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追跡2
しおりを挟む「なんとかなったな」
群がる報道陣の前を堂々と通り、亮は無事にいつものワンボックスカーではなくセダンの車に乗り込んでいた。五十はくだらない記者たちの亮を血眼の目は、完全に亮をスルーして振り返って来る人は一人もいなかった。
動き出した車内で亮はマスクと帽子をとる。変装のために鼻と目元につけたシリコンが煩わしいが、唯と会うまではしばらく我慢するしかないかと思いながら安堵のため息をつく。
「さすがですね。全くわかりませんよ」
徳島は運転しながら後部座席にいる目元と鼻にシリコンで整形している亮にいった。
「人間っていうのは、目元と鼻を変えれば大抵見分けがつかなくなる。おまけにマスクと帽子があれば絶対わからない」
いつもほとんど化粧をしない徳島にも、念のため普段絶対にしないような付け睫毛やアイラインを引いて亮がメイクを施し、普段眼鏡をコンタクトに変えてある。マスコミは、些細な情報も得ようと躍起になっている。亮本人でなくてもマネージャーである徳島の姿を見つければあっという間に記者に囲まれるのは目に見えていた。今の彼女もまた、あの徳島だと認識できるものはいないはずだ。
一時間ほど車を走らせ実家にももしかしたら、記者張り付いているかもしれないというリスクを考えてと少し離れた場所に車を停めた。亮は再び帽子を被って徳島に告げた。
「ありがとう。ここからは、俺一人で大丈夫だ。徳島さんはこの後、休暇を楽しんでくれ」
そういう亮に徳島は一瞬悩む素振りを見せたが、どこか自分の中で納得してくれたようだった。
「……わかりました。もう余計な事もいいません。ご武運を」
徳島なりの励ましに背中を押され、亮は車から降りて行った。
周辺に人影がないようだ。
亮はほんの少しだけ緊張を解いて、躊躇うことなく水島の表札が出ている押しなれたインターホンを鳴らす。昔と変わらない呼び出し音が響く。その音が昔の穏やかな日々を呼び覚ますように、高校の時を思い出した。朝唯と一緒に登校するために何度も押したインターホン。大抵、唯の方が先に待っていたから、実際には唯の方がすぐ向かいの自分の実家のインターホンを押すことの方が断然多かった。けれど、休みの日に一緒に遊びに行くときは、唯よりも俺の方が多かった。ボタンを押せば数秒で「ちょっと待って」と、唯の弾んだ声が返ってきて、浮つかないように繋ぎとめていた糸を呆気なく切れて勝手に俺の気持ちは空高く飛んで行った。
普段過去を振り返るなんてことはしないようにしているのに、今はやけにあの頃が懐かしくあの時に戻れたらと思ってしまう。そんならしくない自分を打ち消すように、亮は反応のないインターホンをもう一度押した。
やっぱり、もう唯は出かけた後かと思いながら、門を開けて玄関まで行くと水島家の合鍵を取り出す。中学の時、美穂が「働きに出ることにしたから、唯のことを頼む」と渡された鍵だ。それを使って、玄関を開け閉じる。
「唯!」
呼びかけても廊下に明かりのない廊下に吸い込まれ静寂が覆っていた。
大学にでも行っているんだろう。その確信を得るために亮は靴を脱ぎ、廊下を進むと左手にリビングが視界に入る。勝手に鍵を使って、上がり込んでくる亮に唯はいつも怒っていたけれど構わず我が家のように占領し、そしていつの間にか、一緒に宿題や勉強、今後の進路を相談しあう場所になっていった。
横目で通過して、右奥の階段から二階へと上がる。その正面が唯の部屋だ。迷いなく部屋のドアを開けると、亮は目を見開いた。勉強机にいつもそろえられている書籍類がほとんどなくなっている上に、クローゼットの扉が開いていて、その中身もほなくなっていた。
「どういうことだよ……」
思わず出た声と共に、一人暮らししたいと、語っていたのをいつか聞いたことがあることを朧げに思い出す。その時は、危ないからと反対した亮に対し「そういうと思った」と唯は笑って終わっていた。だから、その話はそのまま立ち消えたと思っていた。
いつの間に?
出て行くなんて話、まったく聞いていない。だが現にここから出た形跡がみられる。しかも、唯らしくなく残った荷物はそのまま。片付けられておらず、慌てて出ていったように見える。あの唯をそんな衝動的な行動に出させた理由は、考えるまでもない。
俺が原因だ。
何か手掛かりがないか。
悪いと心中で詫びながら勉強机のせめて、大学の時間割でもないかと願いながら引き出しを開けてゆく。すると、ゼミの名前が書かれた資料が出てきた。そこで、俺は今の唯の何も知らないことに今更ながら気付いた。大学も文学部国文科ということは知っていたが、ゼミなんてあったことも知らない。映画館でバイトもしているとは聞いていたが、場所までは知らない。そんな自分に愕然としながら更に引き出しを探っていると、使い古した分厚いノートが出てきた。表紙に○月○日~と書かれていた。その日付は忘れるはずもない。アメリカへと旅立ったその日付だった。これは唯の日記なのだろう。
そこまで踏み込んでいいのかと、迷いながらもおそるおそる亮は手に取った。
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