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ベルリンの壁3

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「ベルリンの壁?」
「知らないの?」
 話が飛びすぎて、理解不能だと言いたかったが、そうするとパワハラが始まりそうだ。真面目に頭の中の世界史の教科書を開くことにした。
「冷戦の時のドイツの東側から西側への人口流出が続いて、東ドイツに深刻な影響を及ぼしたから、コンクリートの壁を作ったってやつですよね?」
 印刷の文字が経年劣化して薄くなった文字を何とか読み終える。すると、「ざっくりしてるな」という捨て台詞と一緒に、睨まれる。根岸は、グラスを置いて、焼き鳥を豪快に平らげた。
 
「それは、自分たちを守ろうとして作った壁だった。それが、分断を生み結局悪影響を及ぼした。あんたたちのマンションの壁と似てる。本物のベルリンの壁は、壁の向こう側へ行きたくても行けなかったけど、あんたたちのなんちゃってベルリンの壁は、都合の悪い時だけその壁の向こう側へ簡単に引き返せちゃったってとこが非常にまずかったわね。それに気付かず来てしてまい、今の状態に至る。そんな最中、突如としてベルリンの壁は、崩壊。逃げ場はなくなって、大混乱ってとこ? ま、実際のドイツもベルリンの壁崩壊後、様々な混乱が起こって、東ドイツは崩壊したわけだしね。仕方ないか」
 根岸は、大袈裟に絶望的な表情を見せてくるから、陽斗は言い返した。
「そのあと、ちゃんと統一したじゃないですか」
「確かに、本物のベルリンの壁の方はね。でも……マンションの薄い壁の方は、どうなのかしら? 逃げ腰同士、ちゃんと統一できんの? 今度、その奥さんに会わせなさいよ。いろんな意味で、興味あるから」
 人の不幸は蜜の味といわんばかりに、焼き鳥を頬張る。租借しながら、目を爛々と輝かせ、顔はニヤニヤして面白がっている。
 やっぱり相談する相手を間違えた。後悔のせいか、アルコールのせいか頭がクラクラしてきそうだ。そんな陽斗に目もくれず、根岸はまたロックを煽って、手に持っていたコップの中身を空にする。再びお代わりすると、突然スイッチが切り替わったかのように、目が座り始めた。
 とんでもなく、怖い。

「せっかく壊れた壁よ? ずっと大事な思い出や思い、お互いの壁の向こう側にしまっておいたんでしょ? それは、何のため? 壁を壊れた日その時のために、ちゃんと差し出すために、ずっと温めておいたんじゃないの? それなのに、いざ壁がなくなったら、また違う壁探してきて、逃げ込んで隠れる気? 今度はどんな壁? 壁じゃなくて、シェルター? バカじゃないの? 向き合うのは、今しかないだろ! お前は、阿保か!」
 辛辣で、キツすぎる正論に、頭の奥がキーンとした。反論の余地はなかった。ずっと胸にしまって、隠していた思い。
 彩芽への真っ直ぐな気持ち。陽斗は、鞄をみやる。何年間も渦巻いていた、迷いが消える。
 
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