戯れるように、テオを味わっていく。
 たまに、ピクリと体を揺らし。手に持っている水の入った瓶が、ちゃぷっと音を立てた。

 舌をほどいて、唇を離すと。テオは、大きく口を開けて、息継ぎをする。
 ふふ、まだキスに慣れていなくて、鼻で呼吸できないの。可愛い。
 で、口が開いた、その隙に。もっと深く、唇を合わせて。今度は、テオが弱い、口蓋を攻めていく。
 くちゅくちゅと、上あごを舌でくすぐると。
 テオは、緑の瞳を、とろんとうるませる。

「ん、ん…ふぅ、んぁ、む…んん」
 吐息に、キスを楽しむ声音が混じれば。背中や腰やお尻を、手で撫でていっても、怒られない。

 あやすように、テオの背中を撫でていくと。ふにゃりと体の力が抜けてきた。
 腰、細っそ。
 エプロンをつけていたときも、そう思ったが。
 腰ベルトをしているテオは。ワイルドとたおやかという相反する印象が、絶妙に混ざり合って。好きぃ。
 お尻は、小ぶりで。俺の手の中に、すっぽり覆えちゃう。
 やんわりと握ると、その柔らかさは極上のマシュマロで。でも、力が入るとキュッと引き締まる。男の、固い臀部ではある。その柔らかさと固さを、いつまでも味わっていたくて。つい、モミモミしちゃった。

 手で、唇で、俺は存分に、テオに酔いしれた。

「…んっ、もう、しつこいぃ」
 テオの舌先を、名残惜しく、舌先でいじっていたら。
 手刀で頭をズビシッと叩かれた。
 いってぇ。
「勇者の俺にこんなことするのは、この世でテオしかいないぞっ? そういえば、おまえ、俺を勇者とか思ったことないって言ってたな?」
「う、ユーリとの話、聞いてたのかよぉ?」
 テオは口をとがらせて、気まずそうに、明後日の方を向く。
 なに、その可愛いリアクション。食べちゃうぞ。

「ま、俺は、それがいいんだけど。テオの中では、俺はずっと幼馴染のサファなんだろ?」
「そりゃ、そうだな。今更、勇者だから頭下げろって言われてもなぁ? 俺的には、ダメダメな駄犬だしぃ?」
 キスは、怒られたけど。会話をしながら、テオの耳の際とか、首とか。チュウしていた。
 腕の中でおとなしくしているテオは、レアだからな。

「ふふ、駄犬扱いは、萎えるが。でも、みんなは。そうじゃない。俺は俺のまま、なんも変わっていないのに。勇者だって、あがたてまつる。俺のこと、誰も見ていないんだ。反吐へどが出る」

 俺は、すがるように。テオの首元に顔を埋める。
 そうしたら。テオは優しいから。同情して。俺の髪をポンポンと手を弾ませるようにして撫でてくれた。
 だから、俺も。テオをしっかり抱え込む。腕の中で、ギュッてする。
 あぁ、温かいし。いい匂い。好きぃ。

「でも、テオは。俺を俺として、見てくれるじゃん? だから好き。だから女の子に、取られたくない」
 囁いて、目の前の首筋を舐めた。
 俺の中で、どんどん好きがつのっていく。
 テオを抱きたい。このまま事を進めてしまおうか?
 体中舐め回して、俺の熱い想いを突き入れたいっ。

「勇者が、泣きそうな声を出すな。情けない。つか、同意なく、触れるなって言ったろ? 躾のなっていない、駄犬がぁっ」
 でも、テオは。あの約束を盾に取って。
 体をムリムリッとくねらせて暴れると、空間ができた隙に膝を入れて、俺の腹を蹴り上げてきた。
 そして、俺の体を横に退けて、シッシッと、手で追い払うのだ。
 いかにも、駄犬のあしらい方ぁ。俺の扱いが、ひどいぃ。

「つか、俺とユーリの話を聞いていたんなら、おまえもユーリの尻を見たんだろ? なんで俺だけ、罰とか言うかな??」
「俺は、テオの尻しか興味がないから。罰はなし」
 笑顔で言うと、テオは『せねぇ…』と、つぶやいた。

 しかし、これからエロダンジョンに入れば。ユーリの尻のような誘惑が、いくつも起こるだろう。
 その前に。釘を刺しておかないとな?
 俺は立ち上がって、テオの手も引っ張って立ち上げると。野営地へ足を向けながら、話を続けた。
 ラッキータイム、終了…。

「なぁ、エロダンジョンでなにかあっても。テオの相手は、俺だからな? 女の子もクリスも、テオには触らせないから」
「そこは、俺がエロから守るって言えよ」
 唇をツンととがらせて、テオが言う。
 その顔。マジで可愛くて好きぃ。

「いやぁ、エロダンジョンって、なにが、どんな攻撃してくるか、読めないからな」
 スライムとかなら、剣で全部ぎ払えると思うけど。
 なんか、普通の魔獣で、そんなことにはならないと思うんだよな?
 つまり、今まで見たことのない魔獣や仕掛けが、あるってことだ。

「つか、魔剣は、あきらめたら?」
 テオはそう言うが。魔剣なんて、何本もないレアアイテムだからな。
 ここにあるって、わかっているのに。取りに行かない手はない。

「それは、無理だし。手つかずのダンジョン攻略なんて、ワクワクすること。勇者がやらずに、誰がやる?」
 俺は。子供の頃から、危険な遊びや、駄目と言われたことへの、好奇心が旺盛だった。
 だから、崩れそうな洞窟に入って行きたくなったり。子供は行っちゃいけないと言われた森にも、冒険しに行きたくなってしまうのだ。

 これは、勇者のさがなのだろうか?

 そのせいで、俺に付き添って怖い思いをしたテオは。いつも俺を怒ったが。
 だけど、怒りながらもついてきてくれたテオに、いつも感謝したし。
 俺が絶対に守ってやろうと思って。修行にも身が入ったっていうか?

 つまり。俺が今、強いのは。テオのおかげだな?

「出たよ、サファの悪い癖。それで俺が、いつも迷惑するやつぅ」
「子供のときより、俺はもっと強くなっているんだから。ま、大丈夫だろう? ちゃんと守ってやる」
 俺が守ると言うと。テオは、眉間にシワを寄せて、変な顔をした。なに?
 まぁ、それはともかく。さらに、釘をさす。

「もしも、エロダンジョンで。俺と合意でセックスしたら。テオは、俺の嫁、決定な?」
「は? なにが、どんな攻撃するかわからないって、言ったくせに。そんなの、約束できないよっ」
「女の子も、クリスもいる状況下で、俺とエッチしたいシチュエーションになるなら。それはもう、俺のことが好きってことだろ?」

「暴論だな。でも、ま、いいよ。俺はおまえと、絶対セックスなんかしないからなっ」
 テオは、俺に指を突きつけて。強い口調で言うけれど。
 お、やった。
 ダメもとで出した提案だったけど。テオが乗ってくれたぞ?

「男に二言はないな?」

「おう。つか、エロダンジョンでおまえとエッチしなかったら。その気なしってことで、嫁の件もなしな」
 うぅ、そう来たか。だが、ここは。受けて立つ。

 大丈夫。テオは俺が好きだから。
 なにかが起きたら。俺を頼ってくれるはずだ。

「ま、いいだろう。じゃ、誓約のチュウな?」
「もうダメェ。ほら、シチュー食べるんだろ? 作るの、時間かかるんだからなっ」
 そうして、さっさかと、テオはテントに向かっていってしまった。

 もう、つれないんだからなぁ。でも、テオは。恥ずかしがり屋だから、仕方がない。

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