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79 そこは注意してください
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◆そこは注意してください
チョンと、こそこそ話をしながら、住居城館の敷地を抜け。あの大きな音の鳴る門までついた。
あの大きな音を鳴らしたくないな、と思いながらも。
これはセキュリティーとして大事なんだから、仕方がないと。門に手をかける。
でも、音が…なんて言っている場合ではなく。
開かないんですけどぉ?
今までは、騎士様が開けてくれていたから、ぼくが触ったことはなかったんだ。
まさか、力いっぱい押しても開かないなんて、思わなかったよ?
門に肩を押し当てて、体当たりで押してみて、ようやくジリジリと開く感じ。
そうだよな、あんなデカい音が鳴るんだもん。重量級に違いない。
しかし、バミネが乗り込んでくる前に、この門を開けることができるのだろうか? グヌヌ。
なんて、思っていたら。急に門が軽くなった。
いつの間にか、そばにセドリックがいて。
壁ドンならぬ門ドンで、開閉を手伝ってくれたのだ。
セドリックは、この重い門を楽に押し開ける。
ゴリラだな。
「ハハッ、非力過ぎだろう、クロウ」
「この門が、重すぎるのですぅ。つか、セドリック様は、なんで?」
ぼくとチョンは外に出るが、セドリックもそのまま外に出て。門は、大きな音を立てて閉まった。
あれ、城外に出ちゃっていいの?
「陛下が、おまえの護衛をしろと命じたのだ。おまえ、陛下に戻ってくるなと言われたのだろう? クロウが本土に無事たどりつくのを見届けて来い、と仰せだ。バミネから、ちゃんとペンダントを取り戻すように、ということも、同時に言い渡された」
「戻ってくるなと言われましても、僕は戻ります。王命ではないので」
ぼくは口をへの字に曲げて、言い切る。そして、首を傾げた。
「あれ、ペンダントを返してもらえたら、船に乗らなくてもいいんじゃね?」
「バミネが、それを承知すればな?」
セドリックに言われ。まぁ、うまくいったら、そうしよう。と思った。
バミネが馬鹿だったら、いいな?
住居城館の敷地を出たら、あとは港まで、下り坂の一本道だ。
ぼくとセドリックは、並んで城下へ降りていく。
「城館を出てから、ずっと声をかけようと思っていたのだが。おまえがなにやら、猫とブツブツ会話をしているようだから。おかしくて…いや、怪しげで。声をかけそびれてしまった。おまえは不思議ちゃんだな?」
チョンと、兄弟のこそこそ話をしているところを、とうとう人に見られてしまったぁぁ?
ガーン、という気持ちで、セドリックを見やると。
彼はそれほど、いぶかしんでいる様子もなく。蛍光レッドの短髪を、手でガシガシとかいた。
「怪しげといえば、アイリスの嬢ちゃんも怪しげだよな? おまえらがダンスをしているところを、ジジィっと見てたぞ。なんか、気配はないのに発光してたから、魔法で姿を消していたのだろうが」
ちょっと、アイリス。隠密魔法がセドリックにバレてんですけどぉ?
「嬢ちゃんは、たびたび魔法を発動させていたから、気にはしていたんだ。俺は、大体のことには大雑把なんだが、魔法の残り香みたいなものに、敏感でな。なんっつうか、鼻が利くんだ」
得意げに、セドリックが自分の鼻を中指でチョンと触った。
まぁ、大雑把な性格は存じておりました。
真夏の太陽のような笑顔や、大柄な体躯も、セドリックの大らかな性質を表していましたし。
でも、魔法を鼻で嗅ぎ分けるとは…珍しいスキルですね? と感心して、ぼくは彼を見やる。
「で、クロウが暗殺要員でないことは、すぐにわかったが。アイリスは、もしかしたらと思って、警戒していたんだよ。だが、ただ陛下とクロウを、ニヤニヤした顔で見ているだけだったから。まぁ、いいかって。放っておいたんだが」
「そこは注意してくださいよっ!」
そういうところで大雑把を発揮してはいけません。
つか、当初ぼくが、アイリスと陛下のラストダンスを肉眼で拝見したいと思っていたように。
アイリスも、クロウフィーバーによる、クロウと陛下のラストダンスを、かぶりつきで堪能していたということだっ。ズルいぃ。
「ま、アイリスは暗殺要員ではありません。ただの陛下マニアです」
正確には、陛下とクロウを愛でる会の人だ。たぶん。
「陛下マニア? そりゃ、アルフレドが、心穏やかでないだろう?」
あ、やっぱり、アルフレドとアイリスはお付き合いされているんですね?
この前バミネが来たときは、いろいろあって、そういえば、あのあと聞きそびれていましたよ。
っていうことは、主人公ちゃんは、攻略達成したってことかな?
良かったね、アイリス。
でも、あれ? ぼくが主人公なんだっけ?
イマイチ、クロウフィーバーなるものの、ぼくの立ち位置がよくわかりません。
「マニアの好きと、恋人の好きは、別次元なのです。決して恋人の地位は脅かされないものなのです」
とりあえず、セドリックに、マニアと恋人の違いを説明する。両立は可能です。
「そうなのか? よくわからんが。好きなら手にしたくなるもんじゃね?」
セドリックは、まどろっこしいとつぶやいた。
彼の愛し方は、きっと、真っ直ぐで、わき目もふらず、なのだろう。爽やかで、明るくて、わかりやすい愛情表現なのだろうな?
「そんなことより、クロウ。体は大丈夫か? 見たところ、シャキシャキ歩いているけど。陛下は、それはそれは立派なモノをお持ちかと思っていたのだが、意外とそうでもなかったのか?」
はあぁぁっ、また、あのお話ですか?
もう、みんな、なんで、そんなに、秘密のことを聞きたがるのでしょう?
でも、陛下を愚弄されたまま、無視することはできません。ぐぬぬ。
「陛下の陛下は立派に決まっているでしょう! 陛下はお優しいので、これから船に乗る僕を気遣ってくれたのです…お優しいから」
ぼくは、良かったのです。一線を越えても。
でも、陛下はぼくの身と、ぼくの将来のことも考えてくれて。
陛下は、もっと我が儘でもいい。欲しいものを欲しいと言って、手を伸ばしてもいいのに。お優しいから。
っていう意味だったのに。
セドリックは違うふうに取った。
「なんで、優しいを二回言うんだ? やっぱ、物足りなかったとか?」
「そんなわけありません。それはもう、すごかったのです。ああぁぁぁ、言いませんけどっ」
「そうか、なら良かった。男同士のアレコレを陛下に教えた身としては、クロウの尻を壊さず、いかに快楽に至れるか、というのが大命題だったのでな?」
ものすごく爽やかな笑顔で、セドリックがウィンクしてくる。うぜぇ。
陛下がなんだか妙にエロエロだったのは、この男のせいだったか。
いろいろ言いたいことはあるが。
口をすべらせたら、セドリックと、顔の横で目をランランとしている子猫の思うつぼだ。我慢、我慢。
「兄上、尻は御無事なのですね? 良かったですぅ」
チョンが嬉しそうに言ってくる。
怒りたいけど、我慢、我慢。
そんな話をしているうちに、港についた。
接岸しているのは、行きの船より小ぶりな帆船だ。
甲板の手摺りに寄っかかっているバミネが、ネックレスをぶらぶらさせながら、ぼくを見下ろしていた。
チョンと、こそこそ話をしながら、住居城館の敷地を抜け。あの大きな音の鳴る門までついた。
あの大きな音を鳴らしたくないな、と思いながらも。
これはセキュリティーとして大事なんだから、仕方がないと。門に手をかける。
でも、音が…なんて言っている場合ではなく。
開かないんですけどぉ?
今までは、騎士様が開けてくれていたから、ぼくが触ったことはなかったんだ。
まさか、力いっぱい押しても開かないなんて、思わなかったよ?
門に肩を押し当てて、体当たりで押してみて、ようやくジリジリと開く感じ。
そうだよな、あんなデカい音が鳴るんだもん。重量級に違いない。
しかし、バミネが乗り込んでくる前に、この門を開けることができるのだろうか? グヌヌ。
なんて、思っていたら。急に門が軽くなった。
いつの間にか、そばにセドリックがいて。
壁ドンならぬ門ドンで、開閉を手伝ってくれたのだ。
セドリックは、この重い門を楽に押し開ける。
ゴリラだな。
「ハハッ、非力過ぎだろう、クロウ」
「この門が、重すぎるのですぅ。つか、セドリック様は、なんで?」
ぼくとチョンは外に出るが、セドリックもそのまま外に出て。門は、大きな音を立てて閉まった。
あれ、城外に出ちゃっていいの?
「陛下が、おまえの護衛をしろと命じたのだ。おまえ、陛下に戻ってくるなと言われたのだろう? クロウが本土に無事たどりつくのを見届けて来い、と仰せだ。バミネから、ちゃんとペンダントを取り戻すように、ということも、同時に言い渡された」
「戻ってくるなと言われましても、僕は戻ります。王命ではないので」
ぼくは口をへの字に曲げて、言い切る。そして、首を傾げた。
「あれ、ペンダントを返してもらえたら、船に乗らなくてもいいんじゃね?」
「バミネが、それを承知すればな?」
セドリックに言われ。まぁ、うまくいったら、そうしよう。と思った。
バミネが馬鹿だったら、いいな?
住居城館の敷地を出たら、あとは港まで、下り坂の一本道だ。
ぼくとセドリックは、並んで城下へ降りていく。
「城館を出てから、ずっと声をかけようと思っていたのだが。おまえがなにやら、猫とブツブツ会話をしているようだから。おかしくて…いや、怪しげで。声をかけそびれてしまった。おまえは不思議ちゃんだな?」
チョンと、兄弟のこそこそ話をしているところを、とうとう人に見られてしまったぁぁ?
ガーン、という気持ちで、セドリックを見やると。
彼はそれほど、いぶかしんでいる様子もなく。蛍光レッドの短髪を、手でガシガシとかいた。
「怪しげといえば、アイリスの嬢ちゃんも怪しげだよな? おまえらがダンスをしているところを、ジジィっと見てたぞ。なんか、気配はないのに発光してたから、魔法で姿を消していたのだろうが」
ちょっと、アイリス。隠密魔法がセドリックにバレてんですけどぉ?
「嬢ちゃんは、たびたび魔法を発動させていたから、気にはしていたんだ。俺は、大体のことには大雑把なんだが、魔法の残り香みたいなものに、敏感でな。なんっつうか、鼻が利くんだ」
得意げに、セドリックが自分の鼻を中指でチョンと触った。
まぁ、大雑把な性格は存じておりました。
真夏の太陽のような笑顔や、大柄な体躯も、セドリックの大らかな性質を表していましたし。
でも、魔法を鼻で嗅ぎ分けるとは…珍しいスキルですね? と感心して、ぼくは彼を見やる。
「で、クロウが暗殺要員でないことは、すぐにわかったが。アイリスは、もしかしたらと思って、警戒していたんだよ。だが、ただ陛下とクロウを、ニヤニヤした顔で見ているだけだったから。まぁ、いいかって。放っておいたんだが」
「そこは注意してくださいよっ!」
そういうところで大雑把を発揮してはいけません。
つか、当初ぼくが、アイリスと陛下のラストダンスを肉眼で拝見したいと思っていたように。
アイリスも、クロウフィーバーによる、クロウと陛下のラストダンスを、かぶりつきで堪能していたということだっ。ズルいぃ。
「ま、アイリスは暗殺要員ではありません。ただの陛下マニアです」
正確には、陛下とクロウを愛でる会の人だ。たぶん。
「陛下マニア? そりゃ、アルフレドが、心穏やかでないだろう?」
あ、やっぱり、アルフレドとアイリスはお付き合いされているんですね?
この前バミネが来たときは、いろいろあって、そういえば、あのあと聞きそびれていましたよ。
っていうことは、主人公ちゃんは、攻略達成したってことかな?
良かったね、アイリス。
でも、あれ? ぼくが主人公なんだっけ?
イマイチ、クロウフィーバーなるものの、ぼくの立ち位置がよくわかりません。
「マニアの好きと、恋人の好きは、別次元なのです。決して恋人の地位は脅かされないものなのです」
とりあえず、セドリックに、マニアと恋人の違いを説明する。両立は可能です。
「そうなのか? よくわからんが。好きなら手にしたくなるもんじゃね?」
セドリックは、まどろっこしいとつぶやいた。
彼の愛し方は、きっと、真っ直ぐで、わき目もふらず、なのだろう。爽やかで、明るくて、わかりやすい愛情表現なのだろうな?
「そんなことより、クロウ。体は大丈夫か? 見たところ、シャキシャキ歩いているけど。陛下は、それはそれは立派なモノをお持ちかと思っていたのだが、意外とそうでもなかったのか?」
はあぁぁっ、また、あのお話ですか?
もう、みんな、なんで、そんなに、秘密のことを聞きたがるのでしょう?
でも、陛下を愚弄されたまま、無視することはできません。ぐぬぬ。
「陛下の陛下は立派に決まっているでしょう! 陛下はお優しいので、これから船に乗る僕を気遣ってくれたのです…お優しいから」
ぼくは、良かったのです。一線を越えても。
でも、陛下はぼくの身と、ぼくの将来のことも考えてくれて。
陛下は、もっと我が儘でもいい。欲しいものを欲しいと言って、手を伸ばしてもいいのに。お優しいから。
っていう意味だったのに。
セドリックは違うふうに取った。
「なんで、優しいを二回言うんだ? やっぱ、物足りなかったとか?」
「そんなわけありません。それはもう、すごかったのです。ああぁぁぁ、言いませんけどっ」
「そうか、なら良かった。男同士のアレコレを陛下に教えた身としては、クロウの尻を壊さず、いかに快楽に至れるか、というのが大命題だったのでな?」
ものすごく爽やかな笑顔で、セドリックがウィンクしてくる。うぜぇ。
陛下がなんだか妙にエロエロだったのは、この男のせいだったか。
いろいろ言いたいことはあるが。
口をすべらせたら、セドリックと、顔の横で目をランランとしている子猫の思うつぼだ。我慢、我慢。
「兄上、尻は御無事なのですね? 良かったですぅ」
チョンが嬉しそうに言ってくる。
怒りたいけど、我慢、我慢。
そんな話をしているうちに、港についた。
接岸しているのは、行きの船より小ぶりな帆船だ。
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認識阻害魔道具メガネのせいで2人の騎士の間で別人を演じることになった文官学生の恋の話。
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