ミントタブレット

交換

パソコンに向かって資料を作っていると、隣でガラッガラッと音がした。
天野くんが、机の引き出しからミントタブレットのアルミケースを出している音だ。

「栗田さん、食べますか？」

天野くんが、ミントタブレットを一粒差し出した。
それを受け取り、お返しに、わたしも机の中に入っているミントタブレットを出した。
天野くんのものとは違う味のミントタブレットだ。

「食べる？」と聞くと、天野くんは素直に手を出して「ありがとうございます」と言ったので、その手にケースごとミントタブレットを載せた。

他人が触ったものを口に入れるのを嫌がる人もいるかも、と気を遣ってのことだが、天野くんはそれを手に載せたまま、動こうとしない。

天野くんがそのまま動かないので「あれ？ケースごと渡すのは雑だったかな」と思い直して「出そうか？」と言ってケースの蓋を開けて傾け、彼の手にミントタブレットをコロンと一粒落とした。

たくさん出てしまわないように慎重にケースを振ったので、自然と手が触れてしまったが、それは仕方ないと思う。
下心はないよ。
セクハラじゃないからね。
心の中で言い訳をしておく。

だって、ちょっと温かくて、しっとりした天野くんの手の感触が、後を引くから。
触れたところが、気になって仕方がない。