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王宮編
脂粉の匂いが鼻につきます。
しおりを挟む「また現れたみたいよぉ、自称古の王国の後継者。今度のはどのくらい続くかしらねん。」
友人の言葉を、わたしは目の前のティーカップのそばに置かれたスプーンを見つめながら聞き流していた。
なんだか、今日はおかしい。
脂粉の匂いがやけに気になって、ほとんど化粧もできなかった。
それに、いつもは気にならない彼女の香水や、その甘ったるい話し方までが鼻についてしょうがない。
お菓子に手をつける気にもならないし、紅茶も飲みたくない。
「どうしたのぉ?様子がおかしいわね。」
わたしは伏せていた顔をあげて、力なく顔を横に振った。
「やだ、ほんとに調子悪そうじゃない!早く言いなさいよぉ。」
寝てなさい、と言って見送りも断り、彼女は帰って行った。
ベッドに横になると身体が楽になり、そのまま眠ってしまった。
目が覚めると、あたりは薄暗くなっていた。
階下へ行くと、夫が今のソファに座っている。
「帰ってらしたんですね。」
ぼんやりとしたまま夫に近付き、隣に腰掛ける。
「よく眠っていたね。」
身体がまだだるい。
夫の肩にもたれかかった。
髪も乱れているだろうし、こんなにだらしない姿を夫に見せても平気になるだなんて、少し前には思わなかった。
「もしかして、昨日は眠れなかったのか?」
「そんなことないわ。よく眠れた。でも、最近なんだかすごく眠くて。」
話している間にも、あくびがでる。
「屋敷にいるせいかしら。あぁ、侯爵夫人がね、古の王国の後継者を名乗る人が現れたって言ってたわ。」
「その噂は僕も聞いてる。なかなかいいところまで来ているらしい。」
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