願わくば一輪の花束を

雨宮 瑞樹

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ルリマツリ4

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 あまり身近ではない職種でしばらくきょとんとしていたが、理解した途端、私の心臓は焦りで早まり、目を見開いていた。
「私が……湊さんのマネージャーをするってこと、ですか?」
「そう。まぁ、秘書みたいなものだよ。本来はタレント営業して仕事をとってくるというところまで任せたりする。しかし、今の佐藤蓮は乗りに乗っている状態だから、黙っていてもオファーが来る。というわけで、電話がひっきりなしにかかってくるから、よろしく」
 小早川は、これで喉がカラカラ状態から脱却できるぜと呟いて、開放感溢れている。しかし、こちらとしてはたまったものではない。
 
「……あの、本当に、有難いお話なのですが……私には……あまりに荷が重すぎます」
 まともに仕事をしたのは、三浦店長のところだけだ。カフェのバイトから、いきなりマネージャーだなんて、いくらなんでも無理だ。
 私の主張を小早川は、さらりと受け流す。
「あぁ、仕事内容を気にしてるんなら、その辺は心配しなくてもいい。話を聞きまくって、一日の終わりに俺へまとめて話を上げてくれれば、こちらで選別する。それなら、文句ないだろ?」
「ですが……」
 言いかけた言葉を、小早川に手で制されてしまう。私は閉口するしかなかった。
 
「あんた複雑な実家から逃げ出してきたって、話じゃねぇか。詳しい事情なんか、聞こうとは思わない。こういう世界はみんな何かしら抱えているし、変な話を聞かされると、情が入ってこき使えなくなるからな。ただ、一つだけ確認しておく。家出の理由が犯罪に加担したからとかそういうのには、かかわっていないな?」
「それは、もちろんかかわったりはしてませんが……」
「なら、決定。採用だ」
 小早川は、対して吟味せず軽々と答えを出してくる。そんなに、適当でいいのだろうか。いや、それ以上に、私が困る。
 
「待ってください! 私には、やっぱり無理です!」
「どうして?」
「私……自分でもいうのもなんですが、社会人経験が浅く、世間も人より知らないのです。ですから、あんなに雲の上のような方……私なんか近づくのも、畏れ多いです」
「何いってんだか。あいつはいつから神様になったんだ? 人よりもちょっと顔がいいのは認めよう。性格は田舎育ちのお陰で真っ直ぐ。そして、努力家ではある。だがそれ以外は……」
 小早川は、項垂れ頭を抱え、大きなため息をついた。 今までのことを思い出しているようだ。苦々しく顔をしかめていく。
「湊は全体的に不器用だ。朝は弱いし、ふて腐れると面倒くせえし、思ったことをズバッと言うから敵も多い。お陰で、俺はクレーム対応だ。ともかく、あいつは神様でも何でもねぇ。ただのガキだ。というわけで、畏れ多いから無理だと言う理由は、却下」
「……でも……私なんか勤まるとは、思えません……」 
「勤まるかどうかは、やってみて考えればいいさ。やる前から諦めるのは違う。それに、人は何事も勉強だ。努力すれば、必ずそれなりにはなれる」
 小早川は、簡単にさらりという。確かに、それは本当にその通りなのかもしれない。

 三浦店長の元に駆け込んで、初めて仕事をさせてもらった時も最初は失敗ばかりだったけれど、少しずつまともにできるようになっていった。もちろん、人並みというほどのレベルではなかったように思うけれど。それなりには、なれたような気がする。
  
「そして、人はそうしたいという衝動と情熱さえあれば、何でもできるさ。そうは思わないか?」
 小早川は、じっと私をみる。目力のある強い光が目の真ん中にあった。
 そこから、あの日の光景が甦った。
 
 ソメイヨシノの下を抜け出したあの日。
 どうしても塀の外にあるこの先の未来にかけたいと思った。そのためなら、なんでもできると。自由さえ手に入れれば、どんなことでも乗り越えられると思った。そして、みんなから様々な手を借りて、今に繋がっていった。
 考えてみれば、私が断る方こそ、おこがましいことだ。それならば、心を決めるしかない。
 
「……わかりました。ご迷惑お掛けしないように、できる限りのことをやらせていただきます。よろしくお願いいたします」
 深々と頭を下げる。すぐに小早川が上機嫌な声が響いた。
「じゃあ、早速明日からあいつのドラマ現場の付き添いだ。スケジュールはそのスマホに全部入れてある。確認しといてくれ。現場入りしたら、あいつが仕事する。その間は、回りにスタッフやら色々といるから顔色伺って、愛想を振り巻いておいてくれ。そうすると、また仕事を回してくれることがあるからな」
 色々と不安ばかりだが、慣れていくしかない。気合いをいれて頷く。
 手の中のスマホを握りしめると、小早川はそうだと、ポンと手を叩いた。
「どうせなら、仕事名でも付けたらどうだ?」
「仕事名?」
「本名と別の仕事の名前。湊が佐藤蓮を名乗っている芸名みたいな。まぁ、知り合いに会うことはそんなにないかもしれんが、家出してきている手前、本名だとやりにくくないかと思ってな」
 それは、ありがたい提案だ。
 確かに影山という名前は、耳に残りやすいし、出きることならば捨ててしまいたいと思っているくらいだ。
「是非そうしたいです」
「よし。明日までに好きな名前を考えとけよ。それで、決まったら教えてくれ」
「わかりました」
「じゃあ、あとは頼んだぜ」
 小早川が今度こそ解放されたとのびのびし始める。
 煙草へ火をつけようとした途端、スマホが鳴り響いていた。
 おろおろしていると、今日は仕方ねぇかと、代わりに小早川が出てくれた。
 早速、仕事のお手本にしなければと聞き耳を立ててみたが「あーあれね」とか「はいはい」「わっかりましたー」とか、あまりに適当すぎて、全く参考になりそうになかった。
 
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