【完結】幽閉の王を救えっ、でも周りにモブの仕立て屋しかいないんですけどぉ?

北川晶

文字の大きさ
13 / 176

9 主人公ちゃんに会いました

しおりを挟む
     ◆主人公ちゃんに会いました

 三月一日になり、ぼくは猫のシオン…猫のときはチョンと言いますが。そのチョンを連れて、王城へと向かう船に乗っていた。
 王都の中でも、一番店が連なっている、海岸から王宮へと続くメインストリート。その一角に、ぼくが勤めているドレス専門店があるのだが。
 そのメインストリートの突き当りの海岸からは、王城が見える。
 おおよそ、海上、五キロほど先にある島に、王城が建っているからだ。

 さながら、海の上に城が浮かんでいるように見えるんだ。
 あれだよ、前世で、フランスの有名な観光地の、サン、モン、モン…モンサンミッシェル、みたいな。まんま、あんな感じ。

 あんまり美しい情景なので、王城をモチーフにして刺繍をしたら。貴族の方々に気に入られ、手掛ける先から売れる人気商品になっちゃったよ。
 特に、城、海、夕日を盛り込んだ風景が好評だね。

 細めの絹糸を用いて細かく縫い重ねていく手法で。密度で濃淡を、色合いで立体感を表現できる。布地に点描画を書くイメージだ。
 また、絹糸には光沢があり、角度によっては水面がきらめくみたいに光る。

 刺繍するのに時間がかかって、枚数が出ないことから、プレミアがついちゃってさ。なんか、バズッちゃった。
 人生、なにが当たるか、わからないもんだね?

 それで大叔母様が、絵画と同じくらいの値段で取引しているらしいんだけど。
 まぁ、商売のことは基本、口には出さず、大叔母様たちに一任しているけど、あんまり吹っ掛けないでね?

 また話がそれてしまった。
 そんなふうに、王城は本土からしっかりとシルエットが見えるほどの距離だから、近く感じ、簡単に行き来できるような気がするのだが。実は本土から孤島までの海は、遠浅で。船で渡ることができない。

 王城に行くには、店から馬車で二時間ほど先にある港から、外海を渡って、島の南側にある港に着艦するしか方法はないのだ。

 泳いで渡ることは、体力があれば可能だが。
 でも島に泳ぎ着けても、上陸箇所は港しかないからな。上陸するには、王の警護をする騎士団の許可が必要で。
 だから、無断で一般人がこの孤島に入り込むことは、まず不可能だった。
 許可なく上陸すると、不敬罪で逮捕されちゃうからね。

 でも。そこに見えているのに、城へ渡るのは簡単ではない。そんな得難さが、憧憬を深めるのかもしれない。
 だって、カザレニア国民は、みな、一度でいいから、あの城のある孤島に足を踏み入れてみたいと思っているのだから。
 昔は城下町に、庶民も店を出すことが許されて、大叔母様もそこで商売をしていたようだけど。
 今は騎士団の許可が下りず、それもできなくなっている。
 だからこそ余計に、人々は強く憧れるのだろう。

 しかし、一見、王を警護するには最適である、この島の構造が。それゆえに、王を幽閉状態に追い込んでいる。
 バミネ率いる騎士団が、本来は王側のメリットである部分を、逆手に利用し。狡猾こうかつに、王を孤立させ、権限を奪い取っていっているのだ。いやな感じ。

 潮風がビューッと吹き抜け、ぼくの髪をかき乱す。
 まだ三月の風は冷たくて、ぼくはコートのえりを手でおさえた。

 仕事中はいつも、黒シャツに黒ズボンという格好が多いが。今日は、なんていったって、お城へ行くのだからね? 一張羅のスーツを着ているよ?
 黒だけど。
 なんていうか、モブはあまり目立っちゃいけないと思って。着替えは全部控えめな色目にした。
 元々黒が好きだし。このおうとつのないのっぺりした顔に合う色は、黒ぐらいしかないんだよ。

 シオンはぼくに、空色の明るい青とか、ワインレッドなんかをすすめてくるけど。
 無理無理、絶対に似合わないからね?

 で、今はその黒スーツの上に、自分で手掛けたコートをまとっているわけだ。
 今やぼくの代名詞のようになってしまった、たっぷりとしたドレープをあしらい、裾がひらひらと揺らめく仕様の、Aラインのコート。
 襟を大きめに作ったのは、シオンがそこに入れるようにするためだよ? 子猫が座っていても落っこちないよう、すごく丈夫な生地を加工して、工夫してあるんだ。

 本当はフードがいいんだけど。さすがに国王の前に出るには相応しくないというか。礼儀正しくないからな。
 でもそのせいで、なんだか悪者のラスボスみたいな装いに…なってない?
 いやいや、中身はモブだから。きっと誰も目に止めやしないよ。
 ぼくはとにかく、黙々と衣装を仕立てるだけですからっ。

 そして手には、ボックス型の鞄を持っている。
 そこには、すでにあらかた刺繍をほどこしてある生地や、さまざまな種類の針と糸、仕立てするための道具がぎっしり詰まっている。
 仕立て中の衣装をかけておくトルソーなど、大きな道具は配送済み。
 人頼みにしたくないものを、自身の手で運んでいるのだ。

「もうすぐ島につくが、覚悟はいいか? クロウ・エイデン」
 ぱっつんぱっつんの騎士服姿であるバミネが、にやにやした薄笑いで近づいてくる。
 大概の人が、袖を通せば格好良いと絶賛するカザレニア国の騎士服を、ひどい着こなしで台無しにして。服が泣くよ。もうあきらめて、大きめサイズに新調すればいいのに。

「陛下は気難しいお方だ。気を損ねたら、死はまぬがれないが。おまえがどうなろうと惜しくはないな」
 バミネはぼくに人差し指を向け、まるで占い師のように宣言した。

「俺にはおまえの未来が見えるぞ。無作法をして、陛下に斬って捨てられるのだ。おまえが本土の地を踏むことは、決してないだろう。可哀想になぁ…」
 知っているよ、陛下が気難しい性格なのは。何回、成敗されたと思ってんだ?
 でも、今のぼくは、陛下が怖くない。

 だって、モブだもの。
 陛下の目の端にも入らないキャラクターだものっ。お生憎あいにく様っ。

「ご心配くださり、ありがとうございます。陛下に礼節を尽くすよう、心掛けます」
 慇懃無礼いんぎんぶれいに、笑顔で言ってやると。バミネは面白くなさそうに鼻筋にしわを寄せ、どっか行った。
 あぁ、むかつく。顔を合わせるだけで、こんなに不快な人物って、他にいるぅ? いや、いない。

「兄上ッ、あんなやつにお礼を言うなんて。口が腐ります」
 シャーと言いながら、チョンが襟元から声を出した。
 怒る気持ちは、わかります。
「まぁまぁ、チョン。落ち着いて。あんなやつでも、公爵家の者。ぼくらは平民。不用意にかどを立てて、成敗されたくないだろう?」
「成敗?」
 ぼくの声に反応したのは、チョンではない。

 鈴がころころと響くような、耳に心地よい女性の声だった。

 振り向くと、そこには。蛍光オレンジ色の髪を幅広の三つ編みにした、少女がいた。
 目は、まぁるくて大きくて。まつ毛がバサバサで、笑顔がヒマワリのように華やか。
 濃紺のワンピースは、ちょっと地味めだけど。その控えめさが、少女のまばゆさを逆に際立たせていた。
 まるで。地味を装っても、内側からあふれ出る魅力を隠すことはできない…とでも言うかのように。

 三つ編みや丸眼鏡で、顔の印象をぼかしているが。
 ぼくは知っている。

 眼鏡を外し、髪を下ろすと、圧倒的美少女に大化おおばけする。この子はアイキンの主人公ちゃんだっ!

「うわぁ、本物、激ヤバ」
 今のは、ぼくの言葉ではない。主人公ちゃんの口から出たものだ。
 つか。え? 今、ぼくを見て激ヤバって言った?
 ぼくって、そんなにヤバい顔してる? 

「あっ、突然声をかけてしまって、ごめんなさい。私、アイリス・フローレンスと申します」
 にっこり笑顔で、主人公ちゃん…アイリスはスカートの裾を手で少し持ち上げ、淑女の礼を取る。
 何事もなかったかのようだ。

 いや、先ほどの言葉は、聞き間違いということにしよう。ぼくの心の平穏のためにも。

 とはいえ、激ヤバな顔を、少しでも印象良くするために。ぼくは精一杯、にこやかに笑った。
「はじめまして。僕はクロウ・エイデン。どうぞよろしくお願いします」
「はあぁぁぁ…よ、よろしくお願いします、クロウ様」
 邪魔もののモブに出くわして、緊張しているのか、アイリスは声を震わせる。
 そんな、怖がらないで。ぼくはなにもしないから。邪魔もしないからね?

「あの、フローレンス嬢は、お貴族様ですよね? 僕は、平民の仕立て屋です。どうかクロウとお呼びください」
 主人公ちゃんは、キャラ設定だとフローレンス子爵令嬢だ。身分はぼくより格上である。
 それに、主人公ちゃんに様をつけられるなんて。ただのモブなのに恐れ多いですぅ。

「とんでもないっ、呼び捨てなんてできません。それにクロウ様こそ。フローレンス嬢だなんて、硬い言い回しだわ? 私のことはアイリスと呼んでください。王城で働くのなら、同僚だもの。貴族とか、身分は関係なく、どうか仲良くしてくださいね? クロウ様」
 主人公ちゃんを呼び捨てとか、こちらこそ無理です。
 なんか、桃色の瞳がきらきらしているし。

「あぁ。本当に、お可愛らしいわぁ…」
 うっとり、つぶやくような調子で言われ。
 ぼくは首を傾げる。
 可愛いという誉め言葉は、自分に当てはまらないような気がしたからだ。
 でも、ハッとした。チョンが襟から顔を出している。

 そうか、そうか。チョンが可愛いんだなぁ? そりゃ、チョンは可愛いよ。納得した。

「あぁ、猫のことですね? この子はチョンです。よろしければ、この子のこともよろしくお願いします」
「はい。よろしくお願いしますね、チョン様?」
 アイリスは猫にまでも様をつけるようだ。きっと、出会う人みんなに様をつけるタイプなんだな?
 彼女は、身分を問わず、分け隔てなく、みんなを、猫までも、平等な目で見るのだろう。
 素晴らしく清らかな心根だな。
 それに笑顔がとびっきりに明るくて、ビタミンカラーの髪色と相まって、元気印な印象。キラキラの圧が激しいです。
 さすが主人公ちゃん、一味違うな。

 きっと、誰も彼もが、これから彼女を愛するのだろう。もちろん、国王様も。
 どうか、早く王様を愛の力で救ってほしい。
 そして、王様とダンスをするあのラストシーンを、ぼくに見せてくださいっ。

 どうかどうか、と。ぼくは、心の内で彼女を拝んだ。

 とりあえず、アイリスとの初対面は割と好感触だったと思う。
 良かった。まぁ、激ヤバな顔で驚かせてしまったかもしれないが。
 大丈夫、ゲーム内のように、ぼくは絶対にアイリスの恋路を邪魔したりしないからね。

 でもさ、こうして船の中で、可愛い笑顔で『仲良くしてくださいね』なんて言われちゃったら。恋しちゃうかもしれないよね?
 アイリスのそばに、誰も近寄らせたくなくなっちゃうかもしれないよね?
 ゲーム内のクロウくん。気持ちはわかるよ。
 でも、アイリスは王様とくっついてもらわないとならないんだからね。今のカザレニア国の未来のためにも…。

しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

悪役側のモブになっても推しを拝みたい。【完結】

瑳来
BL
大学生でホストでオタクの如月杏樹はホストの仕事をした帰り道、自分のお客に刺されてしまう。 そして、気がついたら自分の夢中になっていたBLゲームのモブキャラになっていた! ……ま、推しを拝めるからいっか! てな感じで、ほのぼのと生きていこうと心に決めたのであった。 ウィル様のおまけにて完結致しました。 長い間お付き合い頂きありがとうございました!

主人公の義弟兼当て馬の俺は原作に巻き込まれないためにも旅にでたい

発光食品
BL
『リュミエール王国と光の騎士〜愛と魔法で世界を救え〜』 そんないかにもなタイトルで始まる冒険RPG通称リュミ騎士。結構自由度の高いゲームで種族から、地位、自分の持つ魔法、職業なんかを決め、好きにプレーできるということで人気を誇っていた。そんな中主人公のみに共通して持っている力は光属性。前提として主人公は光属性の力を使い、世界を救わなければいけない。そのエンドコンテンツとして、世界中を旅するも良し、結婚して子供を作ることができる。これまた凄い機能なのだが、この世界は女同士でも男同士でも結婚することが出来る。子供も光属性の加護?とやらで作れるというめちゃくちゃ設定だ。 そんな世界に転生してしまった隼人。もちろん主人公に転生したものと思っていたが、属性は闇。 あれ?おかしいぞ?そう思った隼人だったが、すぐそばにいたこの世界の兄を見て現実を知ってしまう。 「あ、こいつが主人公だ」 超絶美形完璧光属性兄攻め×そんな兄から逃げたい闇属性受けの繰り広げるファンタジーラブストーリー

BLゲームの世界でモブになったが、主人公とキャラのイベントがおきないバグに見舞われている

青緑三月
BL
主人公は、BLが好きな腐男子 ただ自分は、関わらずに見ているのが好きなだけ そんな主人公が、BLゲームの世界で モブになり主人公とキャラのイベントが起こるのを 楽しみにしていた。 だが攻略キャラはいるのに、かんじんの主人公があらわれない…… そんな中、主人公があらわれるのを、まちながら日々を送っているはなし BL要素は、軽めです。

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ユィリと皆の動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新! Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新! プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー! ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!

王家の影一族に転生した僕にはどうやら才能があるらしい。(完結)

薄明 喰
BL
アーバスノイヤー公爵家の次男として生誕した僕、ルナイス・アーバスノイヤーは日本という異世界で生きていた記憶を持って生まれてきた。 アーバスノイヤー公爵家は表向きは代々王家に仕える近衛騎士として名を挙げている一族であるが、実は陰で王家に牙を向ける者達の処分や面倒ごとを片付ける暗躍一族なのだ。 そんな公爵家に生まれた僕も将来は家業を熟さないといけないのだけど…前世でなんの才もなくぼんやりと生きてきた僕には無理ですよ!! え? 僕には暗躍一族としての才能に恵まれている!? ※すべてフィクションであり実在する物、人、言語とは異なることをご了承ください。  色んな国の言葉をMIXさせています。 本作は皆様の暖かな支援のおかげで第13回BL大賞にて学園BL賞を受賞いたしました! 心よりお礼申し上げます。 ただ今、感謝の番外編を少しずつ更新中です。 よければお時間のある時にお楽しみくださいませ

BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください

わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。 まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!? 悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。

普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている

迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。 読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)  魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。  ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。  それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。  それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。  勘弁してほしい。  僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。

記憶を無くしたら家族に愛されました

レン
BL
リオンは第三王子で横暴で傲慢で侍女や執事が少しでも気に入らなかったら物を投げたり怒鳴ったりする。家族の前でも態度はあまり変わらない… 家族からも煩わしく思われたていて嫌われていた… そんなある日階段から落ちて意識をなくした…数日後目を覚ましたらリオンの様子がいつもと違くて…

処理中です...