ヒロインにはめられました※Lite

KI☆RARA

文字の大きさ
20 / 27

しおりを挟む


後悔はない。

諦念の気持ちに浸っていたが、やけに静かなことに気がついた。
二人はどうしたのだろうと顔を上げた。
‥‥すんなり顔が上げることができた。
つまり、いつのまにか後頭部をおさえていた王太子の手がなくなっていたのだ。

「うーん。なんか自分は関係ないみたいになってない?」
振り返って、呆れたような顔をしているマリアに、ぱちくりとまたたきした。

「え?」

「自分がこれからどうなるか分かってるの?」

え?え?と目を見開く。

不安になって王太子をちらりと見上げれば、渋々、といった感じで唇を歪めている。

「コレの目論見に乗ることにした。きみを共有するというのは業腹だが、そうでなければコレは引かん。下手をすれば、僕のほうが排除されかねない」

きょうゆう?

「なに不本意そうにしてるんだか。渡りに船だって、嬉々として監禁しようとしてるくせに」

「か、かんっ?監禁!?」

目を白黒させて、王太子とマリアを行ったり来たりさせた。

「殿下は〝お嬢さま〟を他の男の前に出さずに済むしーー俺以外の男ねーー俺は俺で堂々と〝お嬢さま〟と一緒にいられるし、お互いに譲るところは譲って、相互利益の関係でいましょうねってことになったって話」

「えっと、いつそんな話に?」

「いまだよ。たったいま、手を結んだってこと」

にこっとマリアがほほえむ。
見た目だけなら天使のようだ。

なにやら、二人は具体的にどうこう話をすり合わせなくても同じ結論が出ていて、それをお互いに承知しているらしい。

わたしにはサッパリわけがわからない。
さっきの監禁などという物騒な言葉は、聞き間違いだろうか。

(そうでありますように)

祈る気持ちで王太子を見つめた。

「僕はね、常々きみがいろいろな人間に会うのが気に入らなかったんだ。【神々の目】として、そして僕の婚約者として周囲が放っておかないことはわかっている。でも、僕だけのきみなのに。僕だけのことを考えていればいいのに、他の人間関係のことで頭を悩ませたり、配慮をしたりするのを見るたびに不快だったよ。そんな瑣末事(さまつごと)に、きみが気持ちを向けてやる価値はない」

いつにはなくじょうぜつな王太子が説明し始めた。

「城に上がる前は伯爵の屋敷に出入りする者を制限することで悪い虫は避けられた。でも、王城内ではそうはいかない。そんなときにコレが怪しい動きをし始めて、きみの気を引き始めた。きみはコレのことばかり気にしていたね。それがどうしてなのかわからなくて、乗ったふりをして見張っていたんだ」

王太子が嫉妬深いことは知っていたけれど、まさか屋敷に出入りする人を制限していたなんて知らなかった。

「コレコレって、人のことをモノみたいに」
マリアが抗議の声をあげる。

「あなた、わざと男だってバレるように振舞ってたんじゃなかったの?」

昨夜そう言ってなかっただろうか。
王太子の嫉妬心を煽った、と。

「違うよ。バレてたの。殿下ったら、たまに俺のこと射殺すような目で睨んでたし、俺と話すときもずっと凍てつくような目をしてたよ。ふふ、ほら、いまだって。俺って〝お嬢さま〟の関心を奪うカタキだからさ。執念じゃない?いっつもお嬢さまの周囲に目を光らせていたから、嗅覚で男だって嗅ぎ分けたんじゃないかな」

そんなまさか。
冗談でしょうと笑い飛ばそうとしたが、当の王太子がこれまで見たことのない目でマリアを睨んでいたので、笑いかけた口のまま固まってしまった。

彼の顔が怖すぎて、マリアみたいに笑いとばせそうにない。

もともと低い王太子の声が、地を這うような低さまで落ちた。
「屋敷にいるうちは報告書の内容を信じていたし、気にも留めていなかったがな。我が婚約者が城へ上がるのに付いてきて、目の前をウロチョロしだしてから、やけにかんに触る奴だと思って注視していたんだ」

「ほらね?俺は最初は王太子狙いだったんだけど、取りつく島もないし、俺自身〝お嬢さま〟に夢中になっちゃったから、方向転換したんだよ」

(王太子狙い!?)
やはり女装しているだけあって、女だけでなく男もイケるのか。

「いや。驚くところはそこなんだ。『王太子狙い』っていうのは、そういう意味じゃなくて‥‥。変な顔しないでよ。そうじゃなくて、籠絡していいように操ってやろうと思ってたってこと」

マリアはわたしが驚いた意味を正確に読み取って否定した。

「あんたのことを好きになるまで、俺の目的は故郷を取り戻すことだけだったんだよ。そのために、使えるものは使ってやろうって。――あれ?ねえ、心当たりがあるみたいだね。どうして〝お嬢さま〟が知ってるの?」

ハッと目を見張ったわたしの表情で、マリアはわたしがマリアの出生の秘密を知っていることに気づいたようだ。

「ねえ、ずっと不思議だったんだ。どうして俺の行く先々で待機できたのか。【目】で見た以外の行動をとるのか。俺が男だってことは知らなかったみたいだけど、【神々の目】を持つことは知ってたよね?」

「えっ、あの‥‥それは‥‥」

「このペンダント、母の形見なんだ。あんた、これがなにか知ってるね?」

マリアの服の下から、首にかけていたペンダントが引き出されて、わたしの目の前にかざされた。
隣国の王家に受け継がれるペンダントだ。
わたしはそれから目をそらす。

「じゃあ、俺とあんたが近親相姦に当たらないことも?」

わたしが伯爵の血を引いていないことを言っているんだ。
これ以上考えを読まれないように、ギュッと目を閉じた。

「ぅひゃ、ひんッ」

耳たぶににゅるッと湿った感触がして驚いて目を開くと、王太子に耳を食(は)まれていた。

「ぁ、んんッ」
そのままジュルジュルピチャピチャと耳に舌を差し込まれる。

「ちょっと!俺がいま質問してるんだから、さからないでよ」
そう言いながらも、マリアの手はシーツごしにわたしの胸をモミモミともんでいる。

「ちょっ、やめッ」
シーツにぐるぐる巻きにされた状態ではろくに抵抗できない。

「きみが無防備に目を閉じるからだ」
王太子が耳から唇を離し、ついでにまだわたしの胸を揉んでいたマリアの手を、大きな手でバシッと叩き落とした。

手を叩かれたマリアは、呆れたような恨みがましいような目を王太子に向けた。
それをまるっと無視して、王太子は話を再開させた。

「僕はペンダントを調べて真実にたどり着いた。きみは、どうしてコレを意識していたんだ?それを聞いていなかったな」

「あのさあ‥‥まあいいや。僕にも納得できる説明をしてくれるんだよね?〝お嬢さま〟」


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

結婚式に結婚相手の不貞が発覚した花嫁は、義父になるはずだった公爵当主と結ばれる

狭山雪菜
恋愛
アリス・マーフィーは、社交界デビューの時にベネット公爵家から結婚の打診を受けた。 しかし、結婚相手は女にだらしないと有名な次期当主で……… こちらの作品は、「小説家になろう」にも掲載してます。

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

王妃そっちのけの王様は二人目の側室を娶る

家紋武範
恋愛
王妃は自分の人生を憂いていた。国王が王子の時代、彼が六歳、自分は五歳で婚約したものの、顔合わせする度に喧嘩。 しかし王妃はひそかに彼を愛していたのだ。 仲が最悪のまま二人は結婚し、結婚生活が始まるが当然国王は王妃の部屋に来ることはない。 そればかりか国王は側室を持ち、さらに二人目の側室を王宮に迎え入れたのだった。

義兄に甘えまくっていたらいつの間にか執着されまくっていた話

よしゆき
恋愛
乙女ゲームのヒロインに意地悪をする攻略対象者のユリウスの義妹、マリナに転生した。大好きな推しであるユリウスと自分が結ばれることはない。ならば義妹として目一杯甘えまくって楽しもうと考えたのだが、気づけばユリウスにめちゃくちゃ執着されていた話。 「義兄に嫌われようとした行動が裏目に出て逆に執着されることになった話」のifストーリーですが繋がりはなにもありません。

処理中です...