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17 誰も信じぬ (イアンside)
◆誰も信じぬ (イアンside)
猫足の小机の上に、執事がアフターヌーンティーをセットする。
年代物ではあるが、真っ白な陶磁器のティーポットから、紅茶をカップに注ぎ入れ。心地の良い音を立てる。
料理人が作ったスコーンは、ほんのり甘く芳醇なバターの香りで、食欲を刺激する。
だが、我はそれに手を付けることなく。
憤りの数々を思い起こし、イライラと部屋の中を歩き回っていた。
「陛下。少し落ち着いて、紅茶を召し上がってはいかがか?」
セドリックは、外からやってきた、あのふたりを王城に連れてきた。いわば、怪しげなやつらの監視役だ。
「あれは、どういう男なのだ? セドリック」
王城にいる世話係は、少人数で。バミネの横暴と戦うことで、結束力がある。
味方であり、家族であり…しかし命を狙われる王族としては、気を抜いてはならない相手でもある。
そんな中でも、セドリックは。元々の大らかな性格から、我が国王であっても、少しくだけた話し方をする。
我にとっては心の近しい、兄のような存在だった。
「確かに、クロウは騎士団の依頼で、仕事をしに来たと言っていた。ただ、あまりにもあっさりと、邪気のない笑みで認めたので。俺には彼の真意はわかりません」
日に透けるような明るい赤い髪を、ワシワシと手でかきながら、セドリックが言うと。我の背後を守る護衛騎士、シヴァーディが、厳しい声音で聞いた。
「もう、あの者をクロウなどと、名で呼んでいるのか? 迂闊ではないか?」
我も、そこはイラッとした。
いや。ムカ? いや。なんか、不快。
べ、別に、セドリックがいち早く死神と仲良くなったからではないぞ?
死神は死神だから、名呼びが腹立たしいだけだっ。
「それは、陛下がスパイではないか、などと、正面から問い質すものだから。もう、こちらが疑いをかけていることが知れたわけだろ? だから、クロウ様などと、敬称付きで話すのをやめただけだ。だから、言ったのです。バミネは俺たちの敵だと。そうしたらクロウは。僕もあの方は嫌いですと答えました」
我はその話を聞いて、鼻で笑った。
「では、あの死神は、やはり嘘つきなのだ。あいつは我に、バミネとは今回の件で初めて会ったと言っていた。面識のない者を嫌いと言うのは。見た目だけで判断するような、底の浅い者か。嘘か。どちらかだろう?」
腹立たしさを態度で示すように、我はカウチに乱暴に腰かけ。ティーカップを口に運んだ。
「どうでしょう? 船を降りた直後も『さっさと帰れ、ボケェ』などと、つぶやいておられましたから」
ふーん、ずいぶん庇うではないか?
表面上は平静を装いながらも。ティーカップを持つ手が震え、紅茶が波立った。
「どうせ、仕立て屋というのも嘘で。バミネが雇った暗殺者なのだろう?」
「…先ほど、床に座り込む彼を手で引き上げたのですが。驚くほどの軽さで。城へ上がる際の坂道では、息も絶え絶えの様子で、おおよそ鍛えているとは思えません」
は? やつと手をつないだのか? この野郎…。
いや。違う。
なんだか思考が、先ほどからよくわからない方へと向かう。
死神と目を合わせてから、なんだか、自分の気持ちがおかしいぞ。
もしかして、魅了の魔法でもかけられたか?
あとで、闇魔法の使い手であるシヴァーディに、我が操られていないか確かめてもらおう。
王族の我に魔法を使ったのであれば、即刻始末できるしな。
それよりも、死神を気に掛ける、不可解なこの感情を打ち消したくて。我は、拒絶の言葉を吐き捨てた。
「はっ、そんなの演技に決まっているだろう。セドリック、おまえは奴に騙されているのだ」
「あのマントを、自分で仕立てたと申しておりました。衣服の知識も豊富そうでしたし。仕立て屋というのは嘘ではないかと。しかし。彼を擁護するつもりはありません。陛下の憶測もあり得る話ですからね。クロウには、部屋から出るなと釘を刺しておきましたが。こちらも、決して油断せぬようにいたします」
「我は誰のことも信じぬ。無論、貴様らのことも」
セドリック、シヴァーディ、そして執事のラヴェルに、我は順に目を合わせていく。
我が、誰も信じぬと言う。それは、常に王族の命が狙われているからであり。誰も信じないよう教育したのは、他でもない彼らだった。
元々騎士団長であったセドリックと、その副官であったシヴァーディは。バミネに苦言を呈したことで、闇討ちにあい。失態の責任を取る名目で、王城勤務になった。
実質、失態ではないのだが。失態したという者を王の警護にあてるという騎士団の動き自体が、もう、王家侮辱がはなはだしい。
この事件の本質は、そこではない。
バミネが騎士団の実権を握るのに、武芸に秀でて、騎士精神に篤いセドリックとシヴァーディが邪魔だったということだ。
ゆえに、彼らは王家に忠誠を誓う、非常に優秀な騎士たちである。
その彼らが。自分たちを信じてはいけません。この城から出るまでは。誰のことも信じてはなりません。と我に教えたのだ。
そんな彼らから、我は歴代の英雄も舌を巻くほどの、剣術と体術を叩き込まれた。
自分の身を、自分で守るために。
さらには、家族も守るために。
もしも、セドリックとシヴァーディが敵になっても、勝てるほどに。強く、気高く、華麗に。王族として、決して無様な死は許されない。
騎士たちは、王族の矜持までも、我に教え込んだのだ。
バミネなどに、心まで屈してはならぬと。
ラヴェルは、王城のすべての事柄を一手に引き受ける優秀な執事で。さらに最高の知識を我に授けてくれる教師でもあった。
ラヴェルも我と同様に、城を出ることを許されないが。
王城に残る書物を利用することで、出来うる限りの帝王学を、我に注ぎ込んだ。
城から出て、すぐにも執政に参加できるほどの教育はなされたと感じている。
バミネなどには、政治力でも引けは取らない。
だが。母や妹の命が保証されない限り。我はここから動けない。
帝王学など教わったところで、無駄なのだ。
バミネがその気になったのなら、我の命は風前の灯火なのかもしれない。
だが、せめて。最後の王家に付き従ってくれた、この王城にいるすべての者の命を守りたい。
我の命と引き換えにしても。そこだけは死守するつもりだった。
「それで、よろしいです。陛下」
誰も信じぬという我の言葉に、彼らは恭しく頭を下げる。
名ばかりの王に、忠誠を尽くしてくれる。
だから。おめおめと、死神に命をくれてやるわけにはいかないのだ。
家族や。彼らのためにも。
猫足の小机の上に、執事がアフターヌーンティーをセットする。
年代物ではあるが、真っ白な陶磁器のティーポットから、紅茶をカップに注ぎ入れ。心地の良い音を立てる。
料理人が作ったスコーンは、ほんのり甘く芳醇なバターの香りで、食欲を刺激する。
だが、我はそれに手を付けることなく。
憤りの数々を思い起こし、イライラと部屋の中を歩き回っていた。
「陛下。少し落ち着いて、紅茶を召し上がってはいかがか?」
セドリックは、外からやってきた、あのふたりを王城に連れてきた。いわば、怪しげなやつらの監視役だ。
「あれは、どういう男なのだ? セドリック」
王城にいる世話係は、少人数で。バミネの横暴と戦うことで、結束力がある。
味方であり、家族であり…しかし命を狙われる王族としては、気を抜いてはならない相手でもある。
そんな中でも、セドリックは。元々の大らかな性格から、我が国王であっても、少しくだけた話し方をする。
我にとっては心の近しい、兄のような存在だった。
「確かに、クロウは騎士団の依頼で、仕事をしに来たと言っていた。ただ、あまりにもあっさりと、邪気のない笑みで認めたので。俺には彼の真意はわかりません」
日に透けるような明るい赤い髪を、ワシワシと手でかきながら、セドリックが言うと。我の背後を守る護衛騎士、シヴァーディが、厳しい声音で聞いた。
「もう、あの者をクロウなどと、名で呼んでいるのか? 迂闊ではないか?」
我も、そこはイラッとした。
いや。ムカ? いや。なんか、不快。
べ、別に、セドリックがいち早く死神と仲良くなったからではないぞ?
死神は死神だから、名呼びが腹立たしいだけだっ。
「それは、陛下がスパイではないか、などと、正面から問い質すものだから。もう、こちらが疑いをかけていることが知れたわけだろ? だから、クロウ様などと、敬称付きで話すのをやめただけだ。だから、言ったのです。バミネは俺たちの敵だと。そうしたらクロウは。僕もあの方は嫌いですと答えました」
我はその話を聞いて、鼻で笑った。
「では、あの死神は、やはり嘘つきなのだ。あいつは我に、バミネとは今回の件で初めて会ったと言っていた。面識のない者を嫌いと言うのは。見た目だけで判断するような、底の浅い者か。嘘か。どちらかだろう?」
腹立たしさを態度で示すように、我はカウチに乱暴に腰かけ。ティーカップを口に運んだ。
「どうでしょう? 船を降りた直後も『さっさと帰れ、ボケェ』などと、つぶやいておられましたから」
ふーん、ずいぶん庇うではないか?
表面上は平静を装いながらも。ティーカップを持つ手が震え、紅茶が波立った。
「どうせ、仕立て屋というのも嘘で。バミネが雇った暗殺者なのだろう?」
「…先ほど、床に座り込む彼を手で引き上げたのですが。驚くほどの軽さで。城へ上がる際の坂道では、息も絶え絶えの様子で、おおよそ鍛えているとは思えません」
は? やつと手をつないだのか? この野郎…。
いや。違う。
なんだか思考が、先ほどからよくわからない方へと向かう。
死神と目を合わせてから、なんだか、自分の気持ちがおかしいぞ。
もしかして、魅了の魔法でもかけられたか?
あとで、闇魔法の使い手であるシヴァーディに、我が操られていないか確かめてもらおう。
王族の我に魔法を使ったのであれば、即刻始末できるしな。
それよりも、死神を気に掛ける、不可解なこの感情を打ち消したくて。我は、拒絶の言葉を吐き捨てた。
「はっ、そんなの演技に決まっているだろう。セドリック、おまえは奴に騙されているのだ」
「あのマントを、自分で仕立てたと申しておりました。衣服の知識も豊富そうでしたし。仕立て屋というのは嘘ではないかと。しかし。彼を擁護するつもりはありません。陛下の憶測もあり得る話ですからね。クロウには、部屋から出るなと釘を刺しておきましたが。こちらも、決して油断せぬようにいたします」
「我は誰のことも信じぬ。無論、貴様らのことも」
セドリック、シヴァーディ、そして執事のラヴェルに、我は順に目を合わせていく。
我が、誰も信じぬと言う。それは、常に王族の命が狙われているからであり。誰も信じないよう教育したのは、他でもない彼らだった。
元々騎士団長であったセドリックと、その副官であったシヴァーディは。バミネに苦言を呈したことで、闇討ちにあい。失態の責任を取る名目で、王城勤務になった。
実質、失態ではないのだが。失態したという者を王の警護にあてるという騎士団の動き自体が、もう、王家侮辱がはなはだしい。
この事件の本質は、そこではない。
バミネが騎士団の実権を握るのに、武芸に秀でて、騎士精神に篤いセドリックとシヴァーディが邪魔だったということだ。
ゆえに、彼らは王家に忠誠を誓う、非常に優秀な騎士たちである。
その彼らが。自分たちを信じてはいけません。この城から出るまでは。誰のことも信じてはなりません。と我に教えたのだ。
そんな彼らから、我は歴代の英雄も舌を巻くほどの、剣術と体術を叩き込まれた。
自分の身を、自分で守るために。
さらには、家族も守るために。
もしも、セドリックとシヴァーディが敵になっても、勝てるほどに。強く、気高く、華麗に。王族として、決して無様な死は許されない。
騎士たちは、王族の矜持までも、我に教え込んだのだ。
バミネなどに、心まで屈してはならぬと。
ラヴェルは、王城のすべての事柄を一手に引き受ける優秀な執事で。さらに最高の知識を我に授けてくれる教師でもあった。
ラヴェルも我と同様に、城を出ることを許されないが。
王城に残る書物を利用することで、出来うる限りの帝王学を、我に注ぎ込んだ。
城から出て、すぐにも執政に参加できるほどの教育はなされたと感じている。
バミネなどには、政治力でも引けは取らない。
だが。母や妹の命が保証されない限り。我はここから動けない。
帝王学など教わったところで、無駄なのだ。
バミネがその気になったのなら、我の命は風前の灯火なのかもしれない。
だが、せめて。最後の王家に付き従ってくれた、この王城にいるすべての者の命を守りたい。
我の命と引き換えにしても。そこだけは死守するつもりだった。
「それで、よろしいです。陛下」
誰も信じぬという我の言葉に、彼らは恭しく頭を下げる。
名ばかりの王に、忠誠を尽くしてくれる。
だから。おめおめと、死神に命をくれてやるわけにはいかないのだ。
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校正・文体の調整に生成AIを利用しています。