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和泉さんの事情
しおりを挟む小さい頃から、自分に自信が持てなかった。
期待されたってうれしくないし、後で勝手に失望されるのがオチなんだから。
「つまんないや……」
私、和泉(わいずみ)りあ は高校一年生というドキドキの生活を無駄に過ごしてスルーするつもりだった。
「和泉さん、さっきノート取れなかったでしょ? これ……よかったら」
彼女、小泉(こいずみ)かすみ に出会うまでは。
「え、なんで知って……」
「私の席から和泉さんの席ってよく見えるの。数学の時間なのに英文ばかり書いてるから気になって」
「それで、見てたの?」
「あ、ご、ごめん!なんか、きもちわるいよね……知らない間に見られるなんて。でも、なんか放っておけなくて」
同じクラスの小泉さん。彼女のことは同級生ということしか知らない。接点もなければ共通の知り合いもいない、そんな私たちだった。
「きもちわるくは、ないけど」
ただただ、驚いたと言いますか。
もう二学期も始まったというのに小泉さんと話したのはこれで二度目くらいだ。授業の課題などの会話を外すとおそらく初めて。
そこまで周りと関わることに積極的ではない小泉さんが、私のために自らノートを差し出してくれるなんて想像もできなかった。
「迷惑、でしたか?」
「ううん、嬉しい……ありがとう」
嬉しい、そう言うと褒められた犬みたいに分かりやすく顔をほころばせた。
「私も役にたてて嬉しい。ありがとう」
「っ……」
初めて見る小泉さんの嬉しそうな顔。この子は、誰かの役にたてることがこんなに嬉しいんだ。たとえ相手が、接点のない私だとしても。
「じゃあノートはいつ返してくれてもいいから! またね!」
「あ、ちょ……!」
行っちゃった……。
私は彼女をほとんど知らない。彼女だって私を知らないだろう。
成績が全てと言われる家庭で育ったこと。
決して名門校とは言えないこの学園に通わせてもらう代わりに、常に上位であり続ける必要があること。
英語が苦手で、数学の時間を蹴ってまで勉強していたこと。
それから、それから……。
「知らない、でしょ」
ずっと何かに追われるように、自分から逃げていたこと。
「私のこと、ぜんぜん……」
私を見ていてくれたことがこんなにも嬉しいこと。救われたこと。
どうしたって消えなかった心のわだかまりが、あなたの笑顔で溶けていったことも。
「あり、がとう……!」
勉強は嫌いじゃなかった。解ければ褒めてもらえたこともあった。
いつしか褒めてもらえなくなっても、私は勉強を続けて、難問を解き明かし続けた。
『期待してるよ』
『よくやったね』
『君なら当然だろう』
『なんでこれが解けなかったんだ?』
もう誰も私を数字でしか見てくれない。勉強から逃げたくて選んだ学校ですら、数字ばかりを求められた。
『和泉さん、さっきノート取れなかったでしょ?』
『これ……良かったら』
『なんか放っておけなくて』
たった数行で終わってしまう会話が、私に欲しかったものをくれた気がした。
クラスメイトすら信じられなくなっていた私に光をくれた人。
「小泉、かすみ……」
また話してみたい。たくさんあの子を知りたいし、私のことも知ってほしい。
どんな風に切り出したらいいのかな。自然な会話ってどうやっていたっけ。
「そんなことすら忘れてたんだね、私」
小泉さんの好きなもの、好きなこと、得意なもの。たくさんたくさん、聞いてみよう。
貸してくれたノートを抱きしめて、声が震えてしまわないように練習を。
「あの時はありがとう、かすみ」
大切な想いは、そっと胸にしまいこんで。
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