22 / 46
ルリマツリ4
しおりを挟む
あまり身近ではない職種でしばらくきょとんとしていたが、理解した途端、私の心臓は焦りで早まり、目を見開いていた。
「私が……湊さんのマネージャーをするってこと、ですか?」
「そう。まぁ、秘書みたいなものだよ。本来はタレント営業して仕事をとってくるというところまで任せたりする。しかし、今の佐藤蓮は乗りに乗っている状態だから、黙っていてもオファーが来る。というわけで、電話がひっきりなしにかかってくるから、よろしく」
小早川は、これで喉がカラカラ状態から脱却できるぜと呟いて、開放感溢れている。しかし、こちらとしてはたまったものではない。
「……あの、本当に、有難いお話なのですが……私には……あまりに荷が重すぎます」
まともに仕事をしたのは、三浦店長のところだけだ。カフェのバイトから、いきなりマネージャーだなんて、いくらなんでも無理だ。
私の主張を小早川は、さらりと受け流す。
「あぁ、仕事内容を気にしてるんなら、その辺は心配しなくてもいい。話を聞きまくって、一日の終わりに俺へまとめて話を上げてくれれば、こちらで選別する。それなら、文句ないだろ?」
「ですが……」
言いかけた言葉を、小早川に手で制されてしまう。私は閉口するしかなかった。
「あんた複雑な実家から逃げ出してきたって、話じゃねぇか。詳しい事情なんか、聞こうとは思わない。こういう世界はみんな何かしら抱えているし、変な話を聞かされると、情が入ってこき使えなくなるからな。ただ、一つだけ確認しておく。家出の理由が犯罪に加担したからとかそういうのには、かかわっていないな?」
「それは、もちろんかかわったりはしてませんが……」
「なら、決定。採用だ」
小早川は、対して吟味せず軽々と答えを出してくる。そんなに、適当でいいのだろうか。いや、それ以上に、私が困る。
「待ってください! 私には、やっぱり無理です!」
「どうして?」
「私……自分でもいうのもなんですが、社会人経験が浅く、世間も人より知らないのです。ですから、あんなに雲の上のような方……私なんか近づくのも、畏れ多いです」
「何いってんだか。あいつはいつから神様になったんだ? 人よりもちょっと顔がいいのは認めよう。性格は田舎育ちのお陰で真っ直ぐ。そして、努力家ではある。だがそれ以外は……」
小早川は、項垂れ頭を抱え、大きなため息をついた。 今までのことを思い出しているようだ。苦々しく顔をしかめていく。
「湊は全体的に不器用だ。朝は弱いし、ふて腐れると面倒くせえし、思ったことをズバッと言うから敵も多い。お陰で、俺はクレーム対応だ。ともかく、あいつは神様でも何でもねぇ。ただのガキだ。というわけで、畏れ多いから無理だと言う理由は、却下」
「……でも……私なんか勤まるとは、思えません……」
「勤まるかどうかは、やってみて考えればいいさ。やる前から諦めるのは違う。それに、人は何事も勉強だ。努力すれば、必ずそれなりにはなれる」
小早川は、簡単にさらりという。確かに、それは本当にその通りなのかもしれない。
三浦店長の元に駆け込んで、初めて仕事をさせてもらった時も最初は失敗ばかりだったけれど、少しずつまともにできるようになっていった。もちろん、人並みというほどのレベルではなかったように思うけれど。それなりには、なれたような気がする。
「そして、人はそうしたいという衝動と情熱さえあれば、何でもできるさ。そうは思わないか?」
小早川は、じっと私をみる。目力のある強い光が目の真ん中にあった。
そこから、あの日の光景が甦った。
ソメイヨシノの下を抜け出したあの日。
どうしても塀の外にあるこの先の未来にかけたいと思った。そのためなら、なんでもできると。自由さえ手に入れれば、どんなことでも乗り越えられると思った。そして、みんなから様々な手を借りて、今に繋がっていった。
考えてみれば、私が断る方こそ、おこがましいことだ。それならば、心を決めるしかない。
「……わかりました。ご迷惑お掛けしないように、できる限りのことをやらせていただきます。よろしくお願いいたします」
深々と頭を下げる。すぐに小早川が上機嫌な声が響いた。
「じゃあ、早速明日からあいつのドラマ現場の付き添いだ。スケジュールはそのスマホに全部入れてある。確認しといてくれ。現場入りしたら、あいつが仕事する。その間は、回りにスタッフやら色々といるから顔色伺って、愛想を振り巻いておいてくれ。そうすると、また仕事を回してくれることがあるからな」
色々と不安ばかりだが、慣れていくしかない。気合いをいれて頷く。
手の中のスマホを握りしめると、小早川はそうだと、ポンと手を叩いた。
「どうせなら、仕事名でも付けたらどうだ?」
「仕事名?」
「本名と別の仕事の名前。湊が佐藤蓮を名乗っている芸名みたいな。まぁ、知り合いに会うことはそんなにないかもしれんが、家出してきている手前、本名だとやりにくくないかと思ってな」
それは、ありがたい提案だ。
確かに影山という名前は、耳に残りやすいし、出きることならば捨ててしまいたいと思っているくらいだ。
「是非そうしたいです」
「よし。明日までに好きな名前を考えとけよ。それで、決まったら教えてくれ」
「わかりました」
「じゃあ、あとは頼んだぜ」
小早川が今度こそ解放されたとのびのびし始める。
煙草へ火をつけようとした途端、スマホが鳴り響いていた。
おろおろしていると、今日は仕方ねぇかと、代わりに小早川が出てくれた。
早速、仕事のお手本にしなければと聞き耳を立ててみたが「あーあれね」とか「はいはい」「わっかりましたー」とか、あまりに適当すぎて、全く参考になりそうになかった。
「私が……湊さんのマネージャーをするってこと、ですか?」
「そう。まぁ、秘書みたいなものだよ。本来はタレント営業して仕事をとってくるというところまで任せたりする。しかし、今の佐藤蓮は乗りに乗っている状態だから、黙っていてもオファーが来る。というわけで、電話がひっきりなしにかかってくるから、よろしく」
小早川は、これで喉がカラカラ状態から脱却できるぜと呟いて、開放感溢れている。しかし、こちらとしてはたまったものではない。
「……あの、本当に、有難いお話なのですが……私には……あまりに荷が重すぎます」
まともに仕事をしたのは、三浦店長のところだけだ。カフェのバイトから、いきなりマネージャーだなんて、いくらなんでも無理だ。
私の主張を小早川は、さらりと受け流す。
「あぁ、仕事内容を気にしてるんなら、その辺は心配しなくてもいい。話を聞きまくって、一日の終わりに俺へまとめて話を上げてくれれば、こちらで選別する。それなら、文句ないだろ?」
「ですが……」
言いかけた言葉を、小早川に手で制されてしまう。私は閉口するしかなかった。
「あんた複雑な実家から逃げ出してきたって、話じゃねぇか。詳しい事情なんか、聞こうとは思わない。こういう世界はみんな何かしら抱えているし、変な話を聞かされると、情が入ってこき使えなくなるからな。ただ、一つだけ確認しておく。家出の理由が犯罪に加担したからとかそういうのには、かかわっていないな?」
「それは、もちろんかかわったりはしてませんが……」
「なら、決定。採用だ」
小早川は、対して吟味せず軽々と答えを出してくる。そんなに、適当でいいのだろうか。いや、それ以上に、私が困る。
「待ってください! 私には、やっぱり無理です!」
「どうして?」
「私……自分でもいうのもなんですが、社会人経験が浅く、世間も人より知らないのです。ですから、あんなに雲の上のような方……私なんか近づくのも、畏れ多いです」
「何いってんだか。あいつはいつから神様になったんだ? 人よりもちょっと顔がいいのは認めよう。性格は田舎育ちのお陰で真っ直ぐ。そして、努力家ではある。だがそれ以外は……」
小早川は、項垂れ頭を抱え、大きなため息をついた。 今までのことを思い出しているようだ。苦々しく顔をしかめていく。
「湊は全体的に不器用だ。朝は弱いし、ふて腐れると面倒くせえし、思ったことをズバッと言うから敵も多い。お陰で、俺はクレーム対応だ。ともかく、あいつは神様でも何でもねぇ。ただのガキだ。というわけで、畏れ多いから無理だと言う理由は、却下」
「……でも……私なんか勤まるとは、思えません……」
「勤まるかどうかは、やってみて考えればいいさ。やる前から諦めるのは違う。それに、人は何事も勉強だ。努力すれば、必ずそれなりにはなれる」
小早川は、簡単にさらりという。確かに、それは本当にその通りなのかもしれない。
三浦店長の元に駆け込んで、初めて仕事をさせてもらった時も最初は失敗ばかりだったけれど、少しずつまともにできるようになっていった。もちろん、人並みというほどのレベルではなかったように思うけれど。それなりには、なれたような気がする。
「そして、人はそうしたいという衝動と情熱さえあれば、何でもできるさ。そうは思わないか?」
小早川は、じっと私をみる。目力のある強い光が目の真ん中にあった。
そこから、あの日の光景が甦った。
ソメイヨシノの下を抜け出したあの日。
どうしても塀の外にあるこの先の未来にかけたいと思った。そのためなら、なんでもできると。自由さえ手に入れれば、どんなことでも乗り越えられると思った。そして、みんなから様々な手を借りて、今に繋がっていった。
考えてみれば、私が断る方こそ、おこがましいことだ。それならば、心を決めるしかない。
「……わかりました。ご迷惑お掛けしないように、できる限りのことをやらせていただきます。よろしくお願いいたします」
深々と頭を下げる。すぐに小早川が上機嫌な声が響いた。
「じゃあ、早速明日からあいつのドラマ現場の付き添いだ。スケジュールはそのスマホに全部入れてある。確認しといてくれ。現場入りしたら、あいつが仕事する。その間は、回りにスタッフやら色々といるから顔色伺って、愛想を振り巻いておいてくれ。そうすると、また仕事を回してくれることがあるからな」
色々と不安ばかりだが、慣れていくしかない。気合いをいれて頷く。
手の中のスマホを握りしめると、小早川はそうだと、ポンと手を叩いた。
「どうせなら、仕事名でも付けたらどうだ?」
「仕事名?」
「本名と別の仕事の名前。湊が佐藤蓮を名乗っている芸名みたいな。まぁ、知り合いに会うことはそんなにないかもしれんが、家出してきている手前、本名だとやりにくくないかと思ってな」
それは、ありがたい提案だ。
確かに影山という名前は、耳に残りやすいし、出きることならば捨ててしまいたいと思っているくらいだ。
「是非そうしたいです」
「よし。明日までに好きな名前を考えとけよ。それで、決まったら教えてくれ」
「わかりました」
「じゃあ、あとは頼んだぜ」
小早川が今度こそ解放されたとのびのびし始める。
煙草へ火をつけようとした途端、スマホが鳴り響いていた。
おろおろしていると、今日は仕方ねぇかと、代わりに小早川が出てくれた。
早速、仕事のお手本にしなければと聞き耳を立ててみたが「あーあれね」とか「はいはい」「わっかりましたー」とか、あまりに適当すぎて、全く参考になりそうになかった。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】6人目の娘として生まれました。目立たない伯爵令嬢なのに、なぜかイケメン公爵が離れない
朝日みらい
恋愛
エリーナは、伯爵家の6人目の娘として生まれましたが、幸せではありませんでした。彼女は両親からも兄姉からも無視されていました。それに才能も兄姉と比べると特に特別なところがなかったのです。そんな孤独な彼女の前に現れたのが、公爵家のヴィクトールでした。彼女のそばに支えて励ましてくれるのです。エリーナはヴィクトールに何かとほめられながら、自分の力を信じて幸せをつかむ物語です。
没落貴族とバカにしますが、実は私、王族の者でして。
亜綺羅もも
恋愛
ティファ・レーベルリンは没落貴族と学園の友人たちから毎日イジメられていた。
しかし皆は知らないのだ
ティファが、ロードサファルの王女だとは。
そんなティファはキラ・ファンタムに惹かれていき、そして自分の正体をキラに明かすのであったが……
復讐のための五つの方法
炭田おと
恋愛
皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。
それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。
グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。
72話で完結です。
辺境伯夫人は領地を紡ぐ
やまだごんた
恋愛
王命によりヴァルデン辺境伯に嫁ぐことになった、前ベルンシュタイン公爵令嬢のマルグリット。
しかし、彼女を待っていたのは60年にも及ぶ戦争で荒廃し、冬を越す薪すら足りない現実だった。
物資も人手も足りない中、マルグリットは領地の立て直しに乗り出す。
戦しか知らなかったと自省する夫と向き合いながら、少しずつ築かれていく夫婦の距離。
これは、1人の女性が領地を紡ぎ、夫と共に未来を作る「内政×溺愛」の物語です。
全50話の予定です
※表紙はイメージです
※アルファポリス先行公開(なろうにも転載予定です)
狂おしいほど愛しています、なのでよそへと嫁ぐことに致します
ちより
恋愛
侯爵令嬢のカレンは分別のあるレディだ。頭の中では初恋のエル様のことでいっぱいになりながらも、一切そんな素振りは見せない徹底ぶりだ。
愛するエル様、神々しくも真面目で思いやりあふれるエル様、その残り香だけで胸いっぱいですわ。
頭の中は常にエル様一筋のカレンだが、家同士が決めた結婚で、公爵家に嫁ぐことになる。愛のない形だけの結婚と思っているのは自分だけで、実は誰よりも公爵様から愛されていることに気づかない。
公爵様からの溺愛に、不器用な恋心が反応したら大変で……両思いに慣れません。
冷酷総長は、彼女を手中に収めて溺愛の檻から逃さない
彩空百々花
恋愛
誰もが恐れ、羨み、その瞳に映ることだけを渇望するほどに高貴で気高い、今世紀最強の見目麗しき完璧な神様。
酔いしれるほどに麗しく美しい女たちの愛に溺れ続けていた神様は、ある日突然。
「今日からこの女がおれの最愛のひと、ね」
そんなことを、言い出した。
魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました【完結】
iru
恋愛
第19回 恋愛小説大賞エントリーしています。ぜひ1票お願いします。
小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。
両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。
両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。
しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。
魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。
自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。
一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。
初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。
恋人になりたいが、年上で雇い主。
もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。
そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。
そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。
レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか?
両片思いのすれ違いのお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる