【完結】異世界転移パパは不眠症王子の抱き枕と化す~愛する息子のために底辺脱出を望みます!~

北川晶

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55 ご褒美攻撃準備万端です

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     ◆ご褒美攻撃準備万端です

 一時はどうなることかと思いましたが、俺らは無事に北の離宮に帰ってくることが出来ました。
 牢に入れられるなんて、心に傷を負うような悲しい出来事があった小枝は。
 電池が切れて、お昼寝モードに入りました。
 俺らの部屋の寝室で、大きなベッドにふたり並んで横になる。俺が小枝の胸をポンポン叩いていたら、あっという間にすきょぉぉーっと寝た。
 そうだよねぇ、怖かったもんね。いっぱい泣いたから、疲れたよね?
 パパも怖かったよ、小枝が処刑なんてことになったら。

 俺は、小枝の前世を知らないから。
 小枝の話を聞いていても、どこかおとぎ話のような気がしてしまって。
 今の出来事ともかけ離れているってところもあって。
 あまり親身ではなかったかもしれない。
 だけど今回。本当に小枝がそうなる運命があるのかもしれないって、突きつけられたような気がして。

 本当に、身が縮む思いがした。

 奴隷の俺は、小枝が処刑の危険にさらされても。
 絶対に俺が守るって、思うし。その気持ちは嘘ではないけど。
 事実そうなったら助けられない非力さを、今日見せつけられたのだ。
 本当にそうなったら、どう行動すればいい?
 今のままでは駄目なんじゃないか?

 だからやっぱり奴隷から解放されないとならないって、骨身に染みて感じたのだ。
 今の環境はとても居心地が良くて。
 俺と小枝と、殿下やレギやグレイや、騎士さんやエルアンリ王子たちと。仲良く暮らしていけたら、嬉しいし楽しいなって。思うけど。
 将来の小枝のためを思うなら、やはり底辺脱出に踏み出していかないとならないって思うんだ。

 そんなことを思いながら。俺はベッドをそっと抜け出し。
 厨房であるものを作りはじめた。

 そう、小枝を瞬時にその気にさせた。禁断のご褒美攻撃だ。

 牛乳をほんのり温めて、砂糖を煮溶かして。粗熱あらねつを冷ます。
 その間に、フライパンに砂糖を入れて、火にかける。砂糖が液状化し、少しコゲ色が入ってきたら、水を少しずつ入れてトロリとしたところまで伸ばして。大きなボールにそそいで粗熱を冷ます。
 大きなお鍋に湯を沸かしておく、その間に。
 他のボールに卵を十個、思い切って割入れ、菜箸さいばしでガシャガシャとかき混ぜる。そこに粗熱を取った甘い牛乳をそそぎ入れながら、混ぜて混ぜて。ざるで二回ほどす。

 甘い牛乳の分量は、だいたい卵一個に対して180ミリリットルがベスト。でも異世界の卵は若干でかいし。単位も違うから。おおよそでやっています。
 今回は卵十個に対して二リットルくらいの牛乳です。

 その二リットルの卵液を、べつのボールに入れていたカラメルの上にそっと落としていき。
 沸騰していない、小さな気泡が出るくらいの湯に、ボールをつけて。ふたをして蒸す。

 北の離宮では、殿下はする予定はないと言うけれど、パーティーが開けるくらいの大きな館だから。
 お客に振舞うように、厨房に大きな鍋がいっぱいある。
 だから大きなボールのままで蒸すことができる大きな鍋があるわけだ。ありがたい。

 そして、決して沸騰しないように気をつけながら、鉄板の上で鍋を移動させ。ときには火にかけずに置いておいて。二十分くらい茹で蒸す。
 そうして、ボールを揺らして、卵液がシャバではなくブルブルとなっていたら、完成。
 鍋から取り出したあとは、小枝が起きるまで冷ましておきます。

 今日は殿下も、小枝の気持ちを落ち着けるために、午後俺が小枝のそばにいることを許してくれて。
 再びベッドに戻った俺は、小枝と一緒に昼寝をしてしまいました。
 俺は、普段は昼間に寝ないから。そういえば小枝とこうして一緒に寝るのは久しぶりだ。
 昼寝の習慣のない俺が寝ちゃうくらいだから。
 やっぱり投獄っていうのは神経に多大な負担がかかっているのだろう。
 子供の小枝なら、尚のことだ。
 今回の件は、誰も悪くないから。どうにもならないだろうけど。
 子供を牢に入れるなんてことが、これからないといい。そうしてもらいたいものだ。

 しかし子供の親として、ちょっと怒る気持ちというか。モヤっとはするよね?

 そんなことを思いながらウトウトしていたら。鼻の頭をこしょこしょされた。
「こらぁ、イタズラっ子は誰だぁ?」
 目を開けないうちに、そばにいる子をギュッとしたら。小枝はきゃはははっと笑うのだ。
 留置所を出てからクリーンした小枝は、いつもの柔らかいお日様の匂いだ。

「パパぁ、例のものはできましたかっ」
 小枝は真剣な様子で、目をキラリーンとさせ。
「あぁ、小枝。準備オーケーだっ」
 俺も真剣に返す。ご褒美攻撃準備万端です。
 そうして体を起こすと、ちょうど三時くらいです。

 今回は思いがけない厄災にあってしまったが、窮地を乗り越えた小枝にご褒美タイムをします。

 食堂には、アフタヌーンティーをするため、ディオン殿下やレギ、エルアンリ王子やジュリアが集まっていた。
 レギは、食事系は全然ダメだけど。紅茶くらいはいれられます。
 そしてレギがみなさんに紅茶を振舞っているところ、俺は厨房に戻り。

 冷ましておいたブツにそっと大きなお皿をかぶせる。
 そうです、もうおわかりですね? アレです。

 俺は最後の仕上げを神に真剣に祈るのだった。
「神よ。いや、女神フォスティーヌよ。どうか今日とっても頑張った小枝に、美しいぷるぷるプリンをお与えくださいませぇ」
 そして『トゥ』の掛け声とともに、ボールをひっくり返すのだった。
 一度大きく振ると、中でブルンという感触がして。
 おそるおそる、そぉぅっとボールを外す…。

 やりました。大皿に鎮座ちんざまします薄黄色のぷるぷるプリンですっ。
 女神フォスティーヌ、ありがとうっ。

 薄黄色のプリンはつるりとした光沢こうたくで、カラメルがとろりとしたたり落ちるさまは、富士山のごときです。
 よく、バケツプリンって言うけど。なんとなく美味しそうじゃないから。
 富士山プリンだな。…なんか、商品名ありそうだな。
 お化けプリンでいいか。北の離宮を小枝はまだお化け屋敷だと思っているし。

 とりあえず、持って行きましょう。小枝がお待ちかねです。

 大皿を食堂に運んで、小枝の前に出す。
「はぁぁい、今日頑張った小枝に。北の離宮お化け屋敷特製のご褒美お化けプリンだよぉ」
 小枝の頭よりも大きいプリンに、小枝はふぉぉぉぉぉぉ、と声を出して興奮するのだった。
「パパぁ、これをっ、ぼくがひとりで食べてもいいのですかぁ?」
「いいよぉ。食べきれなかったら、みんなで食べるからね」
「ダメっ、全部食べるのぉ」
 そうしてさっそくスプーンを突き立てようとする小枝。口が連動してもう開いている。
 そこに、レギが待ったをかけたぁ。
「コエダ、私が毒見をしてから…」
「いいのぉ、毒見はしないでもっ。第一おさじはぼくのなのぉ。くずさないでぇ」
 フンと鼻息をついた小枝は。気を取り直して、ツルツルのピカピカの前人未到のプリンにそっとスプーンを差し入れるのだった。
 少し硬めに固まったプリンは、スプーンの上でふるふる揺れる。
 それが小枝の小さなお口にハムリと入り込んだ。
「うぅぅぅぅうううん、ぷるぷるで美味しい。お口の中で甘いのがとろけて、んんんっまぁいのぉぉ」
「小枝、それはなんだ?」
 殿下のいつもの質問に、小枝はハムハムと食べながら答える。
「プリンだよぉ。プリンは見たことあるでしょぉ?」
「こんな大きなものは見たことがない。俺にもちょっとだけ食べさせろ」
 ディオンは、レギが断られたように自分も断られるかと思っていたようだが。
 小枝は小首を傾げて、少し考え込むと。
 スプーンにプリンを乗せて、あーーーん、と言う。

 ディオンは、少し驚いたように目を丸くしたが。
 やがて口を開けて、そのスプーンからプリンを食べたのだ。ぱくり。
「おいしい? 殿下」
「あぁ、とっても美味しいぞ」
「でしょおぉ? パパのプリンは世界一おいしいのぉ」
 そうして小枝も同じスプーンでプリンをぱくりと食べた。
「今日はねぇ、殿下も頑張ってくれたから、ご褒美ねぇ?」
 小枝が笑顔で言うのに、殿下は口をおさえてふるふるする。

 感動っ、って心の声が聞こえますよ、殿下。

「コエダ、私も食べたいなぁ。少し分けてくれないかなぁ?」
 ジュリアも小枝にお願いしている。それをエルアンリ王子はほのぼの笑顔で見ていた。
 たぶん、エルアンリ様は。小枝になにがあったのか顛末を知っている。
 王族のごたごただったから知らせが届いているだろう。
 けれど、この場ではなにも言わなかった。蒸し返さない優しさなのでしょうね?
 器の大きい、出来た御方だ。

 ジュリアのおねだりに、小枝は少し考えるが。
 小枝のお腹には、もう、そんなに入らないのだ。
「いいよぉ。パパ、切ってあげて」
 小枝のお許しが出たので。俺は小枝が手をつけていない部分を切り分けて、エルアンリ王子やジュリアに振舞った。あぁ、もちろん殿下やレギにも。
「なんでか、でっかいだけで普通のプリンより美味しく感じるな? なんでか。大樹、おかわり」
 王族であるディオンは、さすがにティータイムのプリンを上品に食べる。
 しかしそれは上辺だけで。三口でプリンを平らげて、そう感想を口にするのだった。
「そうですよぉ? ただのでかいプリンですよぉ? はい、おかわりどうぞ」
 給仕しながら、俺はこめかみを引きつらせるのだった。
 特別味に仕掛けなどない、どシンプルな昔ながらのプリンですけどなにかぁぁあ?
 しかし、なんでもでっかいだけでなんでか心が沸き立つものなのだ。それが心理!

 それはともかく。
 俺も席について、小枝と一緒に残りのプリンを食べるのだった。
「あぁ、お山がくずれるぅ。パパ、そこに穴をあけて」
「食べ物で遊ばないの。でも、ここを掘ったらぁ」
「きゃぁぁぁ、パパのスプーンが出てきたよぉ。面白くて美味しいねぇ?」
 俺はスプーンでプリンをすくって、小枝の口に持っていった。
「ほらぁ、遊んでいないで。いっぱい食べなさい。あーーん」
「パパぁ、おぼれるぅ、プリンでおぼれちゃうよぉぉ」
 頬にいっぱいプリンを頬張り、溺れると言いながらも小枝は至福の笑顔なのだった。

 今日はいろいろあったけど。
 小枝が今笑ってここにいることが、パパには最高のご褒美なんだ。

 
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