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42 父上、なにしてくれちゃってんの?
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◆父上、なにしてくれちゃってんの?
またもや超爆笑した陛下に、ぼくは驚きの目を向ける。
やっぱり。うまく決まったなと思って、ドヤ顔した、その顔が面白過ぎたのだろうか?
でも、そんな大口を開けたら、王様としての威厳というか、品格というか。
とにかく、キャラ崩壊一歩手前です。
「いきなり、笑ったりして。すまない。ずっと、死神だと思ってきたおまえが、バミネを悪辣と断じる同志だと知って。自分の愚かさが、笑えてしまったのだ」
陛下は、笑いをおさめて。キリっとしたイケメンに戻った。
そう。切れ長の目元は、厳しくセクシー。唇は余裕のあるニヤリ。その顔ですよ、陛下。
「ということは、僕はもう、死神ではないのですね?」
喜々として、ぼくは陛下にたずねた。
だって、同志というからには、死神キャラも暗殺キャラも終了ということでしょう?
だったら。やっぱり主人公ルートじゃなかったということだよ。
っていうか、もしかしたらゲームの強制力が働いて、強引にアイリス主人公ルートに戻った、とか?
「いいや、おまえが死神なのは変わらない。我の…我だけの死神だ」
ええぇ、まだ死神キャラなのですかぁ? という気持ちで、陛下を見ると。
その顔がおかしかったのか。陛下は、クスリと口先で笑った。
いやいや、でも。陛下はぼくをからかっているだけで、心情ではもう死神キャラではない、はずですし。
たとえ死神キャラだとして、イコール主人公ルートと決まったわけではない。
たぶん。うん。もう少し、様子を見よう。
「クロウと同じように、我も、バミネには難儀している。この王城に来て、閉鎖空間の多さや、使用人が少ないことに、クロウも気づいているであろう? バミネの策で、カザレニア城は廃墟と化し。人の住まぬ寂れた孤島に、我は縛りつけられているのだ」
目を伏せた陛下は、苦々しくつぶやいた。
でも…どうして?
「恐れながら、陛下は火炎魔法を操るほどの、強い魔力をお持ちなのでは? 幽閉という憂き目にあわれているのですから、王家の反逆罪で、バミネを拘束してもよろしいのではありませんか?」
その気になれば、陛下はバミネなど一瞬で燃やしてしまえるだけの、力を持っているはずだ。
陛下が手を出さなくても、セドリックでも、シヴァーディでも。強い騎士がついているのだから。どうにでもできそうなのに。と、実はずっと思っていたのだ。
だが、陛下の返事に、ぼくは目が点になった。
「脅されているのだ。もしも我が、バミネを害したら。本土にいるバミネの父、バジリスク公爵が。本土を洪水で沈めると、言っている」
は? ええええぇぇっ? マジですか? 父上、なにしてくれちゃってんの?
強い能力を持つ陛下が、なぜバミネごときに縮こまっているのか。その理由が、ずっとわからなかった。
それが。まさか、まさかの。父上の? ぼくの身内のせいだなんてっ。
「我は、カザレニア国の民を愛している。国民に被害が出ると知りながら、己のみが生き残るような方策など、取れない。それに、美しいカザレニアが、水の被害で荒廃するのも、許せぬ」
そうでしょうとも。陛下は、お優しい方だもの。
だから、民のために。民を守るために。この王城で孤独に耐えていらっしゃったのだ。
そのようなことを知らず、ぼくは、自分のことばかりで情けない。
この瞬間、痛切に、こう思った。
ぼくの役所が、モブだろうと、主人公だろうと。関係ない。ぼくは、とにかく陛下をお救いしたいんだ。
「それだけではないのだ。我の…王家の火炎魔法を鎮火できるのは、強力な水魔法を有する公爵家の者だけ。それゆえ、王家と公爵家は昔から、国を守護するために互いに魔力を尽くし合う、盟友であった。しかし、公爵家がバミネの側についてしまったら、我は魔法を封じられたも同然。構わずに火炎魔法を使ったら、辺りは瞬く間に火の海となり。我は炎の魔人と化すだろう」
ぼくは、驚愕の表情を隠せなかった。
なんてことだ。父上の魔力が、王家に匹敵するほどの強力なものだったなんて。
陛下は、公爵家の者が火炎魔法を鎮火できると言うけれど。
公爵家の血脈であるぼくには、あまり魔力がなさそうなんだよなぁ?
呪いを解いたら、シオンが陛下の助けになれるだろうか?
それとも、シオンにも、父上ほどの魔力はないのか?
いまだに、呪いを跳ね返せないのだからな。
どちらにしても、今のぼくたちでは、陛下のお力には、なれない。
あぁ、もしかしたら。魔力を継承する儀式とかあるのかな?
そういうの、前世の小説にも、たまにあった話だし。
正式に公爵家の後継者に認められていたら、父上に匹敵する魔力を授けてもらえたのかも。
でも…だとしたら。
あの十歳のときに、公爵家に入れなかったことは…痛い。痛すぎる。
くっそぅ、バミネのやつぅ。許すまじ。
ま、憶測で、ない物を惜しんでも仕方がないね。
今の現状は、公爵子息であっても、ぼくにもシオンにも魔力がなくて。
だから、陛下が動けるようになるには、父上に味方になってもらう他ない、ということかな。
しかし、父上には、十年も会えていないし。
たとえ本土に戻ったところで、父上に接触できるかわからないぞ?
それに、会ったところで、父上がマジでバミネに加担してたら…万事休すってやつだ。
いやいや、それは考えないでっ、とにもかくにも会ってみないとわからないんだから。
とりあえず、父上と接触するのは決まりだとして。
でも、どうやって? 強行突破する?
うーん、シオンに剣の腕があっても、屋敷の中にはアナベラの護衛が、うじゃうじゃいるだろうしなぁ。
それは現実的ではないな。
よし。そこら辺は、衣装を作る間に、深く思案するしかなさそうだ。
なるべく危険がない状態で、父上に接触し、陛下を救い出す。その手立てを考えなければ。
それにしても。やっぱ、公爵子息だってことを、陛下に言わなくて良かったな。
だって、陛下はぼくらにも、火炎を消す魔力があるかもって、期待するかもしれないじゃん?
けど。魔力を封じられているぼくらでは、力になれないもの。
王家の火炎弾は、海に沈んでも、しばらくは燃え続けるという噂だ。
そんな猛火を消すなんて、無理無理。
すみません、公爵子息なんて名ばかりのカスで。
魔力のない公爵子息なんて、屁だよ屁。
つか、仕立て屋の方が、服を生み出せるだけ有益だよ。
でも、まぁ。陛下をぬか喜びさせなくて、良かったと思おう。
だけど、悔しさが、ぼくの身を焼いていた。
バジリスク公爵の長子でありながら。王家の片翼を担うお役目がありながら。陛下のお役に立てないのだから、魔力のないこの身がうとましい。
ここはアイキン…愛の力で王を救え、というゲームの世界。
でも。もしもぼくに大きな魔力が備わっていたら。
愛の力に頼らず、持ち前の魔力で、すぐにも幽閉の王をこの島から救い出せるというのに。
「…おまえがそのように、苦しげな顔をしなくてもよい。互いに、バミネには手を焼かされているという話だ。でも、まぁ。今日はおまえと有意義な話ができて、良かった。夜景を見ながら、もう少しおまえと話してみたい気はあるが。そろそろ冷えてきただろう?」
そう言って、陛下は肩を抱いてきた。
ぼくは、気の利いた言葉も返せず。情けないばかりで。
さらには、ついさっきまでシリアスモードだったっていうのも、わかっている。わかっているんだけどぉ…ぼくの商魂魂が、今、猛烈にウズウズしちゃっているっ。
「お寒いですか? イアン様。僕のコートを貸しましょう。こちら、防寒性に優れた、極上の一品なのです」
サッとコートを脱ぐと、ぼくは陛下の肩に、ひらりと着せ掛けた。
ぼくのサイズなので、鍛えた太い腕の陛下は袖を通せないけれど。Aラインのロングコートだから、体格のいい陛下でも、充分に体にまとうことができる。
コートを脱いだら、ぼくはシャツ一枚で、ひえぇぇ、寒い。
でも。宣伝のチャンスっ。我慢我慢。
「う、うむ。確かに温かいが…」
「普通の糸の三倍を生地に使用しているため、網目が細かく、風を防ぐことができるのです。デメリットとしては、普通の布地より、三倍重いということと、通気性が悪いということなのですが。コート内の熱も逃さないので、ヌックヌクなのです。くしゅん」
CМに力を入れていたら、くしゃみが出てしまった。
いいえ、これは風邪ではなく、鼻の奥で寒さが染みたことによるアレルギー的なやつですので。大丈夫です。
って、言い訳をする前に。陛下がぼくの鼻の頭を、指先でチョンとつついた。
「まだ寒い時期なのに、薄着でベラベラ喋るから、頬も鼻も真っ赤だぞ。冷たいな」
ほぅああぁぁぁあっ?
そんな、美ボイスで。
陛下が…。陛下に、鼻チョンとか、そ、そんなんされたら。爆散しますよっ。
推しの優しげな眼差しをこんな近距離で見たら、衝撃波で天に召されそうです。
さらに陛下は、畳み掛けるように、コートをぼくにもかけてくれる。
えええぇぇ? ひとつのコートにふたりで入るの?
は、恥ずかしい。そして恐れ多いです。
「い、い、イアン様…」
「いいから。ほら、おまえはそっちの袖を通して、ランプを持て。我はコートの前をおさえているから」
すっごい近くに、それこそ、頬が触れるくらい近くに、陛下がいて。
コートの中で、腰を抱き寄せられて…こ、こ、腰に? 陛下の手が?
マジで無理ぃ。顔から火炎弾が出そうですぅ。
手の感触が。温かい陛下の体温が。密着する感覚が。ドギマギしてしまうけれど。
とにもかくにも。陛下が言うように。足元に置いていたランプを手に持ち。コート半分こ状態、目がグルグル状態で、出口に向かった。
なんか、上半身の二人三脚みたいだな。
ダメだ。これは、意識したら鼻血ブーだ!
ということで。ぼくは螺旋階段を降りながら、コートのプレゼンを無心でするのだった。
「これはフレアーのデザインなので、布地をふんだんに使っているのですが。イアン様でしたら、トレンチコートの仕様がお似合いかと。そうしたら重さは半分にできます」
「このような、死神チックな黒いコートを、我は着ない」
「お色はブラウン、濃紺、シルバーをお選びいただけます。あぁっ、シヴァーディ様がシルバーのトレンチコートを着たら、美しくて目が潰れるかもしれませんね?」
「我も、似合う」
「もちろん、陛下はどのお色でもお似合いです」
「口がうますぎだ。本当に接客が苦手なのか?」
「このように賛辞が湧いて出るのは、陛下だけです」
そうして、螺旋階段を降り切るまで。ぼくは陛下とくっついて歩いたのだった。
コートのせいか。暑くて汗をかきました。
陛下を救う手立てとかバミネとか父上とか、そういう大事なことは。頭が冷えたら、じっくり考えさせていただきますね?
★★★★★
別枠の『幽モブ アダルトルート』にて。42.5話、セドリック・スタインの熱情①~⑧があります。
Rー18です。読まなくても、本編には影響ありませんが。より、作品をお楽しみいただけます。Rが大丈夫な方は、よろしければ、ご覧ください。
またもや超爆笑した陛下に、ぼくは驚きの目を向ける。
やっぱり。うまく決まったなと思って、ドヤ顔した、その顔が面白過ぎたのだろうか?
でも、そんな大口を開けたら、王様としての威厳というか、品格というか。
とにかく、キャラ崩壊一歩手前です。
「いきなり、笑ったりして。すまない。ずっと、死神だと思ってきたおまえが、バミネを悪辣と断じる同志だと知って。自分の愚かさが、笑えてしまったのだ」
陛下は、笑いをおさめて。キリっとしたイケメンに戻った。
そう。切れ長の目元は、厳しくセクシー。唇は余裕のあるニヤリ。その顔ですよ、陛下。
「ということは、僕はもう、死神ではないのですね?」
喜々として、ぼくは陛下にたずねた。
だって、同志というからには、死神キャラも暗殺キャラも終了ということでしょう?
だったら。やっぱり主人公ルートじゃなかったということだよ。
っていうか、もしかしたらゲームの強制力が働いて、強引にアイリス主人公ルートに戻った、とか?
「いいや、おまえが死神なのは変わらない。我の…我だけの死神だ」
ええぇ、まだ死神キャラなのですかぁ? という気持ちで、陛下を見ると。
その顔がおかしかったのか。陛下は、クスリと口先で笑った。
いやいや、でも。陛下はぼくをからかっているだけで、心情ではもう死神キャラではない、はずですし。
たとえ死神キャラだとして、イコール主人公ルートと決まったわけではない。
たぶん。うん。もう少し、様子を見よう。
「クロウと同じように、我も、バミネには難儀している。この王城に来て、閉鎖空間の多さや、使用人が少ないことに、クロウも気づいているであろう? バミネの策で、カザレニア城は廃墟と化し。人の住まぬ寂れた孤島に、我は縛りつけられているのだ」
目を伏せた陛下は、苦々しくつぶやいた。
でも…どうして?
「恐れながら、陛下は火炎魔法を操るほどの、強い魔力をお持ちなのでは? 幽閉という憂き目にあわれているのですから、王家の反逆罪で、バミネを拘束してもよろしいのではありませんか?」
その気になれば、陛下はバミネなど一瞬で燃やしてしまえるだけの、力を持っているはずだ。
陛下が手を出さなくても、セドリックでも、シヴァーディでも。強い騎士がついているのだから。どうにでもできそうなのに。と、実はずっと思っていたのだ。
だが、陛下の返事に、ぼくは目が点になった。
「脅されているのだ。もしも我が、バミネを害したら。本土にいるバミネの父、バジリスク公爵が。本土を洪水で沈めると、言っている」
は? ええええぇぇっ? マジですか? 父上、なにしてくれちゃってんの?
強い能力を持つ陛下が、なぜバミネごときに縮こまっているのか。その理由が、ずっとわからなかった。
それが。まさか、まさかの。父上の? ぼくの身内のせいだなんてっ。
「我は、カザレニア国の民を愛している。国民に被害が出ると知りながら、己のみが生き残るような方策など、取れない。それに、美しいカザレニアが、水の被害で荒廃するのも、許せぬ」
そうでしょうとも。陛下は、お優しい方だもの。
だから、民のために。民を守るために。この王城で孤独に耐えていらっしゃったのだ。
そのようなことを知らず、ぼくは、自分のことばかりで情けない。
この瞬間、痛切に、こう思った。
ぼくの役所が、モブだろうと、主人公だろうと。関係ない。ぼくは、とにかく陛下をお救いしたいんだ。
「それだけではないのだ。我の…王家の火炎魔法を鎮火できるのは、強力な水魔法を有する公爵家の者だけ。それゆえ、王家と公爵家は昔から、国を守護するために互いに魔力を尽くし合う、盟友であった。しかし、公爵家がバミネの側についてしまったら、我は魔法を封じられたも同然。構わずに火炎魔法を使ったら、辺りは瞬く間に火の海となり。我は炎の魔人と化すだろう」
ぼくは、驚愕の表情を隠せなかった。
なんてことだ。父上の魔力が、王家に匹敵するほどの強力なものだったなんて。
陛下は、公爵家の者が火炎魔法を鎮火できると言うけれど。
公爵家の血脈であるぼくには、あまり魔力がなさそうなんだよなぁ?
呪いを解いたら、シオンが陛下の助けになれるだろうか?
それとも、シオンにも、父上ほどの魔力はないのか?
いまだに、呪いを跳ね返せないのだからな。
どちらにしても、今のぼくたちでは、陛下のお力には、なれない。
あぁ、もしかしたら。魔力を継承する儀式とかあるのかな?
そういうの、前世の小説にも、たまにあった話だし。
正式に公爵家の後継者に認められていたら、父上に匹敵する魔力を授けてもらえたのかも。
でも…だとしたら。
あの十歳のときに、公爵家に入れなかったことは…痛い。痛すぎる。
くっそぅ、バミネのやつぅ。許すまじ。
ま、憶測で、ない物を惜しんでも仕方がないね。
今の現状は、公爵子息であっても、ぼくにもシオンにも魔力がなくて。
だから、陛下が動けるようになるには、父上に味方になってもらう他ない、ということかな。
しかし、父上には、十年も会えていないし。
たとえ本土に戻ったところで、父上に接触できるかわからないぞ?
それに、会ったところで、父上がマジでバミネに加担してたら…万事休すってやつだ。
いやいや、それは考えないでっ、とにもかくにも会ってみないとわからないんだから。
とりあえず、父上と接触するのは決まりだとして。
でも、どうやって? 強行突破する?
うーん、シオンに剣の腕があっても、屋敷の中にはアナベラの護衛が、うじゃうじゃいるだろうしなぁ。
それは現実的ではないな。
よし。そこら辺は、衣装を作る間に、深く思案するしかなさそうだ。
なるべく危険がない状態で、父上に接触し、陛下を救い出す。その手立てを考えなければ。
それにしても。やっぱ、公爵子息だってことを、陛下に言わなくて良かったな。
だって、陛下はぼくらにも、火炎を消す魔力があるかもって、期待するかもしれないじゃん?
けど。魔力を封じられているぼくらでは、力になれないもの。
王家の火炎弾は、海に沈んでも、しばらくは燃え続けるという噂だ。
そんな猛火を消すなんて、無理無理。
すみません、公爵子息なんて名ばかりのカスで。
魔力のない公爵子息なんて、屁だよ屁。
つか、仕立て屋の方が、服を生み出せるだけ有益だよ。
でも、まぁ。陛下をぬか喜びさせなくて、良かったと思おう。
だけど、悔しさが、ぼくの身を焼いていた。
バジリスク公爵の長子でありながら。王家の片翼を担うお役目がありながら。陛下のお役に立てないのだから、魔力のないこの身がうとましい。
ここはアイキン…愛の力で王を救え、というゲームの世界。
でも。もしもぼくに大きな魔力が備わっていたら。
愛の力に頼らず、持ち前の魔力で、すぐにも幽閉の王をこの島から救い出せるというのに。
「…おまえがそのように、苦しげな顔をしなくてもよい。互いに、バミネには手を焼かされているという話だ。でも、まぁ。今日はおまえと有意義な話ができて、良かった。夜景を見ながら、もう少しおまえと話してみたい気はあるが。そろそろ冷えてきただろう?」
そう言って、陛下は肩を抱いてきた。
ぼくは、気の利いた言葉も返せず。情けないばかりで。
さらには、ついさっきまでシリアスモードだったっていうのも、わかっている。わかっているんだけどぉ…ぼくの商魂魂が、今、猛烈にウズウズしちゃっているっ。
「お寒いですか? イアン様。僕のコートを貸しましょう。こちら、防寒性に優れた、極上の一品なのです」
サッとコートを脱ぐと、ぼくは陛下の肩に、ひらりと着せ掛けた。
ぼくのサイズなので、鍛えた太い腕の陛下は袖を通せないけれど。Aラインのロングコートだから、体格のいい陛下でも、充分に体にまとうことができる。
コートを脱いだら、ぼくはシャツ一枚で、ひえぇぇ、寒い。
でも。宣伝のチャンスっ。我慢我慢。
「う、うむ。確かに温かいが…」
「普通の糸の三倍を生地に使用しているため、網目が細かく、風を防ぐことができるのです。デメリットとしては、普通の布地より、三倍重いということと、通気性が悪いということなのですが。コート内の熱も逃さないので、ヌックヌクなのです。くしゅん」
CМに力を入れていたら、くしゃみが出てしまった。
いいえ、これは風邪ではなく、鼻の奥で寒さが染みたことによるアレルギー的なやつですので。大丈夫です。
って、言い訳をする前に。陛下がぼくの鼻の頭を、指先でチョンとつついた。
「まだ寒い時期なのに、薄着でベラベラ喋るから、頬も鼻も真っ赤だぞ。冷たいな」
ほぅああぁぁぁあっ?
そんな、美ボイスで。
陛下が…。陛下に、鼻チョンとか、そ、そんなんされたら。爆散しますよっ。
推しの優しげな眼差しをこんな近距離で見たら、衝撃波で天に召されそうです。
さらに陛下は、畳み掛けるように、コートをぼくにもかけてくれる。
えええぇぇ? ひとつのコートにふたりで入るの?
は、恥ずかしい。そして恐れ多いです。
「い、い、イアン様…」
「いいから。ほら、おまえはそっちの袖を通して、ランプを持て。我はコートの前をおさえているから」
すっごい近くに、それこそ、頬が触れるくらい近くに、陛下がいて。
コートの中で、腰を抱き寄せられて…こ、こ、腰に? 陛下の手が?
マジで無理ぃ。顔から火炎弾が出そうですぅ。
手の感触が。温かい陛下の体温が。密着する感覚が。ドギマギしてしまうけれど。
とにもかくにも。陛下が言うように。足元に置いていたランプを手に持ち。コート半分こ状態、目がグルグル状態で、出口に向かった。
なんか、上半身の二人三脚みたいだな。
ダメだ。これは、意識したら鼻血ブーだ!
ということで。ぼくは螺旋階段を降りながら、コートのプレゼンを無心でするのだった。
「これはフレアーのデザインなので、布地をふんだんに使っているのですが。イアン様でしたら、トレンチコートの仕様がお似合いかと。そうしたら重さは半分にできます」
「このような、死神チックな黒いコートを、我は着ない」
「お色はブラウン、濃紺、シルバーをお選びいただけます。あぁっ、シヴァーディ様がシルバーのトレンチコートを着たら、美しくて目が潰れるかもしれませんね?」
「我も、似合う」
「もちろん、陛下はどのお色でもお似合いです」
「口がうますぎだ。本当に接客が苦手なのか?」
「このように賛辞が湧いて出るのは、陛下だけです」
そうして、螺旋階段を降り切るまで。ぼくは陛下とくっついて歩いたのだった。
コートのせいか。暑くて汗をかきました。
陛下を救う手立てとかバミネとか父上とか、そういう大事なことは。頭が冷えたら、じっくり考えさせていただきますね?
★★★★★
別枠の『幽モブ アダルトルート』にて。42.5話、セドリック・スタインの熱情①~⑧があります。
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