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2-32 これが噂の、げーむのきょうせいりょく
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◆これが噂の、げーむのきょうせいりょく
アイリスたちの、ドレスのフィッティングを、教室でしていたのだが。そこに、公女様が現れた。
なんとなく、ロールプレイングゲームで、魔物が出てきたときの、あのBGMが、脳内に鳴り響きました。
「あらぁ? 騒がしいと思ったら。皆様お揃いで」
公女は、しゃなりと挨拶して。教室の中に入ってきた。
それに、一番にハルルン…いや、シャーロットがかみつく。
「リーリア様? クロウに近づかないという約束ではなくて?」
金の長い髪を、ポニーテールにして。ちょっと勝気な顔つきや、目元が、本当にハルルンそっくりです。ニヤリ。
「対面では、そうでしょうが。ここには、皆様が集まっていらっしゃるし。それほど警戒しなくてもぉ? それともクロウ様ったら、細腕の女ひとりが、怖いのかしらぁ?」
「いえ、大丈夫ですけど」
リーリアに話を向けられて、答えたら。
みんなに、怖い顔で睨まれた。
えぇ? ぼくが悪いのですか?
でも、ぼくが大丈夫って言ったら。リーリアは教室に居座ってしまった。
あぁ、そういうことか。ぼくが怖くないと言うように、リーリアは誘導したのだな? それで、怖くないと言ったら、教室に残る免罪符になるのだな? 賢いじゃんっ。
それで、リーリアは陛下の前に立って、目をウルウルさせながら、訴えた。
「陛下、私に、どうかチャンスをいただけないでしょうか? 陛下は私のことを、よくご存じないでしょう? でも、私は陛下との結婚を夢見て、こちらの国に留学してきたのです。せめて、私の人となりを知って。国と国の友好のためにも、私との交友を深めていただきたいのです」
「アルガルとの友好に、ヒビを入れるつもりはない。しかし、貴方は。我らにとって、危険人物であると認識している。その提案は、がえんじない」
だが、陛下は取りつく島なし。
ぼくと陛下も、ムニャムニャした日から、さらに仲良しさんで。横槍入れる隙間など、一ミリも開いていませんからね?
だからぼくも、精神的にも安定しているよ。
だって、毎日、好き好き言われているのでね。えへへ。
シオンが、甘ったるくてウザい、というくらいにはね。えへへへ。
不安になる隙もなし。ですよ。
「でも、どうか。私の留学の思い出に。卒業記念パーティーでは、陛下のパートナーに、私を選んでいただけませんでしょうか?」
「我がエスコートするのは、クロウと決まっている」
もちろん、いち早く、陛下から、その申し出をされ、ぼくも受けている。
胡坐をかくわけではないが、ぼくは陛下の婚約者であるから。それは当たり前のことなのだ。
どちらかというと、婚約者を差し置いて、他の者をパートナーに選ぶのは。非常識なこと。
だから、公女の提案は、不躾である。
それくらいはわかるはずだけどなぁ?
「あらぁ、それはおかしいわ?」
でも、リーリアは。今まで殊勝な感じで、目もウルウル涙目だったというのに。
また、あの悪役顔になってしまった。
なんていうか。がっぷりよつに組んで、押し切り、にできる自信が垣間見える。
「一国の王ともあろう御方が、パーティーで男性を伴われるなんて。大勢の生徒、ご来客の中で、卒業証書を学園長から受け取る、いわゆる、主役の方ですもの。紳士として、ちゃんと、女性を伴うべきですわ? もちろん、殿方であるクロウ様もっ」
彼女は、式典の際には、紳士として、女性を伴うのが基本、みたいな? そういうことを言っているらしい。
ぼくにも、女性をエスコートさせるつもり?
無理無理、ぼくのようなモブに、誰が付き添ってくれるというのですか?
しかも、女性が? 無理無理無理。
ぼくに付き添ってくださる方なんて。そんなの、ご奇特な陛下くらいしか、ぼくにはいないんですからねっ?
百歩譲って、シオンですが?
兄弟で、公の場でダンスとか? しょっぱすぎます。
絶対に嫌です。
そんなことなら、お腹が痛くなって仮病で休みます。
標準装備ボッチ搭載なモブを舐めないでくださいっ。
「男の方同士で、腕を組んでいるなんて。相手をみつけられない、寂しい方だと受け取られてしまいますわよ? でもぉ、今からお相手をみつけるのは、大変ですわね? あぁ、私の家格なら。陛下に恥をかかせることはありませんわぁ? ぜひ、私に陛下のお相手を務めさせてください」
いかにも、ここに、うってつけの人物がいますわぁ、という感じで。公女が言う。
立て板に水のごとく、ぺらぺらぁ、と公女が言いたいことを述べて。
陛下は、口をはさむ隙もなかったが。
とうとう、口を開こうとした、そのときッ。
アイリスが、言った。…あいりす?
「いいえ、陛下は、家格のしっかりした美女のエスコートをすることが、決まっていますのっ」
アイリスの言葉に、リーリアは、目を丸くして、問い返す。
「あらぁ? アイリスさん。私以上に、陛下に相応しい御令嬢がいるとは思えませんわぁ?」
なんか、御令嬢の、慇懃無礼バトルを見ているようで。背筋がゾワゾワします。
つか、陛下に相応しい御令嬢って、誰?
「御心配には及びませんわ? 公女殿下。もう、本当に、目が潰れそうなほどに美しい、やんごとなき家柄のお嬢様ですのよ?」
「だったらっ、もし、当日、陛下のお隣にそのような御令嬢がいらっしゃらなかったら。私を伴っていただきますわよ?」
言質を取ったぁ、とばかりに。
陛下が拒否する前に。
リーリアは脱兎のごとく、教室を出て行ったのだった。
は、早っ。
「アイリス、我は、クロウ以外を伴う気はないのだが?」
陛下は、海色の瞳を、心もとなく揺らす。少し心配そうに、アイリスを見やった。
万が一にも、リーリアを伴うようなことはしたくない、という気が感じられます。
それに、アイリスはうなずく。
「もちろんでございます、陛下。陛下には、クロウ様がいるというのに。公女殿下の横暴なやり方が、私、許せませんの。クロウ様? リーリア嬢をガツンとへこますくらいに、美しく仕上げてみせますわよ?」
断言するアイリスに、ぼくは。目を丸くした。
なんか、聞いてはいけないことを耳にしたようです。
「…えええっ? ぼくですか? ぼくが、やんごとなき家柄のお嬢様なのですか?」
「当然です。他に誰がいるのですか? それとも、クロウ様。陛下のお隣を、他者に引き渡せるとでも言うのですか?」
それは、嫌です。決まっています。
だけどさぁ。
これって、さぁ?
「…アイリスが、クロウの女装イベを見たいだけでは?」
「「見たいに決まっていますともっ」」
なんか、アイリスと一緒に、マリーまで叫んでいるのですけど?
もう、自分の性癖を隠す気はないのですね? はい、わかりました。
でもそうして、ぼくのために頑張ってくれるのだから。ありがたいことだ。
友達がいなかったぼくに。親身になってくれる人がいる。そのことこそが。得難い、幸せなこと。
こんなに、友達が一生懸命頑張ってくれるのだから。ぼくも女装くらい、してもいいかなぁ…。
なんて、謎な思考が働く。
あれ。これって。この思考回路は、まさか。
これが噂の、げーむのきょうせいりょくってやつじゃねーーーーっ?
怖い怖い怖い、だってぼく、女装とか無理って、ずっと思ってきたんだ。
やっべ、考え方が百八十度転換されるところだったよ。
しかも、自然な感じに。おっそろしぃいい。
でも、まぁ。陛下のお隣は、誰にも譲りたくないので。
ここは、無理を曲げて、腹をくくりましょう。
「わかりました、アイリス。ぼくを、国一番の美女に仕上げてくださいませ」
にっこり笑顔で言ったら。アイリスはマリーと見合わせて、拳を突き上げた。
「女装イベ、きたーーーっ」
これこれ、淑女がそんなことしてはいけません。
ぼくも陛下も、苦笑いです。
「じゃあね、クロウ様。このドレスと同じやつ、作ってね? これのブラックバージョンよっ」
鼻息荒く、アイリスが注文してくる。
「アイリスっ、そ、それって…まさか。闇落ちハルルン? あの、神回の、だわよね?」
「そうよ、先生っ。闇落ちしたハルルンは、綺麗な金髪が黒に染まって。クロウ様にはぴったりよっ」
「さすがね、アイリス。私のクロウちゃんが、ハルルンコスするとか、もう、ご褒美をぶっ飛んじゃってるわ? なに? 死ぬの? 私、明日死ぬの?」
「大丈夫よ、先生。もう、一度死んでいますから」
アイリスとマリーは、ひそひそひそひそと、物騒な会話を繰り広げている。
あのぉ、任せて、大丈夫でしょうか? 一抹の不安がよぎります。
「そういえば、あの御令嬢。私たちのドレスを見て、一ミリも反応しなかったわね? まさか、ハルルン、知らないとか、言わないわよね? 転生者にあるまじきよね?」
マリーが小首を傾げて言うけど。
いやいや、ゲーマーがみんなアニメ好きとは限らないですからねぇ?
つか、前世日本人だと、ハルルン知らなきゃいけないとかも、暴論だと思います、先生。
アイリスたちの、ドレスのフィッティングを、教室でしていたのだが。そこに、公女様が現れた。
なんとなく、ロールプレイングゲームで、魔物が出てきたときの、あのBGMが、脳内に鳴り響きました。
「あらぁ? 騒がしいと思ったら。皆様お揃いで」
公女は、しゃなりと挨拶して。教室の中に入ってきた。
それに、一番にハルルン…いや、シャーロットがかみつく。
「リーリア様? クロウに近づかないという約束ではなくて?」
金の長い髪を、ポニーテールにして。ちょっと勝気な顔つきや、目元が、本当にハルルンそっくりです。ニヤリ。
「対面では、そうでしょうが。ここには、皆様が集まっていらっしゃるし。それほど警戒しなくてもぉ? それともクロウ様ったら、細腕の女ひとりが、怖いのかしらぁ?」
「いえ、大丈夫ですけど」
リーリアに話を向けられて、答えたら。
みんなに、怖い顔で睨まれた。
えぇ? ぼくが悪いのですか?
でも、ぼくが大丈夫って言ったら。リーリアは教室に居座ってしまった。
あぁ、そういうことか。ぼくが怖くないと言うように、リーリアは誘導したのだな? それで、怖くないと言ったら、教室に残る免罪符になるのだな? 賢いじゃんっ。
それで、リーリアは陛下の前に立って、目をウルウルさせながら、訴えた。
「陛下、私に、どうかチャンスをいただけないでしょうか? 陛下は私のことを、よくご存じないでしょう? でも、私は陛下との結婚を夢見て、こちらの国に留学してきたのです。せめて、私の人となりを知って。国と国の友好のためにも、私との交友を深めていただきたいのです」
「アルガルとの友好に、ヒビを入れるつもりはない。しかし、貴方は。我らにとって、危険人物であると認識している。その提案は、がえんじない」
だが、陛下は取りつく島なし。
ぼくと陛下も、ムニャムニャした日から、さらに仲良しさんで。横槍入れる隙間など、一ミリも開いていませんからね?
だからぼくも、精神的にも安定しているよ。
だって、毎日、好き好き言われているのでね。えへへ。
シオンが、甘ったるくてウザい、というくらいにはね。えへへへ。
不安になる隙もなし。ですよ。
「でも、どうか。私の留学の思い出に。卒業記念パーティーでは、陛下のパートナーに、私を選んでいただけませんでしょうか?」
「我がエスコートするのは、クロウと決まっている」
もちろん、いち早く、陛下から、その申し出をされ、ぼくも受けている。
胡坐をかくわけではないが、ぼくは陛下の婚約者であるから。それは当たり前のことなのだ。
どちらかというと、婚約者を差し置いて、他の者をパートナーに選ぶのは。非常識なこと。
だから、公女の提案は、不躾である。
それくらいはわかるはずだけどなぁ?
「あらぁ、それはおかしいわ?」
でも、リーリアは。今まで殊勝な感じで、目もウルウル涙目だったというのに。
また、あの悪役顔になってしまった。
なんていうか。がっぷりよつに組んで、押し切り、にできる自信が垣間見える。
「一国の王ともあろう御方が、パーティーで男性を伴われるなんて。大勢の生徒、ご来客の中で、卒業証書を学園長から受け取る、いわゆる、主役の方ですもの。紳士として、ちゃんと、女性を伴うべきですわ? もちろん、殿方であるクロウ様もっ」
彼女は、式典の際には、紳士として、女性を伴うのが基本、みたいな? そういうことを言っているらしい。
ぼくにも、女性をエスコートさせるつもり?
無理無理、ぼくのようなモブに、誰が付き添ってくれるというのですか?
しかも、女性が? 無理無理無理。
ぼくに付き添ってくださる方なんて。そんなの、ご奇特な陛下くらいしか、ぼくにはいないんですからねっ?
百歩譲って、シオンですが?
兄弟で、公の場でダンスとか? しょっぱすぎます。
絶対に嫌です。
そんなことなら、お腹が痛くなって仮病で休みます。
標準装備ボッチ搭載なモブを舐めないでくださいっ。
「男の方同士で、腕を組んでいるなんて。相手をみつけられない、寂しい方だと受け取られてしまいますわよ? でもぉ、今からお相手をみつけるのは、大変ですわね? あぁ、私の家格なら。陛下に恥をかかせることはありませんわぁ? ぜひ、私に陛下のお相手を務めさせてください」
いかにも、ここに、うってつけの人物がいますわぁ、という感じで。公女が言う。
立て板に水のごとく、ぺらぺらぁ、と公女が言いたいことを述べて。
陛下は、口をはさむ隙もなかったが。
とうとう、口を開こうとした、そのときッ。
アイリスが、言った。…あいりす?
「いいえ、陛下は、家格のしっかりした美女のエスコートをすることが、決まっていますのっ」
アイリスの言葉に、リーリアは、目を丸くして、問い返す。
「あらぁ? アイリスさん。私以上に、陛下に相応しい御令嬢がいるとは思えませんわぁ?」
なんか、御令嬢の、慇懃無礼バトルを見ているようで。背筋がゾワゾワします。
つか、陛下に相応しい御令嬢って、誰?
「御心配には及びませんわ? 公女殿下。もう、本当に、目が潰れそうなほどに美しい、やんごとなき家柄のお嬢様ですのよ?」
「だったらっ、もし、当日、陛下のお隣にそのような御令嬢がいらっしゃらなかったら。私を伴っていただきますわよ?」
言質を取ったぁ、とばかりに。
陛下が拒否する前に。
リーリアは脱兎のごとく、教室を出て行ったのだった。
は、早っ。
「アイリス、我は、クロウ以外を伴う気はないのだが?」
陛下は、海色の瞳を、心もとなく揺らす。少し心配そうに、アイリスを見やった。
万が一にも、リーリアを伴うようなことはしたくない、という気が感じられます。
それに、アイリスはうなずく。
「もちろんでございます、陛下。陛下には、クロウ様がいるというのに。公女殿下の横暴なやり方が、私、許せませんの。クロウ様? リーリア嬢をガツンとへこますくらいに、美しく仕上げてみせますわよ?」
断言するアイリスに、ぼくは。目を丸くした。
なんか、聞いてはいけないことを耳にしたようです。
「…えええっ? ぼくですか? ぼくが、やんごとなき家柄のお嬢様なのですか?」
「当然です。他に誰がいるのですか? それとも、クロウ様。陛下のお隣を、他者に引き渡せるとでも言うのですか?」
それは、嫌です。決まっています。
だけどさぁ。
これって、さぁ?
「…アイリスが、クロウの女装イベを見たいだけでは?」
「「見たいに決まっていますともっ」」
なんか、アイリスと一緒に、マリーまで叫んでいるのですけど?
もう、自分の性癖を隠す気はないのですね? はい、わかりました。
でもそうして、ぼくのために頑張ってくれるのだから。ありがたいことだ。
友達がいなかったぼくに。親身になってくれる人がいる。そのことこそが。得難い、幸せなこと。
こんなに、友達が一生懸命頑張ってくれるのだから。ぼくも女装くらい、してもいいかなぁ…。
なんて、謎な思考が働く。
あれ。これって。この思考回路は、まさか。
これが噂の、げーむのきょうせいりょくってやつじゃねーーーーっ?
怖い怖い怖い、だってぼく、女装とか無理って、ずっと思ってきたんだ。
やっべ、考え方が百八十度転換されるところだったよ。
しかも、自然な感じに。おっそろしぃいい。
でも、まぁ。陛下のお隣は、誰にも譲りたくないので。
ここは、無理を曲げて、腹をくくりましょう。
「わかりました、アイリス。ぼくを、国一番の美女に仕上げてくださいませ」
にっこり笑顔で言ったら。アイリスはマリーと見合わせて、拳を突き上げた。
「女装イベ、きたーーーっ」
これこれ、淑女がそんなことしてはいけません。
ぼくも陛下も、苦笑いです。
「じゃあね、クロウ様。このドレスと同じやつ、作ってね? これのブラックバージョンよっ」
鼻息荒く、アイリスが注文してくる。
「アイリスっ、そ、それって…まさか。闇落ちハルルン? あの、神回の、だわよね?」
「そうよ、先生っ。闇落ちしたハルルンは、綺麗な金髪が黒に染まって。クロウ様にはぴったりよっ」
「さすがね、アイリス。私のクロウちゃんが、ハルルンコスするとか、もう、ご褒美をぶっ飛んじゃってるわ? なに? 死ぬの? 私、明日死ぬの?」
「大丈夫よ、先生。もう、一度死んでいますから」
アイリスとマリーは、ひそひそひそひそと、物騒な会話を繰り広げている。
あのぉ、任せて、大丈夫でしょうか? 一抹の不安がよぎります。
「そういえば、あの御令嬢。私たちのドレスを見て、一ミリも反応しなかったわね? まさか、ハルルン、知らないとか、言わないわよね? 転生者にあるまじきよね?」
マリーが小首を傾げて言うけど。
いやいや、ゲーマーがみんなアニメ好きとは限らないですからねぇ?
つか、前世日本人だと、ハルルン知らなきゃいけないとかも、暴論だと思います、先生。
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