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第14話 初めての戦場
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森の入り口――それは、かつて静寂と緑の匂いが漂う癒しの場所だった。
だが今、その静けさは音を立てて壊される。
轟――!
空から落ちた火球が大地を舐め、木々を爆ぜさせ、土をえぐった。爆風に巻き上がった土埃とともに、火の手があがる。葉が燃える匂いと、煙にむせる声。
村の防衛線のひとつが、文字通り、吹き飛ばされた。
「来るぞッ! 備えろ!」
叫ぶフィオナの声と共に、獣人の兵たちが構えた。
黒い甲冑の王国兵が、焔の向こうから一斉に突撃してくる。盾を並べ、槍を構え、まるで機械のように無機質に進むその姿には、迷いがなかった。
森が、戦場に変わる。
悠斗は、村の外れに立っていた。手には剣――それは洞窟の試練を経て与えられた、軽めの獣人式の直剣。
だが、手のひらは冷たく汗に濡れ、足は根が張ったように地面から離れなかった。
ガギンッ、グワァア!
金属がぶつかる音、獣の咆哮、そして、人の悲鳴が交錯する。
(……これが……戦場……!? 怖い……怖い……っ)
だが、身体は言うことを聞かない。呼吸が浅くなる。視界が狭まっていった。
(動け……動けよ、俺……! やるって、決めただろ……!)
そのときだった。
前線――左翼の森影から、悲鳴が上がる。
「くそっ、囲まれた――!」
「リクがっ……! リクがまだ中に……!」
視線を向ければ、火の粉の舞う中、まだ若い狼獣人の斥候が、三人の王国兵に取り囲まれていた。
片足を負傷しているのか、立ち上がれない。王国兵の一人が、槍の穂先をゆっくりとリクの喉元へ向ける。
悠斗の中で、何かが弾けた。
「やめろッ!! 近づくなァッ!!」
叫びと同時に駆け出した。
剣を握る手に力がこもる。視界の中心にあるのは――あの槍だけだ。
悠斗の叫びが、森を揺らしその怒号が辺り一面に伝わる。
その瞬間だった。
――ざわっ。
空気が変わった。
それまで散発的に動いていた精霊獣たちの足が、ぴたりと止まる。
戦いの最中、火の粉が舞い、金属がぶつかり合う音が響く中で――。彼らは、一斉に悠斗の方へ顔を向けていた。
狼獣人の戦士が、鋭い眼を見開く。
虎獣人の盾兵が、槍を構える手を止める。
鹿獣人の呪術士が、唱えていた詠唱を切る。
まるで、一つの音に、群れが反応したように。
「な、なんだ今のは……?」
「……俺の体が、勝手に……!」
「いや……これは……」
鹿獣人の呪術士が、かすかに眉を寄せながら呟いた。
「……従いたくなった。心が……あの声に呼ばれた」
そして次の瞬間――悠斗が、震える声で叫んだ。
「っ……助けて……! あいつを守ってやってくれ!!」
言葉に力が宿る。
言葉が風となり、熱となり、そして命令になる。
バッ――!
三体の精霊獣が、音もなく走り出した。
狼、虎、鹿――さきほどまで悠斗を見ていた三人が、何の打ち合わせもなしに、同時に動いた。
王国兵が槍を振り上げる直前――。
その刃が届くよりも早く、三体の獣人が若者の前に割って入った。
獣人の盾が火花を散らし、狼が一閃、王国兵の手から槍を吹き飛ばす。虎が咆哮を上げ、兵たちを一歩、二歩と後退させる。
悠斗は、その中心で呆然と立ち尽くしていた。指示を出したつもりはなかった。ただ、助けたいと願った。
それだけなのに――。
彼の声は、群れに届き、群れを動かした。
森の中――乱れていた戦列が、突然、整った。
さきほどまでばらばらに動いていた獣人たちが、声をかけあうでもなく、自然と背中を預け合い、まるでひとつの意志を共有するかのように隊形を組んでいく。
狼たちが前に出て吠え、虎たちがその後ろに続き、鹿の呪術士たちが後方から援護の詠唱を紡ぐ。
統率の取れた軍の動き。それは、これまで一度も訓練されていなかった村の守り手たちには本来あり得ないはずのものだった。
王国兵たちが、焦りと混乱を見せ始める。
「な、なんだこいつらの動き……! こんな連携、いつの間に――!」
それは、まさに指揮官の存在を前提とした動きだった。
その中心に立っていたのは――悠斗だった。
「っ……なにが、起きてるんだよ……」
剣を握ったまま、悠斗は自分の震える手を見つめる。
自分が声を発しただけで、仲間たちは勝手に――いや、自然に動いた。
まるで、その声が命令ではなく合図であったかのように。
彼の背中を追うように、獣人たちは戦線を押し返し、ついに王国兵の一角を打ち崩した。
その様子を――木の上から、ルナがにやりと笑いながら見ていた。
「……ほらね。面白くなってきた」
木漏れ日を受けて揺れる黒猫の尻尾。その視線は、悠斗だけを追っていた。
そしてもうひとり、地上からその姿を見上げていたのがフィオナだった。
鋭い視線で、戦場の中央に立つ悠斗を見据える。
「……あの動き……まさか……悠斗が、指揮している……?」
その隣にいた長老が、静かに首を横に振る。
「いや、指揮しているのではない。……王命が響いているのだ」
その言葉に、フィオナの目がかすかに揺れる。
信じられない、でも否定しきれない。
あの洞窟の試練で感じた違和感。群れを動かした、たったひとつの声。
(あいつは……本当に人間なのか……)
それが口に出ることはなかったが、フィオナの胸の奥で、疑念と――わずかな期待が芽吹いていた。
誰もが目撃した、王の兆し。悠斗の声が、精霊獣たちの本能を揺らしていく――。
だが今、その静けさは音を立てて壊される。
轟――!
空から落ちた火球が大地を舐め、木々を爆ぜさせ、土をえぐった。爆風に巻き上がった土埃とともに、火の手があがる。葉が燃える匂いと、煙にむせる声。
村の防衛線のひとつが、文字通り、吹き飛ばされた。
「来るぞッ! 備えろ!」
叫ぶフィオナの声と共に、獣人の兵たちが構えた。
黒い甲冑の王国兵が、焔の向こうから一斉に突撃してくる。盾を並べ、槍を構え、まるで機械のように無機質に進むその姿には、迷いがなかった。
森が、戦場に変わる。
悠斗は、村の外れに立っていた。手には剣――それは洞窟の試練を経て与えられた、軽めの獣人式の直剣。
だが、手のひらは冷たく汗に濡れ、足は根が張ったように地面から離れなかった。
ガギンッ、グワァア!
金属がぶつかる音、獣の咆哮、そして、人の悲鳴が交錯する。
(……これが……戦場……!? 怖い……怖い……っ)
だが、身体は言うことを聞かない。呼吸が浅くなる。視界が狭まっていった。
(動け……動けよ、俺……! やるって、決めただろ……!)
そのときだった。
前線――左翼の森影から、悲鳴が上がる。
「くそっ、囲まれた――!」
「リクがっ……! リクがまだ中に……!」
視線を向ければ、火の粉の舞う中、まだ若い狼獣人の斥候が、三人の王国兵に取り囲まれていた。
片足を負傷しているのか、立ち上がれない。王国兵の一人が、槍の穂先をゆっくりとリクの喉元へ向ける。
悠斗の中で、何かが弾けた。
「やめろッ!! 近づくなァッ!!」
叫びと同時に駆け出した。
剣を握る手に力がこもる。視界の中心にあるのは――あの槍だけだ。
悠斗の叫びが、森を揺らしその怒号が辺り一面に伝わる。
その瞬間だった。
――ざわっ。
空気が変わった。
それまで散発的に動いていた精霊獣たちの足が、ぴたりと止まる。
戦いの最中、火の粉が舞い、金属がぶつかり合う音が響く中で――。彼らは、一斉に悠斗の方へ顔を向けていた。
狼獣人の戦士が、鋭い眼を見開く。
虎獣人の盾兵が、槍を構える手を止める。
鹿獣人の呪術士が、唱えていた詠唱を切る。
まるで、一つの音に、群れが反応したように。
「な、なんだ今のは……?」
「……俺の体が、勝手に……!」
「いや……これは……」
鹿獣人の呪術士が、かすかに眉を寄せながら呟いた。
「……従いたくなった。心が……あの声に呼ばれた」
そして次の瞬間――悠斗が、震える声で叫んだ。
「っ……助けて……! あいつを守ってやってくれ!!」
言葉に力が宿る。
言葉が風となり、熱となり、そして命令になる。
バッ――!
三体の精霊獣が、音もなく走り出した。
狼、虎、鹿――さきほどまで悠斗を見ていた三人が、何の打ち合わせもなしに、同時に動いた。
王国兵が槍を振り上げる直前――。
その刃が届くよりも早く、三体の獣人が若者の前に割って入った。
獣人の盾が火花を散らし、狼が一閃、王国兵の手から槍を吹き飛ばす。虎が咆哮を上げ、兵たちを一歩、二歩と後退させる。
悠斗は、その中心で呆然と立ち尽くしていた。指示を出したつもりはなかった。ただ、助けたいと願った。
それだけなのに――。
彼の声は、群れに届き、群れを動かした。
森の中――乱れていた戦列が、突然、整った。
さきほどまでばらばらに動いていた獣人たちが、声をかけあうでもなく、自然と背中を預け合い、まるでひとつの意志を共有するかのように隊形を組んでいく。
狼たちが前に出て吠え、虎たちがその後ろに続き、鹿の呪術士たちが後方から援護の詠唱を紡ぐ。
統率の取れた軍の動き。それは、これまで一度も訓練されていなかった村の守り手たちには本来あり得ないはずのものだった。
王国兵たちが、焦りと混乱を見せ始める。
「な、なんだこいつらの動き……! こんな連携、いつの間に――!」
それは、まさに指揮官の存在を前提とした動きだった。
その中心に立っていたのは――悠斗だった。
「っ……なにが、起きてるんだよ……」
剣を握ったまま、悠斗は自分の震える手を見つめる。
自分が声を発しただけで、仲間たちは勝手に――いや、自然に動いた。
まるで、その声が命令ではなく合図であったかのように。
彼の背中を追うように、獣人たちは戦線を押し返し、ついに王国兵の一角を打ち崩した。
その様子を――木の上から、ルナがにやりと笑いながら見ていた。
「……ほらね。面白くなってきた」
木漏れ日を受けて揺れる黒猫の尻尾。その視線は、悠斗だけを追っていた。
そしてもうひとり、地上からその姿を見上げていたのがフィオナだった。
鋭い視線で、戦場の中央に立つ悠斗を見据える。
「……あの動き……まさか……悠斗が、指揮している……?」
その隣にいた長老が、静かに首を横に振る。
「いや、指揮しているのではない。……王命が響いているのだ」
その言葉に、フィオナの目がかすかに揺れる。
信じられない、でも否定しきれない。
あの洞窟の試練で感じた違和感。群れを動かした、たったひとつの声。
(あいつは……本当に人間なのか……)
それが口に出ることはなかったが、フィオナの胸の奥で、疑念と――わずかな期待が芽吹いていた。
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