【完結】異世界転移パパは不眠症王子の抱き枕と化す~愛する息子のために底辺脱出を望みます!~

北川晶

文字の大きさ
140 / 174

2-12 はじめてのパーティー

しおりを挟む
     ◆はじめてのパーティー

 八月になり、ぼくは聖女としての初仕事で、アムランゼ領に来ています。
 聖女デビューです。
 とは言え、聖女なことはまだ王族以外には内緒なのだけどね。
 聖女の件は国家機密なのです。むふん。

 アムランゼはスタインベルン国最北の領です。でも夏なので。北国でも寒くはありません。
 緑のじゅうたんが果てしなく広がるような、アムランゼはそのような土地です。
 涼しい風が吹き渡り、過ごしやすい気候という感じですね。
 広い敷地に、牛さんがいっぱいいます。
 牧場? なんか、柵とかなにもない所に牛さんがいっぱいいて。野良のら牛みたいに見えます。

「小枝ぁ、牛がいるってことはさぁ、牛乳とかチーズとかバターが美味しいんじゃないかなぁ? 珍しいチーズがあったらディオンに持って帰ってあげようね」
 馬車の中でパパはそんなことを言いますが。
 来たばかりだというのに、もうお土産のことを考えているみたいです。
 というのも。父上が同行していないのです。
 父上と出会ってから、パパは父上と長く離れたことがなかったから。さみしいのかもしれませんね。
 あ、三ヶ月間いなかったけどねぇ、パパ的には体感十分じゅっぷんだったらしいからね。パパはぼくらと離れていた意識はないのだって。
 ぼくはあんなに悲しかったのに、ズルいですぅ。

 話を戻しまして。今回の旅は、往復移動で六日、四日間は領主の屋敷に滞在するという、計十日の道中であります。

 そしてアムランゼに到着した日は、お休みして長旅の疲れを取り。
 二日目、今ぼくらは。
 森の中にある、水鳥がいっぱい死んでいたという噂の湖に馬車で向かっている最中です。

 旅のメンバーは、ぼくとパパとレギでしょう?
 それから案内役のオズワルドと、そのお友達でアムランゼ領主の息子のエルゼ。
 そして、なんでかジョシュア王子と護衛のノア。プラス治癒魔法士のリカルド。
 さらに、ぼくたちを守ってくれる騎士様二十名という布陣です。

 ミッションを成功するために組んだ仲間のことをパーティーと言うのでしょう?
 つまり、このメンバーが。ぼくのはじめてのパーティーってことだね?

 聖女様御一行ってやつです。

 で、馬車の中はね。ぼくと王子とノアが並んで座って。
 向かいにパパとオズワルドがいるの。
 レギとエルゼ、リカルドや王子の世話係の人たちはね、別の馬車だよ。

 父上が同行しないのはぁ。
「王太子が王都を長く離れるなんて、普通に無理。それでなくても、陛下が退位を決めて、引継ぎの仕事が山のようにあるというのに。十日も政務を滞らせるとかありえないんですけどぉぉぉ?」
 と、さいしょーのエルアンリ様に言われたからだ。

「しかし、大樹と小枝と十日も離れるなんて…」
 父上は食い下がりますが。
「タイジュが王妃になったら、単独行動も多くなるのですから。今のうちに慣れてください」
 とピシャリです。可哀想な父上。
 パパがいないと寝んねできないし料理も美味しくないものね。
 最高のチーズをお土産に持って帰りますぅ。

 でね、案内役のオズワルドはともかく。
 なんでジョシュア王子がパーティーにいるのかというのはね?
「コエダが行くなら、当然私も行く。コエダを守るのは私だっ」
 なんてゴネたのです。
 しかし、そんなことは王様や王妃様が許さないと思われたのですが。
「ジョシュアが冒険の旅に出るだと? 大人になったのだなぁ」
 と、王様は感激し。
「幼い頃から地方の情勢に触れるのは、王族として良いことです。コエダちゃんが上手にお仕事出来たら、聖女の浄化の旅はしばしば要請されるかもしれません。その旅にジョシュアが同行するのは良い勉強になることでしょう。タイジュ、頼みましたよ」
 と、王妃様はニッコリです。

 パパは『王子の引率なんて無理ぃ』と引きつった笑いを浮かべていましたが。
 兄であるオズワルドも護衛の騎士も一緒なので。
 まぁいいでしょうということになりました。

 ノアはジョシュア王子の護衛騎士ですが。まだ本当の騎士ではないのです。
 見習いだったから、指導的立場でアンドリューさんがずっとついていたのですけど。
 今回はレギの代わりにアンドリューさんが父上の護衛任務についているので。
 ノアにとってもアンドリューさんから何日も離れるのははじめてという、単独の大仕事になりました。
 でも、最初は緊張していたのですが。
 旅も五日目になり、もういつもの調子で、寡黙に王子のおそばにいます。
 ノアの王子の護衛騎士の仕事ぶりも、だいぶ板についてきたみたいですね。

 というわけで、アムランゼに到着した翌日、早々に噂の湖に行こうということになって。
 やってまいりました。
 鬱蒼とした森に囲まれた、なにやらおどろおどろしい、黒いもやがモヤモヤッともやっていて、水面が見えない感じですよ。これはひどいですねぇ。
 湖は、向こう側がはるか遠くに見えるような、大きな湖なので。
 お魚も取れるらしく。漁をする人たちが入れるように、馬車が岸の近くまで乗り入れられるようになっています。
 でも、ここの湖で取れたお魚は食べたくないですぅ。

「綺麗な湖だね、小枝。でも、泳ぐにはちょっと水質が悪いかなぁ?」
 馬車の窓から見える湖を見て、パパはそう言うけど。
 この黒々しい感じは、そんな問題じゃなくね?
「きれいですかぁ? パパ、なんか黒くないですかぁ?」
「黒い? 影があるのか? うーん、パパには普通の湖に見えるけど」
「そうですか。王子もそう見えますかぁ?」
 隣のジョシュア王子に聞くと、どれどれと窓に身を乗り出して、窓際のぼくに寄っかかってきます。
「ギュー。ん、青緑の湖だ」
「じゃあ、黒いモヤみたいのは聖女のぼくにしか見えないのかもしれませんね」
「コエダ、聖女はすごいな。黒いのが見えて、じょーか? できて。未来のことがわかって、かけ算ができるの」
「割り算もできます。つか、ギューは終了してくださいぃ」

 ぼくらのやり取りに、パパは『聖女と割り算は関係なくね?』とツッコんでいます。いいのぉ。

「コエダは大人だなぁ、ジョシュアが無邪気で、俺の胸は痛い」
 オズワルドは王子の前世のクズ行為をよげんしょを見て知っているので、ぼくに同情的です。
 でしょう? ぼくは大人ですから。
 今の王子は別物と割り切れるのですよぉ。むふん。

 ということで、聖女一行…ぼくが聖女なことはまだ、王族の人しか知りませんけど。
 とにかく、ぼくらの乗った馬車が湖についたので。
 オズワルドとパパが先に馬車を降りて。

 パパがぼくに手を差し伸べます。
「小枝、久しぶりにパタパタする?」
 旅の間、馬車を何度も乗り降りしましたけど。
 今回は使用人など世話をする人たちが乗る馬車もいっぱいで、順番待ちがあったから。
 シャシャッと馬車を降りていたので。
 パパがぼくを高ーく持ち上げて、お空をパタパタするやつは、していなかったのです。

 でも今日は、一緒に来ているのが馬車一台だけなので。
 パタパタ、できるのですけどぉ。

「いいえ、パパ。パタパタはもうしません。騎士さまたちに見られるのは恥ずかしいしぃぃ」
 それに、王子に子供っぽいところを見せたくないっていうかぁぁ?
 ぼくが子供のままですと、王子もずっとワチャワチャしちゃいますしね。

 ジョシュア王子はこれから、白馬に乗った超高級王子にチェンジしなければならないのです。
 ミカエラが登場したので、早く王子の体裁を整えなければなりません。
 んん、今の王子は顔以外は全くダメダメで。
 前世のような、スタイル抜群で成績優秀で剣術に秀でていて欠点がまるでないスペシャル王子に、コレがなれるのかって、ちょっと疑問ですけど。
 いえ、ぼくがそう育てていかなければならないのです。
 スペシャルな王子を知っているぼくが、この目を離すとすぐ虫を探しに行こうとするヤンチャ王子を教育しなければっ。
 スタインベルンの宝と言われていたスペシャル王子が失われてしまうぅ。

 えぇ。王子がクズなのはメイに対してだけなのでね。
 前世の王子も国民には慕われていたのですよ。
 だからね、あのれーけつかんな部分だけのぞいた王子に育てられたら。
 前世よりもっと完璧なすっごい王子になるかもしれないでしょ?
 なので、ぼくはやりますっ。
 ぼくはジョシュア王子を国の宝だと言われるほどのスペシャルな王子に育ててみせる。

 というわけで。パタパタは卒業です。ぼくも成長するのです。
「えぇぇ? パタパタ、もうしないのぉ? 小枝に羞恥心しゅうちしん芽生めばえてしまったぁ…もうすぐお風呂も一緒に入ってもらえなくなるぅ」
 パパはガーンとした顔をしますが。

 大丈夫です。お風呂はまだパパと入ります。

 で、馬車からはパパと手をつないで普通に降り。
 パーティーのみんなは湖の前に立つのだった。ばばーん。

しおりを挟む
感想 314

あなたにおすすめの小説

記憶を無くしたら家族に愛されました

レン
BL
リオンは第三王子で横暴で傲慢で侍女や執事が少しでも気に入らなかったら物を投げたり怒鳴ったりする。家族の前でも態度はあまり変わらない… 家族からも煩わしく思われたていて嫌われていた… そんなある日階段から落ちて意識をなくした…数日後目を覚ましたらリオンの様子がいつもと違くて…

異世界で孵化したので全力で推しを守ります

のぶしげ
BL
ある日、聞いていたシチュエーションCDの世界に転生してしまった主人公。推しの幼少期に出会い、魔王化へのルートを回避して健やかな成長をサポートしよう!と奮闘していく異世界転生BL 執着最強×人外美人BL

分厚いメガネ令息の非日常

餅粉
BL
「こいつは俺の女だ。手を出したらどうなるかわかるよな」 「シノ様……素敵!」 おかしい。おかしすぎる!恥ずかしくないのか?高位貴族が平民の女学生に俺の女ってしかもお前は婚約者いるだろうが!! その女学生の周りにはお慕いしているであろう貴族数名が立っていた。 「ジュリーが一番素敵だよ」 「そうだよ!ジュリーが一番可愛いし美人だし素敵だよ!!」 「……うん。ジュリーの方が…素敵」 ほんと何この状況、怖い!怖いすぎるぞ!あと妙にキモい 「先輩、私もおかしいと思います」 「だよな!」 これは真面目に学生生活を送ろうとする俺の日常のお話

姉の代わりに舞踏会に行ったら呪われた第三王子の初恋を奪ってしまった

近井とお
BL
幼少期、ユーリは姉によく似ていることから彼女の代わりに社交の場に出席することが多々あった。ある舞踏会の夜、中庭に姿を眩ませたユーリに誰かがぶつかってくる。その正体は呪われていると噂の第三王子であったが、ぶつかられたことに腹を立てたユーリは強気に接し、ダンスを踊った後、彼を捜している気配を感じてからかいながら立ち去る。 それから数年後、第三王子は初恋の令嬢を探し始めたが、それはユーリに違いなく……。 初恋の相手を捜す第三王子×軽口令息

最弱白魔導士(♂)ですが最強魔王の奥様になりました。

はやしかわともえ
BL
のんびり書いていきます。 2023.04.03 閲覧、お気に入り、栞、ありがとうございます。m(_ _)m お待たせしています。 お待ちくださると幸いです。 2023.04.15 閲覧、栞、お気に入りありがとうございます。 m(_ _)m 更新頻度が遅く、申し訳ないです。 今月中には完結できたらと思っています。 2023.04.17 完結しました。 閲覧、栞、お気に入りありがとうございます! すずり様にてこの物語の短編を0円配信しています。よろしければご覧下さい。

2度目の異世界移転。あの時の少年がいい歳になっていて殺気立って睨んでくるんだけど。

ありま氷炎
BL
高校一年の時、道路陥没の事故に巻き込まれ、三日間記憶がない。 異世界転移した記憶はあるんだけど、夢だと思っていた。 二年後、どうやら異世界転移してしまったらしい。 しかもこれは二度目で、あれは夢ではなかったようだった。 再会した少年はすっかりいい歳になっていて、殺気立って睨んでくるんだけど。

マリオネットが、糸を断つ時。

せんぷう
BL
 異世界に転生したが、かなり不遇な第二の人生待ったなし。  オレの前世は地球は日本国、先進国の裕福な場所に産まれたおかげで何不自由なく育った。確かその終わりは何かの事故だった気がするが、よく覚えていない。若くして死んだはずが……気付けばそこはビックリ、異世界だった。  第二生は前世とは正反対。魔法というとんでもない歴史によって構築され、貧富の差がアホみたいに激しい世界。オレを産んだせいで母は体調を崩して亡くなったらしくその後は孤児院にいたが、あまりに酷い暮らしに嫌気がさして逃亡。スラムで前世では絶対やらなかったような悪さもしながら、なんとか生きていた。  そんな暮らしの終わりは、とある富裕層らしき連中の騒ぎに関わってしまったこと。不敬罪でとっ捕まらないために背を向けて逃げ出したオレに、彼はこう叫んだ。 『待て、そこの下民っ!! そうだ、そこの少し小綺麗な黒い容姿の、お前だお前!』  金髪縦ロールにド派手な紫色の服。装飾品をジャラジャラと身に付け、靴なんて全然汚れてないし擦り減ってもいない。まさにお貴族様……そう、貴族やら王族がこの世界にも存在した。 『貴様のような虫ケラ、本来なら僕に背を向けるなどと斬首ものだ。しかし、僕は寛大だ!!  許す。喜べ、貴様を今日から王族である僕の傍に置いてやろう!』  そいつはバカだった。しかし、なんと王族でもあった。  王族という権力を振り翳し、盾にするヤバい奴。嫌味ったらしい口調に人をすぐにバカにする。気に入らない奴は全員斬首。 『ぼ、僕に向かってなんたる失礼な態度っ……!! 今すぐ首をっ』 『殿下ったら大変です、向こうで殿下のお好きな竜種が飛んでいた気がします。すぐに外に出て見に行きませんとー』 『なにっ!? 本当か、タタラ! こうしては居られぬ、すぐに連れて行け!』  しかし、オレは彼に拾われた。  どんなに嫌な奴でも、どんなに周りに嫌われていっても、彼はどうしようもない恩人だった。だからせめて多少の恩を返してから逃げ出そうと思っていたのに、事態はどんどん最悪な展開を迎えて行く。  気に入らなければ即断罪。意中の騎士に全く好かれずよく暴走するバカ王子。果ては王都にまで及ぶ危険。命の危機など日常的に!  しかし、一緒にいればいるほど惹かれてしまう気持ちは……ただの忠誠心なのか?  スラム出身、第十一王子の守護魔導師。  これは運命によってもたらされた出会い。唯一の魔法を駆使しながら、タタラは今日も今日とてワガママ王子の手綱を引きながら平凡な生活に焦がれている。 ※BL作品 恋愛要素は前半皆無。戦闘描写等多数。健全すぎる、健全すぎて怪しいけどこれはBLです。 .

聖女の兄で、すみません!

たっぷりチョコ
BL
聖女として呼ばれた妹の代わりに異世界に召喚されてしまった、古河大矢(こがだいや)。 三ヶ月経たないと元の場所に還れないと言われ、素直に待つことに。 そんな暇してる大矢に興味を持った次期国王となる第一王子が話しかけてきて・・・。 BL。ラブコメ異世界ファンタジー。

処理中です...