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8 家族会議
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◆家族会議
バミネが、仕事部屋に来たことで。店長である大叔母様は、慌てふためいてしまった。
今ぼくは、お店の最上階にある仕事部屋の、その続きにある部屋で、シオンと暮らしているのだが。
これからぼくが、どう動くのか、ということを。母や大叔母様の家族にも、教えてほしいと言われて。
ぼくとシオンは急遽、大叔母様のお屋敷へ、馬車で移動することになった。
まぁ、確かに。ぼくの留守中、母とシオンのことを守ってもらいたいし。
御面倒をおかけします、ということで。報告はちゃんと、しなければならないよね?
バミネに、国王の婚姻の話は極秘で、情報漏洩は死罪、なんて脅されたけれど。
もうすでに、シオンは聞いちゃってるわけだし。
ここだけの話ってことにすればいいよね?
お屋敷に戻ってきたぼくは、それなりの衣装に着替えて、食卓につく。
いわゆる、貴族の食事風景に見合った衣装だ。
シルクの黒シャツに、黒いスーツ。質素だが上質というやつです。
大叔母様の家は、貴族ではないが、大商人の家で。下位貴族よりも、はるかに上品で裕福だ。
だから普通に、食卓には豪勢な料理が並び。
テーブルマナーにも、うるさい。
ぼくらが、公爵家に戻ったときのことも考えてくれているようなのだけど…返り咲くのは無理じゃね? とぼくはひそかに思っている。
いや、マナーは、どこでも有用なので。覚えておくに越したことはないけどね。
では、豪勢な食事が並ぶのに、なんでぼくが、ガリガリの幽鬼野郎(バミネ談)なのかというと。
「兄上、今日の食事は全部食べてくださいね。兄上は、仕事中は寝食忘れて集中するのですから。僕はいつか、兄上が倒れてしまうのではないかと、気が気じゃありません」
と、隣でシオンが言うような状態だからです。
いやぁ、なんか熱中しちゃうと、食べるの億劫になっちゃうタイプなんだよね。
しかし、弟に注意もされたことだし。ぼくは、目の前のメインディッシュにナイフを入れる。
切り分けられた肉の塊は、赤ピンクの色合いのミディアムレア。
スッとナイフが通るほどに柔らかく、口に入れればシューシーな肉汁が広がり、脳まで震えるような美味しさだ。
はしたないので口には出さないが。うまーい。
あ、夜も更けているので、シオンは今、人型です。
っていうか、胸板の厚いシオンが、かっちりしたグレーのジャケットを身につけていると、最高に格好いいんですけどぉ?
シャツを飾るリボンタイが、ちょっとだけ甘い感じで、おしゃれだし。
ゆるやかなウェーブのある黒髪は、艶やかで。それを、ふんわりと後ろに流して整髪すると。
もう、王子様も真っ青な様相です。
肉厚な唇は野性的で、切れ長の、少し吊り上がった目元が色気がたっぷりで。鼻筋が通っていて、首も太くて体格がたくましいし…とても中学生年齢とは思えません。
つか、兄弟なのに、ぼくにはその要素がひとつもないとか、どういうこと?
ぼくは、ちびでガリで、一重の三白眼で、顔色は青白く、前髪ウザい、顔なしのモブ。
あ、仕方がない。モブだもの。
あぁ、どんどん父上の容姿に近づいているシオンがうらやましいな。
でもシオンは、それを言うと不機嫌になっちゃうんだ。
シオンは子供の頃、父上に見限られたと思っているみたいで。
四歳だったから、父上の面影も覚えていないし。
つらいときに助けてくれない、ダメ親父的に思っているのかも。
ぼくは、父上には事情があるのだろうと、まだ思っているけれど。
十年放置だから。さすがに、もうあきらめるべきなのか?
とにかく、父上と接触できないのだから。判断が難しいところなんだよね。
「クロウくん、陛下の婚姻ということだが…騎士団長のバミネが現われたということは、騎士団が動いているということかい?」
大叔母様の旦那様である、ジェラルド大叔父上が、食事をしながら、ぼくに話しかけてきた。
あんなぽっちゃりが、騎士団長とか。世も末だなと思いつつ。返答する。
「はい。主導はそうだと思われますが、経費が国庫から出ている様子なので。執政をする貴族も絡んでいるのでしょう」
「バミネは着々と、王宮内部を牛耳っているようだな? 公爵の威を借るキツネめ」
彼は苦々しく吐き捨てる。
ぼくらが公爵邸を追い返されたと聞いたときも、とても同情してくれて。つまりバミネには辛らつだ。
「陛下はここ十年ほど、孤島から出ていない。公に姿を現さないのに、婚姻など、あり得ないと思うのだが」
ジェラルドは商売の最中に仕入れる情報を、ぼくらにも教えてくれる。
一番知りたいのは、公爵家内部の話だが。それは全く出てこない。
夫人の座におさまったアナベラが、あの宝石を買った、このドレスを買った、という話しか聞こえないのだ。
つまり父上は、ここ数年、公に姿を現していないということ。
それは陛下と同じ様子である。だから。少し怖い。
バミネとその母親であるアナベラが、陛下も父上も追い詰めているのだろうと察せられるから。
国王と公爵という、この国の二大権力者が窮地に陥っている。
それがわかっているのに。金も権力も魔力も身分もない自分には、なにもできない。それが歯がゆいと思う。
アイキンの話の中で、陛下は王城で孤独に過ごしているのだ。婚約者などはいなかったと思う。
王のそばにいるのは主人公ちゃんだけだった。
婚姻話は、あったっけかなぁ? そこまで話を進められなかった。
そもそも、あの話の中で。ぼくであるクロウは、やはり婚礼衣装を作るために城に上がったのだろうか?
モブだから、そんな詳しい裏事情なんか、なかったと思うんだけど。
ただただ、主人公ちゃんの恋路を邪魔しに出てきただけだ。
「とりあえず、僕は依頼された仕事を務めてまいります。あぁ、情報漏洩は死罪だそうですので、内密にお願いしますね」
「あの、バミネだぞ? 漏洩しなくても、言いがかりをつけてきそうじゃないか。クロウくん、くれぐれも気をつけてくれよ? 君になにかがあったら、子爵に顔向けできない」
平民である自分に、大事な妹を預けてくれた子爵、ぼくのお祖父様を、ジェラルドは敬愛しているのだ。
だから、その子孫であるぼくらにも優しい。
「お気遣い、ありがとうございます。大叔父上。そうだ、ジェラルド商会は、この件で王家御用達になるのですから。陛下ご結婚の正式なお触れが出るまでに、水面下でいろいろ用意をしておいてください? きっと貴族の御令嬢が、こぞってドレスを新調なさることでしょう。在庫を増やしておくべきだ」
「はは、クロウくんもだいぶ、商魂たくましくなってきたな」
ぼくの軽口に、食卓は和やかな空気になったが。
シオンが隣で硬い声を出した。
「兄上、僕も行きます。兄上だけでは心配ですから。あのバミネが、なにを仕掛けてくるか。なにか企んでいるに違いない」
バミネは、王の失脚を目論んでいるのだ。
それは、シオンには言えないが。
たぶんバミネは、ぼくらなんか、もう眼中にないのではないかな?
おそらく、バミネは。国王に変わって王座に就く野望を持っているのだ。
手に入れた公爵の位の、さらに上へ、目を向けているはず。
それでも、触らぬ神に祟りなし。やつのそばへ寄れば危険なのは明らかだ。
「馬鹿な。おまえの正体が知れたら、シオンの命が危うくなる。僕はひとりで行くよ」
ぼくは、この件で、シオンも母も、危険な目に合わせたくなかった。
究極、この件に関わらないという選択肢もあるが。
ぼくは、シオンを治したいんだ。そのために、あのネックレスを取り戻したい。
だから、ぼくはひとりで王城に行くつもりだった。
アイキンの世界を満喫したいというのも…ぼくの我が儘だしね。そんなところに、シオンを連れて行けるわけがない。
「いいえ、猫の姿でなら、情報収集も可能です。今まで、身内以外に僕の正体がバレたことはない。今まで通りしていれば、大丈夫です。きっと、兄上のお力になってみせます」
「…シオン」
四歳のときのシオンは。小さい体だったが、石をぶつけられたぼくをかばうくらいの正義感があった。
体が大きくなって、剣技も身につけ、猫になるからか身体能力にも優れていて。
本当に頼もしい弟に育ってくれたと思う。
ただ、猫にさえならなければ。
呪いがなければ、シオンは学園に通い、人気者になれたはず。
その、当たり前の生活をさせてあげられない。兄として、それだけが口惜しいのだ。
だからこそ。ぼくはこれ以上、シオンを危険な目にあわせたくない。
だって、陛下はすぐに成敗するんだもの。
黒猫が目の前を横切ったら、成敗しちゃうかもしれないじゃん?
ぶるぶる。やっぱ、ダメだ。
断ろうと、口を開きかけると。
シオンは、エメラルドグリーンの瞳をキラキラさせて、ぼくをみつめる。
うっ、その目の輝きに、ぼくは弱いというのに。
「兄上を、ひとりにできません。兄上に、なにかあったら…」
子供のときの愛くるしさの上に、イケメンオーラが乗っかっているような。有無を言わせぬ、愛されキャラビームだ。
胸が焦げるっつーの。
「そうね。シオンがクロウについていてくれたら、私も安心できます」
そうするうちに、シオンは母の援護射撃を獲得した。
なにぃ? 駄目駄目。いくら母上の頼みでも、シオンは連れて行けません。
「母上…しかし」
危険とか、命の保証はできないとか、そんなことを言ったら。ぼくも行かせてもらえなくなる。
困った。どう説得したものか。
考えあぐねているうちに、母が畳みかけてくる。
「クロウ。母はクロウのことも心配です。でも、クロウの話を聞けば、ネックレスは確かに取り返した方が良いと思うわ。クロウのためにも。シオンのためにもね。だから、ふたりで行ってもらいたいの。シオンはクロウを。クロウはシオンを。なにがなんでも守るでしょう? ふたりで守り合っていれば。きっと、なにもかもうまくいくわ」
弟を、危険だと思う場所へ、連れて行けるものか。
でも、それは。シオンも思っていることかもしれない。
だって、ぼくらは兄弟だから。
つらさも、悲しさも、喜びも、楽しさも、一緒に味わってきた。
だから、今回も。ふたりで…。
「わかりました、母上。シオン、頼む。心強いよ」
「兄上のことは、僕が必ずお守りします」
シオンは食卓の上に置いていたぼくの手を、ギュッと握った。
もう。いつの間に、手までこんなに大きくなっちゃって。
すっぽり包まれちゃうなんて。お兄ちゃんの威厳が形無しだ。
でも、仕方がないか。ぼくはモブだから。
シオンは絶対ネームドキャラだよな。このイケメンっぷりは。
もしかしたら隠しキャラとか。
なんかのイベントをクリアしなきゃ出てこない、レアキャラだったりして?
ならば、シオンも連れて行くべきなのかも。アイキンの世界へ。
でもな、ぼくは宣言するよ。絶対に弟を守ると。
シオンがたとえ、レアでもチートでもラスボスでも。シオンはぼくの弟だから。
王城に連れて行くと決めたからには、必ずぼくがシオンを守ってみせるよ。
バミネが、仕事部屋に来たことで。店長である大叔母様は、慌てふためいてしまった。
今ぼくは、お店の最上階にある仕事部屋の、その続きにある部屋で、シオンと暮らしているのだが。
これからぼくが、どう動くのか、ということを。母や大叔母様の家族にも、教えてほしいと言われて。
ぼくとシオンは急遽、大叔母様のお屋敷へ、馬車で移動することになった。
まぁ、確かに。ぼくの留守中、母とシオンのことを守ってもらいたいし。
御面倒をおかけします、ということで。報告はちゃんと、しなければならないよね?
バミネに、国王の婚姻の話は極秘で、情報漏洩は死罪、なんて脅されたけれど。
もうすでに、シオンは聞いちゃってるわけだし。
ここだけの話ってことにすればいいよね?
お屋敷に戻ってきたぼくは、それなりの衣装に着替えて、食卓につく。
いわゆる、貴族の食事風景に見合った衣装だ。
シルクの黒シャツに、黒いスーツ。質素だが上質というやつです。
大叔母様の家は、貴族ではないが、大商人の家で。下位貴族よりも、はるかに上品で裕福だ。
だから普通に、食卓には豪勢な料理が並び。
テーブルマナーにも、うるさい。
ぼくらが、公爵家に戻ったときのことも考えてくれているようなのだけど…返り咲くのは無理じゃね? とぼくはひそかに思っている。
いや、マナーは、どこでも有用なので。覚えておくに越したことはないけどね。
では、豪勢な食事が並ぶのに、なんでぼくが、ガリガリの幽鬼野郎(バミネ談)なのかというと。
「兄上、今日の食事は全部食べてくださいね。兄上は、仕事中は寝食忘れて集中するのですから。僕はいつか、兄上が倒れてしまうのではないかと、気が気じゃありません」
と、隣でシオンが言うような状態だからです。
いやぁ、なんか熱中しちゃうと、食べるの億劫になっちゃうタイプなんだよね。
しかし、弟に注意もされたことだし。ぼくは、目の前のメインディッシュにナイフを入れる。
切り分けられた肉の塊は、赤ピンクの色合いのミディアムレア。
スッとナイフが通るほどに柔らかく、口に入れればシューシーな肉汁が広がり、脳まで震えるような美味しさだ。
はしたないので口には出さないが。うまーい。
あ、夜も更けているので、シオンは今、人型です。
っていうか、胸板の厚いシオンが、かっちりしたグレーのジャケットを身につけていると、最高に格好いいんですけどぉ?
シャツを飾るリボンタイが、ちょっとだけ甘い感じで、おしゃれだし。
ゆるやかなウェーブのある黒髪は、艶やかで。それを、ふんわりと後ろに流して整髪すると。
もう、王子様も真っ青な様相です。
肉厚な唇は野性的で、切れ長の、少し吊り上がった目元が色気がたっぷりで。鼻筋が通っていて、首も太くて体格がたくましいし…とても中学生年齢とは思えません。
つか、兄弟なのに、ぼくにはその要素がひとつもないとか、どういうこと?
ぼくは、ちびでガリで、一重の三白眼で、顔色は青白く、前髪ウザい、顔なしのモブ。
あ、仕方がない。モブだもの。
あぁ、どんどん父上の容姿に近づいているシオンがうらやましいな。
でもシオンは、それを言うと不機嫌になっちゃうんだ。
シオンは子供の頃、父上に見限られたと思っているみたいで。
四歳だったから、父上の面影も覚えていないし。
つらいときに助けてくれない、ダメ親父的に思っているのかも。
ぼくは、父上には事情があるのだろうと、まだ思っているけれど。
十年放置だから。さすがに、もうあきらめるべきなのか?
とにかく、父上と接触できないのだから。判断が難しいところなんだよね。
「クロウくん、陛下の婚姻ということだが…騎士団長のバミネが現われたということは、騎士団が動いているということかい?」
大叔母様の旦那様である、ジェラルド大叔父上が、食事をしながら、ぼくに話しかけてきた。
あんなぽっちゃりが、騎士団長とか。世も末だなと思いつつ。返答する。
「はい。主導はそうだと思われますが、経費が国庫から出ている様子なので。執政をする貴族も絡んでいるのでしょう」
「バミネは着々と、王宮内部を牛耳っているようだな? 公爵の威を借るキツネめ」
彼は苦々しく吐き捨てる。
ぼくらが公爵邸を追い返されたと聞いたときも、とても同情してくれて。つまりバミネには辛らつだ。
「陛下はここ十年ほど、孤島から出ていない。公に姿を現さないのに、婚姻など、あり得ないと思うのだが」
ジェラルドは商売の最中に仕入れる情報を、ぼくらにも教えてくれる。
一番知りたいのは、公爵家内部の話だが。それは全く出てこない。
夫人の座におさまったアナベラが、あの宝石を買った、このドレスを買った、という話しか聞こえないのだ。
つまり父上は、ここ数年、公に姿を現していないということ。
それは陛下と同じ様子である。だから。少し怖い。
バミネとその母親であるアナベラが、陛下も父上も追い詰めているのだろうと察せられるから。
国王と公爵という、この国の二大権力者が窮地に陥っている。
それがわかっているのに。金も権力も魔力も身分もない自分には、なにもできない。それが歯がゆいと思う。
アイキンの話の中で、陛下は王城で孤独に過ごしているのだ。婚約者などはいなかったと思う。
王のそばにいるのは主人公ちゃんだけだった。
婚姻話は、あったっけかなぁ? そこまで話を進められなかった。
そもそも、あの話の中で。ぼくであるクロウは、やはり婚礼衣装を作るために城に上がったのだろうか?
モブだから、そんな詳しい裏事情なんか、なかったと思うんだけど。
ただただ、主人公ちゃんの恋路を邪魔しに出てきただけだ。
「とりあえず、僕は依頼された仕事を務めてまいります。あぁ、情報漏洩は死罪だそうですので、内密にお願いしますね」
「あの、バミネだぞ? 漏洩しなくても、言いがかりをつけてきそうじゃないか。クロウくん、くれぐれも気をつけてくれよ? 君になにかがあったら、子爵に顔向けできない」
平民である自分に、大事な妹を預けてくれた子爵、ぼくのお祖父様を、ジェラルドは敬愛しているのだ。
だから、その子孫であるぼくらにも優しい。
「お気遣い、ありがとうございます。大叔父上。そうだ、ジェラルド商会は、この件で王家御用達になるのですから。陛下ご結婚の正式なお触れが出るまでに、水面下でいろいろ用意をしておいてください? きっと貴族の御令嬢が、こぞってドレスを新調なさることでしょう。在庫を増やしておくべきだ」
「はは、クロウくんもだいぶ、商魂たくましくなってきたな」
ぼくの軽口に、食卓は和やかな空気になったが。
シオンが隣で硬い声を出した。
「兄上、僕も行きます。兄上だけでは心配ですから。あのバミネが、なにを仕掛けてくるか。なにか企んでいるに違いない」
バミネは、王の失脚を目論んでいるのだ。
それは、シオンには言えないが。
たぶんバミネは、ぼくらなんか、もう眼中にないのではないかな?
おそらく、バミネは。国王に変わって王座に就く野望を持っているのだ。
手に入れた公爵の位の、さらに上へ、目を向けているはず。
それでも、触らぬ神に祟りなし。やつのそばへ寄れば危険なのは明らかだ。
「馬鹿な。おまえの正体が知れたら、シオンの命が危うくなる。僕はひとりで行くよ」
ぼくは、この件で、シオンも母も、危険な目に合わせたくなかった。
究極、この件に関わらないという選択肢もあるが。
ぼくは、シオンを治したいんだ。そのために、あのネックレスを取り戻したい。
だから、ぼくはひとりで王城に行くつもりだった。
アイキンの世界を満喫したいというのも…ぼくの我が儘だしね。そんなところに、シオンを連れて行けるわけがない。
「いいえ、猫の姿でなら、情報収集も可能です。今まで、身内以外に僕の正体がバレたことはない。今まで通りしていれば、大丈夫です。きっと、兄上のお力になってみせます」
「…シオン」
四歳のときのシオンは。小さい体だったが、石をぶつけられたぼくをかばうくらいの正義感があった。
体が大きくなって、剣技も身につけ、猫になるからか身体能力にも優れていて。
本当に頼もしい弟に育ってくれたと思う。
ただ、猫にさえならなければ。
呪いがなければ、シオンは学園に通い、人気者になれたはず。
その、当たり前の生活をさせてあげられない。兄として、それだけが口惜しいのだ。
だからこそ。ぼくはこれ以上、シオンを危険な目にあわせたくない。
だって、陛下はすぐに成敗するんだもの。
黒猫が目の前を横切ったら、成敗しちゃうかもしれないじゃん?
ぶるぶる。やっぱ、ダメだ。
断ろうと、口を開きかけると。
シオンは、エメラルドグリーンの瞳をキラキラさせて、ぼくをみつめる。
うっ、その目の輝きに、ぼくは弱いというのに。
「兄上を、ひとりにできません。兄上に、なにかあったら…」
子供のときの愛くるしさの上に、イケメンオーラが乗っかっているような。有無を言わせぬ、愛されキャラビームだ。
胸が焦げるっつーの。
「そうね。シオンがクロウについていてくれたら、私も安心できます」
そうするうちに、シオンは母の援護射撃を獲得した。
なにぃ? 駄目駄目。いくら母上の頼みでも、シオンは連れて行けません。
「母上…しかし」
危険とか、命の保証はできないとか、そんなことを言ったら。ぼくも行かせてもらえなくなる。
困った。どう説得したものか。
考えあぐねているうちに、母が畳みかけてくる。
「クロウ。母はクロウのことも心配です。でも、クロウの話を聞けば、ネックレスは確かに取り返した方が良いと思うわ。クロウのためにも。シオンのためにもね。だから、ふたりで行ってもらいたいの。シオンはクロウを。クロウはシオンを。なにがなんでも守るでしょう? ふたりで守り合っていれば。きっと、なにもかもうまくいくわ」
弟を、危険だと思う場所へ、連れて行けるものか。
でも、それは。シオンも思っていることかもしれない。
だって、ぼくらは兄弟だから。
つらさも、悲しさも、喜びも、楽しさも、一緒に味わってきた。
だから、今回も。ふたりで…。
「わかりました、母上。シオン、頼む。心強いよ」
「兄上のことは、僕が必ずお守りします」
シオンは食卓の上に置いていたぼくの手を、ギュッと握った。
もう。いつの間に、手までこんなに大きくなっちゃって。
すっぽり包まれちゃうなんて。お兄ちゃんの威厳が形無しだ。
でも、仕方がないか。ぼくはモブだから。
シオンは絶対ネームドキャラだよな。このイケメンっぷりは。
もしかしたら隠しキャラとか。
なんかのイベントをクリアしなきゃ出てこない、レアキャラだったりして?
ならば、シオンも連れて行くべきなのかも。アイキンの世界へ。
でもな、ぼくは宣言するよ。絶対に弟を守ると。
シオンがたとえ、レアでもチートでもラスボスでも。シオンはぼくの弟だから。
王城に連れて行くと決めたからには、必ずぼくがシオンを守ってみせるよ。
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────────────
~お知らせ~
※第3話を少し修正しました。
※第5話を少し修正しました。
※第6話を少し修正しました。
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※第24話を少し修正しました。
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※第26話を少し修正しました。
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※第32話を少し修正しました。
────────────
※感想(一言だけでも構いません!)、いいね、お気に入り、近況ボードへのコメント、大歓迎です!!
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