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波乱
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「ふぅ。こんな感じかな?」
テレビ台をリビングの壁に置きながら、唯は満足気に微笑んだ。
バイトは入ってはいるが、今日は休日。亮から届いた大荷物の荷ほどきで忙しく動き回っていた。タンスや小物入れ、テレビ。なかった冷蔵庫はわざわざ新品を送ってきてくれた。亮にお礼の電話をした時に「手伝いに行こうか?」と言われた。
山口アナウンサーとの熱愛報道は、互いの芸能事務所との話し合いの結果交際否定文書を出すことで決着していた。話によると、徳島が人を殺さんばかりの猛抗議が功を奏した形だったらしい。おかげで、亮に張り付いていた数十社いた記者たちは解散。身動き取れない状態は、解消され、落ち着きを取り戻しつつあった。とはいえ、亮は初監督作品が本格的に始動し始めている。多忙を極めている人に頼めるはずもない。全部自分でやると言ったら「マネージャーの徳島さんが唯と話したいって言ってるから、手伝いついでにどう?」と言われ言葉に詰まった。徳島マネージャーといえばどうしてもあの冷たい眼鏡が思い出されて鳥肌が立った。
「遠慮しておくよ」
と唯が苦笑いしながら言うと、「唯も徳島さん恐怖症にかかったかと」亮は笑っていた。
「確かに容赦ないし、冷たい物言いで一見、冷酷人間に思えるけど、本当はめちゃくちゃいい人なんだぜ」
「……何となく、云わんとしていることはわかる気がする。だけど……ねぇ?」
あれだけ、きっぱりと亮と別れろと言われて、結局聞く耳を持たなかった私だ。今会ったら、どんな顔をされるのか。想像しただけでも、冷や汗が噴出してくる。
「わかったよ。じゃあ、そのうち俺が間に入るからご飯でも食べに行こうぜ」
「うん、わかった」
そんな会話をして、電話を切った。
その後はどんな部屋にしようか配置などいろいろ考えることに専念し、あれこれ考えながら没頭していけば、どんどん楽しくなってきて、この先何もかもうまくいくと思えて気持ちが浮かんでいくから不思議だ。この先は、どんなことが起きても前向きに行こう。そんな決意を胸にしつつ、片づけを再開。けれど、ふとした瞬間はやはりひなのことがどうしても頭を掠めた。
あれから、一週間。ひなに謝りたい。そう思って、下の階のひなの部屋のインターホンを鳴らしにいった。けれど、出てはくれず、大学に行っても欠席で一度も顔を合わすことがきていなかった。唯は母のいない平日の昼間に実家に戻って、残りのもの持ってきていた小物をしまいながら深いため息を吐く。大学入学当初から仲が良かったのにも関わらず、嘘ばかりついていた自分に嫌気がさす。あの時は、亮と付き合っていることを隠し通さなければということばかり頭を巡って、他のことなんて何も考えていなかった。未熟な自分が恨めしくて仕方ない。あんな下手な嘘なんてつかず、信頼しているひなにはちゃんと話しておけばよかった。そんなことをまた考え始めたら、また陰鬱さに支配されそうになって、いつの間にか止まっていた手をまた動かそうとしたら。スマホの画面がけたたましく鳴り始めた。
誰かしら? 時刻はまだ昼過ぎ。亮は終日打ち合わせだと言っていたから、こんな時間に連絡はないはずだと思いながら手に取り確認すれば見知らぬ電話番号。時々、バイト先から緊急のシフトチェンジがあると登録していない電話番号から電話がかかってくることがある。そういった類かしら? そう予測しながらスマホを手に取った。
「もしもし」
「あぁ、唯ちゃん?」
その声とその名前の呼び方。唯の中心に不快な波が押し寄せて、容赦なく襲い掛かってきた。
「俺。フミヤだよ」
ぐっと目を瞑り、電話に出てしまったことに心底後悔する。そもそも、何で私の電話番号を知っているのよ。そう言おうとする前にフミヤは答えていた。
「電話番号は、ひなから聞いたんだ」
ひなの名前が出てきて、思考回路が一瞬とまる。ひなが私にどんな感情を持ってフミヤに教えたんだろう? 深く考えようとしたらそのまま暗い穴に突き落とされそうになって、余計なことをこれ以上考えないために思考を停止することにした。だが、フミヤの止まらぬお喋りに強制的に回路が流れ始める。
「この前、あの男が入ってきて中断されちゃったからさ。ちゃんと話したいと思って」
その返答に唯は目を呆れて見開く。あんな状況に出くわしておきながら、よくそんなことがいえたものだ。普通の神経の持ち主ならば、相手に恋人がいるとわかったら引き下がるものなんじゃないのだろうか。
「今度ご飯でも行かない?」
平然とそう言い放つフミヤに どれだけ強い精神力の持ち主なんだろうと思いながら、唯は早口に捲し立てて断絶した。
「私、恋人がいるのでごめんなさい。これから私バイトで忙しいので失礼します」
唯はスマホをポイっと投げ捨てた。
せっかく浮上してい気持ちが沈んでいかないように、唯は深呼吸をして新しい空気を肺いっぱいに吸い込む。けれど、すぐに萎んでいきそうだ。
バイトまで少し時間はあるけれど、気晴らしも兼ねて今日は早く出てしまおう。そう思い、唯は素早く身支度を整えて部屋を出た。
テレビ台をリビングの壁に置きながら、唯は満足気に微笑んだ。
バイトは入ってはいるが、今日は休日。亮から届いた大荷物の荷ほどきで忙しく動き回っていた。タンスや小物入れ、テレビ。なかった冷蔵庫はわざわざ新品を送ってきてくれた。亮にお礼の電話をした時に「手伝いに行こうか?」と言われた。
山口アナウンサーとの熱愛報道は、互いの芸能事務所との話し合いの結果交際否定文書を出すことで決着していた。話によると、徳島が人を殺さんばかりの猛抗議が功を奏した形だったらしい。おかげで、亮に張り付いていた数十社いた記者たちは解散。身動き取れない状態は、解消され、落ち着きを取り戻しつつあった。とはいえ、亮は初監督作品が本格的に始動し始めている。多忙を極めている人に頼めるはずもない。全部自分でやると言ったら「マネージャーの徳島さんが唯と話したいって言ってるから、手伝いついでにどう?」と言われ言葉に詰まった。徳島マネージャーといえばどうしてもあの冷たい眼鏡が思い出されて鳥肌が立った。
「遠慮しておくよ」
と唯が苦笑いしながら言うと、「唯も徳島さん恐怖症にかかったかと」亮は笑っていた。
「確かに容赦ないし、冷たい物言いで一見、冷酷人間に思えるけど、本当はめちゃくちゃいい人なんだぜ」
「……何となく、云わんとしていることはわかる気がする。だけど……ねぇ?」
あれだけ、きっぱりと亮と別れろと言われて、結局聞く耳を持たなかった私だ。今会ったら、どんな顔をされるのか。想像しただけでも、冷や汗が噴出してくる。
「わかったよ。じゃあ、そのうち俺が間に入るからご飯でも食べに行こうぜ」
「うん、わかった」
そんな会話をして、電話を切った。
その後はどんな部屋にしようか配置などいろいろ考えることに専念し、あれこれ考えながら没頭していけば、どんどん楽しくなってきて、この先何もかもうまくいくと思えて気持ちが浮かんでいくから不思議だ。この先は、どんなことが起きても前向きに行こう。そんな決意を胸にしつつ、片づけを再開。けれど、ふとした瞬間はやはりひなのことがどうしても頭を掠めた。
あれから、一週間。ひなに謝りたい。そう思って、下の階のひなの部屋のインターホンを鳴らしにいった。けれど、出てはくれず、大学に行っても欠席で一度も顔を合わすことがきていなかった。唯は母のいない平日の昼間に実家に戻って、残りのもの持ってきていた小物をしまいながら深いため息を吐く。大学入学当初から仲が良かったのにも関わらず、嘘ばかりついていた自分に嫌気がさす。あの時は、亮と付き合っていることを隠し通さなければということばかり頭を巡って、他のことなんて何も考えていなかった。未熟な自分が恨めしくて仕方ない。あんな下手な嘘なんてつかず、信頼しているひなにはちゃんと話しておけばよかった。そんなことをまた考え始めたら、また陰鬱さに支配されそうになって、いつの間にか止まっていた手をまた動かそうとしたら。スマホの画面がけたたましく鳴り始めた。
誰かしら? 時刻はまだ昼過ぎ。亮は終日打ち合わせだと言っていたから、こんな時間に連絡はないはずだと思いながら手に取り確認すれば見知らぬ電話番号。時々、バイト先から緊急のシフトチェンジがあると登録していない電話番号から電話がかかってくることがある。そういった類かしら? そう予測しながらスマホを手に取った。
「もしもし」
「あぁ、唯ちゃん?」
その声とその名前の呼び方。唯の中心に不快な波が押し寄せて、容赦なく襲い掛かってきた。
「俺。フミヤだよ」
ぐっと目を瞑り、電話に出てしまったことに心底後悔する。そもそも、何で私の電話番号を知っているのよ。そう言おうとする前にフミヤは答えていた。
「電話番号は、ひなから聞いたんだ」
ひなの名前が出てきて、思考回路が一瞬とまる。ひなが私にどんな感情を持ってフミヤに教えたんだろう? 深く考えようとしたらそのまま暗い穴に突き落とされそうになって、余計なことをこれ以上考えないために思考を停止することにした。だが、フミヤの止まらぬお喋りに強制的に回路が流れ始める。
「この前、あの男が入ってきて中断されちゃったからさ。ちゃんと話したいと思って」
その返答に唯は目を呆れて見開く。あんな状況に出くわしておきながら、よくそんなことがいえたものだ。普通の神経の持ち主ならば、相手に恋人がいるとわかったら引き下がるものなんじゃないのだろうか。
「今度ご飯でも行かない?」
平然とそう言い放つフミヤに どれだけ強い精神力の持ち主なんだろうと思いながら、唯は早口に捲し立てて断絶した。
「私、恋人がいるのでごめんなさい。これから私バイトで忙しいので失礼します」
唯はスマホをポイっと投げ捨てた。
せっかく浮上してい気持ちが沈んでいかないように、唯は深呼吸をして新しい空気を肺いっぱいに吸い込む。けれど、すぐに萎んでいきそうだ。
バイトまで少し時間はあるけれど、気晴らしも兼ねて今日は早く出てしまおう。そう思い、唯は素早く身支度を整えて部屋を出た。
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