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32 前世の記憶 テオ・ターン
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◆前世の記憶 テオ・ターン
第七階層のボス、カピバラサンを倒した、勇者一行。そのまま第八階層の通路を進んで行き。リップチュウチュウやバラケイアを如才なく倒して。
とうとう、第八階層のボス部屋にたどり着いた。
その部屋の扉は、今までの両開きの扉とは違って。白地に金の飾りが施されている、豪華なものだった。大きさも、高さが三メートルくらいあって。
いかにも、この向こうにラスボスがいます、という。立派な扉なのだった。
「よし、どうやらここが最終地点で、間違いないようだな? とりあえず、今日はラスボス戦に備えて、休憩を取ろう」
サファの言葉にうなずいて。俺たちは、第八階層のラスボス部屋に突入する前に、退避部屋に入って英気を養うことにした。
これが、このダンジョンでは最後の食事になるかもしれないし。
戦闘中に体力切れにならないように。スタミナたっぷりのご飯を用意した。
ニンニクとハーブを効かせた、クマ肉のサイコロステーキ。ウサギ肉と野菜たっぷり鍋に、小麦粉を水で溶いたものを入れたスイトン。あとはパン。
肉と野菜と炭水化物でバランスもイイね。
「ようやく、このダンジョンを抜けられるのかと思うと、ホッとするわぁ?」
「まだ、油断はできないわよぉ。ラスボスがどんなエロを用意しているのかと思うと。ゾッとするわぁ?」
イオナとユーリは、ふたりで震えるが。
俺は、サファが。魔獣には指一本触れさせねぇと約束してくれたから。彼を信じている。
実際、あれ以来。魔獣には触れられてない。
まぁ、カバゴンとかカマキリの影響は、ちょっとあったけどな。
第七階層で、ロマンティックにあてられて。俺とサファは、ちょっと悶々としていたが。
ラスボス戦の前に体力を消費できないからな。
俺たちはおとなしく寝ることにしたのだ。
サファが寝床をポンポンして。ここにおいでと示す。
まぁ、いいけど。
お互いに好きだと心を打ち明け。正式に婚約者的な感じになったわけなので。
ふたりで寄り添って寝るのは、おかしくないのだが。
そういえば、そうなる前から。俺はずっと、サファに抱っこされて寝ていたわけだ。
解せぬ。
ってことは、俺の気持ちは。全然隠せていなかったってことなのかな?
俺が煮え切らない、こんな態度だったから。サファの、あの謎の自信満々精神が生まれたのかも。
「なぁ、テオ。ちょっと確認しておきたいことがあるんだけど」
寝床で横になったのに、そういうふうに切り出してきたサファは。眼差しの光が、どこか神妙な様子だった。
神妙ワンコ。
「カピバラサンは、俺らに幻影を見せて、ロマンティックを搾取していたわけだが。俺らが話した内容は、本当のことだよな? 夢じゃないよな?」
なるほど。サファは、第七階層で体験したことが、全部、夢。己の願望が見せた幻、だったのではないかと危惧しているのだな?
「…カピバラサンは、あの子に擬態していたけど。俺と入れ替わった、みたいなことはなかったよ。俺はずっと、サファと一緒にいた」
「じゃあ、俺を愛してると言った、あの告白は。真実だな? 良かった。あの言葉がただの俺の妄想だったら。俺、マジ、死んでた」
心底、ホッとしたような顔で。サファは深くて長い溜息を吐いたのだった。
「もう。また、そういうことを言う。ラスボスの手前で死ぬとか言うな、縁起わりぃ」
「それくらい、俺には重要な件だったんだよ。今回の旅では、テオを嫁にするのが最大のメインテーマだったんだからなっ」
「旅のメインテーマは、魔王討伐だろうが、バカ」
俺はサファに軽くデコピンして、笑った。
「じゃあ、俺も聞くけど。俺はこの星で一番強くて、勇者のおまえに並び立てる男だって言ったのも。真実か?」
「そうだよ? つか。俺の隣に並べる男なんて、テオしかいないでしょ?」
「ふふ、おまえがそう思っているうちは…おまえの隣にずっといてやる」
俺は、彼の高い鼻梁に、チュッと可愛いキスを贈った。
第七階層でないところで、宣言したこの言葉は。紛うことなき本心だよ?
サファも、それを感じ取ったのか。晴れやかに笑った。
どうやら憂いは晴れた模様。
そして、俺の顔にキスを散りばめる、ウキウキワンコになった。
「ふふ、テオ、大好き。可愛い、好き好き」
「くすぐったいってぇ、もう、やめろぉ」
みんなが寝てんだから。静かにしろ。馬鹿ワンコ。
「なぁなぁ、ダンジョンをクリアしたらさぁ…」
「また、フラグを立てようとするぅ。ダメだって言ったろ?」
「いや、婚約とか結婚とか、そういう重い話じゃなくて。ダンジョン出て、モヨリ町に戻ったらさぁ。一番いい部屋を借りて、ベッドでテオを一晩中抱きたい」
一晩中ってことは…アレだよね?
まぁ、確かに? 今は両思いだし。婚約者でもあるんだし。もう遮るものはないんだから。
「んー、まぁ。いいけど」
「やった。じゃあ、約束のチュウ」
「エロいの禁止…ん、んむぅ、ん、ふ、ん」
ラスボスの手前だから、エロいのはなしって言ったのに。
約束のチュウとおやすみのチュウで、結構濃厚なくちづけをされてしまった。もうっ。
★★★★★
ゆっくりと休憩を取って、リフレッシュした勇者一行は。五人で、第八階層の扉の前に立った。
俺はいつも通り、サファの後ろに立ち。扉が開いたらすぐ鑑定、の構えだ。
いつものように、サファが声をかけ。みんながうなずいたのを見て。
扉を開けた。
そこは、真っ暗な闇の中で。
部屋の真ん中に、ポツンと剣が突き刺さって。そこにスポットライトが当たっている。
アレが、サファが目指していた魔剣?
ラスボスの気配はなくて。俺たちは拍子抜けした感じで、部屋の中に入っていく。
「魔剣を取る前に、鑑定しよう。罠の可能性が高いしな」
そうして、俺が鑑定をしようと思ったとき。
闇の向こうから、トットッという、軽い足音がして。
現れたのは、黒、白、黒というカラーの、獣。
俺は、鑑定モードのままで、その獣を見やった。
あ、あれ。前世でも、見たことがある。
「バク…」
つぶやいた瞬間に、バクからなにか波動があって。闇の部屋が、一転して明るくなった。
★★★★★
パァーーンという音がして。俺は意識を取り戻す。
電車がすれ違って、警報音とガタンガタンという大きな線路の音がした。
え? 電車?
目の前には、電車の開閉扉のガラスに映る、黒髪の学生の顔。俺だな。
いや、前世の、俺。
黒髪、短髪、小柄。どこにでもいる、地味で眼鏡の高校三年生。田代裕である。
わぁ、すっごい、思い出した。
今まで、前世の記憶は、こんな物があったなぁ、くらいの曖昧なものだったのにっ。
俺はガラスに映った前世の俺を、じっくり見やる。
ダサい黒縁メガネ、シャツのボタンを上まできっちりとめて、ネクタイのノットも上まで引きあがっている。
わぁ、究極、イケてない。
そのとき、電車が揺れて。満員電車の人が押し寄せてきた。
「…大丈夫か?」
頭ひとつ分以上デカい、同じ学校の生徒が。潰れかかった俺に聞く。
中本晴。
すでにモデルとしてグラビアを飾り、卒業後は俳優デビューが決まっている、校内カーストのトップ。
つか、純粋な日本人だったと思うけど、今見ると、中本、なんとなくサファに似ているな?
高い鼻梁に、色っぽい口元。甘いマスクとはこのことかという、みんなが注目する容貌だ。
少し長めのおしゃれ髪型をアプリコット色に染めている。
つか、赤毛のサファみたいで、新鮮だな。
「てか、テオ?」
俺は、中本にテオと呼ばれて、目を丸くした。
「え? サファ? マジで?」
「なんだ、コレ。この服? 鎧は? 剣は?」
中本だったら、その格好で普通なんだけど。
サファだと思うと、シャツの胸元をだらしなく開け、着崩した高校のブレザーの制服が。妙に似合っていないように見える。
「落ち着いて。ここじゃ、話せないから。電車が止まるのを待とう」
「電車…すっごい速さで動いてるな? なんなんだ?」
「だから、待って」
ちょうど、次の駅が学校の最寄り駅だ。
電車が止まって、押し出されるようにホームに降りて、流れのままに階段を上がって、改札を抜けた。
「テオ。早く教えろ。なんなんだっ?」
そうは言っても、サファも流れるようにして、定期を改札にあてて、出てきたよ。
中身は、中本がいるんだろうな?
俺にくっついて、そう言うサファを。俺はトイレに誘導し。個室に押し込んだ。
「…これは、なんだ?」
「トイレだよ。つか、中本の意識、あるだろ? トイレがなにかは、わかるよな?」
「うぅ、まぁ。でも、マジで?」
サファは水を流すボタンを押して、どういう仕組みかわかると、すっげぇって驚いていた。
「じゃなくて、なんなんだっ?」
「っていうか、本当にサファ? なんで俺がテオってわかった? 顔も髪の色も違うだろ?」
聞いたら、なにやらドヤァという顔で。サファは口にした。
「いやぁ。普通に、目の前にいるのはテオだって、思ったから」
さすが、駄犬勇者の嗅覚、というところか。
俺は妙なところに感心しつつ。遅刻したくないので、簡潔に説明する。
学校に遅刻したくない、と思うのは。俺の中にも、田代の意識が強くあるからなのだろうな?
「ここは、俺の前世の記憶の中だ。というか、俺の夢の中だ。ラスボスの部屋にいた、黒白の魔獣、アレはユメバク。冒険者に、甘酸っぱい初恋の夢を見せて、それを食べるんだって」
そこまで聞いて、派手なアプリコット色の髪をしたサファが目を吊り上げる。
「なんだよ、それ。テオの初恋は、俺だろ?」
「なんでか知らんけど。なんか、前世まで飛んだな?」
ふむ、と。俺は考え込むが。考えてもわからないのだ。
「じゃあ、なにか? テオは初恋の俺より、前世の初恋の方がときめいちゃうとか、そんなこと?」
「知らんよ。あまり覚えていないし。ついさっき、あぁ、こんなこともあったなぁって。思い出したばかりなんだ」
っていうか、なんで俺はサファに怒られているんだろう。解せぬ。
これは俺のせいじゃないでしょ? たぶん。
「で、誰なんだよ? テオの初恋の相手って。勇者パワーで殴ってやる」
「勇者パワーで殴ったら、死ぬだろ。つか、おまえだ」
「…は?」
「だから、初恋の相手。中本晴」
サファは、一瞬、目が点になったけど。ニンマリ笑って、俺に抱きついてきた。
「なんだよぉ、それを早く言えよ」
だけど、ムギュっとハグする、この距離感はおかしいのである。
俺は手でサファを制すると。告げた。
「この世界では、初恋は実らぬものと決まっている。例にもれず。陰気で地味眼鏡の俺と、卒業後に芸能界で華々しく活躍する中本との接点はなし。だから、学校での接触もなし」
「えぇ? でも。甘酸っぱい初恋なんだろ? なにかないと、ユメバクも美味しくないんじゃね? っていうか、ここからの脱出方法って、なにかあるのか?」
俺は。すぐには口に出せなかった。
でも。サファには言わないと。
たぶん、サファが打ち破ってくれないと、元の世界に戻れなくなる。
「脱出方法、それは…夢主を殺すことだ」
第七階層のボス、カピバラサンを倒した、勇者一行。そのまま第八階層の通路を進んで行き。リップチュウチュウやバラケイアを如才なく倒して。
とうとう、第八階層のボス部屋にたどり着いた。
その部屋の扉は、今までの両開きの扉とは違って。白地に金の飾りが施されている、豪華なものだった。大きさも、高さが三メートルくらいあって。
いかにも、この向こうにラスボスがいます、という。立派な扉なのだった。
「よし、どうやらここが最終地点で、間違いないようだな? とりあえず、今日はラスボス戦に備えて、休憩を取ろう」
サファの言葉にうなずいて。俺たちは、第八階層のラスボス部屋に突入する前に、退避部屋に入って英気を養うことにした。
これが、このダンジョンでは最後の食事になるかもしれないし。
戦闘中に体力切れにならないように。スタミナたっぷりのご飯を用意した。
ニンニクとハーブを効かせた、クマ肉のサイコロステーキ。ウサギ肉と野菜たっぷり鍋に、小麦粉を水で溶いたものを入れたスイトン。あとはパン。
肉と野菜と炭水化物でバランスもイイね。
「ようやく、このダンジョンを抜けられるのかと思うと、ホッとするわぁ?」
「まだ、油断はできないわよぉ。ラスボスがどんなエロを用意しているのかと思うと。ゾッとするわぁ?」
イオナとユーリは、ふたりで震えるが。
俺は、サファが。魔獣には指一本触れさせねぇと約束してくれたから。彼を信じている。
実際、あれ以来。魔獣には触れられてない。
まぁ、カバゴンとかカマキリの影響は、ちょっとあったけどな。
第七階層で、ロマンティックにあてられて。俺とサファは、ちょっと悶々としていたが。
ラスボス戦の前に体力を消費できないからな。
俺たちはおとなしく寝ることにしたのだ。
サファが寝床をポンポンして。ここにおいでと示す。
まぁ、いいけど。
お互いに好きだと心を打ち明け。正式に婚約者的な感じになったわけなので。
ふたりで寄り添って寝るのは、おかしくないのだが。
そういえば、そうなる前から。俺はずっと、サファに抱っこされて寝ていたわけだ。
解せぬ。
ってことは、俺の気持ちは。全然隠せていなかったってことなのかな?
俺が煮え切らない、こんな態度だったから。サファの、あの謎の自信満々精神が生まれたのかも。
「なぁ、テオ。ちょっと確認しておきたいことがあるんだけど」
寝床で横になったのに、そういうふうに切り出してきたサファは。眼差しの光が、どこか神妙な様子だった。
神妙ワンコ。
「カピバラサンは、俺らに幻影を見せて、ロマンティックを搾取していたわけだが。俺らが話した内容は、本当のことだよな? 夢じゃないよな?」
なるほど。サファは、第七階層で体験したことが、全部、夢。己の願望が見せた幻、だったのではないかと危惧しているのだな?
「…カピバラサンは、あの子に擬態していたけど。俺と入れ替わった、みたいなことはなかったよ。俺はずっと、サファと一緒にいた」
「じゃあ、俺を愛してると言った、あの告白は。真実だな? 良かった。あの言葉がただの俺の妄想だったら。俺、マジ、死んでた」
心底、ホッとしたような顔で。サファは深くて長い溜息を吐いたのだった。
「もう。また、そういうことを言う。ラスボスの手前で死ぬとか言うな、縁起わりぃ」
「それくらい、俺には重要な件だったんだよ。今回の旅では、テオを嫁にするのが最大のメインテーマだったんだからなっ」
「旅のメインテーマは、魔王討伐だろうが、バカ」
俺はサファに軽くデコピンして、笑った。
「じゃあ、俺も聞くけど。俺はこの星で一番強くて、勇者のおまえに並び立てる男だって言ったのも。真実か?」
「そうだよ? つか。俺の隣に並べる男なんて、テオしかいないでしょ?」
「ふふ、おまえがそう思っているうちは…おまえの隣にずっといてやる」
俺は、彼の高い鼻梁に、チュッと可愛いキスを贈った。
第七階層でないところで、宣言したこの言葉は。紛うことなき本心だよ?
サファも、それを感じ取ったのか。晴れやかに笑った。
どうやら憂いは晴れた模様。
そして、俺の顔にキスを散りばめる、ウキウキワンコになった。
「ふふ、テオ、大好き。可愛い、好き好き」
「くすぐったいってぇ、もう、やめろぉ」
みんなが寝てんだから。静かにしろ。馬鹿ワンコ。
「なぁなぁ、ダンジョンをクリアしたらさぁ…」
「また、フラグを立てようとするぅ。ダメだって言ったろ?」
「いや、婚約とか結婚とか、そういう重い話じゃなくて。ダンジョン出て、モヨリ町に戻ったらさぁ。一番いい部屋を借りて、ベッドでテオを一晩中抱きたい」
一晩中ってことは…アレだよね?
まぁ、確かに? 今は両思いだし。婚約者でもあるんだし。もう遮るものはないんだから。
「んー、まぁ。いいけど」
「やった。じゃあ、約束のチュウ」
「エロいの禁止…ん、んむぅ、ん、ふ、ん」
ラスボスの手前だから、エロいのはなしって言ったのに。
約束のチュウとおやすみのチュウで、結構濃厚なくちづけをされてしまった。もうっ。
★★★★★
ゆっくりと休憩を取って、リフレッシュした勇者一行は。五人で、第八階層の扉の前に立った。
俺はいつも通り、サファの後ろに立ち。扉が開いたらすぐ鑑定、の構えだ。
いつものように、サファが声をかけ。みんながうなずいたのを見て。
扉を開けた。
そこは、真っ暗な闇の中で。
部屋の真ん中に、ポツンと剣が突き刺さって。そこにスポットライトが当たっている。
アレが、サファが目指していた魔剣?
ラスボスの気配はなくて。俺たちは拍子抜けした感じで、部屋の中に入っていく。
「魔剣を取る前に、鑑定しよう。罠の可能性が高いしな」
そうして、俺が鑑定をしようと思ったとき。
闇の向こうから、トットッという、軽い足音がして。
現れたのは、黒、白、黒というカラーの、獣。
俺は、鑑定モードのままで、その獣を見やった。
あ、あれ。前世でも、見たことがある。
「バク…」
つぶやいた瞬間に、バクからなにか波動があって。闇の部屋が、一転して明るくなった。
★★★★★
パァーーンという音がして。俺は意識を取り戻す。
電車がすれ違って、警報音とガタンガタンという大きな線路の音がした。
え? 電車?
目の前には、電車の開閉扉のガラスに映る、黒髪の学生の顔。俺だな。
いや、前世の、俺。
黒髪、短髪、小柄。どこにでもいる、地味で眼鏡の高校三年生。田代裕である。
わぁ、すっごい、思い出した。
今まで、前世の記憶は、こんな物があったなぁ、くらいの曖昧なものだったのにっ。
俺はガラスに映った前世の俺を、じっくり見やる。
ダサい黒縁メガネ、シャツのボタンを上まできっちりとめて、ネクタイのノットも上まで引きあがっている。
わぁ、究極、イケてない。
そのとき、電車が揺れて。満員電車の人が押し寄せてきた。
「…大丈夫か?」
頭ひとつ分以上デカい、同じ学校の生徒が。潰れかかった俺に聞く。
中本晴。
すでにモデルとしてグラビアを飾り、卒業後は俳優デビューが決まっている、校内カーストのトップ。
つか、純粋な日本人だったと思うけど、今見ると、中本、なんとなくサファに似ているな?
高い鼻梁に、色っぽい口元。甘いマスクとはこのことかという、みんなが注目する容貌だ。
少し長めのおしゃれ髪型をアプリコット色に染めている。
つか、赤毛のサファみたいで、新鮮だな。
「てか、テオ?」
俺は、中本にテオと呼ばれて、目を丸くした。
「え? サファ? マジで?」
「なんだ、コレ。この服? 鎧は? 剣は?」
中本だったら、その格好で普通なんだけど。
サファだと思うと、シャツの胸元をだらしなく開け、着崩した高校のブレザーの制服が。妙に似合っていないように見える。
「落ち着いて。ここじゃ、話せないから。電車が止まるのを待とう」
「電車…すっごい速さで動いてるな? なんなんだ?」
「だから、待って」
ちょうど、次の駅が学校の最寄り駅だ。
電車が止まって、押し出されるようにホームに降りて、流れのままに階段を上がって、改札を抜けた。
「テオ。早く教えろ。なんなんだっ?」
そうは言っても、サファも流れるようにして、定期を改札にあてて、出てきたよ。
中身は、中本がいるんだろうな?
俺にくっついて、そう言うサファを。俺はトイレに誘導し。個室に押し込んだ。
「…これは、なんだ?」
「トイレだよ。つか、中本の意識、あるだろ? トイレがなにかは、わかるよな?」
「うぅ、まぁ。でも、マジで?」
サファは水を流すボタンを押して、どういう仕組みかわかると、すっげぇって驚いていた。
「じゃなくて、なんなんだっ?」
「っていうか、本当にサファ? なんで俺がテオってわかった? 顔も髪の色も違うだろ?」
聞いたら、なにやらドヤァという顔で。サファは口にした。
「いやぁ。普通に、目の前にいるのはテオだって、思ったから」
さすが、駄犬勇者の嗅覚、というところか。
俺は妙なところに感心しつつ。遅刻したくないので、簡潔に説明する。
学校に遅刻したくない、と思うのは。俺の中にも、田代の意識が強くあるからなのだろうな?
「ここは、俺の前世の記憶の中だ。というか、俺の夢の中だ。ラスボスの部屋にいた、黒白の魔獣、アレはユメバク。冒険者に、甘酸っぱい初恋の夢を見せて、それを食べるんだって」
そこまで聞いて、派手なアプリコット色の髪をしたサファが目を吊り上げる。
「なんだよ、それ。テオの初恋は、俺だろ?」
「なんでか知らんけど。なんか、前世まで飛んだな?」
ふむ、と。俺は考え込むが。考えてもわからないのだ。
「じゃあ、なにか? テオは初恋の俺より、前世の初恋の方がときめいちゃうとか、そんなこと?」
「知らんよ。あまり覚えていないし。ついさっき、あぁ、こんなこともあったなぁって。思い出したばかりなんだ」
っていうか、なんで俺はサファに怒られているんだろう。解せぬ。
これは俺のせいじゃないでしょ? たぶん。
「で、誰なんだよ? テオの初恋の相手って。勇者パワーで殴ってやる」
「勇者パワーで殴ったら、死ぬだろ。つか、おまえだ」
「…は?」
「だから、初恋の相手。中本晴」
サファは、一瞬、目が点になったけど。ニンマリ笑って、俺に抱きついてきた。
「なんだよぉ、それを早く言えよ」
だけど、ムギュっとハグする、この距離感はおかしいのである。
俺は手でサファを制すると。告げた。
「この世界では、初恋は実らぬものと決まっている。例にもれず。陰気で地味眼鏡の俺と、卒業後に芸能界で華々しく活躍する中本との接点はなし。だから、学校での接触もなし」
「えぇ? でも。甘酸っぱい初恋なんだろ? なにかないと、ユメバクも美味しくないんじゃね? っていうか、ここからの脱出方法って、なにかあるのか?」
俺は。すぐには口に出せなかった。
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たぶん、サファが打ち破ってくれないと、元の世界に戻れなくなる。
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