33 / 55
王宮編
サロンの主催者に会いました。
しおりを挟む最近、公爵家の所有する屋敷の一つに、美しい女性が移り住んだと聞く。
なんでも、没落した貴族の血筋で、詳しいことは不明だが、公爵の愛人ではないかと言われている。
公爵がよく連れ歩いていたために貴族の中では顔が広く、夫も彼女の顔を見たことがあるという。
「とても教養のある女性だよ。よく笑う、朗らかなかただ。」
表現の仕方に敬意が感じられるところを見ると、男性の間でなかなか丁重な扱いを受けているようだ。
その女がどうした、と言われると、いまわたしの目の前にいる。
公園を散歩している途中で、ふと木々の向こうに見えた例の公爵の屋敷の屋根を見つめて立ち止まっていたら、話しかけられた。
「あの尖塔が素敵だとは思いませんか?」
振り返ると、優しげな微笑みを浮かべる、むっちりとした女性がいた。
「あれは、何代も前の持ち主が、その妻を愛するあまり閉じ込めていた塔だと伝えられているわ。」
屋敷から一カ所、ポコっと突き出た部屋が、女の言うそれだろう。
「いまはわたしが一人になりたいときに使っているの。」
「あなたが?では‥‥。」
「そう、わたしがあの屋敷の所有者。住まわせてもらってるんじゃないわ。前の所有者だった公爵はわたしの友人で、彼から譲り受けたの。」
公爵の愛人だからか、と思ったことが透けて見えたからか、それともそう探りを入れられることに慣れているからかは分からないが、わたしが聞くより先に彼女は言った。
帰ってから、夫にそのことを伝えると、夫は少し考え込んだ。
「公爵が彼女に惚れていたことは確かだけど、どうかな。愛人だったかどうかは分からない。」
「そうなの。」
わたしはまたしても男女関係の不思議さを垣間見た気がした。
もの思いに沈むわたしに、夫は声をかけた。
「彼女のサロンには、多くの宮廷人が出入りしている。彼女のお眼鏡にかなえば、きみも誘われるだろう。」
「もし誘われたら、どうしたらいいかしら?」
「きみはいま、話題の人だよ。僕が各地の友人に声をかけて、宮廷に呼び戻していることは知っているよね?僕に行動を起こさせた妻として話を聞かれるかもしれない。それとも、王の直轄領の件で、意見を聞かれるかもしれない。」
思わぬことに目を白黒させていると「どちらにしても、きみの好きなようにするといい。」と夫はわたしの頭をなでた。
好きにしていいと言われると、それはそれで見放されているような気がしてさみしい。
「あなたはどう思っているのか聞かせてほしいの。あの護衛のことだって、あなたの本心が見えないわ。」
「サロンに出入りするのは、これからのきみにとって有用なことだと思っている。護衛のことは‥‥そうだな。これも、きみのため‥‥かな。」
似合わないしんみりした表情など見せて、いったいどんなことを考えているのか。
この屋敷に移って一度は夫が近く感じたのに、やはり、遠い。
浮気をしなくなって障害がなくなったと喜んでいたのに、それだけが問題ではなかったのか。
どうしたら夫が近くなるか分からず、わたしは悔しさを隠すように夫を抱き締め、その胸に顔を伏せた。
11
あなたにおすすめの小説
愛されないと吹っ切れたら騎士の旦那様が豹変しました
蜂蜜あやね
恋愛
隣国オデッセアから嫁いできたマリーは次期公爵レオンの妻となる。初夜は真っ暗闇の中で。
そしてその初夜以降レオンはマリーを1年半もの長い間抱くこともしなかった。
どんなに求めても無視され続ける日々についにマリーの糸はプツリと切れる。
離縁するならレオンの方から、私の方からは離縁は絶対にしない。負けたくない!
夫を諦めて吹っ切れた妻と妻のもう一つの姿に惹かれていく夫の遠回り恋愛(結婚)ストーリー
※本作には、性的行為やそれに準ずる描写、ならびに一部に性加害的・非合意的と受け取れる表現が含まれます。苦手な方はご注意ください。
※ムーンライトノベルズでも投稿している同一作品です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
壊れていく音を聞きながら
夢窓(ゆめまど)
恋愛
結婚してまだ一か月。
妻の留守中、夫婦の家に突然やってきた母と姉と姪
何気ない日常のひと幕が、
思いもよらない“ひび”を生んでいく。
母と嫁、そしてその狭間で揺れる息子。
誰も気づきがないまま、
家族のかたちが静かに崩れていく――。
壊れていく音を聞きながら、
それでも誰かを思うことはできるのか。
冷遇妃マリアベルの監視報告書
Mag_Mel
ファンタジー
シルフィード王国に敗戦国ソラリから献上されたのは、"太陽の姫"と讃えられた妹ではなく、悪女と噂される姉、マリアベル。
第一王子の四番目の妃として迎えられた彼女は、王宮の片隅に追いやられ、嘲笑と陰湿な仕打ちに晒され続けていた。
そんな折、「王家の影」は第三王子セドリックよりマリアベルの監視業務を命じられる。年若い影が記す報告書には、ただ静かに耐え続け、死を待つかのように振舞うひとりの女の姿があった。
王位継承争いと策謀が渦巻く王宮で、冷遇妃の運命は思わぬ方向へと狂い始める――。
(小説家になろう様にも投稿しています)
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる