追放された悪役令息だけど何故キミが追いかけて来るんだ

キトー

文字の大きさ
8 / 11

8.奇跡のような存在

 
「キミ、具合悪いの?」

「は?」

 イライラしていた時に話しかけられ、つい素が出てしまう。俺は慌てて笑顔をつくり、話しかけてきた相手に向かい合った。

「失礼しました。驚いてしまって」

 丁寧に頭を下げ相手の出方を探る。俺が庶民に近い人間だと知れば途端に態度を変える生徒は多い。
 優しい声に期待して落胆するのはもう疲れた。

「ごめんね驚かせて。疲れているように見えたから具合が悪いのかと思ったんだ」

 優しい声はそのままに差し出された手を取って顔を上げた。

「お気を遣わせてしまいすみません。僕は……」

 顔を上げて、息をのんだ。
 汚してはいけないと咄嗟に思わせるほどの白い髪。
 雪の中で力強く咲く花のような赤い瞳。
 馬鹿みたいに綺麗な物ばかりで構成されたこの世界で、俺は初めて見惚れた。

「……大丈夫? やっぱり具合が悪い?」

「へ……? あ、あぁいいえ! 大丈夫です!」

 見惚れていた顔が覗き込んできて、俺は思わず後ずさっていた。
 まずい、完全に不躾な態度だ。流石に怒るだろうかと思ったが、相手は笑いながら「元気そうで良かった」と言った。
 笑った顔は、更に美しかった。

 この御方が公爵家のご令息で、更に同じ学園に通う王子だとかなんだとか言う偉いやつの婚約者だと分かったのは、ゆっくり話をした後だ。
 そう、俺はこの方と、シャルノ様とゆっくり話をする機会が与えられた。
 シャルノ様がサロンに誘ってくれたからだ。

「僕なんかが行っても良いのですか?」

「もちろん。サロンは全生徒に使用権限が与えられているでしょう?」

 確かに俺もこの学園の生徒だから使用権限はあるのだろう。しかしそれは名目上の話で、実際は上位貴族だけがサロンの使用権をもっている。俺なんかが行けば睨まれること間違いなしだ。
 それでも、シャルノ様の優しい笑顔に誘われて、俺はふらふらと付いて行った。
 そこには、数人の生徒がテーブルを囲みシャルノ様を待っていた。

「遅くなりました」

「いいえ、シャルノ様はお忙しいですから」

「おや、その方は?」

 シャルノ様が声をかけると、皆笑って出迎える。だが、俺の姿を認めると数人の生徒が眉をひそめた。

「先程知り合ったんです。彼もご一緒させていただいても宜しいですか?」

「……」

 眉をひそめた生徒が俺を品定めするような嫌な視線で見る。
 しかし、

「もちろんですシャルノ様!」

 と、数人の生徒が笑顔で言ったもんだから、そんな不躾な視線などどうでも良くなった。
 俺を快く迎え入れてくれた生徒達は見覚えがあった。
 たしか、俺と同じような立場の生徒達だ。
 しかし彼ら彼女らが俺のように標的にされている所はあまり見たことが無い。
 その理由を、俺は後日知る事になる。
 何故なら、俺はその日から上流貴族から睨まれる回数が極端に減ったからだ。

「ディナール」

「シャルノ様! おはよう御座います」

 声をかけられ、俺は満面の笑みでシャルノ様に駆け寄った。
 周りの取り巻きは面白くなさそうな顔をしたが、俺は構わずシャルノ様のそばによる。
 僅かな時間の会話を楽しみ、俺はシャルノと別れた。
 その様子をさり気なく伺う周りの生徒たち。
 俺は、上級貴族のご令息で王子の婚約者であるシャルノ様のご友人と言う立場になったのだ。
 表立った嫌がらせが減ったのは、そういう訳だ。

「シャルノ様は凄いですね」

 俺のように立場の弱い者を懐に入れ守ろうとする。そんな彼に、俺は素直にそう思った。
 しかし、当の彼は困ったように笑った。

「私が凄いんじゃないよ。私の家やエドワード殿下の婚約者という立場が凄いだけなんだ。私はそれを利用しているだけだよ」

 そう言って笑うシャルノ様はどこか淋しげだった。
 だけど、俺の知る限り、己の立場を他人のために利用する人を他に知らない。
 高い爵位を振りかざし下のものを蔑む輩ばかりのこの世界で、こんなに綺麗な人が居るなんて。

『人はな、何を持っているかじゃねえ。持っているものをどう使うかなんだ』

 親父から何度も聞かされた言葉。
 あの頃は幼くて意味など分からなかったが、シャルノ様に出逢った今なら分かる気がした。
 汚れた世界で汚れることなく存在しつづける、奇跡のようなシャルノ様。なのに、その瞳は伏し目がちで心もとなく揺れる。
 そんな御方を自分が御守りできたなら……。
 憧れが恋心に変わるのに、そう時間はかからなかった。

 守りたかった。俺の手でシャルノ様の純白な心を守りたかった。
 抱きしめて、この汚い世界から胸の中に隠してしまえたらどれだけ幸せだろう。
 だが如何せん、俺の小さな体と弱い立場では抱きしめる事も守ることも難しく、反対に守られてばかりだった。
 歯がゆくて悔しくて、己の弱さに落胆した。
 だから俺は考えた。己の立場を逆転させる方法を……。


 ※ ※ ※


 そんな俺が、今はシャルノ様を胸に抱いている。
 この喜びをどう表せばいいのだろうか。

「シャルノ様……」

 王子は馬鹿だった。本当に馬鹿だった。
 見てくれだけは良かった俺に簡単に騙されて、勝手に堕落していった。
 やはりあの男はシャルノ様には相応しくない。
 かと言って、俺がシャルノ様に相応しいかなんて分からない。
 分からないが、俺が今一番優先すべき事はシャルノ様のそばに居ることだ。
 熱くなる胸に、一度抱きしめてしまえばもう手放せないだろうと確信する。それでも俺は誓ったのだ。
 小さくなってしまった体を抱き上げて、ベッドへ優しく押し倒す。
 震える体を包み込み、合わせた唇から舌を挿し込んだ。

「んっ、はぁ……」

 甘い吐息に酔わされながら、高まる気持ちのままシャルノ様の肌に手を這わせた。

 俺の全てを捧げます。
 だから、アンタの全てを俺に委ねてくれ。
 
感想 9

あなたにおすすめの小説

妹を救うためにヒロインを口説いたら、王子に求愛されました。

藤原遊
BL
乙女ゲームの悪役令息に転生したアラン。 妹リリィが「悪役令嬢として断罪される」未来を変えるため、 彼は決意する――ヒロインを先に口説けば、妹は破滅しない、と。 だがその“奇行”を見ていた王太子シリウスが、 なぜかアラン本人に興味を持ち始める。 「君は、なぜそこまで必死なんだ?」 「妹のためです!」 ……噛み合わないはずの会話が、少しずつ心を動かしていく。 妹は完璧令嬢、でも内心は隠れ腐女子。 ヒロインは巻き込まれて腐女子覚醒。 そして王子と悪役令息は、誰も知らない“仮面の恋”へ――。 断罪回避から始まる勘違い転生BL×宮廷ラブストーリー。 誰も不幸にならない、偽りと真実のハッピーエンド。

悪役令息に転生した俺は推しの為に舞台から退場する

スノウマン(ユッキー)
BL
前世の記憶を思い出したアレクシスは悪役令息に転生したことに気づく。このままでは推しである義弟ノアが世界を救った後も幸せになれない未来を迎えてしまう。それを回避する為に、俺は舞台から退場することを選んだ。全てを燃やし尽くす事で。 そんな俺の行動によってノアが俺に執着することになるとも知らずに。

悪役令息(Ω)に転生した俺、破滅回避のためΩ隠してαを装ってたら、冷徹α第一王子に婚約者にされて溺愛されてます!?

水凪しおん
BL
前世の記憶を持つ俺、リオネルは、BL小説の悪役令息に転生していた。 断罪される運命を回避するため、本来希少なΩである性を隠し、出来損ないのαとして目立たず生きてきた。 しかし、突然、原作のヒーローである冷徹な第一王子アシュレイの婚約者にされてしまう。 これは破滅フラグに違いないと絶望する俺だが、アシュレイの態度は原作とどこか違っていて……?

弟勇者と保護した魔王に狙われているので家出します。

あじ/Jio
BL
父親に殴られた時、俺は前世を思い出した。 だが、前世を思い出したところで、俺が腹違いの弟を嫌うことに変わりはない。 よくある漫画や小説のように、断罪されるのを回避するために、弟と仲良くする気は毛頭なかった。 弟は600年の眠りから醒めた魔王を退治する英雄だ。 そして俺は、そんな弟に嫉妬して何かと邪魔をしようとするモブ悪役。 どうせ互いに相容れない存在だと、大嫌いな弟から離れて辺境の地で過ごしていた幼少期。 俺は眠りから醒めたばかりの魔王を見つけた。 そして時が過ぎた今、なぜか弟と魔王に執着されてケツ穴を狙われている。 ◎1話完結型になります

推しの為なら悪役令息になるのは大歓迎です!

こうらい ゆあ
BL
「モブレッド・アテウーマ、貴様との婚約を破棄する!」王太子の宣言で始まった待ちに待った断罪イベント!悪役令息であるモブレッドはこの日を心待ちにしていた。すべては推しである主人公ユレイユの幸せのため!推しの幸せを願い、日夜フラグを必死に回収していくモブレッド。ところが、予想外の展開が待っていて…?

悪役令息上等です。悪の華は可憐に咲き誇る

竜鳴躍
BL
異性間でも子どもが産まれにくくなった世界。 子どもは魔法の力を借りて同性間でも産めるようになったため、性別に関係なく結婚するようになった世界。 ファーマ王国のアレン=ファーメット公爵令息は、白銀に近い髪に真っ赤な瞳、真っ白な肌を持つ。 神秘的で美しい姿に王子に見初められた彼は公爵家の長男でありながら唯一の王子の婚約者に選ばれてしまった。どこに行くにも欠かせない大きな日傘。日に焼けると爛れてしまいかねない皮膚。 公爵家は両親とも黒髪黒目であるが、彼一人が色が違う。 それは彼が全てアルビノだったからなのに、成長した教養のない王子は、アレンを魔女扱いした上、聖女らしき男爵令嬢に現を抜かして婚約破棄の上スラム街に追放してしまう。 だが、王子は知らない。 アレンにも王位継承権があることを。 従者を一人連れてスラムに行ったアレンは、イケメンでスパダリな従者に溺愛されながらスラムを改革していって……!? *誤字報告ありがとうございます! *カエサル=プレート 修正しました。

悪役令息に転生したので婚約破棄を受け入れます

藍沢真啓/庚あき
BL
BLゲームの世界に転生してしまったキルシェ・セントリア公爵子息は、物語のクライマックスといえる断罪劇で逆転を狙うことにした。 それは長い時間をかけて、隠し攻略対象者や、婚約者だった第二王子ダグラスの兄であるアレクサンドリアを仲間にひきれることにした。 それでバッドエンドは逃れたはずだった。だが、キルシェに訪れたのは物語になかった展開で…… 4/2の春庭にて頒布する「悪役令息溺愛アンソロジー」の告知のために書き下ろした悪役令息ものです。

処刑されたくない悪役宰相、破滅フラグ回避のため孤独なラスボス竜を懐柔したら番として溺愛される

水凪しおん
BL
激務で過労死した俺が転生したのは、前世でやり込んだBLゲームの悪役宰相クリストフ。 しかも、断頭台で処刑される破滅ルート確定済み! 生き残る唯一の方法は、物語のラスボスである最強の”魔竜公”ダリウスを懐柔すること。 ゲーム知識を頼りに、孤独で冷徹な彼に接触を試みるが、待っていたのは絶対零度の拒絶だった。 しかし、彼の好物や弱みを突き、少しずつ心の壁を溶かしていくうちに、彼の態度に変化が訪れる。 「――俺の番に、何か用か」 これは破滅を回避するためのただの計画。 のはずが、孤独な竜が見せる不器用な優しさと独占欲に、いつしか俺の心も揺さぶられていく…。 悪役宰相と最強ラスボスが運命に抗う、異世界転生ラブファンタジー!