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番外 アンドリュー 清い恋情と腐った感情 ②
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ツヴァイク伯爵家には要所に屋敷をいくつか持っている。
実家の本邸は、ツヴァイク伯爵領デルワイゼンにある。領民は一万人ほど。
そして伯爵が王宮に顔を出すときなどに滞在するセカンドハウスが王都にあって。
今は王宮で騎士として勤めている私がほぼ活用している。
近衛騎士団長である私は、王宮や王族を警備する責任者だ。
先代の騎士団長は、今もリドリー陛下の専属護衛官の任についている。
国王が即位する前から従者として付き従っていた、陛下と同年代の騎士であり。現在騎士爵を賜っている、現役凄腕剣士でもある。
私もディオン殿下のそのような者になりたかった。
第一王位継承者である彼を守ることを第一義とし。
年が近いことで、ご学友にもなれて。心を開いて、なんでも話し合えるような親友でありたかった。
しかし殿下の従者であるレギが、警護者としても優秀であったので。
住み込みで四六時中彼を警護する任は与えられなかった。
そのように取り立ててもらいたかったのだが。
伯爵後継の者を長時間束縛できない。と彼は言うのだ。
だから政治方面で力になろうと思っていたのに。
奇跡のようにタイジュ先生が現れて。
私たちは恋のライバルになってしまった。
タイジュ先生は、殿下の求愛にうなずいていないようだが。
彼に非の打ち所はなく。私はもう失恋寸前…なのだろうか?
まだ、間に合うのだろうか?
とにかく。私はあきらめたくない。
タイジュ先生の真意がどこにあるのか、そこを彼自身にうかがいたい。
胸に巣食う腐った感情を。私は早く取り除いてしまいたいのだ。
彼の気持ちがどこにあるのかさえわかれば。
きっと私は以前の気持ちを取り戻せる。
タイジュ先生に感じた純粋な好意や。裏心なく殿下を敬愛する心情を。
「アンドリュー様、手合わせ中に考え事をするのは危ないですよ」
セカンドハウスの庭で、ノアにそう言われてしまった。
今私は、ノアに剣術の稽古をつけている最中である。進言はごもっともだ。
ノアはひょんなことから身請けした少年で。今は奴隷ではないのだが、行くところがないというので。
私の屋敷で雇うことになった。
しかし、まだ十歳という子供だ。
働かせるのは可哀想かと思い、屋敷を取り仕切る執事や私の側仕えに相談したが。
「剣の練習をして、アンドリュー様のお役に立ちたいとは思っていますが。ただで食事をいただくわけにはまいりませんから。ぼくに出来ることはさせてください」
と、ノアの方から言われ。
剣術の稽古を優先させつつ、適度に働く感じで屋敷に置くことになったのだ。
ノアがこの屋敷に来て、ひと月は経っていないが。
髪が少し伸びて。今は後ろでちょこんと結んでいる。
私の衣装のおさがりを着ているので、ちょっと見、貴族の子弟のように見えなくもない。
姿勢が正しく、笑みがほがらかで、敬語もすぐに身についたので上品さもある。
屋敷の使用人たちも、ノアの真面目で人当たりの良い性格に好感を持っているようだった。
「いつもぼくには集中しろとおっしゃるのに」
ちょっと呆れた口調で私に注意をするところは、まるで母親のごときで苦笑してしまう。
「あぁ、すまない」
「とてもお辛そうな顔をしています。なにかありましたか?」
そうして私の顔色にまで配慮してくれるのは、ありがたいことだが。
タイジュ先生のことを考えていたから。
代わりに身請けしたノアには、なんとなく後ろめたさを感じてしまう。
なので、違うことを口にした。
「いや、近々剣闘士大会が開催されることになった。そのイベントが終わると入団試験になるが。年々剣闘士大会のあとは腕試しの強者が志願してくることが多いのだ。ノアは剣術のセンスがいいけれど、まだ少年の体つきで。力も弱い。今年の入団は厳しいかもしれないな」
一ヶ月ほど食事と運動をしっかりしたことで、ノアの体は一回り大きくなった。
剣筋がよく、体格も大きくなりそうなので、優秀な騎士になりうる将来性は充分にあるが。
それでも今はまだ、私は片腕だけで相対しているし。
騎士団の最年少騎士にも及ばないだろう。
まぁ騎士にならずとも、その意識さえあればノアを私の従者にしても構わないけれどな。
彼は礼儀正しいし無駄口をたたかないので、いつもそばにあってもわずらわしさはない。
仕事に向き合う姿勢も真面目だ。
「いえ、受かるつもりでのぞみます」
「そうか、まぁ、試験の空気感を体感するのも悪くはないし。強者との手合わせも参考になる。どのような体の動きが有効なのか、とか。ノアの年代にはすべてが勉強になることだろう」
ノアは騎士になって、私の従者になることを目指しているが。
道は、必ずしもそれだけではない。
ノアは奴隷ではないので。騎士団に入ることが出来たら、純粋に騎士となることを目指し。
騎士団には寮も完備されているので、そこで完全に自由を得ることもできる。
それに、ノアが剣術において頭角を現す素質があるのなら。
第七王子のジョシュア様はノアと年齢も近いから、彼の騎士になるよう推薦してもいい。
陛下にとっての専属騎士のように。
ディオン様にとってのレギのように。
ジョシュア様にノアが気に入ってもらえたら。彼の将来は安泰だ。
ジョシュア様も六歳になられて、陛下は行事に帯同されるなどして、そろそろジョシュア王子の顔を売り始めている。第七王子の騎士に推挙するなら、早めに動いた方がいいな。
「アンドリュー様、また考え事をしていますね? 余裕など与えませんよぉ」
そう言って、ノアは紫の髪を揺らして剣を振るが。
まだまだだ。
一生懸命な彼を見ると。私も十歳くらいのときはこんなだっただろうかと考える。
もう少し体格は大きかったとは思うが。
ちょうど、私とディオン殿下が初めてお会いしたのが、この頃だった。
殿下はそのときすでに、騎士との手合わせをしていて。
腕力も機敏な動きも剣筋も、なにもかもがかなわなくて。
優れた同年代に出会ったことで。
挫折と憧憬を同時に感じたものだ。
良い感情と悪い感情が同居し、そのふたつの相反する感情に翻弄されるのは。
今も同じだな。
★★★★★
ノアの稽古をつけながら。
私自身も殿下との模擬試合に向かって、猛特訓した。
学園を卒業したあとは。殿下の体が一回り大きくなって。
彼に比べて若干細身の私は、力ではかなわなくなっていた。
それでも、彼よりは機敏なので。ときどきは勝てるけれど。本当にときどきだ。
今より力が出るように体を鍛え、長所である機敏さも極めて。
それで、殿下の前に立った。
殿下は本日、レギではなくタイジュ先生を伴っていた。
私と殿下の戦いの行方に立ち会わせるつもりなのだろう。
タイジュ先生に無様なところは見せられない。自然、気合が入った。
この対決は、ふたりだけのものだと思っていたのだが。
なんでかギャラリーの数が多すぎる。
屋内の訓練場、私たちの周りを騎士の面々が囲い込む。
「なんだ、おまえら。見世物じゃねぇぞ?」
傷跡を防御するため簡易の鎧を身につけた殿下が、周囲の騎士を威嚇する。
しかし古参の騎士たちは殿下を子供扱いで、軽口を叩いてきた。
「神の手を賭けた決闘だって、オーサー様から聞いていますよ? あとで勝敗を教えてくれって頼まれたんです。どちらがタイジュ様の心を射止めるんですかねぇ??」
この野次馬たちはオーサー元帥の仕業らしい。
それに古参の騎士が悪乗りしたって感じだな。遊びじゃないのだがっ。
「コエダちゃんは? 今日はコエダちゃんはいないんですかぁ?」
「今日は大会前のただの手合わせだ。大樹の気持ちを無視するようなことを我々はする気はないし。小枝は別の任務に当たっている」
野次馬騎士の質問に律儀に答えを返す生真面目な殿下。コエダ教信者の騎士はえええええぇ? とがっかりした声を出した。
うちの騎士団、大丈夫か?
そして、殿下は私を見やる。
我々と言ったのだから、私もタイジュ先生の意思を尊重しろということだな?
騎士として、貴族として、紳士として。そうありたいが。
私の胸に巣食う欲望という名の悪魔が。それを承知するか。私にもわからない。
しかし、ただの手合わせだと殿下が言っても。
今回の戦争の総司令官と不死身のエメラルドとの対戦が気になるようで。
見物人の数は全く減らないのだった。
そして騎士たちが見守る中、模擬戦は始まった。
私はタイジュ先生の真意を聞きたくて、必死だったし。
殿下は、タイジュ先生に懸想する私を彼に会わせたくないようで、必死だ。
お互いに力が入る。
白熱した試合に、周りの騎士たちもエキサイトし。訓練場は野太い声が上がって盛り上がる。
そして三十分以上も、力の抜けない打ち合いが続いて。
彼の重い剣に、私の腕が痺れ始めてきた。
そろそろ決着をつけないと、やられる…。
そう思ったときに、悲鳴のような。ディオンっと叫ぶ声が響いたのだ。
殿下はつばぜり合いしていた私を跳ねつけて、距離を取り。
背後をうかがう。
タイジュ先生がこちらに走ってきていた。
「ディオン殿下、小枝がっ…」
なにやら涙目になっているタイジュ先生に、殿下は歩み寄ろうとした。
「リタイアするなら、私の勝ちですよ。殿下」
彼の背中に声をかける。
殿下は、久々に見る凍てつく視線で私を睨んだ。
「それでよい。今は大樹を優先する」
「…約束ですからね」
殿下はひとつうなずいて、タイジュ先生の元へ走っていった。彼のそばにはレギもいる。
なにがあったか知らないが。
タイジュ先生のあの様子はただ事じゃなかった。
その気配を騎士たちも感じたのか、良いところで試合が中断になり不満はあるだろうが。
思ったよりも静かに、その場を解散していく。
タイジュ先生のことを思うなら。
正々堂々、騎士として挑むなら。再戦すべき。
しかし私は、少し強引でも。卑怯でも。
タイジュ先生と話がしたかった。
実家の本邸は、ツヴァイク伯爵領デルワイゼンにある。領民は一万人ほど。
そして伯爵が王宮に顔を出すときなどに滞在するセカンドハウスが王都にあって。
今は王宮で騎士として勤めている私がほぼ活用している。
近衛騎士団長である私は、王宮や王族を警備する責任者だ。
先代の騎士団長は、今もリドリー陛下の専属護衛官の任についている。
国王が即位する前から従者として付き従っていた、陛下と同年代の騎士であり。現在騎士爵を賜っている、現役凄腕剣士でもある。
私もディオン殿下のそのような者になりたかった。
第一王位継承者である彼を守ることを第一義とし。
年が近いことで、ご学友にもなれて。心を開いて、なんでも話し合えるような親友でありたかった。
しかし殿下の従者であるレギが、警護者としても優秀であったので。
住み込みで四六時中彼を警護する任は与えられなかった。
そのように取り立ててもらいたかったのだが。
伯爵後継の者を長時間束縛できない。と彼は言うのだ。
だから政治方面で力になろうと思っていたのに。
奇跡のようにタイジュ先生が現れて。
私たちは恋のライバルになってしまった。
タイジュ先生は、殿下の求愛にうなずいていないようだが。
彼に非の打ち所はなく。私はもう失恋寸前…なのだろうか?
まだ、間に合うのだろうか?
とにかく。私はあきらめたくない。
タイジュ先生の真意がどこにあるのか、そこを彼自身にうかがいたい。
胸に巣食う腐った感情を。私は早く取り除いてしまいたいのだ。
彼の気持ちがどこにあるのかさえわかれば。
きっと私は以前の気持ちを取り戻せる。
タイジュ先生に感じた純粋な好意や。裏心なく殿下を敬愛する心情を。
「アンドリュー様、手合わせ中に考え事をするのは危ないですよ」
セカンドハウスの庭で、ノアにそう言われてしまった。
今私は、ノアに剣術の稽古をつけている最中である。進言はごもっともだ。
ノアはひょんなことから身請けした少年で。今は奴隷ではないのだが、行くところがないというので。
私の屋敷で雇うことになった。
しかし、まだ十歳という子供だ。
働かせるのは可哀想かと思い、屋敷を取り仕切る執事や私の側仕えに相談したが。
「剣の練習をして、アンドリュー様のお役に立ちたいとは思っていますが。ただで食事をいただくわけにはまいりませんから。ぼくに出来ることはさせてください」
と、ノアの方から言われ。
剣術の稽古を優先させつつ、適度に働く感じで屋敷に置くことになったのだ。
ノアがこの屋敷に来て、ひと月は経っていないが。
髪が少し伸びて。今は後ろでちょこんと結んでいる。
私の衣装のおさがりを着ているので、ちょっと見、貴族の子弟のように見えなくもない。
姿勢が正しく、笑みがほがらかで、敬語もすぐに身についたので上品さもある。
屋敷の使用人たちも、ノアの真面目で人当たりの良い性格に好感を持っているようだった。
「いつもぼくには集中しろとおっしゃるのに」
ちょっと呆れた口調で私に注意をするところは、まるで母親のごときで苦笑してしまう。
「あぁ、すまない」
「とてもお辛そうな顔をしています。なにかありましたか?」
そうして私の顔色にまで配慮してくれるのは、ありがたいことだが。
タイジュ先生のことを考えていたから。
代わりに身請けしたノアには、なんとなく後ろめたさを感じてしまう。
なので、違うことを口にした。
「いや、近々剣闘士大会が開催されることになった。そのイベントが終わると入団試験になるが。年々剣闘士大会のあとは腕試しの強者が志願してくることが多いのだ。ノアは剣術のセンスがいいけれど、まだ少年の体つきで。力も弱い。今年の入団は厳しいかもしれないな」
一ヶ月ほど食事と運動をしっかりしたことで、ノアの体は一回り大きくなった。
剣筋がよく、体格も大きくなりそうなので、優秀な騎士になりうる将来性は充分にあるが。
それでも今はまだ、私は片腕だけで相対しているし。
騎士団の最年少騎士にも及ばないだろう。
まぁ騎士にならずとも、その意識さえあればノアを私の従者にしても構わないけれどな。
彼は礼儀正しいし無駄口をたたかないので、いつもそばにあってもわずらわしさはない。
仕事に向き合う姿勢も真面目だ。
「いえ、受かるつもりでのぞみます」
「そうか、まぁ、試験の空気感を体感するのも悪くはないし。強者との手合わせも参考になる。どのような体の動きが有効なのか、とか。ノアの年代にはすべてが勉強になることだろう」
ノアは騎士になって、私の従者になることを目指しているが。
道は、必ずしもそれだけではない。
ノアは奴隷ではないので。騎士団に入ることが出来たら、純粋に騎士となることを目指し。
騎士団には寮も完備されているので、そこで完全に自由を得ることもできる。
それに、ノアが剣術において頭角を現す素質があるのなら。
第七王子のジョシュア様はノアと年齢も近いから、彼の騎士になるよう推薦してもいい。
陛下にとっての専属騎士のように。
ディオン様にとってのレギのように。
ジョシュア様にノアが気に入ってもらえたら。彼の将来は安泰だ。
ジョシュア様も六歳になられて、陛下は行事に帯同されるなどして、そろそろジョシュア王子の顔を売り始めている。第七王子の騎士に推挙するなら、早めに動いた方がいいな。
「アンドリュー様、また考え事をしていますね? 余裕など与えませんよぉ」
そう言って、ノアは紫の髪を揺らして剣を振るが。
まだまだだ。
一生懸命な彼を見ると。私も十歳くらいのときはこんなだっただろうかと考える。
もう少し体格は大きかったとは思うが。
ちょうど、私とディオン殿下が初めてお会いしたのが、この頃だった。
殿下はそのときすでに、騎士との手合わせをしていて。
腕力も機敏な動きも剣筋も、なにもかもがかなわなくて。
優れた同年代に出会ったことで。
挫折と憧憬を同時に感じたものだ。
良い感情と悪い感情が同居し、そのふたつの相反する感情に翻弄されるのは。
今も同じだな。
★★★★★
ノアの稽古をつけながら。
私自身も殿下との模擬試合に向かって、猛特訓した。
学園を卒業したあとは。殿下の体が一回り大きくなって。
彼に比べて若干細身の私は、力ではかなわなくなっていた。
それでも、彼よりは機敏なので。ときどきは勝てるけれど。本当にときどきだ。
今より力が出るように体を鍛え、長所である機敏さも極めて。
それで、殿下の前に立った。
殿下は本日、レギではなくタイジュ先生を伴っていた。
私と殿下の戦いの行方に立ち会わせるつもりなのだろう。
タイジュ先生に無様なところは見せられない。自然、気合が入った。
この対決は、ふたりだけのものだと思っていたのだが。
なんでかギャラリーの数が多すぎる。
屋内の訓練場、私たちの周りを騎士の面々が囲い込む。
「なんだ、おまえら。見世物じゃねぇぞ?」
傷跡を防御するため簡易の鎧を身につけた殿下が、周囲の騎士を威嚇する。
しかし古参の騎士たちは殿下を子供扱いで、軽口を叩いてきた。
「神の手を賭けた決闘だって、オーサー様から聞いていますよ? あとで勝敗を教えてくれって頼まれたんです。どちらがタイジュ様の心を射止めるんですかねぇ??」
この野次馬たちはオーサー元帥の仕業らしい。
それに古参の騎士が悪乗りしたって感じだな。遊びじゃないのだがっ。
「コエダちゃんは? 今日はコエダちゃんはいないんですかぁ?」
「今日は大会前のただの手合わせだ。大樹の気持ちを無視するようなことを我々はする気はないし。小枝は別の任務に当たっている」
野次馬騎士の質問に律儀に答えを返す生真面目な殿下。コエダ教信者の騎士はえええええぇ? とがっかりした声を出した。
うちの騎士団、大丈夫か?
そして、殿下は私を見やる。
我々と言ったのだから、私もタイジュ先生の意思を尊重しろということだな?
騎士として、貴族として、紳士として。そうありたいが。
私の胸に巣食う欲望という名の悪魔が。それを承知するか。私にもわからない。
しかし、ただの手合わせだと殿下が言っても。
今回の戦争の総司令官と不死身のエメラルドとの対戦が気になるようで。
見物人の数は全く減らないのだった。
そして騎士たちが見守る中、模擬戦は始まった。
私はタイジュ先生の真意を聞きたくて、必死だったし。
殿下は、タイジュ先生に懸想する私を彼に会わせたくないようで、必死だ。
お互いに力が入る。
白熱した試合に、周りの騎士たちもエキサイトし。訓練場は野太い声が上がって盛り上がる。
そして三十分以上も、力の抜けない打ち合いが続いて。
彼の重い剣に、私の腕が痺れ始めてきた。
そろそろ決着をつけないと、やられる…。
そう思ったときに、悲鳴のような。ディオンっと叫ぶ声が響いたのだ。
殿下はつばぜり合いしていた私を跳ねつけて、距離を取り。
背後をうかがう。
タイジュ先生がこちらに走ってきていた。
「ディオン殿下、小枝がっ…」
なにやら涙目になっているタイジュ先生に、殿下は歩み寄ろうとした。
「リタイアするなら、私の勝ちですよ。殿下」
彼の背中に声をかける。
殿下は、久々に見る凍てつく視線で私を睨んだ。
「それでよい。今は大樹を優先する」
「…約束ですからね」
殿下はひとつうなずいて、タイジュ先生の元へ走っていった。彼のそばにはレギもいる。
なにがあったか知らないが。
タイジュ先生のあの様子はただ事じゃなかった。
その気配を騎士たちも感じたのか、良いところで試合が中断になり不満はあるだろうが。
思ったよりも静かに、その場を解散していく。
タイジュ先生のことを思うなら。
正々堂々、騎士として挑むなら。再戦すべき。
しかし私は、少し強引でも。卑怯でも。
タイジュ先生と話がしたかった。
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