【完結】異世界行ったら龍認定されました

北川晶

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幕間 酔っ払いめっ   ★

     ◆酔っ払いめっ

 廣伊が紫輝の屋敷を出てすぐ、千夜は紫輝に言われた。
「千夜、廣伊について行って。いっぱい飲んでたみたいだから、心配なんだよ。今日は天誠がそばにいるから、そのまま、家に帰っていいから、な?」
 玄関で、紫輝は無邪気に手を振るが。含みがあるようにも、見え。
 まぁ、紫輝も。彼とよろしくやりたいのだろうからな、と思い。
 千夜は己の家へ向かった。

 外に出ると、雪がまた降り出していて、空気がキンと冷えている。
 普通なら、酔いが覚めるところだが。廣伊は確かに、いつもより盃を重ねていた。
 でも、しっかりした足取りで、紫輝の屋敷を出て行ったし。それほど酒に、弱くはなかったはずだ…。と考えていたら。

 廣伊が、玄関の前で、うつむき加減で突っ立っているのが見えた。

 まさか寝ているんじゃないか、と思い。
 千夜は廣伊に追いついて、彼の肩を抱く。
 長めの前髪が目元を隠していて、表情は見えない。

「なぁ、千夜。あの話、聞いたか?」
 神妙な声を出す廣伊に、千夜は息をのむ。
 見えないところで、だが。そばで控えていたので。隠密は、みんな話を聞いている。
 だから千夜も、もちろん聞いていた。

 っていうか、真剣な話の途中だが。
 廣伊が、目も向けていないのに、隣に並んだのが己だと気づいてくれたことが、千夜は嬉しかった。

「あぁ、それが?」
「なんで、紫輝たちは、私にああいう話をするのかな? 私など一兵士だぞ。次元が違い過ぎるっ。つか、手裏と将堂の首脳級が、雁首揃えた場に、私などがいるのが。そもそもおかしいのだ。私になにができるというのだ。どうしろというつもりなのかっ」

 目の前で閉ざされた玄関扉に向かって、廣伊はブツブツ文句を言っている。
 というか、いつになく饒舌。
 でも、外で。手裏だ将堂だ、物騒な話をするのは良くないので。千夜は廣伊をうながした。

「まぁ、とにかく。家に入ろう。風邪をひくぞ」
「開かない。千夜、開けろ」
 開かないって、どういうこと? と思いながら、千夜は引き戸に手をかける。
 スルリと開いた。

「あぁ、引き戸だったのか。どうりで、押しても開かないと思った」
 クスクスクスっ、と。廣伊が笑う。
 ん? これは結構、酔っているのかな? 

 廣伊の背を押して、玄関に入ると。家の中は、ほんのり温かかった。
 本棟の使用人が、こちらの家の支度までしてくれたのだ。
 廊下にも、ろうそくの灯りがついている。
 人がいないところで明るくしているのは、贅沢だな。

 千夜は廣伊の軍靴を脱がしながら、外でブツブツ言っていた廣伊の言葉への返答をする。
「私など、とか言うけど。赤穂様が離脱されたあと、将堂軍で紫輝を守れるのは、廣伊だけだろう? こうして根幹の話に参加させてもらえるのは、信用されている証拠だ。俺たちになにができるか、わからないが。とにかく紫輝を守る。そのことに、尽力するしかない」

 廣伊は、緑の髪をゆらりと揺らし。うなずきとも。眠くて、こっくりしただけとも取れる、微妙な頭の動きを見せた。
 これ、明日まで覚えているかな? と思って。
 千夜は彼を抱えて、廊下を進みつつ、灯りを消していった。

「ほら、廣伊。しっかり歩いて」
 部屋に入り、寝台の上に廣伊を下ろすと。彼は、あおむきで寝っ転がった。
 足は床に垂らしていて、ぶらぶらさせている。

 千夜は、これほど無防備な廣伊を、見たことがなかった。

 本拠地や前線基地でも、酒が出ることはあったが。廣伊はいくら飲んでも、表情を変えなかったので。酒はいける口なのかと思っていた。
 でも、廣伊は。常に誰かに、命を狙われていたのだ。
 油断すれば殺される。
 酒にのまれる間も、なかったのだろう。

『俺のせい、かな?』と千夜は苦笑し、廣伊を見下ろした。
「千夜ぁ、暑いぃ。服、脱がせて?」
「酔ってんのか? 廣伊」
 明らかに、酔っ払いだが。
 廣伊の剣を寝台の脇に置き。上着を脱がしてやりながら、聞いた。

「馬鹿な。私が酔っているわけないだろ。ちゃんと話も覚えているし。真っすぐ歩けるしぃ」
「真っすぐ歩けるって主張するところが、もう、酔ってる証拠だっつうの」
 少し体を起こさせ、背中の紐をほどいて、防具も外す。
 その間、廣伊はされるままだ。
 そして上半身の素肌があらわになって、また寝台に身を沈めた。

「下も脱ぐのか?」
「下を脱がさないで、どうやってヤるんだ?」
 当然だろう? という顔で、廣伊に見られるが。
 いやいや。無理でしょ。

「ヤるの? こんなぐでんぐでんで、できないだろう?」
「この家に帰ってきたんだから、ヤるに決まってんだろ。千夜は、ヤりたくないのか? ヤらない?」
 そんなの、答えはひとつだ。

「ヤるに決まってんだろ」

 犬歯を剥き出して、ニヤリと笑うと。千夜は、廣伊のズボンも下着も取り去り。寝台の上に乗りかかって、廣伊を組み敷いた。
 千夜は。廣伊の柔らかい頬の線をなぞるのが、好きだ。
 そして、絹糸のように細くきらめく、緑の髪が好きだ。
 くちづけながら。千夜は、廣伊の顔や髪に、指先で触れていった。

「ふふ…千夜の手、でっかいなぁ」
 愛撫の手を、廣伊が笑いながら捕まえて、自分の手と手のひらを合わせる。
 関節ひとつ分、千夜の方が、手は大きい。

「なんで、こんな小さな手で、あの大きな剣を振り回せるのやら…」
 つぶやいて、千夜は廣伊の手を、手の中に握り込む。

 結局、勝つことができなかった、鬼の組長。
 でも、今は。己の腕の中。
 そう思うと、感慨深い。

「手の大きさなんか、関係ない。ほら、こうして…」
「わっ、ちょ…ちょっと待て、廣伊?」
 廣伊は千夜の股間をさぐって、ズボンの前を開くと。煽られて、すでにみなぎらせている剛直を、握り込む。

「くっそ…酔っ払いめっ」
「酔ってないですぅ。おまえこそ、おとなしく寝てろ」
 急所を握られていると、うまく反撃できなくて。千夜はいつの間にか、廣伊に組み敷かれていた。
 あおむけで寝ても、敷かれた翼は特に痛くないが。なんとなく苦しく思うので、寝台に肘をついて上半身を起こしている。

 そんな千夜の腿の上に、廣伊は座り。頬を上気させて、見下ろす。
 ノリノリだ。

「そんな悪態ついたって。私と寝たいと、ここは素直に伝えているぞ?」
 喜々として、廣伊は指先で、そそり立つ剛直を、ちょんちょんとつつき。剣を握るかのように、絶妙な力加減で千夜のモノを握る。
 そんなことをされたら、廣伊が剣を握るたびに、今日のことを思い出してしまう。

「こうだ。こうやって握れば…ふむ、私の剣の柄よりは、太くないな?」
 当たり前だ。と、千夜は胸のうちで毒づく。
 すると急に、廣伊がまたがり。後孔に剛直の先をあてがった。

「おい、まだ…」
「大丈夫だ。いつも入っているんだからな」
 そう言って、腰を落とすのだが。ほぐしても濡らしてもいないので、簡単には挿入できない。
 そういうものだ。
 同性の情交は、大変なんだ。

「う、千夜、太すぎ。これ以上、入んないぃ。なんで? いつも入っているのに、なんで入らないんだよぉ? 私のことが嫌いになったのか?」
 廣伊は、眉間にしわを寄せ。泣いた。
 大粒の涙が、ぽろぽろこぼれる。

 嘘だろ? 鬼の組長が、こんなことで泣くとか。考えられない。

 可愛すぎだろ。
 つか、泣き上戸か?
 あと太いとか言うな、たぎるだろ。

「あぁ、もう、泣くなよ。嫌いなわけないだろ。むしろ好きだから、大きいんだろうが?」
「ん、そうか」
 裸の太ももを撫でて、廣伊をなだめると。
 急にけろっと態度が変わる。
 たちの悪い酔っ払いだなぁ、おい。

「ほら、ちゃんとヤってやるから。俺に掴まれ」
 廣伊は倒れ掛かって、千夜の胸に飛び込んだ。その拍子に、剛直は抜けてしまう。

 千夜は懐に忍ばせていたアロエの潤滑剤を取り出し、廣伊の蕾に塗り込んだ。
「ふふん、いつも持ち歩いているなんて…いやらしいなぁ」
 なにやらドヤ顔で、からかう笑みを廣伊が向ける。

 つか、表情がくるくる変わって、びっくりなんだが。
 能面が標準装備の鬼の組長が、小悪魔みたいに誘うなんて。酔ってるにしても、本当にどうしちゃったんだ?
 千夜は急ぎつつも丁寧に、廣伊の後孔をほぐす。
 早く挿入しないと、煽られ過ぎて、暴発してしまいそうだ。

「千夜ぁ、顔がイイな」
 廣伊が千夜の頬を、手のひらで包み、ゴシゴシ擦ったり、ペチペチ叩いたりする。
 酔っ払いの力加減だから、愛撫というような優しい感じじゃない。

「もう、おとなしくしろ、酔っ払いめ。食べちゃうぞ」
 限界になった千夜は、廣伊を再び組み敷いて、己を廣伊の中に埋め込んだ。
 ぐちゅうと、奥まで突き入れるが。性急に求めてしまった体を気遣って、まずは小刻みに揺すった。

「あ、あ、揺れる。揺らすな。なんか、やだ、ううぅ…」
「なに? 動くなってことか? 揺らさないでイけるのか?」
「んーっ、イ、けるっ」
 ちょっとムキになっているみたいに、唇をとがらせている。
 紫輝がやってても、小生意気なガキにしか見えないのだが。
 廣伊がやると、色気増し増しで、ヤバエロ可愛い。
 目眩起こしそう。

「ヤベェ。廣伊に酒を飲ませたら、ヤバい」
「ヤバくない。いいから、早く動け」
「なんだよ。揺らすなって言っただろ?」
「揺らさないで、動いて。早くイかせろ。イったら、寝る。もう、眠い」

「無茶苦茶だな、もう。黙れよ、廣伊」
 千夜は廣伊の口を塞ぐように、深いくちづけをした。
 舌を絡めて、存分に戯れてから、離すと。舌と舌に伝う、唾液の糸が引く。
 開いた廣伊の口の中で、桃色の舌が、物足りなさそうに差し出されていた。
 廣伊は緑の瞳を魅惑的に細め、手で千夜の青い髪をかき回す。

「好きだ、千夜。好き。もっとキスして」
 睦言など、廣伊はあまり言ってくれないから。

 その一言でギュンと高ぶった。

「廣伊っ、くそ。もう、どうなっても知らないぞ」
 薄く微笑む形の唇に、千夜はむしゃぶりつく。
 がむしゃらに、情熱的に、口腔を味わい。弾むように、蕩けるように、剛直を抜き差しする。
 廣伊は千夜の太い首にすがりついて、手荒な律動を耐え忍んだ。

「あぁ、好き。千夜ぁ、そこ、好きっ、あ、あ…ぁ」
 甘露な、言葉と。体の刺激を混ぜ合わせ。ふたりはすぐにも、高みへ駆け上がった。

 一度達したあとは。上下を入れ替えて、欲望のままに廣伊が千夜を求めた。
 廣伊は千夜の腹に手をつき、腰を激しく揺らめかせて淫猥に攻める。己の中にある敏感な場所に千夜を導き、背筋を反らし、身をくねらせて、なやましげに官能を味わった。

 濃密な愛撫にも、興じる。
 千夜の腹筋に舌を這わせ、隠密業で鍛え上げられた体のおうとつを、隅々まで、舌先で堪能したり。
 千夜も廣伊の胸を口に含んで、薄赤くなるほど、舐めて噛んで。乳首だけで、極めさせたり。
 舌が痺れるほど、しつこくキスし合って、笑ったり…。

 その夜は、ただただひたすら、お互いを貪り合って、甘い甘い情欲の沼に身を沈めたのだ。

     ★★★★★

 翌日。己の胴に抱きついて、泥のように眠っている、青い髪の男を。廣伊は見やる。
 申し訳ないことだが、情交の翌日は、綺麗に己の体を拭いてくれて。敷布も取り替えてくれて。彼は先に、仕事に出るということが多い。
 そのため、清潔な寝台の上、ひとりで起きるわけだが。

 でも今日は。その一切がなされていない。
 いまだ色濃く、昨夜の情交の痕跡が、あちらこちらに残っている。
 そして、千夜もここにいる。
 一緒に、朝を迎えるのは。嬉しいけれど。

 重い、重い、ため息を廣伊はつく。

 昨日の醜態を、全部、鮮明に覚えている。
 紫輝たちと交わした宴席での会話は、もちろんだが。
 この家に帰ってきてからの、己の発言も。自分から、千夜を誘ったことも。意識を失うまで楽しんだ、激しい情交も…あれもこれも。

「霧散してしまいたいっ」
 両手で顔を覆って、廣伊は恥じ入った。

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