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7.もう一度ぐらい、信じてみようか
しおりを挟む「……そっか、ディナールはそんな頃から私を心配してくれていたんだね」
飴色に輝く瞳に見惚れながら、私は自然と微笑んでいた。
すると、ディナールが息を呑んでそっぽを向いてしまった。
「……俺だけじゃねぇけどさ」
「ん?」
「いや別に……」
心なしか顔が赤いディナールは、コホンと咳をして再び視線を合わせた。
「あー、とりあえずだ」
ディナールが、私の手を強く握り直した。
「俺と、これからの人生を歩んでくれるよな?」
「……ディナール……」
熱い眼差しに、ドクンッ……と心臓の音が大きくなった気がした。
また顔が熱くなる。
あぁそうか。これは恥ずかしいんじゃない。嬉しすぎて感情を制御出来なくなっているんだ。
でも、
「……私は……キミを幸せに出来ないかもしれない……」
心の声が、このまま漏れてしまった。
私は何も持たない。秀でたものも無い。ディナールを幸せにできる物を、私は何も持っていない。
私の呟きでディナールの眉間にシワが寄り、悲しくなった。
それでもディナールは、私の手を離さなかった。
「幸せにするのは俺の役目だ! それにアンタが隣に居るだけで俺は幸せだ!」
心外だと言わんばかりに怒るディナール。その姿に驚いたが、同時に胸が熱くなる。
愛おしさが募っていく。
たまらず流してしまった涙に今度は焦りだすディナールがやはり苦しいほどに愛おしい。
「……わ、私は、もう……これ以上ないぐらい幸せみたい……」
散々騙されてきた人生。
でも、まだまだ長く続くであろう人生なのだ。もう一度ぐらい信じてみようじゃないか。
そんな事を考えながらたくましい胸の中へ身を寄せたら、そっと抱きしめ返してくれた。
「夢みたいだ……」
「ディナール……?」
「シャルノ様が俺の腕の中にいる。俺、でかくなったんだな」
「ふふ……そうだね。びっくりするぐらい大きくなったね」
体の大きさを確かめるように背中を撫でると、ディナールの体がピクリと揺れた。びっくりさせたのが申し訳なくてかわりにディナールの頭を撫でたら、ディナールの頰が私の頬にすり寄ってきた。
なんだか大きな犬に懐かれた時みたいだ。そんな事を考えていたら、
「……ん?」
いつの間にか、服の中にディナールの手が入ってきていて驚く。
「あ、え、あの、ディナール!?」
「好きだシャルノ……」
「ん……っ」
驚いて上げた顔に降ってきたのは、柔らかな唇。
その合間に見えたのは、幸せそうに頬を染めるディナールの顔だった。
俺は後悔していた。
なぜもっと早くシャルノ様の元に駆けつけなかったのだろう。
シャルノ様に似合う男になれるように俺は努力した。
しかし、俺がするべきは成長期を待つ事でも力をつける事でも無かった。
着の身着のままでも何でもいいから、一刻も早くシャルノ様の所へ駆けつける事だったんだ。
少し痩せたシャルノ様。
平民になってしばらくは幸せそうだと報告を受けていたのに。
俺は何をしていたのだろう。
「でももう離れねぇから……」
押し倒したシャルノ様の体の小ささに、胸が苦しくなる。
俺は確かに体は大きくなった。それでもシャルノ様の存在の大きさは変わらない。
学生時代、たび重なる嫌がらせや影から聞こえるせせら笑い。いくら負けん気の強い俺でも疲弊していた。
もう辞めてしまおうか。両親は何事も経験だと言って送り出しただけで、合わなかったから辞めたと言っても責めはしないだろう。
そう思い始めていた頃だった。
俺はシャルノ様に出会ったのだ。
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